<連載> アンチエイジング最前線

老化は病気、治療できるかもしれない 人生は100年時代から120年時代へ

アンチエイジングの最前線――人生120年時代へ 第1部入門編(1)

2021.10.20

 人はなぜ老いるのか――。その謎が近年、解き明かされつつあります。アンチエイジングの研究は、老化の原因を解明し、健康に過ごせる寿命を延ばすにはどうすればいいのかを探求しています。連載では、研究の最前線や、研究に基づいた、日常生活で取り組める具体的な方法を紹介します。

 第1部は入門編です。日本抗加齢医学会副理事長の南野徹・順天堂大学大学院医学研究科循環器内科教授へのインタビューを基に、どのような研究が行われていて、「老化」について現時点でどこまで解明されているのか、全体像を紹介します。

草原を歩く3世代家族の後姿

平均寿命は戦後、男女とも20年延びました

 「人生100年時代」と言われます。最近は、生物学的にはヒトは120年以上生きる能力を秘めているのではないかと考えられるようになってきています。そんな中、単に年齢的な寿命(ライフスパン)を延ばすだけではなく、健康に過ごせる年月(健康寿命=ヘルススパン)を延ばすにはどうすればいいか、盛んに研究が行われるようになってきました。

表 世界の平均寿命と健康寿命の差(2019)

 その結果、「老化は病であり、治療や予防ができる可能性がある」と考えられるようになってきました。これは、「さまざまな老化現象は、起きる時期を多少は遅くすることができても、自然現象なので不可逆的で、治すことはできない」という、これまでの通念からの大きなパラダイムシフト(大転換)です。背景には何があったのでしょうか。

 過去120年間で寿命は倍増しました。戦後に限っても、1955年に男性63.6歳、女性67.8歳だった平均寿命が、2019年にはそれぞれ81.4歳と87.5歳になり、男女ともに約20年延びました。平均寿命は0歳児が何歳まで生きるかという数字なので、新生児死亡を考慮すれば実際にはもっと長く生きる人が大勢います。人口動態統計によると、2018年にもっとも死亡者数が多かったのは男性85歳、女性91歳でした。

グラフ 平均寿命の推移

 100歳を超えて生きる百寿者の数も急増しています。厚生労働省によると、1963年に153人だった百寿者は81年に千人、98年には1万人を超え、2021年は8万6510人に達しました。

 厚労省によると、65歳の人がその後100歳を超えて生きる割合は、1989年には男性2%、女性7%だったのが、2019年には男性4%、女性16%になりました。2040年には、男性6%、女性20%になると予測されています。
 「平成生まれの我々の子どもの世代はほとんどの人が100歳以上を超えて生きるでしょう」と南野教授も予想します。

グラフ 65歳の人の生存割合

寿命を決めるのは遺伝? 環境? その比率は1:3

 寿命が延びている原因は複数あります。

 デンマークのオーデンセ大学の研究チームが1996年に発表した論文は、寿命の長さは遺伝的に決まるのか、それとも後天的な環境要因で決まるのかを調べた研究として有名です。チームは、デンマーク政府の死因登録などさまざまな健康に関する情報を使い、1870~1900年の間に生まれた2872組の一卵性双生児と二卵性双生児を比較しました。その結果、寿命を左右する遺伝的要因は約25%、残り約75%は生活習慣や環境など後天的要因であることがわかりました。

 つまり、寿命に影響を及ぼす遺伝的要因と後天的要因の比率は1:3で、後天的要因の方が大きいということになります。逆に言えば、生活習慣などを変えることで、寿命を延ばすことができるということです。

高齢者の体力、歩行速度は年々向上しています

 寿命の伸長に貢献した環境要因は、平均寿命の長い先進国と、比較的短い発展途上国を比較することで推測できます。まず挙げられるのは、上下水道の整備など公衆衛生の向上です。これにより感染症が減りました。腸チフスなどの感染症だけでなく、胃がんの原因となるピロリ菌の感染も大きく減っています。

 予防接種の普及や治療薬の開発、治療法の進展により、感染症やがん、動脈硬化や心臓病など循環器系の病気、脳卒中など、かつては致死的だった病気の救命率が大きく上がっています。さらに産科・新生児科の医療体制の整備や新生児スクリーニング検査の普及などにより、新生児死亡も大きく減りました。

 平均寿命が延びているだけでなく、高齢者の体力が年々、上がってきています。文部科学省などによると、65歳以上の高齢者は男女とも、体力検査や歩行速度の結果が、年々、向上する傾向にあります。

グラフ 新体力テストの合計点の推移
グラフ 通常歩行速度の10年間の変化

 南野教授は「体を動かすといった生活習慣の改善や、健康診断の受診を含めた予防的な行動を含め、病気にならないような生活を送ろうと心がける人が、とくに高齢者の間で増えてきていることも、寿命が延びてきている基盤にあると思います」と指摘します。

「加齢」と「老化」は違います

 健康寿命という考え方が広まるにつれ、「加齢」と「老化」が区別されるようになってきました。加齢は、時間経過とともに重ねる年齢、つまり暦年齢の変化です。これは誰にでも同じスピードで起こります。

 一方、老化は、加齢に伴って起こる身体や精神のさまざまな働きの低下です。耳が聞こえにくくなったり、肌がたるんだり、といった症状が目立つようになる年齢が人によって異なるように、老化するスピードには個人差があります。寿命の場合と同様、老化のスピードを左右するのは遺伝的要因と後天的要因の両方で、その比率は1対3だと考えられています。

 実際、アンチエイジング研究により、運動や食生活といった生活習慣を積極的に変えることで、老化のスピードを遅くしたり、老化した状態を改善したりと、老化をコントロールできる可能性のあることがわかってきています。それが、「老化は病であり、治療の対象である」という認識につながっていきました。

(監修=南野徹・順天堂大学大学院循環器内科教授、協力=日本抗加齢医学会、文=大岩ゆり)

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  • 南野徹
  • 南野 徹(みなみの・とおる)

    順天堂大学大学院医学研究科循環器内科教授

    1989年千葉大学医学部卒業。専門は循環器内科学と老化制御学。特に血管老化や抗老化治療の開発研究を進める。ハーバード大学リサーチフェローや千葉大学大学院医学研究院循環病態医科学講師、新潟大学大学院医歯学総合研究科循環器内科教授などを経て2020年から現職。日本抗加齢医学会副理事長。

  • 大岩 ゆり
  • 大岩 ゆり(おおいわ・ゆり)

    科学医療ジャーナリスト・翻訳家

    朝日新聞社科学医療部専門記者(医療担当)などとして医療と生命科学を中心に取材・執筆し、2020年4月からフリーランスに。同社在籍中には英オックスフォード大学客員研究員や京都大学非常勤講師、早稲田大学非常勤講師を兼任。主な著書に『新型コロナ制圧への道』、主な訳書にエリック・カンデル著『芸術・無意識・脳』(共訳)がある。

  • この連載について / アンチエイジング最前線

    人はなぜ老いるのか――。その謎が近年、解き明かされつつあります。アンチエイジングの研究は、老化の原因を解明し、健康に過ごせる寿命を延ばすにはどうすればいいのかを探求しています。連載では、研究の最前線や、日常生活で取り組める方法を紹介します。

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