認知症の周辺症状(BPSD)を理解して無理のない介護生活を

人生100年時代を生きるキーワード・認知症の周辺症状(BPSD)

2021.03.31
認知症の周辺症状(BPSD)イメージ

 ひとくちに認知症といっても、症状は千差万別です。 認知症の人と接する機会が多い家族や介護に関わる人でも、認知症による症状なのか、ほかの病気のせいなのか判断が難しいことがあります。今回は、さまざまな症状の中でも個人の心理や環境によって差がある、「認知症の周辺症状(BPSD)」について説明します。本人や家族が周辺症状を理解することで、生活がしやすくなったり、介護の負担が減らせたりすることにもつながります。

<目次>

認知症の中核症状と周辺症状(BPSD)

 認知症の症状は大きく二つに分類されます。脳の病変によって引き起こされる「中核症状」と、その人の性格や環境が相互的に影響し二次的に生じ、行動や心理的な症状である「周辺症状(BPSD)」です。まずは、その特徴を理解しておきましょう。

中核症状と周辺症状(BPSD)の特徴
中核症状と周辺症状(BPSD)の特徴

中核症状

 認知症は、脳細胞の機能が停止したり細胞の一部が破壊されたりすることで、正常に機能しなくなってしまう状態です。この脳の障害でできなくなることを総称して「中核症状」と呼び、以下のような症状が表れます。これらは認知症になると必ず表れ、進行を遅らせることはできても、完全に止めることは難しいといわれています。

<主な症状>

  • 記憶障害…食事をしたことを忘れる。
  • 見当識障害…自宅のトイレの場所がわからなくなる。
  • 実行機能障害…食事の準備ができない。
  • 言語障害…言葉数が少なくなり、会話も短くなる。スムーズに話せても会話に意味がない。文字が書けない。文字を読めても意味が理解できない。
  • 失行…服をきちんと着ることができない。
  • 失認…ゴミ箱をトイレと間違える。遠近感がなくなる。

周辺症状(BPSD)

 中核症状とその人の性格や環境、周囲の人との関わりなどの相互作用の結果として表れる、さまざまな精神症状や行動障害を「周辺症状(BPSD)」と呼びます。現在では「行動・心理症状(BPSD)」と表されることもあります。生活環境や対応がその人に適したものであれば軽減・消失することもあるとされています。

<主な症状>

  • 行動症状…外出時の道の迷い・多動・不潔行為・収集癖・暴言・暴力など
  • 精神症状…不安・抑うつ・妄想・幻覚・誤認など

周辺症状(BPSD)が表れる原因と時期

 ここから、二次的に表れる周辺症状の原因と時期について説明します。これは、認知症の人が受ける周囲からの刺激がどのように本人に伝わっているかが大きく関わってきます。

 介護する人や周りの人が、認知症の中核症状に対し「否定」「疑い」「強制」「叱る」「無視」などの反応をします。これにより、認知症の人の不安が増幅し、精神状態が不安定になることが周辺症状の原因の一つとされています。

 また、周辺症状は、認知症の初期から末期にかけてすべての時期で出現する可能性があります。例えば「記憶障害」によって、財布の置き場所が何度もわからなくなる認知症の人がいたとします。その人に「本当になくしたの? 」「またわからないの? 」「いい加減にしてよ」と感情的な対応を繰り返すことで、「もの盗(と)られ妄想」「抑うつ」「不眠」「不穏」「身体的攻撃」「介護拒否」「焦燥」などの周辺症状が表れてしまう可能性があります。

 周辺症状の表れる時期ですが、一般的に、認知症は「前兆期」「初期」「中期」「末期」と段階的に進行します。次の表で、この段階に応じた症状の表れ方を紹介します。

周辺症状の表れる時期と特徴 主な周辺症状
前兆期:認知症の一歩手前の時期
※早期発見で改善可能です
・軽度認知症障害(MCI)
・不安、めまい、頭痛、意欲減退 など※日常生活の支障はない
初期:軽度認知症
約1~3年
・直前の出来事を忘れる
・判断力の低下
・無気力状態、妄想 など
中期:中度認知症
約2~10年
・トイレ、食事、着替え、入浴などが困難になる
・無関心や易刺激性、不安、妄想、妄想、幻視、幻聴 など
末期:重度認知症
約8~12年
・寝たきり
・介護者との意思疎通ができない
・失禁、ろう便、異食 など

 周辺症状(BPSD)は、家族が介護をする上で、とても心労を伴う症状とも言えます。特に徐々に症状が悪化していく中期を中心として、中核症状とされる認知障害以上に精神的な負担をもたらす場合があります。

周辺症状(BPSD)の対応方法

 周辺症状の表れ方は人それぞれです。その人にあった対応方法について具体的にみていきましょう。

1.外出中に道に迷う

 周囲からすると目的なく歩き回っているように見えますが、方向感覚が悪くなり「自宅へ帰る道順がわからない」状態かもしれません。多くの場合、人に聞いて助けを求めるといった、合理的な行動ができなくなります。これは、中核症状の地誌的見当識や風景の記憶障害などの影響によって引き起こされるとされます。また、背景にある不安や恐怖の影響も大きいです。

【対応方法】

■外出する時は付き添う
 本人が外出したい時は、誰かが一緒に出かけて見守りましょう。「いつ、どこへ行くのか? 」などと簡単な質問をして答える練習をしてもらうのも良い方法です。

■名刺や名札を持ってもらう、衣服に縫い付ける
 道に迷い不安を抱えたまま、人に聞くことができず歩き続けることがあります。名前と住所、電話番号を書いた札をかばんや衣服に縫い付けて、自身で確認できる用意をしておきます。

■GPSの現在地の探索システム
 GPSはインターネット経由でいる場所を探知できる機能です。本人に、発信機を身につけてもらえば、介護者が自宅などから本人が今どこにいるかがわかります。例えば関東平野であれば数十mの誤差範囲で、今いる場所を正確に確認できると言われています。貸し出しを行っている介護保険サービスなどもあり、現在広く使われるようになってきています。

2.不潔行為

 尿を撒(ま)き散らす、排泄(はいせつ)物を手でもてあそぶなど、汚物を認識できずに身辺の清潔を保てないことを不潔行為と呼び、見当識障害や実行機能障害で引き起こされることが多い症状です。多くは、トイレでの排泄が困難な人にみられ、排尿障害や歩行障害のため間に合わず漏らしてしまうこともあります。

 自分の失敗である失禁を人に見られないように片付けようとしてもうまくできず、かえって汚れを広げてしまうことで結果として不潔行為となってしまうのです。また、おむつに溜(た)まった大便が不快で手を入れるようなこともよくあります。

【対応方法】

■トイレ誘導の声をかける
 漏らしてしまうことを未然に防ぐためにも、まずは周囲がトイレに行くように声をかけます。とくに排尿の多い午後から夜の8時ごろに行くのが効果的とされます。

■近くにポータブルトイレを設置する
 介護用品の中には、ポータブルトイレがありますので利用を考えてみるのもよいでしょう。また、失禁された場合のために、使い捨て手袋・雑巾・消毒液などを用意しておくと、いざという時にも慌てずに対応できます。

■オムツをこまめにチェックする
 排泄物がもたらす不快感をすぐにとり除くことで不潔行為をかなり防ぐことができます。こまめに確認して本人の不快感を改善してあげましょう。

3.多動(常同行動)

 前頭側頭型認知症に表れやすい症状です。毎日決まった時間に決まったお店に行き、同じ飲み物を頼むなど、同じ行動を繰り返すようになります。

【対応方法】

■毎日のルーチンを支障の無いものに置きかえる
 常同行動によってケガなどの事故につながらないように、日常生活の中で支障がない行為に置きかえる方法です。例えば、毎日決まった時間に行く散歩を、デイサービスへ行く時間に置きかえる。また、このコロナ禍では「編み物」「タオルをたたむ」「おりがみ」「生け花」「パズル」「ビデオ鑑賞」など、外出しないで過ごすことを念頭に考えておきましょう。

4.不安・焦燥

 できないことが増え、自分がおかしくなっていくような感覚が続くことで引き起こされる症状です。心の視野が近視眼(トンネルビジョン)的に狭くなりやすいため、人に聞くという解決策が思いつかずちょっとしたパニックに陥りがちです。自分に自信がなく不安なので、配偶者につきまとうような症状(シャドーイング)も出てくることもあります。焦燥からイライラしたり、不平や不満を大声で叫んだりすることがあります。また、一人になることを嫌がることもあります。

【対応方法】

■共感することを基本に接する、「まず心を知ること」
 「どうしたの? 」と声をかけて傾聴することで、不安な気持ちを理解してあげることが大切です。

■居場所を心地良いものにする

5.無気力

 自発性や意欲が著しく低下することで引き起こされる症状です。うつ病と似ていますが、特に意欲の低下が顕著に表れます。何事にも「まあいいか、やめておこう」とあれこれ理由をつけて、やめるようになります。具体的には、外出したくない、物事に関心がもてないなどの症状が代表的です。

【対応方法】

■簡単な目標を立てて、一つ一つ達成していく
 心理面から無気力を改善する方法です。介護する側との信頼関係やサポートが必要ですが、掃除をする、10分ほど散歩するなど新しく簡単な目標を設定し、一つ一つを達成することです。これは家族と共に始め、しっかりと誉(ほ)め言葉をかけることで自信が生まれ、前向きな気持ちにつながります。

6.抑うつ

 病識(自分は病気だという意識)がある段階では、自分の変化に喪失感を抱き、抑うつ状態が引き起こされることがあります。また、脳萎縮や血管障害が原因の場合もあります。レビー小体型認知症やパーキンソン病の合併症として抑うつを引き起こす場合が非常に多いことが知られています。そのため今までにうつになったことがない60代以上の人で、うつが見られた場合、レビー小体型認知症の初期期症状として表れている可能性もあります。

【対応方法】

■強要しない
 本人が真面目で律義な性格の人だと、「よくなるためにどう頑張るべきか」と聞かれることがあります。頑張りすぎにつながりやすいので、「無理に強要する必要はない、できることをできただけ」の精神がいいと伝えましょう。

■無理のない役割、してもらったら感謝の言葉
 本人の気持ちを尊重、受容したうえで、負担にならない程度に「カーテンを開ける」「植物への水やり」などのちょっとした役割を持ってもらいましょう。それをしてもらったら、さりげない感謝の言葉を伝えることも大切です。

■太陽の光を浴びる
 日光を浴びることにより、うつ症状に影響するといわれる体内リズムを整えることができて、前向きな気持ちにさせてくれます。

■無用に励ましの言葉をかけない
 「がんばれ」「やる気を出して」など励ましの言葉は、かえって症状を悪化させる場合があります。気分の落ち込みが激しい時期には本人を追い詰める言葉になっていることがあるため、「無理に頑張らないほうがよい」と伝えるほうがよい場合もあります。

7.幻覚・妄想・錯覚

 幻覚は、レビー小体型認知症に多く表れます。特にもの盗られ妄想はアルツハイマー型認知症に多く表れる症状です。

【対応方法】

■話を聞く
 幻覚などに対して「そんなものはない」と否定しないのが第一歩です。そして何が見えて、どう感じているのかをしっかり聞くことが大切です。

■否定する言葉の発言をしない
 幻覚・妄想・錯覚は、本人には間違いない事実です。それを否定すると自分自身を否定されていると思われる場合がありますので、何が起きているのかに耳を傾けて受け止めましょう。何かが見える、と言われた時には「見えたところに行って、それに触ってみてごらん」と伝えましょう。何もなかったと気づいてもらえるはずです。

8.暴言・暴力

 認知症の人のすべてに表れるわけではありませんが、不安や体調不良などがあるうえに、自尊心を傷つけられたときなどに表れることがあります。感情のコントロールがしにくくなる原因の一つとして、前頭葉の機能低下があげられます。

 家族が在宅介護をする中で、最も苦労を伴う行動障害の一つといえます。

【対応方法】

■暴言・暴力のきっかけをみつける
 暴言を発したタイミングを振り返り、どんなきっかけで感情がコントロールできなくなったのか、そのきっかけや原因をまずみつけ、除外しましょう。きっかけや原因がわかったら、すぐ否定するのではなく、まずはそうかそうかと耳を傾けましょう。相手を認めて褒めることで、怒りが軽減される場合もあります。

■その場を去る
 本人は、周りを傷つけたいと思っているわけではありませんが、感情が高ぶっているときは自分を抑えることができません。そのため、怒りが爆発しそうに感じたらまずはその場を離れ、静まるまでタイミングを見るのが基本です。
 少し距離をとり、落ち着くまで待ってから対応することでケガなどのトラブルを防ぐことができます。

■フラストレーションを溜め込まない
 なるべく冷静に接しようと思っていても、介護をしていると、つい感情的になってしまうのが人間です。ストレスの解消に、例えばドアを閉めた車中で大声を出してみる、安物の陶器をたたき割るなども時にはあるでしょう。また一人で抱え溜め込まず、介護の経験者、家族の会の関係者などに愚痴をこぼすことでも救われるはずです。

■「でも」「だけど」といった否定の言葉は使わない
 相手の言葉に対して思わず出てしまう言葉ですが、自分への敬意や尊重が不足していると感じるため、否定されたと受け取られかねません。

■コロナ時代の自尊心を傷つけない
 コロナ禍によってマスクをつけたままの会話が当然となっていますが、認知症の人は病院で診察を受けるときなどにマスクをつけたまま話をするのは失礼にあたると思いマスクを外したがります。
 そんな時、「マスクを外しちゃダメ!」と否定するのではなく、周囲の人がマスクをしている姿を見てもらい「今時はこうするものよ」と着けてもらうよう伝えます。すぐにマスクをしてくれたなら、「さすが、のみ込みが早い」などと褒め言葉を伝えましょう。自尊心を傷つけない対応が肝心です。

 ここまで、さまざまな周辺症状とその対応方法について説明してきました。

 予測できなかった言動や行動に遭遇すると、介護をする人も時には感情的になることが出てくるでしょう。なぜ怒られているのか本人が理解できなかったり、不安に感じたりしているときに、無理強いや強引な制止をすることは、かえって信頼関係を悪化させる可能性もあります。感情に任せて「説得しよう」「強制しよう」とするのではなく、一人が不安なら一緒に外出する、じっくり待ってあげるなど、気持ちを理解して相手が「納得できる」対話を心がけていきたいですね。

認知症の疑いがある症状

 家族の行動の中に「これって認知症の症状? 」と感じることがある場合は、次のチェック項目で確認してみてください。

認知症の初期にみられる症状・行動

・同じことを何度も聞いたり、話したりする
・約束を忘れてしまう
・ゴミの回収日など決まったことを守らなくなる
・同じものを何度も買ってくる
・鍵や財布など、物をよく無くす
・料理の味付けがおかしくなる
・さっきまで電話で話していた人の名前を思い出せない
・買い物の支払いや計算が難しくなる
・周囲の会話が速すぎてついていけない、理解ができない
・読書好きの人が長い時間本を読めなくなる
・テレビや映画の話の流れが追えなくなる
・料理や片付けなどの家事を途中で放棄してしまう
・楽しみだった趣味や娯楽をやめてしまう
・寄り合いや老人クラブなどの人付き合いを避けるようになる
・怒りっぽくなる、いらいらしやすくなる

 

 認知症になると、今までできていたことができなくなるため、本人にとってつらい思いをすることがあります。症状が気になる場合は、早めに専門機関へ相談してください。

家族に認知症の疑いがあった場合の対応方法

 「家族が認知症かもしれない」と感じたとき、一日も早く受診して対策をとらなければと思いがちですが、身近な家族だからこそ、慎重に歩み寄りながら自尊心を傷つけない対応をしなければなりません。

 「脳の健康診断」や「定期健診」として受診をする際に、「認知症の受診」を組み込んで、まとめて診断することもできます。

 認知症のチェック表にあるような気がかりな行動を見つけたときは、家族との関係性や本人の性格を考えて、上手に診察を促すよう心がけてください。

認知症と付き合う姿勢

 認知症は、症状も人それぞれですが、診断された時の対応もさまざまです。「早期発見、早期絶望で落ち込んでしまうタイプ」、「否認型で二度と考えないようにするタイプ」、「できることは徹底してやると改善を目指すタイプ」があります。しかし結果的には、気持ちの変化はありながらも、認知症と付き合いながら生きていく人がほとんどです。認知症を受け入れようと無理に努めるよりも、実現可能な範囲で生きる目標を持つことのほうが大切かもしれません。

 周囲の人たちもまた、認知症の症状を理解したうえで、本人と良好な関係を築きながら、無理のない範囲で対応することが大切です。笑顔は本人とその家族の不安な気持ちを和らげる最善の方法です。

(取材・文 原幸代)

監修:朝田隆

  • 朝田隆
  • 朝田 隆(あさだ・たかし)

    東京医科歯科大学客員教授 メモリークリニックお茶の水理事長 筑波大学名誉教授

    1955年生まれ。1982年東京医科歯科大学医学部卒業。東京医科歯科大学神経科、山梨医科大学精神神経科、国立精神神経センター武蔵野病院を経て、2001年筑波大学臨床医学系精神医学教授、2015年筑波大学名誉教授、東京医科歯科大学客員教授、メモリークリニックお茶の水院長。アルツハイマー病を中心に認知症疾患の基礎と臨床に携わり、脳機能画像診断の第一人者。数々の認知症実態調査に関わり、認知症発症前の軽度認知障害のうちに、治療・予防を始めることを強く推奨。『認知症グレーゾーン』(青春出版社)ほか、著書多数。

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