熟睡のためにリラックスする方法 入浴と睡眠の関係は

睡眠専門医の白濱龍太郎さんに聞く(下)

2021.04.26

 睡眠専門医で睡眠と呼吸の専門クリニック「RESM新横浜」の白濱龍太郎院長は、睡眠時間をまず決めてから一日のスケジュールを作っていく「睡眠ファースト」の生活を提唱されています。3回目の今回も、睡眠のメカニズムを教えていただきながら、熟睡のために効果的なリラックスの方法をうかがいました。

睡眠イメージ

香りや音楽 五感を使って切り替えよう

――前回は睡眠とホルモンの関係をうかがいましたが、睡眠にとってほかに重要な要素はなんでしょうか。

 自律神経も重要な働きをしています。眠るためには、自律神経のうち交感神経が優位である状態から、副交感神経が優位である状態に切り替えることが大事です。日中は交感神経が活発に働いています。活動的でアクセルを踏んでいる状態です。どんなにリラックスしていると思っていても、日中は交感神経の方が働いています。眠るというのは、飛行機が着陸して滑走路につくように、ぐーっと高度を下げて、副交感神経に切り替えていくことです。副交感神経が優位なときはリラックスした状態になります。

――そのために必要なことはなんでしょうか。

 つまり、眠るためには、交感神経を緊張させることはなるべくやめましょう、逆に副交感神経を優位にすることはどんどんやってください、ということになります。たとえば、カフェインをとるのは交感神経を刺激しますし、将来のことをいろいろ考えること、あした起きられるかなとか考えること、すべてが交感神経を刺激する要素になってきます。

 副交感神経を優位にさせるのは五感を使うことです。いろいろな各論が紹介されています。香りだったり音楽だったり最適な温度湿度だったりを調整することで、リラックスすることができます。

お風呂は就寝の1時間半から2時間前に

 お風呂にについていいますと、睡眠のメカニズムでもう一つ大事なのは、深部体温です。深部体温が下がると眠気が起こります。ですので、入浴によって全身の筋肉をゆるめて深部体温を上げる。そうすると、出たあとに深部体温が下がりますから、眠気が誘われるのです。入浴の一番いいタイミングは就寝の1時間半から2時間前くらいです。その時間に入ると、お風呂を出た後、いい具合に深部体温が下がっていって就寝したい頃に眠気が出てきます。浴槽に浸かることが大事です。入浴剤を使ってもいいかもしれません。出た後で少しストレッチをするのもいいです。血行をよくすると、その後熱が下がりやすくなります。

――いろいろな方法がありますが、とくに注意してもらいたいことはなんですか。

 寝る前は、ついいろいろなことを考えがちです。日中忙しいから。なかなか大枠で大事なことが考えられない。相続、子どもの勉強のこと、お母さんの介護のこと……。根本的だけど一日で解決できないことが頭を巡ってしまい、それが睡眠のブレーキになってしまう。棚卸し、とボクは言っているのですけど、日記帳でも自由帳でもいいので、自分が気になって仕方がないことを書いてみてください。気になっていたことを書くとちょっと棚卸しができる。文字を書くことは集中しますし、頭の中の整理にもつながります。空白の時間を作ることにもなります。

 そのうえでお風呂に入るのでもいいですし、各論の中で自分がこれだと思うこと、できそうだと思うことを採り入れていってみてください。

――運動はいかがですか。そんなにがんばらず、少しでもすることが大事なのでしょうか。

 継続が大事なんですよ。運動に関しては、厚生労働省もプラス10、今より10分からだを動かしましょうということを言っています。すこしでも健康な状態を維持するためには、まず、一日10分でいいわけです。ラジオ体操でもいいです。いま眠れない悩みを抱えているのならば、まず、いまより前に進みましょう。プラス10の運動で眠りは改善します。

眠れないときは羊は数えず場所を変える

――どうしても眠れないときはどうしたらいいですか。

 不眠が慢性化してないような方、きょうは眠りが遅いな-という方は、15分くらい寝室で眠れなかった時点で、羊を数えたりしないで、さっさと場所を変えることをお勧めします。いったん睡眠時間を気にせずに、きょう何時間しか眠れなくなってしまうと気にせずに、気持ちをリセットすることが大事です。

 慢性不眠症、不眠症の強い状態になると寝室に行くのが怖いですよね。ほんとうに不眠が続いているかたは専門医にきちんと相談することを勧めます。眠るというのは単純なようでいろいろな要素が関係しています。海外のサッカーチームにはスリープコーチがいるくらいです。日本睡眠学会には専門医がいますし、ホームページには医療機関も載っているので、参考にしてください。

――最後にあらためてコロナ下の睡眠についてメッセージをお願いします。

 コロナのことは、ボクはいいきっかけとしてとらえてもらいたいと思っています。世界的に生活が変わり、考え方も変わってきました。せっせせっせと前へ前へと進んでいた人たちが足踏みをせざるを得なくなりました。ハッピーに人生を生きていくためには、心身共に健康であることが前提だと、いま一度認識されたのではないでしょうか。人生は働くこと一辺倒じゃないと実感した方も多い。自分の中の眠りの優先順位を上げる、自分の幸せのために健康に目を向けることはかっこわるいことじゃないよ、と考えるいい機会です。同じ生活に戻ったらもったいないと思います。

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  • 白濱龍太郎
  • 白濱 龍太郎(しらはま・りゅうたろう)

    睡眠、呼吸器内科、在宅医療の専門クリニック「RESM新横浜」院長

    筑波大医学群医学類卒業。東京医科歯科大大学院統合呼吸器病学修了。東京共済病院、東京医科歯科大附属病院を経て2013年に「RESM新横浜」開設。日本睡眠学会認定施設として専門医療を提供している。経済産業省海外支援プロジェクトに参加し、インドネシアなどでも睡眠医療の普及に尽力している。『病気を治したければ「睡眠」を変えなさい』『睡眠専門医が考案した いびきを自分で治す方法』(ともにアスコム)など著作多数。

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