<連載> 専門家のお悩み相談室

高額療養費制度があれば、医療保険はいらない?

ファイナンシャルプランナーが答えます 【ケース1】Aさん(67歳女性)の場合(下)

2021.10.25

 どう家計を見直したらいいか悩むReライフ読者会議メンバーに、ファイナンシャルプランナーの深田晶恵さんがオンライン会議システム「Zoom」を通じてアドバイスする連載の2回目。保険の見直しについて相談した東海地方在住のAさん(67歳)に対し、「民間の医療保険は入らなくてもいい」と答えた深田さんの真意とは――。

看護師とシニア女性

医療費の負担を軽減する高額療養費制度とは

 Aさんは前回の記事で、深田さんから次のようなアドバイスを受けました。
 「Aさん夫婦は十分な貯蓄があります。Aさんが今すぐ退職し、夫婦2人が長生きしてもお金が足りなくなる心配はありません。民間の医療保険は解約してはどうでしょうか」

  深田さんはその理由をこう説明しました。
 「病気になったとき頼れるものの1位は健康保険、2位が貯蓄や家族の収入、3位が民間の医療保険です。
 多くの人は民間の医療保険に『入らなくてはいけない』と思っていますが、病気になったときに備えられる貯蓄があるなら、民間の医療保険はなくてもいいくらいです。なぜなら健康保険には高額療養費制度があるからです」

  高額療養費制度とは、1カ月あたりの医療費の自己負担が上限額を超えたとき、超過分が払い戻される制度です。

高額療養費制度

 深田さんはパソコンの画面上で上記の図を示しながら、「Aさんは所得区分の(エ)に該当しますね」と詳しい説明を始めました。

 例えば、Aさんが病気になり、100万円の医療費がかかった場合、医療機関の窓口で3割の30万円を支払いますが、手続きをすれば、1カ月当たりの自己負担の上限額5万7600円を超えた金額、つまり24万2400円が払い戻されます。
 治療が長期にわたり、過去12カ月に3回以上、医療費の自己負担が上限額を超えた場合は、4回目以降の上限額は4万4400円に下がります。

 「4、5カ月も連続して入院することはまずありません。じゃあどういう時に『4回目以降』に該当するでしょうか。
 がんは入院した最初の月に手術できるものはして、抗がん剤治療や放射線治療は通院ですることが多いです。そういった治療が続いたときに、『4回目以降』に該当します。一方で、こういうとき、民間の医療保険はどうでしょうか」

あなたの医療保険、通院治療も対象?

 深田さんは、Aさん夫婦が加入する民間の医療保険の保障内容に基づき、説明を続けます。
 「ほとんどの病気は手術を受けても受けなくても、入院は1カ月に満たないです。この医療保険の『手術給付金』や『入院給付金』は、手術をしたり入院したりした時にしか受け取れません。例えば、がんと診断されて、通院で抗がん剤治療や放射線治療でお金がかかっても、その治療費はカバーされません。
 高血圧のお薬をもらうための通院など、年をとるほど継続的に医療費がかかりますが、それは通院ですから医療保険に入っていてもカバーされないんです」

 次はAさんの夫が加入する民間のがん保険についてです。
 「家族特約」を付けているので、Aさんががんになった場合も夫の6割の給付金を受け取れます。
 「一般的にがん保険の特徴は、がんと診断された時の『診断給付金』があることです。この保険の場合、ご主人は100万円、Aさんは60万円。入院の有無を問わずに支払われるため、このお金は色がついていません。ですから入院にも使えるし、通院での抗がん剤や放射線治療にも使えますね」と深田さん。

 ひととおりの説明を聞いたAさんは、もともとこれらの保険に加入した理由を話し始めました。
 「以前、私が人工股関節の手術をして、その時にこの医療保険から30万円ちょっと給付がありました。また、時代が違いますが、40年ほど前に義父ががんになった時に、医療保険に入っていなくて、義母がお金の工面に苦労していたことがあり、当時、がん保険に入ることにしたんです」

 Aさんには気になっていることがもう1つありました。
 夫婦ともに生活習慣病などの持病があり、通院していることです。医療保険もがん保険も持病を発症する前に加入しました。もし今、保険を解約し、再び保険に入りたくなった場合、「現在の病歴では契約できないのではないか」「保険料が高くなるのではないか」と心配だと言います。

深田晶恵さん
オンライン会議システム「Zoom」で相談者に助言するファイナンシャルプランナーの深田晶恵さん

がん以外の病気、貯蓄で備えれば十分

 Aさんの話を聞いた深田さんは、「保険に入ったほうがいいかなと思った当時はその通りだったと思います。お子さんたちにもお金がかかっていましたよね。しかし今は、老後資金も確保できたので、がんにはがん保険で備えて、がん以外の病気は年金収入や貯蓄で備えるというふうに考えてはどうでしょうか」と問いかけました。

  けれど、Aさんはまだ少し不安げです。

 「ちょっとした病院通いはこれからどんどん増えますよ」
 深田さんは、80~90代という自身の義父母の例を示しながら、70歳以上になると高額療養費制度の1カ月当たりの自己負担の上限額がさらに低くなると解説しました。
 「例えば、脳神経外科の病気で入院したとします。先ほど説明したとおり、Aさんの所得の場合、69歳までは、1カ月当たりの自己負担の上限額は5万7600円です。
 70歳以上になり、しかも退職して所得が大幅に減っていれば、自己負担の上限額はさらに下がる可能性があります。ですので、何かの病気にかかっても最終的な自己負担が何十万円になるということはないでしょう」

  深田さんは一方で、消費者の心理にも理解を示しました。
 「保険に長く加入し続けるほど、『これまでこんなに長く多額の保険料を払ってきたからもう止められない』という気持ちはよくわかります。ただ、Aさん夫婦の場合、少なくとも民間の医療保険は必要なさそうですよね。
 『病気でまとまったお金が必要になったらどうしよう』という不安になる気持ちもわかります。例えば、夫婦2人分の万一の時の医療費として、決めた口座に2人分で200万円ぐらい預金しておけば安心できるのでは。その預金を2人の保険と思えばいいですよ」

 それを聞いたAさんは、「貯蓄に回せばいいんですね! タラレバに備えるよりはいいですね。見通しさえ立てばタラレバに備える必要はないという大きな収穫になりました」と最後は笑顔で、納得した様子でした。

 このオンライン相談から約1カ月後、Aさん夫婦はそれぞれ医療保険を解約し、夫が契約した2つのがん保険のみ残しているそうです。

深田晶恵さん監修『かんたん年金家計ノート2022』

  • かんたん年金家計ノート2022
  •  給与生活と違い、年金の受け取りは2カ月に1回。深田さんが執筆・監修し、12年間改良を重ねてきた『かんたん年金家計ノート2022』は、限られた収入でもお金に不安のない生活を送るための工夫が詰まっている。付録として、1年間の収入と支出の予定を確認できる一覧表や、毎月の貯蓄取り崩くずし額などを確認できる決算シートがついており、老後資金の目減りを防ぐのに役立ちそうだ。「本当に要る保険」や「健康保険制度」をテーマにした特集もある。

<深田晶恵さんの記事>

  • 深田晶恵
  • 深田 晶恵(ふかた・あきえ)

    ファイナンシャルプランナー(CFP・1級FP技能士) (株)生活設計塾クルー取締役

    1967年、北海道生まれ。外資系電機メーカー勤務を経て96年にFP資格を取得。現在は、特定の金融機関に属さない「生活設計塾クルー」のメンバーとして、個人向けのコンサルティングを行うほか、メディアや講演活動を通じてマネー情報を発信している。ダイヤモンドオンラインなどでマネーコラムを連載中。著書に『知識ゼロの私でも!日本一わかりやすいお金の教科書』『まだ間に合う!50代からの老後のお金のつくり方』『サラリーマンのための「手取り」が増えるワザ65』など。

  • この連載について / 専門家のお悩み相談室

    「第二の人生」を生きていく上で、誰もが様々な課題に直面します。Reライフ読者会議のメンバーから寄せられた悩みや疑問を皆で共有し、解決のヒントを専門家に教えてもらいます。

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