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<連載> 腸戦者に訊く

第8回 脳と腸は密接に関係している

順天堂大学名誉教授の佐藤信紘さん・森永乳業研究本部基礎研究所フロンティア研究室副室長の勝又紀子さん ビフィズス菌と認知機能編

2021.11.29

 最新の研究によって、ビフィズス菌が脳機能に影響があることが明らかになりました。今回は順天堂大学名誉教授で研究の指揮を執る佐藤信紘さんと、ともに研究を進める森永乳業研究本部基礎研究所フロンティア研究室副室長の勝又紀子さんに、おなかと脳、腸内細菌の関係、腸内環境の乱れとからだへの影響などについて伺いました。

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森永乳業 佐藤名誉教授③

おなかと脳を腸内細菌が結ぶ

――なぜ、腸はMCI(軽度認知障害)や認知症と関係するのでしょうか。

佐藤 おなかの具合が悪いと気分がすぐれないことはみなさん経験していますし、緊張すると下痢や便秘になります。人は緊張したり、ストレスを感じたりすると脳内にCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)が多量に分泌されます。それが大腸にある受容体と結合すると腸の蠕動(ぜんどう)運動(※1)が活発になって下痢になり、胃にある受容体と結合すると食物が胃から排泄(はいせつ)されずに膨満感を感じるんです。

 日本語にはおなか(腹)が人の心を表すような言葉が多数あり、「腹が立つ」「はらわたが煮えくり返る」「腹悪し」「腹に一物」「腹がなえる」「腑(ふ)に落ちる」といった腹が気分や感情を表したり、「腹が据わる」とか「腹構え」「腹心の部下」といった腹が人物や心の大きさを表したりするような言葉があります。「腹を読む」とは何を考えているのかを探るという意味で、腹が考えていることを表した言葉です。古来、人は腹がいかに大切かを知っていたのでしよう。欧米でも腸はセカンド・ブレーン(第二の脳)と言われます。

森永乳業 勝又さん②

――脳と腸の関係に、ビフィズス菌などの腸内細菌はどう関わるのですか?

佐藤 その詳細は不明ですが、これまでに分かったことは、ビフィズス菌などの善玉菌といわれる菌群は、食物繊維やオリゴ糖を分解して、体内では作られないといわれてきたビタミンB群や葉酸を作り、体の代謝を円滑にしたり、酢酸や酪酸・プロピオン酸などの短鎖脂肪酸を作って、交感神経節や免疫系の細胞に影響を与えたり、脳や免疫系を活性化し、元気にしたりするということです。ビフィズス菌が作る短鎖脂肪酸は自律神経系や生体防御に大きく関与することが考えられます。

 また、腸内細菌自体が腸管の免疫細胞や神経細胞に直接的に働きかけ、生理活性物質や神経伝達物質の産生を介して腸管機能に影響を与えます。さらに脳にも働きかけて気分や感情、情緒などに影響を与えることがわかってきています。

――腸内フローラ(※2)が乱れると、体にどんな影響が出ますか?

勝又 世界中の研究で、全身の健康に影響を及ぼすことが明らかになっています。

佐藤 多くの疾患や病態と関係します。便秘や下痢、大腸ポリープなど腸に関わる病気については皆さん想像がつくと思いますが、肝臓、腎臓、心臓、生活習慣病にも関連します。

 そして今日、世界的トピックの認知症やMCIにも関与することが、森永乳業との共同研究で明らかになりました。また、日常多くの方が経験する花粉症や皮膚アレルギー疾患も、腸内フローラが大きく関与することが明らかになっていて、アレルギー対策にも腸内環境を整えることがとても大切なのです。

森永乳業 佐藤名誉教授と勝又さんツーショット②

オリゴ糖、食物繊維がビフィズス菌増やす

――腸内フローラをよりよく保つために必要なことは何ですか?

佐藤 腸内細菌の餌となる食物繊維やオリゴ糖をしっかりとることです。前者は、果物や野菜に含まれるペクチン、昆布やワカメに含まれるアルギン酸といった水溶性の食物繊維と、不溶性繊維のセルロースやリグニン、キチンなどがあります。後者は母乳中に含まれるオリゴ糖が有名です。これらを摂取することにより、ビフィズス菌などの善玉菌が働いて、酢酸、酪酸などの短鎖脂肪酸を作ったり、ビタミンや葉酸などを作ったりします。また、母乳に多量に含まれるオリゴ糖はビフィズス菌を増やします。さらにビフィズス菌が作る短鎖脂肪酸によって腸内を酸性に保つことで、有害な細菌の増殖を抑える環境を作るのです。ビフィズス菌入りのヨーグルトがよく食べられていますが、すでに世間の人たちはビフィズス菌の良さをよく知っているのです。

 納豆やチーズなどの発酵食品も腸内環境を整える点で優れた食品といえます。私は豆やゴマなど「まごわやさしい(※3)」食品が食物繊維を多量に含み、縄文時代以降の日本人の頑健な心身を作ってきたと考えています。

勝又 腸内環境を整えるビフィズス菌を直接とることも重要です。ビフィズス菌の入ったヨーグルトなら、手軽においしくとれますね。ただし、外から摂取したビフィズス菌は腸内に定着しにくいので、継続してとることをおすすめします。なお、きちんと排泄(はいせつ)するためには、ビフィズス菌だけでなく、便の源(みなもと)となる食事をしっかりとることが大切です。

※1 蠕動運動 消化管が食べものを移動させるために伸びたり縮んだりする動きのこと。

※2 腸内フローラ 腸内にすみついている多種多様な細菌が、群れをなして生息している様子が花畑(フローラ)に似ていることから、こう呼ばれる。

※3 まごわやさしい 豆、ゴマ、ワカメ、野菜、魚、シイタケ、芋の略。

◇次回は、ビフィズス菌と高齢者の健康についてのお話です。

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(企画・製作:朝日新聞Reライフプロジェクト)

  • 佐藤信紘
  • 佐藤 信紘(さとう・のぶひろ)

    順天堂大学名誉教授

    順天堂大学医学部消化器内科学主任教授、同大医学部附属練馬病院長、大阪警察病院院長などを経て、現職。学校法人順天堂理事、順天堂大学特任教授、同大ジェロントロジー研究センターセンター長。専門分野は人体の生命機能、消化器内科学、統合医学など。

  • 勝又紀子
  • 勝又 紀子(かつまた・のりこ)

    森永乳業研究本部基礎研究所フロンティア研究室副室長

    1983年森永乳業入社。生物科学研究所、食品基盤研究所を経て、現職。2021年6月第10回日本認知症予防学会にて、優秀演題賞である浦上賞受賞。

  • この連載について / 腸戦者に訊く

    ビフィズス菌は1500万年にわたって人類と共存してきました。ヒトにすむビフィズス菌に50年以上にわたって向き合い、研究の成果を人々の暮らしに役立ててきた森永乳業の研究者たちに挑戦の軌跡を訊(き)きました。

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