<連載> ワクチン接種Q&A
新型コロナの感染急加速、拡大どこまで? 医療体制への懸念点は?
「コロナとワクチン」特別編 西浦博・京大教授に聞く(上)新型コロナ感染爆発と医療逼迫
新型コロナウイルスの感染が急加速しています。新規感染者が1週間で倍増する流行はどこまで広がるのか、医療体制は維持できるのか、新たな懸念点はどこにあるのか。数理・統計モデルを使った感染症数理疫学が専門の西浦博・京都大学教授に聞きました。

東京の新規感染、1週間で2倍「みたことのない速度」
--全国の新規感染者数が1日1万人を超える日が続いています。今後、感染者数はどう推移していくのでしょうか。
西浦 すでに流行が始まっているのは緊急事態宣言やまん延防止等重点措置となっている首都圏や近畿圏、福岡県、北海道といった大都市圏です。東京都や大阪府などでは1週間で感染者が2倍に増えるといった、これまでにみたことのないようなスピードで流行が拡大しています。
愛知県はまだ対象外ですが、感染者が急増しており、流行が始まるのは確実とみられます。

大都市圏以外でも流行が始まる兆しがみえています。東京との人の行き来が多い茨城県や群馬県ではすでに感染者がかなり増加していますし、石川県、新潟県などの北陸地方、広島県や岡山県といった中国地方でも増加局面に入ってきています。
地方のクラスター、ほぼ100%デルタ株に
--第4波は大阪から全国に広がりました。今回は東京から全国に広がっていっているとみられますか。
西浦 そうですね。まず都内で、ウイルスが、これまでより感染性の高くなった「デルタ株」への置き換わりが進みました。感染性は感染しやすさのことです。都内で増えたデルタ株が各地に波及し、地方で起きたクラスターは、ほぼ100%デルタ株によるものになってきています。
--東京の感染者数の今後の変化について、7月28日の厚生労働省の専門家会議では3種類のシミュレーションを提示しておられました。どのシナリオで増えていきそうですか。
西浦 東京では1週間で感染者数が2倍になっています。残念ながら、1人の感染者が何人に感染させるかという「実効再生産数」もほぼ2に近くなっています。このままのスピードで感染が拡大すれば、8月中にも都内の1日の新規感染者数が1万人を超えるような、実効再生産数1.7のシナリオよりさらに急速に流行が拡大する恐れがあります。

--なぜこのようなスピードで感染が拡大しているのでしょうか。
西浦 人の流れが思ったように減らないという要素もありますが、主にはデルタ株が原因だと考えています。デルタ株は既存のウイルスに比べ、一定期間内の感染者の増加速度を押し上げます。既存のウイルスがデルタ株に置き換わると、どこの国でも急峻(きゅうしゅん)に感染者数が増えています。まだ置き換わりの途中だと考えられますので、このままの対策では、しばらく継続的に感染者が増えていくと思います。
第4波時の大阪、高齢者の重症化率なぜ低下したか
--第4波では、大阪で医療崩壊が起きました。医療崩壊の影響の受け方が、感染者の年代によって異なるそうですね。
西浦 4月以降5月上旬にかけ、大阪府内では感染者が爆発的に増え、医療崩壊しました。第4波で亡くなった方が大阪で約1200人いましたが、そのうちの2桁台の感染者は自宅で亡くなり、900人は入院中に人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO)を装着せずに亡くなりました。ベッドがいっぱいで入院できないか、あるいは、入院はできたものの、人工呼吸器などや医療従事者が不足していたりして積極的治療ができずに亡くなった感染者がかなりいたということです。

ところで、この期間の年代別の重症者数と重症化率をみると、重症患者の実数は全年代で増えているのに、重症化率は、40代や50代では上がっているのに対し、60代以降は逆に下がっています。
これをどう解釈するか。重症化の最大リスクは年齢ですから、自然に60代以降の重症化率が下がったとは考えられません。大阪の場合、自力では十分に呼吸できず、人工呼吸器などをつけるために気管に挿管した人や、集中治療室(ICU)での治療を受けた人を「重症」として数えています。ですから、60代以降、とくに重症化率の低下割合の大きい80代以降は、積極的な治療を受けることができないまま看取(みと)らざるを得なかった感染者が相当いた、つまり「命の選択」が起きていた可能性があると解釈するのがもっとも自然ではないでしょうか。

首都圏の流行、大阪とは異なる様相に
--東京など首都圏でこのまま感染者が増え続けると、第4波の際に大阪で起きたような医療崩壊が起きるのでしょうか。
西浦 第4波の大阪とはだいぶ異なった状況になると思います。いま、重症化リスクのもっとも高い高齢者の8割近くが2回のワクチン接種を終えました。そのお陰で、第4波の大阪ほどは重症患者が急増していません。一方で、中等症や軽症の患者さんのために確保してある一般病床(コロナ一般病床)が逼迫しており、なかなか入院できなくなっています。
すると中等症や軽症の感染者の早期治療ができなくなり、重症化を防ぐのが難しくなります。ワクチンの効果とは別に、昨年に比べて重症化する人が減っている背景には治療の進展があるからです。
中等症の場合、「レムデシビル」(抗ウイルス薬)や「デキサメタゾン」(ステロイド剤)を使うことでかなり重症化を防ぐことができます。また、軽症患者にも使える薬が登場しました。菅義偉首相が会見で「(軽症者や中等症者の)重症化リスクを7割減らす画期的な治療薬」と紹介した、「カシリビマブ」と「イムデビマブ」という2種類の中和抗体を組み合わせた「抗体カクテル療法」で、先月19日に特例承認されました。
しかしいずれも点滴などで投与するため、入院していないとほぼ使えません。
医療が逼迫して早期入院ができなくなると、ワクチン接種率が高齢者より低く、高齢者に次いで重症化リスクの高い40~50代の中で、重症化する人が増えてくる恐れがあります。

コロナ以外の緊急診療に逼迫の懸念
--猛暑日が続く中、とくに高齢者が重症化しやすい熱中症も増えてきています。医療の逼迫により新型コロナウイルス以外の病気の治療への影響も心配されています。
西浦 コロナ一般病床は、日々の救急医療を担っている総合病院の救急に確保されていることが多いので、ここの病床が逼迫すると、コロナ以外のあらゆる救急診療も逼迫してくる恐れがあります。
季節柄多い、熱中症患者さんの中でも、高齢者で症状の重い方は、発熱を伴うなど新型コロナウイルスとの見分けが難しいことが少なくありません。しかも、高齢の方はかなり重くなるまで自覚症状のない場合が少なくなく、早急に手当てをしないと命にかかわることもあります。
一方で、乳幼児に多い、RSウイルス感染症が、6月下旬以降、3週連続で過去最多の感染者数を更新し続けています。こちらも発熱や咳(せき)といった症状が出るため新型コロナウイルスとの鑑別が難しいです。しかも、初めて感染した乳幼児は症状が重くなりやすく、肺炎や気管支炎を起こすことも少なくいません。とくに1歳未満の乳児の肺炎の約半分はRSウイルス感染症が原因だとみられています。
こういった、新型コロナウイルス感染症との見分けが難しい患者が増えている中で、救急医療が逼迫すると、数字に表れる以上の影響が出る恐れがあります。
救急隊が搬送先を探す際に、新型コロナウイルス感染症の疑いがあるというだけで搬送を断られる可能性が高くなり、なかなか搬送先を見つけられずに、ふだんより搬送に時間がかかり、その結果として次に救急搬送が必要な人のところに行く時間が遅れる、という事態が生じます。
コロナ一般病床に余裕があれば、新型コロナウイルス感染症との鑑別が難しい患者さんも受け入れてもらえますが、コロナ一般病床が逼迫するとそれが難しくなるために、もっと早く病院に搬送され、適切な診断を受けて、治療を受けていれば助かった熱中症の方やRSウイルス感染症の子どもへの治療が手遅れになるという状況に陥りかねません。
(聞き手・大岩ゆり)
編集部注:インタビューは7月30日に行い、一部、情報を更新しました
◇
新型コロナウイルスやコロナワクチンに関するReライフ読者会議メンバーの疑問や質問に、新型コロナ関連の著書がある科学医療ジャーナリストの大岩ゆりさんが、専門家・研究者らに取材・解説します。西浦さんへのインタビュー(下)は「ワクチン接種の進展で、事態は好転するか」です。
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この連載について / ワクチン接種Q&A
高齢者を対象にした新型コロナワクチンの4回目接種が本格化しています。感染・重症化予防の有効性は? 副反応への対処の仕方は? 今後のスケジュールは? 読者の疑問・質問に答えます。
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