<連載> 大腸最前線

最先端のがん免疫治療、腸内細菌が薬の効きを左右する

がんの治療と腸内細菌(上) 腸内環境を整えて、免疫力を活性化

2021.02.25

 免疫力を活性化させ、がん細胞を消滅させる「がん免疫療法」は、外科手術、放射線、抗がん剤に続く「第4のがん治療」といわれる最先端の治療法です。その治療効果の良しあしに、腸内細菌が関わっていることが近年の研究でわかってきました。

Uバンクのイメージ図

 がんを薬で治すには、どんな腸内細菌が望ましいのか。最新のがん治療薬と、腸内細菌との関わりを明らかにしようという試みが活発になっている。

 昭和大学を中心とした「Uバンク(便バンク)」プロジェクトもそのひとつ。大学病院など全国約20施設から患者の便を集めて腸内細菌を分析し、人工知能(AI)を使って、薬の効き方や治療効果と腸内環境との関係をひもといていく。

がんが「不治の病」でなくなる日のために

 「がんが不治の病ではなくなる日が遠からずやってくる。その日にむけた後押しができれば」とプロジェクトを主導する同大医学部教授の角田卓也さんはいう。

 研究の中心にすえるのが免疫チェックポイント阻害剤の「オプジーボ」など、がん免疫治療薬と腸内細菌との関わりをデータから解き明かすこと。

 「抗がん剤や分子標的薬など従来の薬物療法と比べ、がん免疫治療薬が優れているのは、薬の効果がでて3年間生きられると、その後も5年、10年と再発せずにいられることです」と角田さん。「ただ、がん免疫治療薬の効果があらわれる人は、いまのところ2割前後にとどまっている。この割合をあげていくのが次の課題となっています」

昭和大学の角田卓也教授
昭和大学医学部教授の角田卓也さん(撮影・篠田英美)

注目のきっかけは、米仏のマウス実験

 治療薬が効く人と効かない人の違いは、いったいどこにあるのか。そのカギのひとつとみられているのが、腸内に約100兆個、約1000種類生息している腸内細菌だ。

 最初に注目を集めたのは、米シカゴ大学とフランスの研究チームが2015年に公表した「腸内細菌の違いによって、がん免疫治療薬の効果が左右される」というマウスを使った実験結果。同じ種類、同じ週齢のマウスなのに、飼育先の会社によって、がん免疫治療薬の効果が違うことに気づいたシカゴ大学の研究チームは、その原因を探り、エサなど飼育環境の違いが腸内細菌の違いとなってあらわれ、治療薬の効きを左右していることを見いだした。フランスの研究チームは、無菌マウスにがん免疫治療薬を与えても、治療効果があらわれないことを確認し、腸内細菌の存在そのものが不可欠なことを明らかにした。

 これをきっかけに実際に薬を使っている患者の腸内細菌を調べる研究が各地で始まり、治療効果のあった患者の腸内細菌が効果のなかった患者に比べて多様性に富んでいることや、治療の前後で抗生物質を使っていると薬の効きが悪いことがわかってきた。

がん治療と腸内細菌

ビフィズス菌や腸内細菌の多様性がカギ

 昭和大学Uバンクのプロジェクトでも、集まったデータを解析、「オプジーボの効果があった患者さんの腸内細菌には、ビフィズス菌が多いこと、細菌の多様性があることなどがわかってきています」(角田さん)。もともと日本人はがん薬物療法の効果が出やすいともいわれているが、「世界のなかで日本人は、ビフィズス菌など、良質な腸内細菌を多くもつ傾向にある。良好な治療結果は、腸内環境がいいことが一因といえるかもしれません」

 腸内細菌の種類を増やし、多様性を確保するには、食物繊維を多くとることが効果的だと角田さんは指摘する。米国では、毎日50グラムの食物繊維をとることで、がん免疫療法の治療効果があがるかどうかを調べる臨床試験も進んでいるという。

 病気と腸内細菌との関わりは、がんだけではない。糖尿病など生活習慣病や、うつ病などの心の病、さらに花粉症をはじめとしたアレルギーなど、様々な分野に広がる。Uバンクには、これまでに数千件分の腸内細菌のビッグデータが集まっており、がん以外の病気でも、その関わり方をひもとく研究が始まっている。

【メモ】がん免疫療法と免疫チェックポイント阻害剤

 私たちの体に備わっている免疫システムには、ウイルスなどの異物を排除するために、その攻撃力を強めるアクセルや、逆に攻撃力が強まりすぎて自らの組織を傷つけないようにするブレーキが備わっている。こうした免疫の仕組みを活用し、その働きをサポートしたり、強化したりすることで、免疫細胞ががんを攻撃するように仕向けるのが、がん免疫療法で、大きく二つの方法がある。

 ひとつはウイルスなど異物を排除する免疫の力を強め、がんへの攻撃を強める方法。免疫細胞を患者本人から取り出して、免疫細胞にがんの目印を覚えさせたり、強い攻撃力のある細胞を増やしたりしたうえで、細胞を体内に戻してがん細胞への攻撃力を向上させる。いわばアクセルを強める治療法といえる。

免疫のブレーキボタンを、がん細胞に押させない

 一方、オプジーボ(一般名:ニボルマブ)など、「免疫チェックポイント阻害剤」は、免疫のもつブレーキの機能を働かせない(阻害する)ことで、免疫細胞ががん細胞を攻撃できるようにする。

 もともと免疫機構にそなわったブレーキは、免疫が働きすぎて、自分の体を攻撃しないようにするためにある。がん細胞は、この働きすぎを抑える「免疫チェックポイント」機能を逆手にとり、ブレーキボタンを作動させ、免疫細胞が攻撃をしかけないようにしている。

 オプジーボなどの免疫チェックポイント阻害剤は、がん細胞がブレーキボタンを押せないよう、ボタンにふたをしてしまう役目をしている。その結果、がん細胞を取り囲んだ免疫細胞は、がん細胞をウイルスなどと同じ「異物」として、攻撃をしかけることができるようになる。薬の開発につながる発見をした本庶佑・京都大学特別教授らは、この功績で、18年のノーベル医学生理学賞を受賞した。

薬で免疫を活性化、様々ながんに効く可能性

 手術でがんを切除する外科治療、放射線をあて、がんを攻撃する放射線治療、抗がん剤などの薬を用いる化学薬物療法は、いずれも、がん細胞そのものをターゲットにした治療法で、がんの種類やできた場所により、治療法や薬が異なってくる。一方、免疫チェックポイント阻害剤が行うのは、免疫細胞のブレーキスイッチにふたをするだけ。このため、様々ながんに対して効果が期待できるのも特徴で、オプジーボの場合、悪性皮膚がんや肺がんのほか、食道がんや胃がん、腎がんなどに、用途が広がっている。

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  • 角田 卓也
  • 角田 卓也(つのだ・たくや)

    昭和大学医学部教授

    1987年和歌山県立医科大学卒業。米シティー・オブ・ホープがん研究所に留学。東京大学医科学研究所准教授などを経て2010年がんワクチン開発のバイオベンチャー社長に就任。16年昭和大学臨床免疫腫瘍学講座の教授。現在は内科学講座の腫瘍内科部門主任教授。

  • この連載について / 大腸最前線

    大腸にすむ腸内細菌は、検査法の飛躍的な進歩などにより、私たちの健康増進に役立つさまざまな働きが明らかになってきました。腸内細菌を活用した最新の治療例や、医療現場の動向などを、分かりやすくご紹介します。

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