<連載> 今すぐできる終活講座

残される人のため? その片付けは無理にしなくて大丈夫です

断捨離不要、片付けない終活(前編)

2021.10.08

 「終活」や「相続」について考えていますか? 大切な人や社会のために財産を役立てたいけれど、何からやればよいか迷っているという人も多いのではないでしょうか。そんなあなたのために、遺贈寄附推進機構代表取締役の齋藤弘道さんが今すぐ役立つ終活の基礎知識やヒントを紹介します。「終活」と聞くと多くの方が「片付け」や「断捨離」をイメージするようですが、イメージと現実との間にギャップがあるようです。今回は終活における「片付け」について考えてみましょう。

興味のある終活項目は「片付け」

  終活に対する意識について興味深いデータがあります。「NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ」が2021年8月に実施した「遺贈寄付に関する実態調査」(50代〜70代の男女)のアンケート項目に「あなたは終活においてどのような準備に興味がありますか」という質問があり、いくつかの回答のうち「片付け・断捨離」がダントツでした。特に女性の76%が興味を持っており、「終活=片付け」のイメージが強いようです。でも、終活にあたって本当に「片付け」は必要なのでしょうか? 

興味のある終活項目は「片付け」
「NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ」の調査結果を参考に作成(齋藤弘道さん提供)

 この連載で前にもお伝えしましたが、「片付け」や「断捨離」は「残された家族のため」というよりも「自分のため」の側面が強いように思います。同じ終活でも、「死後」よりも「生前」に重点があると感じられるのです。この感覚を確かめるために、家の近所にある比較的大きな本屋に行ってみました。

「片付け」の本が63冊!

 デパートの一角にある本屋に行くと、すぐに「くらし」というジャンルの本棚が見つかりました。その棚はさらに「貯金・節約」「家事」「収納」「片付け」という名前の付いた仕切り板で区切られています。「片付け」に分類された本は、なんと63冊もありました。「片付け」大人気ですね。

  その中身をナナメ読みしてみると、ライフスタイルや心理的な視点で書かれているものが多いことに気付きます。やはり、今の暮らしや自分の気持ちに焦点が当たっているようです。終活の観点で書かれているものも4冊くらいありましたが、それも「老後の生活」がメーンテーマです。残された家族のための「片付け」が書かれた本は見当たりませんでした。

本屋の棚(終活連載)
本屋には「片付け」の本がずらりと並んでいますが…(齋藤弘道さん提供)

片付けはだれのため?

 「今後の生活をスッキリと送りたい」「大切なモノだけに囲まれて暮らしたい」という理由で「片付け」に取り組むことは素晴らしいと思います。しかし、「残された家族のため」という理由の「片付け」はおすすめしません。「片付け」には気力も体力も必要です。身体を壊してしまっては本末転倒です。

  相続手続きの仕事をしていると、時々ゴミ屋敷と思える状態の家に出会うことがあります。大量のモノの中から、相続手続きに必要な情報を探し出すのは本当に大変です。それでも、専門の業者に依頼すれば、料金はかかりますが迅速丁寧にモノを分別しながら不用品を処分してもらえます。残された家族がモノの処分で困ることはほとんどないのです。

 常にモノが整理され、必要なモノの所在が把握できている暮らしは、確かに精神衛生上も好ましいと思います。でも、どうしても「捨てられない」「整理できない」性格の人もいますよね。他人から見れば理解不能でも、本人にとっては残しておきたい理由があるのでしょう。別に片付いていなくても、本人が構わないのであれば、それで良いではありませんか。実家の片付け問題や、夫婦間の片付け問題もよく聞きますが、たとえ親子や夫婦でも、人それぞれ価値観が違うのですから、とやかく言わない方が円満な人間関係のためだと思います。

片付けは自分が共感できる方法で

 では、高齢者が「自分のため」に片付けようと考えた場合に、ちょっと困ったことがあります。さきほどの本屋でナナメ読みして気付きました。本によって、言っていることがバラバラなのです。たとえば、こんなに違います。

・頑張り過ぎないことが大事 ←→ モノを全部出して整理する

・気楽に取り組みましょう ←→ 強い信念でやり切る

・捨てる順番を決める ←→ 残すモノを決める

・賞状や趣味のモノとは決別 ←→ 思い出の品は最後

・捨てない片付け ←→ 「捨てる」を終わらせる

・書斎は片付けない ←→ 書類は全部捨てる

・あきらめること ←→ 「好き」を捨てられない

 もう、一体どうすれば良いの? という感じです。意外にも高齢者向けに書かれた本でも、強い調子で生前整理をすすめていたりします。高齢者がこのような勢いで片付けして大丈夫かと、少し心配してしまいます。結局は、自分に合った方法、心から共感できる方法で取り組んでみるしかないようです。自分がスッキリすれば良いのですから、特に正解はないのだと思います。

 作家の宇野千代さんは「人生は死ぬまで現役である、老後の存在する隙はない」という言葉を残されたそうです。心の赴くまま自由に生きることは簡単ではありませんが、自分の望む人生に少しでも近づけるようになりたいものです。

 次回後編では、どうしても「片付ける終活」をしたい方へ、「自分のため」だけでない片付けの方法をご紹介します。

 

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  • 齋藤弘道
  • 齋藤 弘道(さいとう・ひろみち)

    遺贈寄附推進機構 代表取締役、全国レガシーギフト協会 理事

    信託銀行にて1500件以上の相続トラブルと1万件以上の遺言の受託審査に対応。遺贈寄付の希望者の意思が実現されない課題を解決するため、2014年に弁護士・税理士らとともに勉強会を立ち上げた(後の「全国レガシーギフト協会」)。2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。日本初の「遺言代用信託による寄付」を金融機関と共同開発。

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