がん専門医が考える 新型コロナが浮き彫りにした「死の平等性」

中川恵一医師が語る「コロナとがん」(中)

2021.03.03

 がん専門医の中川恵一さんは前回、新型コロナウイルスの感染拡大の影響でがん予防がおろそかになることへの警鐘を鳴らしました。未知のウイルスが浮き彫りにしたこととは何か。今回は、著書『コロナとがん――リスクが見えない日本人』の中から、「死の平等性」に関する論考の一部をご紹介します。

てんびん

大きな文明の転機になる可能性

 今回の新型コロナウイルス禍で改めて明らかになったことの一つに、「死の平等性」があります。日本の場合、当初、PCR検査には条件が決められていて、その条件に該当しなければ、どんなにお金持ちでも検査を受けることができませんでした。

 仮に「死」が、持っている資産と反比例したら、それこそ大変なことになります。裕福な人が長寿で、貧しい人は短命、などということになれば、それこそ拝金主義が世界を覆い尽くしてしまうかもしれません。

 どんなに大金持ちでも貧しい人でも、コロナに感染して重症化すれば死ぬときは死にます。死は平等です。これは生きている者にとって大きな救いになります。

 今回、特にお金持ちの人たちは、そのことを思い知ったかもしれません。そもそもグローバル化や新自由主義というものは、悪くいえばお金が第一で、格差社会の貧富の差をより一層広げたわけです。お金を稼ぐことにのみ価値観を置いていた人たちにとって、お金を稼ぐというモチベーションが別のものに代わるとしたら、コロナ禍は大きな文明の転機になる可能性があります。

死は避けられない

 医者という仕事は多くの死の場面に立ち会います。それだけに、普段から死について考える機会があります。人はいつかは必ず死にます。それが今なのか、20年後なのか。それは誰にもわかりません。ただ、治る見込みのない末期のがんのように、残された時間がわかることもあります。その場合は「人生の総仕上げ」ができる時間が取れることになります。

 いずれにしても、犬死や不要な死は避けたい。しかし、あまりにも死を避けようとすると、結局、社会がおかしな方向に進んでいってしまうと思います。たとえば、今なら、コロナに 感染しないように避けたほうがいいに決まっています。しかし、感染しないことがまるで人 生の目的のように、他人からはそういうふうに見えるような行動をとっている人はたくさん います。そういう人たちは多分、普段から死と向き合うことがなく、「コロナ=死」と捉えてしまっているのではないかと思います。

 「コロナが怖い」。これはがんを恐れ、がんを深く知ろうとしない日本人のメンタリティと非常によく似ていると思います。それはいつもは忘れ、遠ざけている死に、いやがおうでも向き合わざるを得なくなるからです。コロナ禍は、死を前提に、どう生きるかを改めて私たちに問いかけているのではないでしょうか。

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中川恵一著『コロナとがん――リスクが見えない日本人』

  • コロナとがん
  •  日本での新型コロナへの反応に、がんの専門医である筆者は「デジャヴ(既視感)」を感じるといいます。それは、2011年の福島第一原発事故。わずかな被曝(ひばく)を恐れるあまり、生活習慣が悪化。コロナ禍でもがんの早期発見が遅れることを憂慮します。背景に日本人の「ゼロリスク信仰」があると指摘し、リスクを冷静に判断すべきだと訴えます。漫画家ヤマザキマリさんとの特別対談「東京でコロナ禍を考えた」も収録。

  • 中川 恵一(なかがわ・けいいち)

    東京大学医学部附属病院放射線科准教授

     1960年生まれ、東京都出身。私立暁星高等学校卒業後、東京大学教養学部理科III類に入学し、同大学院にて博士号を取得。専門は放射線医学。スイスPaul Sherrer Institute客員研究員を経て、東京大学医学部附属病院放射線科准教授、東京大学医学部附属病院緩和ケア診療部長(兼任)として活躍するほか、がん対策推進協議会委員、がん対策推進企業アクション議長(厚生労働省)、がん教育検討委員会委員(文科省)を務める。『がん専門医が、がんになって分かった大切なこと』(海竜社)など著書多数。

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