<連載> 今すぐできる終活講座

残された家族に迷惑をかけない視点で考える 本当に必要な終活とは?

早くから準備したい「終活ファイル」(前編)

2021.09.10

 「終活」や「相続」について考えていますか? 大切な人や社会のために財産を役立てたいけれど、何からやればよいか迷っているという人も多いのではないでしょうか。そんなあなたのために、遺贈寄附推進機構代表取締役の齋藤弘道さんが今すぐ役立つ終活の基礎知識やヒントを紹介します。今回は「ある視点」から「本当に必要な終活」について考えます。

相談するシニア夫婦
今すぐできそうな「本当に必要な終活」とは…?

どんな終活があるの?

 ここ数年、「終活」に関する情報があふれているように感じます。テレビでは「相続」「葬儀」「お墓」などをテーマにした情報番組も多く、書店では「くらし」「冠婚葬祭」「相続/税金」の棚に、終活関連の本がたくさん並んでいます。

 終活でやるべきことは、何があるのでしょうか。終活関連の本のタイトルから、キーワードを拾ってみましょう。「エンディングノート」「遺言書」「死後の手続き」「葬儀・法要」「墓じまい」「片付け」「断捨離」「身辺整理」「生前贈与」「相続税」「遺産分割」「家族信託」「相続登記」「死後事務」「生命保険」「年金」「自分史」「終末医療」……まだまだあります。これらは本当に全部必要なのでしょうか。

 もちろん、それぞれ大切なテーマなので「できればやった方がいい」のでしょう。でも、実際には全部はできないと思います。そこで、自分にとって大事なテーマを優先して取り組むと良いのですが、少し整理すると考えやすくなりそうです。

 終活は、まず大きく「時期」の観点で二つに分かれます。

・生前の生活の不安に対する備え

・亡くなった後の手続きに関する備え

 前者には「財産管理」「身元保証」「任意後見」などがあります。後者は「目的」や「誰のために」の観点で、さらに二つに分けられそうです。

・きたるべき時に備えて自分の気持ちを整理するため

・残されたご家族などに迷惑をかけないため

 前者には「片づけ」「断捨離」「自分史」などがあります。「片づけ」は残されたご家族などのためでもありますが、場合によれば遺品整理業者に任せることもできますので、「自分のため」の側面が強いように思います。

  終活のテーマのうち、「生前の生活の不安に対する備え」と「自分の気持ちの整理」はいったん置いて、今回は「残されたご家族などに迷惑をかけない」視点に絞って、「本当に必要な終活」を考えます。

残されたご家族(相続人)は何に困るの?

 私は信託銀行で、遺言信託(遺言書をお預かりし、亡くなられた後に遺言執行の手続きをする業務)や遺産整理(相続人の遺産分割協議に基づき、遺産の解約・換金・名義変更などを行う業務)に携わってきました。その時の経験から「ああ、これがあれば! 」とよく思うことがありましたので、ご紹介したいと思います。

 遺言信託の場合は、遺言書がありますので「どんな財産を持っていたのか」を知る手掛かりがあります。遺言書には「こっちの財産はAに、そっちの財産はBに」と財産の配分を書きますので、財産目録が自然とできあがっています。ところが、遺産整理の場合は、遺言書も財産目録もありません。どこにどんな財産を持っていたのか、ご家族でも知らないことが多く、これでは遺産分割協議も相続手続きもやりようがありません。これが一番困るのです。

 では、そのような時に、我々は遺産整理をどのように進めるのでしょうか。まず、ご家族にお願いして、通帳・カード・銀行や保険会社などからのお知らせ・計算書・契約書などの控え・誰かからの手紙・メモ・金庫の鍵など、財産に関係しそうな書類や物を全部出してもらいます。それを一つひとつ分類してお預かりし、内容を確認します。特に預金通帳の入出金は、隠れた財産や債務を見つける端緒になります。

 それでも実際には、見つけられない財産は多いと思います。こうして、休眠預金や所有者不明の土地など、放置された財産が発生します。故人がせっかく築いた財産なのに、本当にもったいないことです。このようなときに「財産の手掛かりがあれば! 」と思うのです。

みなさんにお薦めしたい「終活ファイル」

 ご自身が保有する財産を一覧にした「財産目録」があれば、それが一番良いのですが、財産目録を作るのは手間もかかりますし、とても面倒です。そもそも、自分が死んだときのことを想定して、大変な作業をするのは、どうにも気が向かないものです。そこで皆さんにおすすめしたいのが「終活ファイル」や「終活ボックス」です。

 この「終活ファイル」の目的は「財産の手掛かりを残しておく」ことです。美しく整える必要はありません。必要な書類を集めて放り込んでおく、これが大切です。では、何を入れておけば良いのでしょうか。少し恥ずかしいのですが、私が実際に準備している終活ファイルの中身をご紹介しましょう。

「終活ファイル」の中身

 私は、厚さ3cm・40ポケットのクリアファイルに、次のような書類を入れています。そのファイルは、本棚に置いてあるのですが、部屋の入り口のドアに近い、目の高さの位置で、一番目立つ場所です。もちろん、終活ファイルの存在と場所は、妻に知らせてあります。

早くから準備したい「終活ファイル」前編
財産の手掛かりを残す「終活ファイル」は本棚の目立つ場所に(齋藤弘道さん提供)

・保管証(自筆証書遺言を法務局に保管したときの証明書)

・戸籍謄本(私が生まれてから現在までの戸籍がわかるように、現在の戸籍謄本、その前の戸籍謄本、とさかのぼって取得したもの)

・遺影用の写真、葬儀社の積立書類

・年金手帳、企業年金の通知書、全労済などの書類

・生命保険、火災保険、地震保険、傷害保険などの書類

・登記済権利証、固定資産税納税通知書

・銀行のキャッシュカード、クレジットカードなどのコピー

・運転免許証、健康保険証などのコピー

・サブスクリプションサービスのIDとパスワード(封緘〈かん〉したもの)

  これらの書類の詳しい内容や実際どのように役立つのかは、後編でお伝えします。

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  • 齋藤弘道
  • 齋藤 弘道(さいとう・ひろみち)

    遺贈寄附推進機構 代表取締役、全国レガシーギフト協会 理事

    信託銀行にて1500件以上の相続トラブルと1万件以上の遺言の受託審査に対応。遺贈寄付の希望者の意思が実現されない課題を解決するため、2014年に弁護士・税理士らとともに勉強会を立ち上げた(後の「全国レガシーギフト協会」)。2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。日本初の「遺言代用信託による寄付」を金融機関と共同開発。

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