命、はめきらんば――生き切る 死に向かって、おのれを自由に解放する

田んぼの詩人たち 近藤康太郎編集委員の「アロハで」外伝(3)

2021.10.13

 朝日新聞天草支局長兼編集委員の近藤康太郎が、九州で百姓・猟師をしているあいだに拾った言葉を語ります。

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田んぼの詩人たち③イラスト
イラスト・辛酸なめ子

宮沢賢治の童話の意味を、猟師になって初めて知った

 猟師は嫌われ者だ。本紙で「アロハで猟師」の連載をしていると、「残酷だ」と抗議の手紙をもらうこともある。

 宮沢賢治の童話「なめとこ山の熊」で、猟師が、熊に話しかける場面がある。

 「熊。おれはてまえを憎くて殺したのでねえんだぞ。(略)てめえも熊に生(うま)れたが因果ならおれもこんな商売が因果だ。やい。この次には熊なんぞに生れなよ」

 この童話の、哀(かな)しさといってしまっては浅薄に過ぎる重みを、わたしは、自分が猟師になって初めて知った。猟師に残酷な人は少ないと思う。むしろ、〈命〉に対して謙虚な人が多い。

田んぼの詩人たち③
エンシュウシヤスムで獲物をゲット。ギャル原(左)と

120億? 正拳突き1発? 武勇伝は傍証不可能

 ただ、「変わり者」が多いということは言えるだろう。そもそもこのご時世に鉄砲撃ちの猟師になることじたい、ものすごくヘンなことだ。警察関係を筆頭に、手続きの煩雑さは半端ではない。狩猟税や弾代などカネもかかる。

 「班長」もとびきり変わった人だった。

 最初に会ったとき、まだ日の高いころあいから、焼酎を飲んでいた。身長はわたしより低く170センチほど。ただ横幅が広い。指がぶっとく声が通り、ひとめでただ者でないと分かる。鹿や猪(いのしし)、猿など農作物に被害を与える害獣を捕獲するためには、地元の有害鳥獣駆除班に入らなければならない。班長は、偏屈者の多い猟師を束ねるリーダーだ。

 この班長、まず人の話を聞かない。自分の武勇伝を延々話す。若いときのケンカ、カネ、女性関係……。「うそだろ? 」という、けた違いにでかい話ばかり。「おいの友達は2千億円動かす商売して、120億持って死んだばい。つまらん」とか。柔道の社会人大会で九州地区2位。最盛期は握力83キロあった。空手の使い手でもある。身長190センチのやくざに、いまでいう「あおり運転」をされ、正拳突き1発でのした、とか。真偽不明、傍証不可能。

猟はエンシュウシヤスムたい

 1時間半ほどして、ようやく本題の猟について。

 「ぬしだん、猟にはなんが大事か知っとうとね? エンシュウシヤスムたい」
 演習し休む? 軍隊かよと思ったが、そうではない。enthusiasm(熱情)。

 鹿も猪も鴨(かも)も、獲物をとるのは、とびきり難しい。免許をとったが一匹もとれずにやめる猟師も珍しくない。では新人はどうするか。熱情しかない。押しかけ弟子でも、師にくっつく。教えを乞う。

そうでなければ、けものたちに申し訳が立たない

 「命、はめきらんばたい」

 班長から、大喝された。

 わたしは、冬の猟期は午前1時に起きる。ライター仕事があるのだから、仕方ない。夜明けころ、真っ暗な山に入り、走り、撃ち、探す。けものを処理する。いっとき昼寝して、またライター仕事に戻る。こんなことをしていると、あっという間に日が暮れる。つまり、あっという間に死ぬ。生きているということは、とりもなおさず、死につつあるということだ。

 ならばこそ、夢中になれ。命、はめきらんば。貧しくとも、学んだことを、ライターならば言葉にしろ。書け。

 だれだろうと避けることのできない絶対的存在が〈死〉である。死という追い越し不可能性に向かって、生き切る。死に向かって、おのれを自由に解放する。

 そうでなければ命を差し出してくれたけものたちに、申し訳が立たないではないか。

(朝日新聞熊本・大分版から転載)

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  • 三行で撃つ書影サイズ変更
  • 近藤康太郎(著)
    出版社:CCCメディアハウス

     朝日新聞の名物記者、近藤康太郎編集委員による文章術の実用書です。つかみ(冒頭)の三行、常套句(じょうとうく)は禁じ手である理由、起承転結、一人称、文体、リズム、グルーヴといった技術や心得を25章にわたって紹介しています。文章を書く方法論にとどまらず、書く意味を問い続けます。なぜそう書くのかは自己の変容につながると説き、文章を書くことは生きることだと言います。

  • 近藤康太郎
  • 近藤 康太郎(こんどう・こうたろう)

    朝日新聞編集委員・天草支局長、作家、評論家、百姓、猟師、私塾塾長

    1963年、東京・渋谷生まれ。1987年、朝日新聞社入社。コラム「多事奏論」、連載「アロハで猟師してみました」を担当。熊本県天草市在住。社内外の記者、ライター、映像関係者に文章を教える私塾が評判を呼んでいる。主な著書に『三行で撃つ 〈善く、生きる〉ための文章塾』(CCCメディアハウス)、『アロハで猟師、はじめました』『おいしい資本主義』(共に河出書房新社)、『リアルロック』(三一書房)ほかがある。

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