<連載> ワクチン接種Q&A

コロナ感染爆発、医療「緊急時」へ どう変わる? 個人ですべきは?

「コロナとワクチン」特別編 西浦博・京大教授に聞く(下)緊急時の医療体制とポストワクチンの見通し

2021.08.06

 新型コロナウイルスに関する東京都のモニタリング会議は、都の医療を「緊急時体制へ移行する必要がある」とする専門家のコメントを公表しました。これから何をどう切り替えていく必要があるのでしょうか。個人レベルでできることは何か。感染症数理疫学が専門の西浦博・京都大学教授に聞きました。

救急車と聴診器イメージ

救急医療の逼迫をどう食い止めるか

--熱中症やRSウイルス感染症の重症患者が新型コロナの重症者と見分けが難しいことを伺いました(「新型コロナの感染急加速、拡大どこまで? 医療体制への懸念点は?」を参照ください)。それ以外でも、通常の救急医療が逼迫(ひっぱく)する影響は大きいのでしょうか。

西浦 とくに問題になるのは、急性心筋梗塞(こうそく)や脳卒中(脳出血や脳梗塞)です。これらの疾患には「ゴールデン・タイム(Golden Time、黄金の時間帯)」と呼ばれる、ある一定の時間内に治療するかしないかで救命率も後遺症の残る可能性も大きく変わってくるという時間帯があります。

 たとえば脳の血管が詰まってしまう脳梗塞の場合、脳血管にできた血の塊(血栓)を溶かす「tPA」という薬がありますが、これは発症から4時間半以内に使わないと効果が無いばかりか、それ以上経ってから使うと、逆に脳出血を増やしてしまいます。

 急性心筋梗塞や脳出血も、発症から6時間以内に鑑別診断して治療するかどうかで、その後の状態が大きく左右されます。

 救急医療が逼迫していなければ後遺症の少ない状態で救命できた人を、新型コロナウイルスによって救急医療が逼迫してゴールデン・タイムに受け入れできないために、救命できなかったり、重い後遺症を残してしまったりという状況に陥ってしまいます。

療養状況
グラフはいずれも東京都の新型コロナウイルス感染症モニタリング会議(8月5日開催)の資料から抜粋

--都は少し前まで、コロナ病床にはまだ余裕があり、にっちもさっちもいかない状況ではないといった見解を示していましたが、7月末になり、急激に状況が変化してきています。

西浦 入院先が見つからない、あるいは、自宅ではなくホテルなどの療養施設での療養を希望しているものの受け入れ先が見つからない人が、都内で急増しており、8月2日現在では1万人を超えました。

 こういった状況や、感染者の増加率を考慮すると、都内の医療提供体制はかなり厳しい状況に陥っており、災害対応への切り替えが必要な状態です。

--「災害対応への切り替え」が必要というのはどういう意味ですか?

西浦 地震などの災害が起きた時に、救命可能かどうかにより、ある意味での命の選択をする「トリアージ」を行わざるを得ない状況になるという意味です。

重症患者数・人工呼吸器

個人レベル、国レベルで、できること、すべきこと

--そういった危機的な状況を改善するにはどうすればいいのでしょうか?

西浦 当たり前ですが、感染症は、感染した人に接触しなければ感染しません。ですから、まずは個人レベルでは、ほかの人との接触をなるべく減らすことにより感染リスクを減らせます。

 とはいえ、一緒に住んでいる家族との接触を減らすのは困難ですので、まずは、ふだん一緒にいる機会の少ない人との接触を減らす努力をして下さい。

 たとえば、お盆などで帰省した際に旧友に会えば、旧交を温めようと飲酒を伴う会食をしよう、という流れになるのはよく理解できるのですが、マスクをはずし、しかも飲酒して自制が効きにくくなる状態は、感染リスクがとても高い状態です。それは、同居しておらず、ふだんは会うことのない遠い親族の集まる新盆などの行事でも同じことです。

新規感染者・接触歴不明

 感染リスクは、長い時間、閉鎖された空間に一緒にいるほど高まりますし、飛沫(ひまつ)が飛び散る、マスクをしないで大声で話す人が増えるほど高まります。ですので、近場で開催されるお盆の供養をする際には、供養の後の精進落としなどはしないといった選択肢も考えてみて下さい。遠い場での盆や同窓会イベントへの参加は今年は見合わせたほうが良いかも知れません。

 また、職場のクラスターも多発していますので、今まで以上に、リモートワークを普及させる方法についても、検討して頂きたいです。

--国や自治体のレベルでは何ができるでしょうか。

西浦 複数の人が同じ場所に集うという意味での「集会」への制約を考慮するべきではないでしょうか。欧州がロックダウン(都市封鎖)をした際に、さまざまな活動が停止しましたが、何が感染制御にもっとも貢献したかという分析では、集会の制限がもっとも貢献したという分析結果が出ています。

 集会は、プロスポーツの試合や音楽イベントのような大規模イベントの観客数の制限に限りません。個人の会食も対象になります。香港など、会食する際の人数を2人に制限して、感染を制御できたところがあります。

ワクチン接種と重症患者

デルタ株、ワクチンの発症予防効果がやや減少

--デルタ株が主流になりつつある中、ワクチン接種の効果はどれぐらい期待できるのでしょうか?

西浦 デルタ株のウイルスに対しても、日本で接種が進む、ファイザー・ビオンテック社製や、モデルナ社製のワクチンの効果が無くなったわけでは決してありません。ただ、発症を防ぐ効果がやや減少しているとみられます。従来のウイルスに対しては発症を防ぐ効果が95%あるとみられていましたが、デルタ株に対しては80%強程度になっています。

 また、今はまだ発生頻度は低いですが、ワクチン接種が終わった人の感染、いわゆる「ワクチン・ブレークスルー」も世界中で報告されています。

 発症予防効果が80%もあれば、ワクチンとしては効果がある方です。ただ、これまで7割ぐらいの人が接種すれば集団免疫が成立する、つまり個人レベルではなく、社会全体としてみた時に、流行を制御できるようになると考えられていたのが、デルタ株が従来株より感染しやすいことと、ワクチンの効果が従来株の時より下がっているために、その程度の接種率で集団免疫を成立させるのは難しくなってきています。

ワクチン接種の意向

--経済産業研究所の調査では、ワクチン接種をするつもりだと答えた人は、若い年代ほど少なく、50~64歳で6割、30~49歳で5割弱、18~29歳で4割弱だったそうです。

西浦 高齢者への接種がほぼ終わり、これからそれ以外の成人や、12歳以上の子どもへの接種が本格化します。高齢者以外への接種が11月までにはほぼ終了するでしょうが、いま接種を希望している人だけしか接種しなければ、集団免疫はとても成立しないと思います。次いで重症化リスクの高い40~50代の中で、重症化する人が増えてくる恐れがあります。

 一方で、接種率が8割ぐらいに上がれば、流行は止まらなくても肌で感じられるくらい感染リスクは下がりますし、今回の東京のように医療が逼迫するという状況に陥るリスクも接種率が上がるほど小さくなると思います。

重症患者数

「どんな社会をつくりたいか」の議論が必要

--ワクチン接種が全年齢で進む秋以降、どのような生活ができるのでしょうか。

西浦 多くの方が思い描くイメージは、ワクチン接種が進めば、パンデミックが起こる前のような状態になる、マスク無しで、飲み会も自由に開けるような生活が送れるようになる、というものだと思います。

 ワクチン接種率によってかなり変わってきます。残念ながら現時点での接種希望者だけしか接種しない場合、またどこかで流行が起きて、医療が逼迫する可能性も十分にありますので、マスクの着用や、人との距離をとるといった、感染リスクの高い行動は引き続き控える生活がしばらくは続くと思います。

--接種率が8割を超えれば、行動制限はなくなるのでしょうか。

西浦 デルタ株のまん延により、100%近くの人が接種しても、流行が一切起きないとは言い切れなくなりました。その一方で、重症化する人は減りますので、医療への負担は軽減されます。

 ですから、今を何とか乗り切った上で、秋以降、国民の皆さんと共に「どのような社会をつくりたいのか」を議論していくことが大切です。たとえば、一部の国で導入しているような、「ワクチン接種証明」をイベントに入場する際やレストランに入店する際などにも使う一方で、イベント開催やレストランの営業は全面的に解禁にするのがいいのか、それとも、ワクチン証明書は使わず、一定の観客制限や営業時間の短縮などを続けるのか、といったことです。その間も、しばらくマスク着用は続けないといけないでしょうが、経済活動で戻れるものが選択的に戻っていく、というようなイメージですね。流行リスクは続きますから、なし崩し的に緩和してしまって大規模な再流行が起こらないことが重要です。

 新型コロナウイルスが当面、無くならず、しかも季節性のインフルエンザのように感染してもすぐに自宅で服用できる治療薬があるという状態ではない中で、どのように暮らしていきたいのか。これは専門家が決めることではなく、国民の皆さん一人ひとりに考えていただき、皆で形作っていきたいものですね。

(聞き手・大岩ゆり)
編集部注:インタビューは7月30日に行い、一部、情報を更新しました。
東京都の資料は、コロナウイルス感染症モニタリング会議(8月5日開催)のページに掲載されています。

 新型コロナウイルスやコロナワクチンに関するReライフ読者会議メンバーの疑問や質問に、新型コロナ関連の著書がある科学医療ジャーナリストの大岩ゆりさんが、専門家・研究者らに取材・解説します。次回は「ワクチン接種後の生活で、気をつけることは?」です。

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  • 西浦 博
  • 西浦 博(にしうら・ひろし)

    京都大学教授(大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 環境衛生学分野)

    02年宮崎医科大学医学部卒業。英国やドイツ、オランダ、香港などで感染症数理モデルの研究に従事。13年東京大学准教授、16年北海道大学教授を経て、20年から現職。20年2月からは厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策本部においてクラスター対策班に参画。現在もアドバイザリーボードに参加。

  • 大岩 ゆり
  • 大岩 ゆり(おおいわ・ゆり)

    科学医療ジャーナリスト・翻訳家

    朝日新聞社科学医療部専門記者(医療担当)などとして医療と生命科学を中心に取材・執筆し、2020年4月からフリーランスに。同社在籍中には英オックスフォード大学客員研究員や京都大学非常勤講師、早稲田大学非常勤講師を兼任。主な著書に『最後の砦となれ~新型コロナから災害医療へ』、主な訳書にエリック・カンデル著『芸術・無意識・脳』(共訳)がある。

  • この連載について / ワクチン接種Q&A

    高齢者を対象にした新型コロナワクチンの4回目接種が本格化しています。感染・重症化予防の有効性は? 副反応への対処の仕方は? 今後のスケジュールは? 読者の疑問・質問に答えます。

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