千田嘉博さん 時代を浮かび上がらせる「城郭考古学」への誘い 

ReライフFESTIVAL@homeに登場

2021.09.17

 歴史探求はもちろん、刀剣や武将の人気を背景として幅広い世代に「城好き」が増えているといいます。オンラインで開催されるReライフFESTIVALに出演する城郭考古学の第一人者・千田嘉博さんに、城めぐりの醍醐(だいご)味と、千田さんが先駆けとなった城郭考古学がもたらした発見について聞きました。

千田嘉博先生@Reライフフェス①

目を奪われた姫路城 人生を決めた中1の旅

 城マニアの一人として、近年の盛り上がりはうれしい限りです。長年研究していると、その奥深さをしみじみと実感します。ただ、私自身が城に興味を持った当時を思い返すと「一瞬で引き込まれた」と言えますね。中学1年の夏、友人と2人で小さな旅に出たのですが、乗り換えの地としか思っていなかった駅に降り立つと、白くそびえ立つ城が私を迎えてくれました。おわかりになるでしょうか、姫路城です。急いでいたものの、あの城の美しさはずっと頭に残っていて、旅を終えてから図書館で史料を調べたり中高年が集う古城の研究会に入ったりして、知識を深めていきました。すると、全国にたくさんの城が存在することもわかってきます。その数は中近世だけでも3万ほど。鑑賞と思索の楽しみは尽きず、今日に至ります。私の人生はあの一瞬で決まってしまったのです。

 そんな姫路城をはじめとする中近世の城郭は、大変魅力的です。土や石垣と木造建築を組み合わせる巧みさ、進攻をゆるさない防御施設、絢爛(けんらん)な御殿など見どころはたくさんあります。ぜひ皆さんにも一歩踏み出して、楽しんでいただきたいと思います。城をめぐる人にはすてきな人が多いこともお伝えしておきましょう。本や資料をたくさん読みますし、時代を追っていくので強いリーダーシップを発揮した武将の考えにも触れます。さらには城がある里山に向かい、周囲を歩きます。知的好奇心をくすぐる上にリフレッシュできて健康的、いいことばかりなのです。

眺望・進攻・想像 城めぐりはこう楽しむ

 城の楽しみ方はいくつかあります。主には、天守にのぼって「眺望」を満喫する、攻め手になって「進攻」してみる、土手や跡地に立って「想像」する、の三つです。写真を撮る人も多いですね。ちなみに攻め手の気持ちで姫路城を歩くと、絶体絶命スポットがいくつもあり、何度討ち死にするかわかりません。なかなか天守にたどり着かず、ぐるぐる回らされたカーブの石垣や土手が張り出していて側面からも迎撃されますから、誰もが深い絶望を味わうことになります(笑)。とはいえ、城が持つ機能だけで「城がわかった」「城には魅力がある」と言ってしまうと、効率よく人を殺傷する仕掛けに感心するだけになってしまいます。これは城から歴史を考えることの、ごく一部です。各地の城を訪ねる時は「なぜこの形でここにあるのか」に思いをはせてみることをお勧めします。

分野横断的に考証 進化する城郭考古学

 私が長年取り組む「城郭考古学」は、社会のありようと人々の営みが見えてくる学問領域です。例えば、肥前名護屋城の城下町跡や陣跡の厠(かわや)の成分を解析したところ、どんなものをどんな調理方法で食べていたかの一端がわかりました。こうした発見は、本当に楽しい瞬間です。また城郭考古学は文献がさほど残っていない城の情報収集にも役立ちます。織田信長が建てた安土城は、完成を祝ってから1年もせずに焼けてしまったために文献がほとんどありません。現地を調べると、各重臣屋敷で柱の間隔が異なることがわかりました。きっと畳の貸し借りなどに苦労したはずです。これは「柱何本」という史料の記述だけでは到達し得ない情報だと思います。

 様々なことがわかる一方、戦などの痕跡は勝者が片付けてしまうので注意が必要です。亡きがらは塚にまつり、刀などは売買・リサイクルされていたので、考古学だけでは十分とは言えないのです。人骨が出土しないからといって戦がなかったわけではありません。文学史料や絵巻もあたり、かけあわせた時に浮かび上がってくるもののリアルさこそが面白く、大切なのだと思っています。

千田嘉博先生@Reライフフェス②

 昨今の考古学は技術的にも大きく進化しました。最たる例は航空レーザー測量です。かの合戦の舞台になった関ケ原を測量すると、陣地の様子がよくわかります。西軍・毛利秀元の軍勢の位置は覆りました。また西軍だったはずの小早川秀秋が松尾山城を出て、いつでも野原に下りられる尾根に陣を張ったことも丸わかりです。そんな時、少し武将の気持ちになれます。文字史料には、その陣を見た大谷吉継が急きょ自陣の位置を変えたと記されていますが、遠くから見た吉継は「あやつ、絶対に裏切るぞ!」と思ったことでしょう。

 かつてない考証が可能になり、草木をかき分けて歩かないインドア城郭考古学もできるようになりました。今日はそうした最新研究でどんなことがわかってきたのか「お城と危機対応」をテーマにご紹介しようと思います。島原の乱、大坂夏の陣など、幅広い時代・地域・人についてお話しします。後ほど、お目にかかりましょう。 (談)

  • 千田嘉博
  • 千田 嘉博(せんだ・よしひろ)

    城郭考古学者

    1963年愛知県生まれ。城郭考古学の観点から、日本と世界の城を研究。日本各地の城跡の調査・整備などの委員を務める。奈良大学教授。2015年濱田青陵賞受賞。『城郭考古学の冒 険』(幻冬舎新書)ほか著書多数

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