<連載> 大腸最前線

ビフィズス菌の投与で、高齢者の免疫力低下が防げる可能性

名古屋市立大学大学院 赤津裕康教授に聞く

2021.03.26

 高齢者は、新型コロナウイルスをはじめとした感染症にかかりやすく、重症化しやすいと言われています。その原因の一つが、加齢による免疫機能の低下です。免疫機能をよい状態に保つために今、腸内細菌が注目されています。免疫維持のために重要なビフィズス菌の話や日常生活で気をつけること、腸内細菌研究がもたらす可能性について、高齢者医療に長年たずさわってきた名古屋市立大学大学院医学研究科の赤津裕康教授に聞きました。

高齢者医療イメージ

 病気への抵抗力や免疫機能に関わることが明らかになってきた腸内細菌。腸内には、約1千種類以上もの細菌が生息していると言われているが、その中でも特に、ビフィズス菌などの善玉菌が、免疫機能に好影響を及ぼす可能性が示唆されている。

ビフィズス菌がワクチンの効果を高める?

 「免疫機能は加齢とともに低下します。高齢者ではとくに、免疫機能の維持が感染症対策としても重要です」と話すのは、名古屋市立大学大学院教授の赤津裕康さん。

名古屋市立大学の赤津裕康さん
名古屋市立大学大学院医学研究科教授(診療担当)の赤津裕康さん

 実際に高齢者がビフィズス菌をとると、免疫機能の低下を防げるのか。赤津さんは、口から栄養を補給できず、胃から直接栄養をとっている高齢の入院患者45人を対象に、ビフィズス菌の効果を検証。ビフィズス菌をとるグループと、ビフィズス菌の入っていないプラセボをとるグループにわけ、それぞれを12週間投与。16週間の経過をみた。

 免疫機能については、リンパ球の一種、ナチュラル・キラー(NK)細胞(※1)の活性やインフルエンザワクチン接種後の抗体価(※2)を指標とした。抗体価が高いと、感染症に対して十分な免疫を獲得できているということになる。

 試験の結果、プラセボ群は、NK細胞活性の低下がみられたが、ビフィズス菌群では活性が維持された。体内でNK細胞の活性が高まることは、外界からの細菌やウイルスなどの攻撃に対する免疫力が高く、感染症を予防する働きがあるとされている。

赤津先生の実施した試験

 さらにビフィズス菌群は、プラセボ群に比べて、ワクチンの抗体価が上昇した人が多かった。

 「新型コロナワクチンの接種が始まっていますが、一般的に高齢者はワクチンを打っても若い世代の人よりも抗体価が上がりにくく、上がっても早い段階で下がる傾向が報告されています。研究結果から考えられるのは、ビフィズス菌が、もともと備わっている免疫機能や、ワクチン接種によって得られた免疫機能に好影響を及ぼした可能性があるということです」(赤津さん)

腸内細菌を元気にする食事が良い

 免疫機能の低下を防ぐために、日常の食事では、どのような点を意識すればよいのか。

 「ヨーグルトや納豆、漬物、みそなどの発酵食品や食物繊維を含む野菜やキノコ、豆類を積極的に食べることです。自分のために食事をするという意識の他に腸内細菌にも栄養を与えるつもりで食品を選ぶと良いでしょう」(赤津さん)

 ビフィズス菌などの有用菌と、そのエサとなる食材を同時にとると相乗効果が得られるため、食事の方法としても注目されているという。

 「免疫機能の維持だけでなく、糖尿病や肥満、認知症に対しての好影響も期待されています」(赤津さん)

ビフィズス菌の認知機能への好影響に期待

 このうち認知症については、超高齢社会の到来にともなって、今後ますます患者数が増えていくことが大きな問題となっている。現在のところ認知症を根本的に治療する薬はなく、予防の可能性がないか、さまざまな研究が進んでいる。

 そうした中、認知症の前段階で、物忘れはあるが日常生活には支障がない「MCI(軽度認知障害)」の疑いのある人を対象にした研究で、ある種類のビフィズス菌をとったグループは、プラセボをとったグループに比べて認知機能の改善がみられたという研究も報告されている。

 「興味をもってみています。認知症の発症を完全に防ぐのは難しいかもしれませんが、食生活や運動、認知機能の訓練などによって、できるだけ発症を遅らせたり、発症しても進行をゆるやかにしたりすることは、期待できます」(赤津さん)

 赤津さんは現在、名古屋市立大学病院総合内科・総合診療科で、多くの高齢者の診療にあたり、栄養指導を行うこともある。

 「高齢者は便秘の方が多く、ものをかんだりのみ込んだりする機能が衰えてしまった方もみえます。そうした方には、腸内環境を整えるだけではなく、たんぱく質やカルシウムもとれる発酵食品として、ヨーグルトをすすめています。健康維持のためには、運動や栄養が重要ですが、発酵食品も上手にとるのが大切だと考えています」

※1 リンパ球の一種。がん細胞やウイルスに感染した細胞などを見つけ、細胞ごと殺そうと働く。ウイルス感染では免疫系の活性化以前に第一線の防衛を行うとされる。

※2 体の中に侵入してきたウイルス(抗原)などに対抗する抗体の量や強さを示す指標。

参考文献:JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2013 Sep;37(5):631-40.

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  • 赤津裕康
  • 赤津 裕康(あかつ・ひろやす)

    名古屋市立大学大学院 医学研究科 教授(診療担当)

    1991年名古屋市立大学医学部卒業。96年同大学大学院医学研究科修了。医療法人さわらび会福祉村病院などを経て、2018年から現職。日本内科学会専門医、日本老年医学会専門医、日本病院総合診療医学会認定病院総合診療医、静脈経腸栄養学会認定医。

  • この連載について / 大腸最前線

    大腸にすむ腸内細菌は、検査法の飛躍的な進歩などにより、私たちの健康増進に役立つさまざまな働きが明らかになってきました。腸内細菌を活用した最新の治療例や、医療現場の動向などを、分かりやすくご紹介します。

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