腸内細菌から考える糖尿病の予防策 個別指導や食品・医薬品開発も

糖尿病と腸内細菌 腸内環境の乱れが起こす発症のメカニズムとは

2021.08.06

 糖尿病を患う人はいま、予備群も含め日本全体で約2000万人といわれています。その発症の一因として、近年注目されているのが腸内環境バランスの乱れです。どんなメカニズムで起きるのか。どうすれば予防できるか。腸内細菌から糖尿病の予防策を考える新しい試みが広がっています。

管理栄養士イメージ

糖尿病有病者の比率、50~60代から急増

 厚生労働省のまとめによると、糖尿病が強く疑われる人(糖尿病有病者)、糖尿病の可能性を否定できない人(糖尿病予備群)は、それぞれ約1000万人と推計されています。

 男女別では成人男性の5人に1人、成人女性の10人に1人は糖尿病が強く疑われる状態にあります。このうち95%の人は、生活習慣病とされる2型糖尿病です。食べ過ぎや運動不足など、長年の生活習慣からくる肥満に、加齢によるインスリン分泌の減少などが加わって、高齢者になるほど有病者の比率が高くなっているのが特徴です(下図参照)。

糖尿病が疑われる人の年代別割合
厚生労働省の資料(2019年「国民健康・栄養調査」結果の概要)から作成

腸内細菌のバランス崩れ、慢性炎症状態に

 カロリー(エネルギー)のとりすぎや運動不足という生活習慣に加え、近年の研究では、腸内環境の乱れが、糖尿病の一因となることがわかってきました。

 個々人の腸内細菌を丸ごと調べる技術が進み、健康な状態の腸内細菌と、病気のときの腸内細菌の違いを様々な角度から分析できるようになったためです。糖尿病患者と健康な人の腸内細菌の比較などから、(1)糖尿病の人の腸内細菌は、健康な人に比べて細菌の種類が少なく、細菌叢(そう)全体のバランスが偏りがちになっている(2)腸管のバリア層を守っている腸内細菌の減少によって慢性的な炎症状態が起き、インスリンの効きを悪くしている(3)体全体のエネルギー調整に関わっている腸内細菌由来の短鎖脂肪酸が少なくなっている、といった指摘がされています。

 たとえば、短鎖脂肪酸はビフィズス菌などがつくる酢酸や酪酸などの総称ですが、体内に取り込まれたあと、脂肪細胞への脂肪蓄積を抑えたり、交感神経を刺激して基礎代謝をあげたりして、肥満を抑制する役目をしていることがわかってきました。膵臓(すいぞう)でのインスリン分泌や、腸管の粘膜バリアを介して、免疫細胞の活性化などにも関わっていることがわかってきています(詳しくは「腸内細菌と肥満、どんな関係? どう制御? カギ握る「短鎖脂肪酸」」をご覧ください)。

短鎖脂肪酸の作用

予防・治療の医薬品、健康維持の食品開発をめざす

 肥満や糖尿病の発症と、腸内細菌が深く関わっていることが明らかになるなかで、糖尿病の予防や治療に役立ちそうな腸内細菌や腸内細菌由来の有用代謝物などが見つかってきています。これらを糖尿病の予防や治療のための医薬品や、健康を保つための機能性食品として活用・開発する試みも始まっています。

 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所は、こうした取り組みを進める研究所のひとつです。

 研究の核となるのが、全国各地の地方自治体や医療機関、病院、大学などと連携し、構築中の腸内細菌データベースです(詳しくは「日本人の特徴は? 長寿の秘けつは? 進化する腸内細菌データベース」をご覧ください)。現時点で5千人規模に達したビッグデータをもとに、

(1)個々人の腸内環境を調べることで、各人の糖尿病の発症リスクを推定したり、糖尿病を予防する栄養や食事の個別アドバイスをしたりできるシステムや人工知能(AI)を構築する

(2)糖尿病を起こしにくくする腸内細菌や、腸内細菌の出す有用代謝物を人工知能で探しだす

(3)見つかった腸内細菌そのものや腸内細菌由来の有用代謝物などを活用し、糖尿病の予防や改善につながる医薬品の開発とともに血糖値対策の食品を開発する

ことなどをめざしています。

糖尿病/食材食品開発
腸内細菌の統合データベースで分析し、診断ソフトや食品・医薬品を開発していく

腸内細菌をAI分析、個別の栄養アドバイスにも

 研究に携わる國澤純さん(ワクチン・アジュバント研究センター長)によると、山口県周南市での疫学データから、糖尿病を起こしにくくする腸内細菌や、その細菌がつくる有用な代謝物を複数みつけています。マウスを使った実験でも、これらの細菌や代謝物が糖尿病を改善する効果を確認することができたといいます。

 「健康な人と糖尿病の人の腸内細菌を比べるとき、住んでいる場所が違うと、食習慣などの生活環境も変わってしまい、有用菌や代謝物の探索が難しくなります。今回は、同じ地域で、似た生活環境にある人たちでの比較ができたのがよかった」と國澤さん。この結果をもとに、有用な腸内細菌や代謝物が体内にあるかどうかを検査するキットの開発などを進めていく予定です。「その菌がすみついているかどうか、代謝物ができているかを調べることで、糖尿病になりやすいか、なりにくいかをチェックでき、個別の栄養指導などがしやすくなります」

 研究所では、腸内細菌がつくる有用代謝物を活用する食品や医薬品の開発も進めています。

 ターゲットのひとつは、亜麻仁油などに含まれるアルファリノレン酸から乳酸菌がつくる代謝物です。この物質が免疫の暴走を抑える効果を示すことを発見したことから、免疫疾患ともいわれる糖尿病との関わりをマウス実験で調べたところ、糖尿病の病状を改善する効果を確認することができました。これをうけ、國澤さんらは、この代謝物を薬として開発できないか、さらに、アルファリノレン酸を含む食材を乳酸発酵させたり、乳酸菌などの発酵食品にアルファリノレン酸を加えたりすることで、有用代謝物質を含む食品がつくれないか、企業との共同研究を始めています。

 國澤さんは「いろいろな食材で試してみて、食品加工の過程でも、様々な発酵代謝物をつくれることがわかってきました」と話します。「じつは周南市でみつかった有用菌・代謝物と、アルファリノレン酸由来の代謝物では、糖尿病に対する効果の現れ方が違います。マウスでの実験では、周南市でみつけた菌・代謝物だと、マウスは太りにくく、かつ、糖尿病にもなりにくくなる。一方のアルファリノレン酸由来の代謝物は、マウスは太るけれども、糖尿病になりにくい。糖尿病を起こさないようにしているメカニズムが異なっているわけです」

 糖尿病にかぎらず、腸内細菌やその代謝物がもつ、様々な効果や役割を明らかにしていけば、それぞれの人がもつ腸内環境の違いに応じて、病気へのなりやすさや、効果的な食事のとり方などを、個別に判断したり、アドバイスしたりできるようになる、と國澤さんは指摘します。「体調がすぐれなかったり、気になる症状があったりしたときに、ピンポイントで、いまの腸内環境や健康状態との関わりを調べられる。たとえば1検査、ワンコイン、500円。そんな検査キットができたらといいなと思っています」

 (取材・文 田中郁也) 

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