腸内細菌と肥満、どんな関係? どう制御? カギ握る「短鎖脂肪酸」

短鎖脂肪酸とは何か(2)腸内フローラの乱れ 糖尿病・生活習慣病の一因に

2021.07.21

 健康や病気と深くかかわる腸内細菌は、肥満や糖尿病など生活習慣病の発症や予防と密接な関係にあることが近年の研究でわかってきました。腸内フローラの乱れが、エネルギー代謝や免疫機能に影響を与えるためです。メカニズムのカギとして、腸内細菌が生み出す「短鎖脂肪酸」に注目が集まっています。

中年女性のおなかイメージ

脂肪の蓄積抑制と交感神経の活性化で肥満を防止

 暑いときには汗をかき、体温を下げる。寒いときは、体が震えることで体温を上げる。外界や体内で起きる変化に対し、私たちの体は状態を一定に保とうとするメカニズムが組み込まれています。「ホメオスタシス(生体恒常性)」といいます。

 食べ物から得たエネルギーを効率よく使い、余ったら脂肪として蓄積する。そんなエネルギー代謝の制御もホメオスタシスの一つです。このエネルギー代謝の恒常性維持の仕組みに、腸内細菌がつくり出す短鎖脂肪酸が組み込まれていることが、近年の研究で明らかになってきました。

 京都大学教授の木村郁夫さんによると、脂肪細胞や交感神経など体内の様々な組織には、この短鎖脂肪酸を検知するセンサー(受容体)が備わっていることがわかってきています。大腸から血液中に取り込まれた短鎖脂肪酸は、ほかの栄養素などと一緒に全身をめぐり、血液中で一定の濃度に達すると、それぞれの組織がもつセンサーにシグナル、いわば「命令」を発します。

共存共栄の関係「腸の健康」から「体全体」へ

 たとえば、脂肪細胞は短鎖脂肪酸のシグナルを感知すると血液中からの栄養の取り込みをやめ、脂肪の蓄積を抑えるようにします。一方、交感神経はシグナルを感知すると、心拍数を増やしたり、体温を上げたりします。つまり、短鎖脂肪酸は脂肪蓄積の抑制とエネルギー消費量の増加を同時に行わせることでエネルギー代謝をコントロールし、肥満を抑える役目を担っているともいえます。

 短鎖脂肪酸は、酢酸やプロピオン酸、酪酸などの総称です。腸内環境を整えるビフィズス菌が酢酸を作り出すことなどが知られています。もともとは腸管の「ぜん動運動」のエネルギー源であり、悪い菌などから腸管を守るバリアー機能もあるとされていました。

 「ヒトと腸内細菌はもちつもたれつ、共存共栄の関係にある」。以前から、こうした認識はありましたが、想定されていたのは「腸内細菌は、ヒトが消化・吸収できなかった食物繊維を、自分たちの活動源(エネルギー)として有効利用し、居場所である腸内環境を整えている。それは宿主であるヒトにとっても、腸の健康として望ましい」というような、ある意味、限られた共存共栄のイメージでした。しかし、木村さんは「実際の短鎖脂肪酸は、ただエネルギーとして利用されるだけではありません。ヒトの体全体のエネルギーの恒常性をたもつ働きをしているわけです」と話しています。

短鎖脂肪酸の作用

ゴードン博士の研究をきっかけに探求加速

 腸内細菌は、様々な代謝物などを通じて、人の健康や病気そのものと深くかかわりあっている、と言われています。こうした視点のきっかけとなったのは、米ワシントン大学(セントルイス)のジェフリー・ゴードン博士らの研究チームが行った腸内細菌叢(そう)と肥満との関わりを調べる一連の研究でした。無菌マウスに様々な腸内細菌叢を移植することで、腸内フローラの違いが肥満につながることを証明し、短鎖脂肪酸のもつ新たな役割が注目されるようになったのです。

 実際、木村さんも、ゴードン博士の論文を読んだのがきっかけで、体内の様々な組織にあるセンサーと腸内細菌がつくる短鎖脂肪酸を結びつけて考えるようになり、脂肪細胞や交感神経での短鎖脂肪酸センサーの発見につながったといいます。

 ゴードンさんの発表以来、様々な病気について、腸内細菌との関わりが調べられるようになり、腸内フローラの多様性が失われたり、細菌叢のバランスが崩れたりすることが、病気の原因となることがわかってきました。また、短鎖脂肪酸は、インスリンを分泌する膵臓(すいぞう)や、血管、骨髄などでも機能し、腸内細菌がすむ腸管では、免疫細胞の分化やインスリンの分泌などにも関わっていることがわかってきています。

強い復元力がもたらす健康=恒常性の維持・向上

 木村さんの研究室では、短鎖脂肪酸だけでなく、炭水化物ダイエットのような食生活で、体にどんな変化が起きるかなど、様々な食品や食生活がもたらす恒常性機能への影響を調べています。ヒトがもつ消化酵素や腸内細菌が生み出す物質が、体内で具体的にどんな役割を果たしているか、分子レベルでその機能を解き明かすのが目的で、分子栄養学ともいわれています。

 念頭におくのは、「健康であるための恒常性とは」という視点です。たとえばエネルギーと肥満の関係でいえば、エネルギーが過剰に入ってきたら、より消費する方向に進む必要があります。一方で、逆にエネルギーがほとんど入ってこないときは、エネルギー消費を抑えるような働きをしないといけない。病原菌の侵入には、一時的に免疫力をあげる一方で、免疫過多でアレルギーが起きたら免疫力を抑える。そんな両方向へ対応が可能な体づくりです。

 病気というのは、「どちらの方向にも修正できる恒常性が維持できなくなり、一方向に偏ってしまった状態。だから薬などが必要になる」と木村さん。「大切なのは、いかに恒常性の力を強め、健康を維持できるようにするか。そんな体づくりや食品づくりです」

 (取材・文 田中郁也) 

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