<連載> アートシーンの裏側

心ざわつく見たくなる! 挑戦的なコレクション展に込めた「遊び心」とは?

【寄稿】サントリー美術館学芸員 久保佐知恵さん

2021.07.28

 サントリー美術館で開館60周年記念展の一環として開かれている「ざわつく日本美術」展は、とにかく見て楽しむ展覧会。各作品のどこをどう見れば、心が「ざわつく」のか、同館学芸員の久保佐知恵さんに寄稿していただきました。「この作品はこうなっていたんだ! 」「ここを見ればいいのか! 」。どうぞ、館内で作品をリアルに見て回っている感覚に満たされてください。

「ざわつく日本美術」展 開催概要

  • ざわつく日本美術展ポスター
    「ざわつく日本美術」展ポスター デザイン:羽田純(株式会社ROLE)
  • サントリー美術館 開館60周年記念展「ざわつく日本美術」
    開催期間:2021年7月14日~8月29日

    ある作品を見た時、「えっ? 」「おっ! 」「うわぁ…」などと感じたことはないでしょうか? 作品との出会いによって沸き起こる、自分自身の「心のざわめき」に耳を傾けると、日本美術の魅力にぐっと近づけるような、意外な発見があるかもしれません。サントリー美術館の名品から珍品、秘宝まで、作品を「見る」という行為を意識してたのしみながら、日本美術のエッセンスを気軽に味わっていただける展覧会です。
    ※左は「ざわつく日本美術」展ポスター デザイン:羽田純(株式会社ROLE)

 世にも奇妙な展覧会タイトルに、思わず心がざわついた方がいらっしゃるかもしれません。しかし、本展を企画した発端は「お客様に作品をよく見ていただくためにはどうしたらよいか? 」にありました。この命題に対して、学芸員(本稿執筆者)と教育普及担当(関香澄)がタッグを組んで、サントリー美術館らしい「遊び心」で向き合ってみると…。今回は本展に込めた「遊び心」の一端を裏話も交えてご紹介します。

プロローグ

菊五郎展示
プロローグの展示風景 「尾上菊五郎」 一枚 明治8年(1875)頃 掲載写真に写る作品はいずれもサントリー美術館所蔵 【全期間展示】 (展示風景いずれも撮影:田山達之)

 最初に展示したのは、本展のメインビジュアルともなった、明治に活躍した歌舞伎の名優・五代目尾上菊五郎の肖像です。本作のリアルさを強調した空間演出でお出迎え。インパクトの強さに、お客様の小さな悲鳴が聞こえることも…。

第1章「うらうらする」

色絵五艘船文独楽形鉢
第1章「うらうらする」の展示風景 重要文化財「色絵五艘船文独楽形鉢」 有田 一口 江戸時代 18世紀 【全期間展示】

 「色絵五艘船文独楽(こま)形鉢」の裏側を美しく見せたい…、これは私自身の小さな夢でもありました。本作は、普段は見えない底裏に「寿」字が描かれているのです。そこで、造作会社(株式会社東京スタデオ)さんに「鏡を使って、南米・ウユニ塩湖みたいに展示したい!」とご相談。まさしく、六本木の片隅に小さな絶景スポットが誕生しました。

第2章「ちょきちょきする」

富士鷹茄子松竹梅模様筒描蒲団地
第2章「ちょきちょきする」の展示風景 「富士鷹茄子(ふじたかなす)松竹梅模様筒描蒲団(ふとん)地」 一枚 昭和時代 20世紀 【前期展示~8/9】

 「切断」によって姿が改変された作品を集めた第2章「ちょきちょきする」では、もともと蒲団カバーだった布を、お蒲団のように低めのケースに広げて展示。ここで、少ししゃがんで枕元に顔を近づけてみると…、本当に寝ているように見えませんか? 「撮影を通して作品との心的距離をぐっと近づけていただきたい」という思いも込めています。

第3章「じろじろする」

茶練緯地宝尽模様腰巻
第3章「じろじろする」の展示風景 「茶練緯地宝尽模様腰巻(ちゃねりぬきじたからづくしもようこしまき)」 一領 江戸時代 19世紀 【前期展示~8/9】

 「じろじろ」見て欲しいモチーフに関するキャプションの文字を絵文字に。造作会社さんいわく「こんなにキャプションで遊ぶとは思いませんでした…」。

第4章「ばらばらする」

さまざまな時代の硯箱
第4章「ばらばらする」の展示風景 さまざまな時代の硯箱 【全期間展示】

 「硯(すずり)箱の蓋(ふた)と身をばらばらにして、本当のセットをあてるクイズができないか?」という思い付きが、本展に通底する「遊び心」ある展示のきっかけとなりました。

第5章「はこはこする」

「はこはこする」展示風景
第5章「はこはこする」の展示風景

 「はこはこする」という造語のとおり、表舞台にはなかなか出ない「作品を収納する箱」をずらりと展示。床面に貼りめぐらされた矢印は、「箱の中身を想像するわくわく感が欲しいので、作品と箱を別々に展示してフィーリングカップルのように線でつなぎたい!」と造作会社さんへご相談した結果です。

第6章「ざわざわする」

袋法師絵巻
第6章「ざわざわする」の展示風景 「袋法師絵巻」 一巻 江戸時代 17~18世紀 【全期間展示】

  いわゆる春画の作品で、オトナの事情から一場面だけ展示。袋の下からひょっこり現れた男の横顔に、思わず「ぎょっ!」となるはずです。

エピローグ

天部像頭部
エピローグの展示風景 「天部像頭部」 一個 平安時代 12世紀 【全期間展示】

 ひとしきり心がざわざわした後は、羽衣のようなカーテンに囲まれたエピローグへ。中央にひっそりと展示されるのは、当館コレクションのなかでも珍しい仏教彫刻です。「この作品と相対して生まれた感情やことばに耳を傾けて欲しい」という思いから、黒を基調としたプロローグとは対照的に、白く静謐(せいひつ)な展示空間としています。

  ある作品を前にしておのずと生まれる「心のざわめき」は、他の何ものにもかえがたい自分だけの体験です。そして「いまどうして私の心が動いたのか?」と問いかけることは、作品の本質に触れるための一番の近道ではないでしょうか。本展が、自分自身の心のざわめきを聴く手助けとなることができれば幸いです。

 ※8月29日まで。8/24を除く火曜休館。コロナ禍の推移などにより、会期等は変更する場合があります。詳細は展覧会サイトをご覧ください。

  • この連載について / アートシーンの裏側

    古今東西の芸術作品をインターネットでも手軽に楽しめる現代。でも作品の世界観を体感するにはやはり会場で鑑賞するのがオススメ。展覧会の見どころや、学芸員・専門家だからこそ知る裏話や楽しみ方をお伝えします。

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