新型コロナウイルスのワクチンは、インフルエンザワクチンなどと違って、筋肉注射で接種します。なぜなのでしょう? 接種の前に確認が必要なこと、接種後に欠かせないこともあります。専門家に聞くQ&A、3回目は「接種前後の注意点」です。

筋肉の細胞内で、目印のたんぱく質を作成
Q: 新型コロナワクチンは筋肉注射だと聞きました。インフルエンザワクチンなどは皮下注射です。なぜ筋肉注射なのですか?
A: ワクチンを皮下注射している日本のような国はじつは少数派で、ほとんどの国は新型コロナのワクチンに限らずワクチンを筋肉注射しています。今回、輸入される海外の新型コロナウイルスワクチンは、筋肉注射するという条件で臨床試験(治験)が実施され、緊急承認されました。このため、皮下注射ではなく筋肉注射をすることになっています。
皮下注射と筋肉注射のどちらがワクチンの効果を高めるのかをきちんと検証した研究はありません。ただし、理論的には、弱毒化したり感染性を無くしたりした病原体や、病原体のたんぱく質そのものを使ったワクチンは、免疫細胞がたくさんある皮下に注射した方が効果が高い可能性があるそうです。
一方、今回、日本で接種されるmRNAワクチンや、承認審査中のウイルスベクターワクチンは、まずは体内の細胞にウイルスのたんぱく質を作らせないと免疫反応が始まりません(詳細は、連載の1回目、2回目を参照ください)。このため、たんぱく質を作る筋肉細胞のたくさんある筋肉に注射した方が、効果が高い可能性があるそうです。
Q: ワクチンを打って、新型コロナウイルスに感染してしまう恐れはありませんか?
A: どのワクチンもウイルスそのものを接種するわけではないので、感染する可能性はありません。

ヒトの遺伝子書き換えは「ない」
Q: mRNAワクチンや、ウイルスベクターワクチンには、新型コロナウイルス由来のRNAやDNAが入っているそうですが、ワクチンの影響で、自分の遺伝子が変化することはないのですか?
A: 新型コロナウイルスの解析やワクチンの開発・評価に携わる専門家は、ワクチン接種を受けた人の遺伝子が変わる恐れはないとしています。
ヒトの生命の設計図であるゲノムはDNAでできています。このDNAをもとに、たんぱく質をつくる設計図としてRNAが作られますが、その逆に、RNAからDNAが作られることは基本的にはありません。米疾病対策センター(CDC)や世界保健機関(WHO)は、ワクチンのRNAがDNAになって接種を受けた人のゲノムに入ることはないと考えています。
一方、ウイルスベクターワクチンに含まれているDNAは、体内に入った後、いったんはゲノムの保管庫である細胞核に入り、そこでmRNAが作られます。
このため、理論上は、ワクチン内のDNAがヒトゲノムに入る可能性は否定できませんが、ウイルスベクターワクチンを開発した英オックスフォード大学は、(1)ワクチンでは、DNAを編集したり複製したりする酵素を壊したウイルスベクターを使っている、(2)もともとヒトのDNAには、外からDNAが入ってこないようDNAを守る仕組みがあることなどから、ワクチン接種を受けた人の遺伝子が変わる恐れがないとしています。
ウイルスベクターはワクチンではまだほとんど使われていませんが、遺伝子治療では長年、利用され、臨床試験も行われてきています。米食品医薬品局(FDA)で、DNAワクチンや遺伝子治療の審査を担ったことがある東京大学医科学研究所の石井健教授によると、遺伝子治療やDNAワクチンの開発が始まってから約30年間、ウイルスベクター内のDNAがヒトのゲノムに入り込まないか、とくに精子や卵子のゲノムに入り込んで次世代に受け継がれるリスクがないか、徹底的に調べられてきた結果、その危険性はないという結論に達したそうです。
アレルギーの有無確認が必要な物質は
Q: 実際にワクチンを接種する前や接種を受ける際、どのような点に注意すればいいですか?
A: 厚生労働省は、ファイザー社のワクチンの成分であるポリエチレングリコール(PEG)に対して重いアレルギー反応を起こしたことがある人には、接種を推奨しないとしています。
PEGはスキンケア用クリームなどの化粧品や大腸検査の下剤などに使われています。こういった物質に対して重いアレルギーを起こした経験のある人は、接種についてかかりつけの医師に相談した方がいいです。
また、PEGと構造が似たポリソルベートに重いアレルギー反応を起こしたことがある人も、専門医に相談した上で判断した方がいいとされています。ポリソルベートは乳化剤として色々な食品に入っているほか、ポリオやロタウイルスなどのワクチンにも入っています。
接種する際には、特別に注意した方がいい人もいます。
厚労省によると、心臓や腎臓、肝臓の持病がある人や、血液疾患にかかっている人、発育障害の人、免疫不全の診断を受けたことがある人、過去にけいれんを起こした経験のある人、予防接種を受けて発熱や全身の皮膚が腫れるなどアレルギーのような症状が出たことのある人たちです。そういう人もやはり、かかりつけの医師に事前に接種について相談した方がいいと考えられます。
抗凝固薬、いわゆる血液をさらさらにする薬を飲んでいる人は、注射した後になかなか血が止まりにくいかもしれません。厚労省は、打った後、渡される綿などで打った部位を2分以上、強く押さえておいた方がいいとしています。自分が抗凝固剤を飲んでいるかどうかわからない人は、かかりつけ医に事前に確かめておいた方がいいでしょう。
ワクチンの効果が出るのは、自分の免疫がうまく働くからです(詳細は、連載1回目を参照ください)。このため、東京大学定量生命科学研究所の新藏礼子教授(免疫・感染制御学)は、「ワクチンを打つ前には、十分に睡眠や栄養をとり、体調を万全に整えて、少しでも免疫状態が良くなるようにして下さい」と呼びかけています。
接種後15分以上は、接種会場で様子をみる
Q: 接種後はどんな点に注意が必要ですか?
A: 打った後、まれに、何もしなければ命に危険が及ぶような重いアレルギー反応「アナフィラキシー」が起きることがあります。接種後15分以上は、接種会場で様子をみて、具合が悪くなったらすぐに会場の医療従事者に伝えて下さい。
アナフィラキシーは、じんましんが出たり、息苦しくなったり、血圧が下がったり、複数の臓器にさまざまな症状が起きます。そういう状態になったら、横になって安静にし、必要に応じてアドレナリンを注射するなどの治療をしないと、生命に危険が及ぶこともあります。
米国で起きたアナフィラキシーの74%は接種してから15分以内に、90%は30分以内に症状が出始めたそうです。また、ワクチンに限らず、採血など針を刺された時に、気分が悪くなったり、失神したりする「血管迷走神経反射」が起きることがあります。
このため厚労省は、過去にアナフィラキシーなど重いアレルギー反応や血管迷走神経反射を起こしたことのある人は接種してから30分間以上、そうでない人も念のため15分間以上は、医療従事者のいる接種した場所にとどまり、体調が変化しないか様子をみるように求めています。
(取材協力=東京大学医科学研究所・石井健教授、東京大学定量生命科学研究所・新藏礼子教授、構成=大岩ゆり)
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この連載について / ワクチンを知ろう
新型コロナウイルスのワクチン接種が65歳以上の高齢者への優先接種を皮切りに本格化します。なぜ、どんな効果が期待できるか。免疫はどう働き、副反応はなにか。アナフィラキシーの注意点は? 専門家に聞きました。
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