日本人の特徴は? 長寿の秘けつは? 進化する腸内細菌データベース

腸内細菌のゲノム解析(4)食生活、生活習慣、健康データと統合し、共通基盤に

2021.06.25

 日本人の腸内細菌の特徴は? 長寿の人の腸内環境はどこが違う? がん治療に効く腸内細菌とは? こんな疑問に答えを出すのが腸内細菌データベースです。その構築を全国規模化するプロジェクトが進んでいます。これまでとなにがどう変わるのでしょうか。

腸内細菌のレポート
参加者にフィードバックする腸内細菌叢データ(医薬基盤・健康・栄養研究所・國澤純さんの講演資料から抜粋)

腸内細菌、一括分析で研究多彩に

 ひとり一人の腸内細菌叢(そう)の丸ごとデータベース化は、始まってからまだ10年ちょっと。腸内にすむ細菌群の一括分析が可能になったためで、この技術を使い、国ごとの違いをみたり、長寿者の特徴を調べたり、健康な人と病気の人で腸内環境が異なることを見出したり、様々な研究が行われてきています。

 わかってきたことは、多種多様です。たとえば日本を含む世界12カ国での腸内細菌比較。日本人は(1)ビフィズス菌として知られる「ビフィドバクテリウム属」などの細菌が多い一方、(2)ほかの国では普通にみかける古細菌(メタノブレビバクター属)が目立って少ないという結果がでました。

 一方、長寿島として知られる奄美群島での、100歳以上の百寿者(センテナリアン)を対象にした長寿研究。ここでは、日本人にはまれなメタノブレビバクター属の細菌が多くみつかり、高齢者になると減少するビフィズス菌の比率が、日本の他地域の高齢者より高く保たれていました。細菌群には、肥満を抑制し、炎症を抑える特徴があるとみられています。

奄美・百寿者の腸内フローラ

 同様に長寿地域として名高い京都府の京丹後地区の調査では、雑穀類や海藻、イモなど地場の伝統的な食生活とむすびつき、食材がもつ食物繊維をエサにする菌がすみついていました。がんの最新治療として知られる免疫療法の効き目を、腸内細菌が左右するなど、病気や治療法とのかかわりもわかってきました。

 ただ、こうした比較研究はこれまで個別の研究チームが独自に進める場合が多く、それぞれのデータベースは独立した存在となりがちな側面がありました。そこで始まったのが、腸内細菌叢のデータベース構築拠点をつくろうという試み。そのひとつが、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所のプロジェクトです。

自治体、病院、大学、企業を結び、基盤データに

 全国各地の自治体や医療機関、大学、企業などと連携しながら、プロジェクトへの参加者を募り、腸内細菌叢を調べ、食生活や身体活動、睡眠などの生活習慣、血圧や体重といった健康診断データなどと統合したデータベースを整備します。現時点で5千人を超える規模になり、腸内細菌叢と健康や病気との関わりをみる基盤として成長してきています。

統合データベースのイメージ図
國澤純さんの講演資料をもとに作成

 ワクチンや腸内環境の研究が専門の國澤純さん(ワクチン・アジュバント研究センター長)も、山口県周南市などの自治体や大学、企業などと連携し、データベースづくりに取り組んでいます。健康調査や便の採取など、テータ取得に協力してもらった参加者には、腸内細菌叢の解析結果や、調査表から分析した食生活での栄養バランスの注意点などをレポートとして提供し、健康管理に役立ててもらいます。レポートには、代表的な腸内細菌として、人々の関心の高いビフィズス菌や乳酸菌の割合などの分析結果をのせています。

 もともと同研究所は、腸内細菌の解析やマウス実験など基礎研究が得意な医薬基盤研と、コホート(疫学)研究で実績がある健康栄養研が合併してできた研究機関です。双方の強みをもちよることで、「多彩なヒトビッグデータをAI(人工知能)を使って分析し、マウスの実験で生体内のメカニズムを調べ、再びヒトの解析へ戻すなど、互いに成果をフィードバックして研究を深めていくことができる」といいます。

 医薬基盤研での基礎研究が主体だった國澤さん自身、全国各地の人々を対象にしたデータベースづくりと現場での健康プログラムづくりなどのプロジェクトに加わることで、実際の食生活や生活環境の改善に、基礎研究の成果をどう結びつけるかを考えたり、現場での実践的な体験から基礎研究などへの気づきを得たりすることができるといいます。

 たとえば世界のなかで日本人はビフィズス菌の比率が高いとされていますが、集まったデータでは、30%を超すひとから1%に満たないひとまで様々でした。國澤さん自身、最初は比率が低かったため、3カ月ほどビフィズス菌のタブレットを飲み、改めて比率を調べてみたといいます。

 結果、比率の上昇はわずかなものの、おなかの調子が非常に快適に。「体感的にはものすごく変化したと思ったら、ビフィズス菌の比率はそれほど増えてはいなかった。わずかな変化でも、大きな体感の違いがあること、その一方で腸内細菌は数ヶ月ぐらいで劇的に変わるものではなく、1年、2年かけ、少しずつ変えていくのが現実的だということがみえてきました」

コホート連携で、仮想巨大データベースも

 研究所のデータベースづくりとともに、國澤さんらは、他の研究機関がつくった異なる腸内細菌叢データベースとの連携も模索しています。それぞれのデータベースが独立したままだと、大規模化が進ます、AI活用などが思うようにいかない面があるためです。たとえ異なる手法や角度から分析したデータベース同士でも、それぞれの共通点や互いのデータがもつクセなどを見いだせれば、仮想的な巨大データベースとしての活用がみえてきます。コホート連携と呼ばれる手法です。

 この一環で、大手乳業メーカーが蓄積した腸内細菌叢のデータベースと、研究所のデータベースをつきあわせる共同研究をしたところ、腸内細菌と関係の深い要素として、便の形やにおい、排便感などが、どちらのデータベースでも上位にならぶ結果になりました。「面白かったのは、その次のレベルの要素として、会食の頻度、特にビールをどれだけ飲んでいるかがでてきたこと」と國澤さん。「腸内細菌に影響を与えるなにかがあるのではと、研究チーム内で盛り上がり、いま解析を始めたところです」

 腸内細菌叢のデータベース化は、欧米では大規模プロジェクトとして10年前から取り組んでいて、いま、それぞれのプロジェクトが掲げているのが100万人規模の巨大データベースの構築です。国家プロジェクトを立ち上げなかった日本は周回遅れの状態にあります。

 そんな遅れを挽回するため、國澤さんらは、多彩な調査項目を盛り込む手法に力点をおいています。「たとえば1万人調べるとか、ただ人数で追うのではなく、100人の腸内細菌叢のデータを100項目のデータと結びつける。そうすれば、たとえ人数的には少ないデータであってもより深い掘り下げが可能な、これまでにないデータベースが構築できます」と國澤さん。個々人への返礼でもある分析レポートのように、調査でえられた結果を参加者や自治体など現場へとフィードバックし、実際の健康プログラムに結びつければ、それが社会への還元にもなる。「こうした社会実装の観点でも、ほかにはない特色をだしていけたらと思います」

 (取材・文 田中郁也) 

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