腸内細菌が免疫機能を整える? 「短鎖脂肪酸」の意外な役割

短鎖脂肪酸とは何か(1)ウイルス・病原菌の侵入を阻止 アレルギー予防にも

2021.06.18

 ウイルスや病原菌など、外敵の侵入を阻止するために、わたしたちの体に備わった「免疫システム」。その一端を担うのは、じつは腸内にすむ細菌たちです。外敵と同様、外からやってきた存在なのに、なぜ「身内扱い」されているのでしょうか。

健康に気遣うシニア夫婦

「短鎖脂肪酸」が受け持つ多彩な役割

 ざっと1千種類、40兆個いるといわれる腸内細菌叢(そう)。そのなかで免疫システムと深い関わりがあるのが、ビフィズス菌など特定の腸内細菌がだす「短鎖脂肪酸」という物質です。酢酸や酪酸、プロピオン酸などの総称で、たとえばビフィズス菌はお酢の成分である酢酸を産出します。

 「原料」となっているのは、宿主である人間が消化できずに大腸まで届いた食物繊維。これを腸内細菌が「エサ」として食べた後、分解されてでてきたものです。

 この短鎖脂肪酸、大腸がぜん動運動をする際などのエネルギー源として使われています。また、酢酸がお酢の成分であるように、腸内の環境を弱酸性にするため、酸が苦手なウェルシュ菌など腐敗物質をだす細菌の過剰な繁殖を抑え、よい腸内環境を整える役割があるとされています。

 こうした整腸作用としての役割に加え、近年の研究で明らかになってきたのが、病原菌やウイルスなどの外敵の侵入を防いだり、アレルギーなどの反応を抑制したりする免疫機能としての働きです。

 もともと腸は、胃で消化・分解した栄養素を「体内」に取り込む場所です。効率よく栄養を吸収するため、細かい突起やひだがあり、のばすと表面積はテニスコート1.5面分とも。その広大な粘膜層から、栄養素にまぎれてウイルスや病原菌が入りこまないよう、短鎖脂肪酸はバリアーの修復や増強を受け持ち、外敵をブロックしています。

 短鎖脂肪酸は、免疫システムの「暴走」を抑える仕組みにも関わっています。Tレグ細胞という特殊な免疫細胞を増やす力をもっているのです。

 通常の免疫細胞は、外敵などの「異物」を攻撃するのが仕事です。これに対しTレグ細胞は、その逆に、免疫細胞の働きを抑えるのが仕事です。通常なら攻撃しなくてもよい物質に、免疫細胞が過剰反応してアレルギー症状を起こしたり、自分自身の組織を誤って攻撃対象にしたりしないよう、コントロールするのです。そのTレグ細胞を作り出すスイッチの役割を短鎖脂肪酸がしています。

短鎖脂肪酸の役割

腸内細菌なしでは、やっていけない共存関係

 腸内細菌群はなぜ、宿主のヒトと、ここまで深い関係を築いているのか。そもそもヒトは、自分自身の組織や機能だけでは、生体機能を維持していくのが難しいからといえるでしょうか。ヒトがもつ遺伝子の数は約2万2千。一方、すみついた腸内細菌がもつ遺伝子は、ヒトひとりにつき70万個とも100万個を超すともいわれています。

 「宿主の免疫系を、腸内細菌が教育している、そういえるかもしれません」と、この間、短鎖脂肪酸と免疫システムの関わりを解き明かしてきた理化学研究所の大野博司さん。よそ者というより、まさに身内で一心同体ーー。ヒトは腸内細菌なしにはやっていけない共存関係にあるといえます。

 ただ、免疫システムと短鎖脂肪酸との密接な関わりが解き明かされたのは、まだ、この10年ほどのこと。腸内細菌のDNAを丸ごと調べる「メタゲノム解析」が本格化してからです。

 メタゲノム解析で明らかになったDNAをもとに、腸内細菌群が実際、どんな遺伝子をもっているか、その遺伝子はなにをつくり、どんな役割を果たしているか。これまでは仮説として考えるしかなかった道筋を、無菌マウスによる実験と組み合わせることで、実際に検証・確認できるようになったことが大きかったと、理化学研究所の大野博司さんは振り返ります。

 大野さんは、腸内細菌のメタゲノム解析を服部正平・東大名誉教授がスタートさせたときの立ち上げメンバーのひとり。腸管免疫の研究者として、自らのチームを率い、短鎖脂肪酸と免疫との関係を一から解き明かしてきました。

 いま、研究は、どの位の地点まで進んだのか。2合目、3合目、それとも。

 「いや、まだ登山口がみつかったばかりでしょうか」と大野さん。「いままで登山口が見つからず、山も見えていなかったのですから。あるいは、ベースキャンプがつくれる場所ができたところ。エベレストを目指すための。ここから道を踏み固めていけばやれる準備はできています」

 (取材・文 田中郁也) 

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