<連載> ワクチンを知ろう

そもそもワクチンとはなに? 新型コロナワクチンの一番の特徴は?

新型コロナウイルスとワクチン(1)なぜ短期間で開発できたか mRNAタイプとは

2021.03.22

 65歳以上の高齢者を対象にした新型コロナウイルスのワクチン接種が4月12日にも始まります。どのようなワクチンを打ち、どんな効果が期待でき、気をつける点はなんでしょうか。ワクチンと免疫の専門家にお話を聞き、まとめました。1回目は「そもそもワクチンは、なぜ効くの?」。

新型コロナウイルス用ワクチン

免疫動かし予行演習 敵情報を覚え込ませる

Q: 新型コロナワクチンの接種が段階的に始まり、4月からは65歳以上の高齢者を対象とした優先接種がスタートします。そもそもワクチンとは、どういったものですか?

A: 病原体などの異物から体を守る「免疫」の働きを利用して、感染症の発症や重症化を予防するのがワクチンの役目です。

 私たちの体には、ウイルスや細菌といった病原体が体内に侵入したとき、病原体を攻撃しながら、その特徴を覚えこみ、より素早く、強く、効果的に攻撃できるよう、態勢を整える仕組みが備わっています。これが「免疫」、すなわち「疫病(感染症)を免れる」ためのシステムです。一度かかったことがある感染症に、その後は感染しなかったり、感染しても重症化しなかったりするのは、この免疫システムのおかげです。

 この仕組みを活用するため、ワクチンは、体内に人工的な疑似感染の状態をつくりだし、免疫システムに、病原体の特徴を覚えこませます。本物の病原体の侵入前に、ワクチン接種で免疫の予行演習をし、本物の病原体に負けない備えをするわけです。

Q: ワクチンを接種すると、体内では、どのような反応が起きるのですか。

A: 反応の強さは違いますが、基本的には、本物の病原体が侵入したときと同じ免疫反応を起こします。

 病原体あるいはワクチンが体内に入ると、体のなかでは、「自然免疫」と「獲得免疫」という2種類の免疫反応が時間差で起こります。自然免疫は、すぐさま攻撃を始める前衛隊のような存在です。戦いながら敵(病原体)の特徴を分析し、その情報を獲得免疫に伝えます。

 情報を受け取った獲得免疫は、敵を攻撃するのに効果的な特製の武器をつくる作業を始めます。自然免疫から獲得免疫に伝達する敵の特徴情報は「抗原」、それをもとに準備する特製の武器の一つは「抗体」と呼ばれています。

自然免疫と獲得免疫
新藏礼子・東京大学教授の講演資料から

 特製武器の生産態勢を整えて、効果的な攻撃をするには、2~3週間かかります。ただし、いったん態勢が整うと武器の作り方などが記録(記憶)として残されるので、次に同じ外敵がきたときは、素早く、効果的な攻撃を仕掛けることができるようになります。

生命の「設計図」使い、開発期間を短縮

Q: 欧米を中心に世界各地で使われている新型コロナワクチンの主力は、これまでにない新しいタイプのワクチンだと聞きました。どこが違うのですか。

A: これまでのワクチンとの最大の違いは、「生命の設計図」などとして知られているDNAやRNAを使ってワクチンがつくられているところです。これがワクチンの開発期間の短縮に寄与しています。

 従来型のワクチンは、大きく分けると「生ワクチン」と「不活化ワクチン」の2種類があります。生ワクチンは、毒性を弱めた(弱毒化した)病原体そのものを使います。「不活化ワクチン」は、感染力や病原性(毒性)をなくしたワクチンの総称で、薬品などで感染や増殖をできなくさせた病原体を使うタイプや、たんぱく質や毒素など、病原体の特徴となる一部だけを人工的に合成したタイプなどがあります。

 一方、RNAをつかった新型コロナウイルスワクチンとして、日本国内での接種が始まったのは「m(メッセンジャー)RNAワクチン」です。

 mRNAは、たんぱく質の設計図です。mRNAワクチンには、新型コロナウイルスの表面上に突き出した突起状のたんぱく質の設計図が書き込まれたmRNAが、脂質の膜でくるまれて入っています。接種したワクチン内のmRNAは、体内で細胞の中に入り込み、細胞内にある「たんぱく質製造工場」で、設計図に書いてある突起状のたんぱく質をつくります。

 このたんぱく質が、新型コロナウイルスの特徴的な目印(抗原)の役目をします。「異物」をみつけた体内の免疫システムが動き出し、新型コロナウイルスの目印めがけて攻撃をする特製の武器(抗体)が作り出されます。

ワクチンの仕組み

 これまでのワクチンは、何らかの形で病原体の特徴物質をつくりだし、ワクチンに入れておく必要がありました。一方、mRNAワクチンに必要なのは、特徴物質(たんぱく質)を体内でつくるための「設計図」だけ。これまでのワクチン開発にとって重要な部分を、体内の細胞の「たんぱく質製造工場」にゆだねることで、ワクチン開発のスピードを短縮することができるといえます。

変異株にも柔軟に、中長期的な安全は検証中

Q: 開発期間の短縮は、新型のmRNAワクチンのメリットのひとつですね。それ以外で、従来型と新型のワクチン、それぞれのメリットとデメリットはなんですか。

A: 従来型ワクチンの長所は、長年の積み重ねで、実績があり、大枠での安全性が確立されていることでしょうか。ただし、新しいワクチン開発には、時間がかかります。

RNAワクチンと従来型ワクチンの比較

 生ワクチンを打った時に起きる体内の反応は、実際に感染した場合と一番近いため、強い免疫がつくと考えられています。一方で、ごくまれに、ワクチンによって感染し、症状の出ることがあります。不活化ワクチンはどの種類であれ、打っても感染することはありません。その一方、体内で起こる免疫反応が生ワクチンよりも弱いため、多くの場合で2回の接種が必要です。

 mRNAワクチンはウイルス自体を増殖させる必要がなく、遺伝情報(ゲノム配列)がわかればすぐに作り始めることができるため、従来型のワクチンよりも迅速に作れると考えられています。このところ、さまざまな変異株が現れていますが、ウイルスの変異についても、mRNAワクチンは対応がしやすい、とみられています。

 ヒト用のmRNAワクチンとして、初めて実用化した今回の新型コロナワクチンの場合、ウイルスのゲノム配列が明らかになってから、ワクチン開発が完了し、接種がスタートするまでの期間は、ほんの1年足らずです。このため、この間の治験で、mRNAワクチンの短期的な安全性については臨床試験(治験)で確認されていますが、これまで使われたことがないため、中長期的な安全性についてのデータはなく、継続的な検証が必要になっています。

ワクチンで根絶したのは、まだ天然痘だけ

Q: ワクチンの歴史は?

A: 記録がきちんと残っている人類史上初のワクチンは、18世紀末に英国の医師、エドワード・ジェンナーが開発した天然痘のワクチンです。

 ジェンナーは、人が感染しても重症化しない牛痘(牛の天然痘)をワクチンとして使いました。このジェンナーの功績をたたえ、ワクチンの語源は、ラテン語の牛痘(Variolae vaccinae)から採られています。

 病原体そのものを弱毒化してワクチンに使う方法は、19世紀にフランスのルイ・パスツールが開発しました。その後、病原体の感染力を無くした「不活化ワクチン」や、病原体のたんぱく質の一部だけを使ったワクチン、免疫反応を高めてワクチンの効果を高めるアジュバント(免疫補助剤)も開発されました。

 ただし、世界に何百種類もあるとされる感染症のうち、ワクチンがあるのは約30種類だけです。普通の風邪のように、感染しても重症化しない感染症や、感染者数が少ない感染症は、そもそも開発しようという製薬企業や研究者が多くありません。一方、エイズウイルス(HIV)やマラリアなど、長年、多くの研究者がワクチン開発を目指して研究してきても、病原体が変化しやすいなどの理由から、なかなかワクチンができないものもあります。

 ワクチンによって地上から根絶された感染症はいまのところ天然痘だけです。ジェンナーのワクチン開発から約2世紀後の1980年、世界保健機関(WHO)が天然痘根絶宣言を出しました。次に根絶に近いとされるのがポリオ(小児まひ)ですが、地域によってはまだ発生が続いています。

(取材協力=東京大学定量生命科学研究所・新藏礼子教授、東京大学医科学研究所・石井健教授、構成=大岩ゆり)

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  • 新藏 礼子
  • 新藏 礼子(しんくら・れいこ)

    東京大学教授(定量生命科学研究所 免疫・感染制御研究分野)

    86年京都大学医学部卒業。麻酔科臨床医として病院勤務の後、京都大学大学院へ進み、米国ハーバード大学こども病院に留学。京都大学准教授、長浜バイオ大学教授、奈良先端科学技術大学教授などを経て、18年東京大学分子細胞生物学研究所(現・定量生命科学研究所)免疫・感染制御研究分野教授。

  • 石井 健
  • 石井 健(いしい・けん)

    東京大学教授(医科学研究所 感染・免疫部門ワクチン科学分野)

    93年横浜市立大学医学部卒業。麻酔科臨床医として病院勤務の後、96~03年まで米食品薬品局(FDA)ワクチン部門で客員研究員や臨床試験審査官を務める。大阪大学准教授や同大特任教授、医薬基盤研究所ワクチンアジュバント研究センター長などを経て、19年より現職。

  • この連載について / ワクチンを知ろう

    新型コロナウイルスのワクチン接種が65歳以上の高齢者への優先接種を皮切りに本格化します。なぜ、どんな効果が期待できるか。免疫はどう働き、副反応はなにか。アナフィラキシーの注意点は? 専門家に聞きました。

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