物忘れは認知症のせい? 専門医から学ぶ「原因や症状の違い」と「正しい対処方法」

人生100年時代を生きるキーワード・物忘れがひどい

2021.03.31
物忘れがひどいイメージ

 最近、家族や友人から「また物忘れ? 」といわれてしまった。人の名前がすぐに思い出せなかったり、地名が出てこなかったり。自分でも物忘れがひどくなっていることに薄々気づいてはいたけれど・・・。このような出来事は誰もが経験したことがあるでしょう。「年齢を重ねたから仕方がない」と気にしない人もいるでしょうが、物忘れは老化だけが原因とは限りません。認知症や他の病気の可能性があるため、専門家の意見を参考にしながら原因について確認してみましょう。

<目次>

まずは老化と認知症の違いを知ろう

 物忘れは年齢にかかわらず起こりますが、加齢とともに物忘れが頻繁に起こることがあります。では、どんな場合の物忘れが認知症による症状であると疑わなければならないのでしょうか。現状の物忘れの進行度がどのくらいなのかを把握しながら、「老化による物忘れ」と「認知症による物忘れ」の違いを確認しておきましょう。認知症の早期発見にもつながるかもしれません。

物忘れ危険度チェック

 物忘れは「思い出すこと」と「記憶の保持」がだんだんできなくなることから始まります。まずは、物忘れのレベルをチェックしましょう。

物忘れ危険度チェック

 上図のように、昨日食べた晩御飯を例に、物忘れのレベルを確認してください。

認知症と老化の物忘れの違い一覧表

 次に「老化による物忘れ」と「認知症による物忘れ」の違いを確認し、物忘れがどちらの原因なのかを確認してみましょう。

老化による物忘れ 認知症による物忘れ
体験の一部を忘れる

■食事をしたことは覚えているが、食事のメニューまでは思い出せない。

体験そのものを忘れる

■食事をしたにもかかわらず、食事をしたか思い出せず「ご飯はまだ?」と聞いてくる。
忘れたことを自覚している

■用事があり2階へ上がったが、何をしに来たのか忘れてしまった。
■買い物から帰ったら、買い忘れがあることに気がつく。
忘れたことを自覚できない

■用事を忘れていること自体に気付かず、別のことをしてしまう。
■買い物に行ったことを忘れ、また買い物へ行ってしまう。
生活に支障はない

■日付や曜日、場所などを間違える。
■間違いを指摘しても、作り話はせずに謝る。
■無くした物は探して見つける。
■1度通った道でも迷うことがあるが、目的地にはたどり着ける。

生活に支障をきたす

■日付や曜日、場所などが分からなくなる。
■間違いを指摘すると、非を認めずに作り話をする。
■無くした物は誰かに盗まれたと思ってしまう。
■自宅に帰ることができない。

早期受診のすすめ

 「ただの物忘れに違いない」と決めつけてしまうと、物忘れに隠れた認知症やその他の病気を見逃すことになるかもしれません。治療可能な病気を早期発見することや、悪化させないためにも「認知症による物忘れ」で気になる症状がある場合は、そのままにせずに医療機関での受診をおすすめします。

認知症の種類

 認知症による「物忘れ」は、体験したこと自体を忘れてしまうことから、日常生活に支障が出てきます。認知症による物忘れの原因や症状について、代表的な病名や特徴についてご説明します。

・アルツハイマー型認知症
 認知症の原因でもっとも多いとされている疾患です。アミロイドβ(ベータ)という異常なタンパク質が脳に溜(た)まり、神経細胞が小さく萎縮することで症状が表れますが、この脳の変性や萎縮は比較的ゆっくりと進行していきます。初期には物忘れや同じことを何度も繰り返し発言するなどの症状が表れます。症状が進んでくると時間、場所、人との関係などが正しく認識できなくなってきます。

・レビー小体型認知症
 アルツハイマー型認知症の次に多いといわれ、アルファシヌクレインという異常なタンパク質が原因とされる認知症の原因疾患です。初期には、物忘れや人や物、時間、場所などが正しく認識できなくなるといったアルツハイマー型認知症と同じような症状のほか、幻視などの症状が表れます。病状が進行してくると、幻視がはっきりと表れ、体の硬直が始まり動作全般が遅くなり、転倒のリスクなど身体介護の必要な場面が増えてきます。また、「手足がふるえる」「動きが遅くなる」「筋肉が硬くなる」「無表情」「姿勢のバランスが悪くなる」など、パーキンソン病に似た症状も表れます。
 レビー小体型認知症は、これらの症状の改善と進行を繰り返し、日によって症状の変化が激しくなることも特徴です。

・脳血管性認知症
 脳梗塞(こうそく)やくも膜下出血など、脳の血管障害によって起こる認知症です。物忘れなどの認知機能は、脳が損傷を受けた部分によって失われる機能があり、人によってさまざまです。また、ささいなことで涙をながす、怒りだすなど感情の起伏が激しくなることがあります。言語障害や手足の半身麻痺(まひ)、感覚障害などの神経症状が表れるのも特徴です。

・前頭側頭型認知症(ピック病)
 理性をつかさどる脳の司令部と言われる前頭葉や側頭葉が萎縮して起こる認知症です。このため、静かにしなければならない場所で大声を出す、スーパーで欲しいと思った物をそのまま持ち帰るなどの反社会的な行動が表れる場合があります。また、意味もなく照明をつけたり消したりするなど、同じ動作を繰り返す「常同行動」が表れるのも特徴の一つです。

物忘れの原因は、認知症とは限らない

 頻繁に物忘れが表れる原因は、老化や認知症だけではありません。一時的に症状として表れ、それが認知症の原因となる病気もあります。これらの病気は、早期に原因を見極め、適切な治療することで症状が緩和するとされています。ここでは、代表的な病気の特徴をご紹介します。

正常圧水頭症

 脳脊髄(せきずい)の表面を流れる脳脊髄液の循環や吸収の異常により、脳脊髄液を産生する場である脳室が拡大する状態が「水頭症」です。この水頭症の一種で、脳圧(頭骨の内部の圧)の上昇を伴わないタイプを「正常圧水頭症」といいます。物忘れをはじめ認知症とよく似た症状が表れますが、適切な治療をすれば治る病気です。

慢性硬膜下血腫

 転倒などで頭を打った数カ月後に起こる病気です。脳を覆っている硬い膜と脳の間に血液が溜まってしまうことで、部分的な物忘れなどの認知症に似た症状が表れます。手術をして治すのが一般的です。高齢であることや、身体への負担が大きく手術がリスクとなるときは、漢方を用いて経過観察する場合もあります。

甲状腺機能低下症

 脳ではなく、甲状腺ホルモンの低下が原因となる病気です。体の新陳代謝が悪くなることで頭の働きが低下します。このため、物忘れ、錯乱、被害妄想、記憶力の低下などの認知症に似た症状が表れます。治療法は、不足している甲状腺ホルモンを薬で補充するのが一般的です。

ビタミン欠乏症

 偏った食生活や栄養失調によりビタミン不足に陥ると、イライラしたり軽度のうつ症状が表れたりします。さらに進行すると記憶力の低下や錯乱、せん妄などの認知症と似た症状が表れることがあります。軽度の場合、野菜や果物などの食材を多くとり、栄養バランスのよい食生活することで改善がみられますが、重度の場合はサプリメントが処方されるケースもあります。

うつ病

 だるさや疲れがとれず気力が低下したり、落ち込んだりして意欲を失い、それを自分の力で回復するのが難しくなる病気です。うつ病が原因で認知機能が低下することにより、認知症と似たような症状が表れます。頑張ろうと思っていてもうまくできないのがうつ病なので、「できることをできるだけ」という気持ちで少しずつ回復させていきます。

 治療する際は、以下の3方面からアプローチをしていきます。

■環境調整
 趣味など意欲的にとり組めるものを用意するなど、生きる気力をとり戻せるような環境を整える工夫をします。また、症状が進むと入院が必要な場合があります。

■薬物療法
 抗うつ剤などを使用するのが基本ですが、副作用があるため、その人の健康状態によっては使えない場合があります。それぞれの状況に応じて抗うつ剤を処方する必要があるので、医師に判断してもらいましょう。

■精神療法
 環境調整や薬物療法を行い、うつ症状が回復してきた人向けの療法です。回復して精神的に良い状態を維持し、再発させないように原因となったストレスについて対処法を学ぶ治療法です。その人の性格、状況によって対応方法が異なるため、専門医に相談して決めていきましょう。

物忘れの改善や認知症に備えるためにできること

 では、物忘れを改善するためにはどのようなことができるのでしょうか。こちらでは、日常的にできる対策や改善方法をご紹介します。

物忘れ・認知症に備える生活習慣

 糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病は、認知症の発症を高めるといわれています。生活習慣を見直すことで、認知症になるリスクを低減させるように心がけましょう。

1.食習慣 ■塩分のとりすぎに注意する
■腹八分目を心がけて、規則正しい食事をこころがける
■野菜・果物(ビタミンC、E、βカロテン)をよく食べる
■魚(DHA、EPA)をよく食べる
■赤ワイン(ポリフェノール)を飲む
2.運動習慣 ■週3日以上の有酸素運動をする
ウォーキング、水中ウォーキング、水泳、ヨガ など
3.対人交流の習慣 ■人付き合いをするように心がける
4.知的行動習慣 ■文章を書く
■読書をする
■博物館に行く
5.睡眠習慣 ■就寝2時間前はテレビ、パソコンやスマートフォンの使用を控える
■寝る1時間前に入浴する
■就寝前にコーヒー・紅茶・緑茶などのカフェイン類は飲まない
■朝起きたらしっかり朝日を浴びる

 

 認知症になるリスクを低減させるためには、まずは生活習慣を見直すことが大切です。

人との関わりの中で役割をもつ

 認知症になると、これまでより人と関わることが面倒に感じてしまい、コミュニケーションをとることが苦痛になる、他人と関わることを避けてしまうといった傾向がでてきます。しかし、人と関わりを持ち、役割をつくることは、生涯にわたって重要です。

 例えば、お孫さんの面倒を見る、町内会の役員をする、ボランティア活動に参加するなど、身近なコミュニティーの中で自分の役割を見つけましょう。また、習い事や趣味など、自分が生きがいと感じることに取り組むことからつながりを広げることもできます。

脳と筋肉に刺激を与える身体活動をする

 生活習慣病の見直しで伝えたとおり、週3日以上の有酸素運動は認知機能低下のリスクを軽減する効果があるとされています。

 有酸素運動と同時に、計算やしりとりなど頭を使う課題を行うのも効果的です。同時進行(デュアルタスク)することで、筋力のアップと共に脳に刺激が与えられ、より高い効果が期待できます。

家族の物忘れが頻繁だと感じた時は

 受診を促す際には、家族といえども「認知症かもしれないから病院へ行こう」などといわないほうがいいでしょう。他者よりも先に、本人がその異変に気づいていることがあるので、自尊心が傷ついて、診察や治療に消極的になる可能性があります。

 まずは、生活の中で本人が困っていることがないか、本人の気持ちに寄り添って話を聞いてみてください。本人が納得したうえで受診するのが一番よいでしょう。診察を拒否する場合は、定期的に行う健康診断や定期健診の項目にオプションとして「認知症の診察」を追加することもできます。専門家とよく相談して検討してみてください。

 家族が遠隔地にいる場合では、電話やメールだけではなく、実際に現地に赴いて日常生活に不便なことがないか確認してみてください。家族との日常的な会話を増やし、異変がないか察知することで早期発見につながることもあります。

不安を解消して物忘れと上手に付き合おう

 物忘れの症状は、老化や認知症だけでなくその他の病気のサインも考えられます。早期に対応や治療をすることで、症状の進行を遅らせることにもつながります。気になることがあって、「自分はもしかして…」と不安を抱えているのなら、早い段階での専門機関への相談や受診をおすすめします。ここで紹介した対処法を見ながら「物忘れ」の症状と向き合ってみるのはいかがでしょうか。

(取材・文 原幸代)

監修:朝田隆

  • 朝田隆
  • 朝田 隆(あさだ・たかし)

    東京医科歯科大学客員教授 メモリークリニックお茶の水理事長 筑波大学名誉教授

    1955年生まれ。1982年東京医科歯科大学医学部卒業。東京医科歯科大学神経科、山梨医科大学精神神経科、国立精神神経センター武蔵野病院を経て、2001年筑波大学臨床医学系精神医学教授、2015年筑波大学名誉教授、東京医科歯科大学客員教授、メモリークリニックお茶の水院長。アルツハイマー病を中心に認知症疾患の基礎と臨床に携わり、脳機能画像診断の第一人者。数々の認知症実態調査に関わり、認知症発症前の軽度認知障害のうちに、治療・予防を始めることを強く推奨。『認知症グレーゾーン』(青春出版社)ほか、著書多数。

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