「終活」や「相続」について考えていますか? 大切な人や社会のために財産を役立てたいけれど、何からやればよいか迷っているという人も多いのではないでしょうか。そんなあなたのために、遺贈寄附推進機構代表取締役の齋藤弘道さんが今すぐ役立つ終活の基礎知識やヒントを紹介します。今回は相続でもめるパターンとその原因や予防法について考えていきます。

相続トラブルの相談から感じること
相続争いの話は、テレビや雑誌、ネットのニュースなどでよく目にしますね。いわゆる「争族」ですが、本当にそんなに争いがあるのでしょうか。
最高裁判所の司法統計によれば、「遺産の分割」に関する審判と調停の合計件数は2020年で14,617件です。同年の死亡者数は約137万人ですから、その割合は約1.1%です。イメージよりは少ないのではないでしょうか。しかし、相続争いの争点は「遺産の分割」以外にも「遺言の無効」や「寄与分」などもありますし、裁判所に持ち込まれなくても弁護士に仲裁に入ってもらうことや、当人同士で解決を図ることもありますので、実際にはこの何倍も相続でもめていると考えた方が良さそうです。
もともと仲の良かった(そうでないケースもありますが)親子や兄弟などの間で、相続となるとどうして争いが起こるのでしょうか。
かつて私は信託銀行で働いていました。日々、全国の支店から届く相続トラブルの相談を受け続けていた時期があります。
「二世帯住宅で仲良く暮らしていた家族が、どうしてこんなことになるのだろう」
「養子縁組したとたんに態度を一変させた養子に、財産を渡したくない気持ちはわかる」
「遺言書の付言事項に子どもに対するうらみつらみをギッシリ書かないでほしい」
などと、当時は一人でモヤモヤしていました。
そうこうするうちに、相続でもめるケースがいくつかのパターンに分類できることに気付きました。相続は「大きなお金が動く」「家族ならではの確執」など、もめる下地要素もあるのですが、もめるパターンを整理し、その背景にある要因を突きとめて、あらかじめ対策を取ることで、ある程度は回避・軽減できるのではないかと考えています。それでは、「もめるパターン」と「もめる要因」を見ていきましょう。
もめるパターンは三つある
皆さんは「財産をもっとよこせ! 」という場面を想像されるかもしれませんが、実際にはそのようなストレートなもめ方はほとんどありません。法定相続分は法律で決まっていますから、これを変えるのには合理的な理由が必要です。遺産分割協議(相続人全員で遺産の分け方を話し合うこと)の場面で、その「合理的な理由」を相続人全員で考えるのですが、その「理由」が妥当なのか否かをめぐってもめることが多いように思います。そのパターンを以下のように分類してみます。
1.法定相続人の範囲や権利に関すること
・知らない相続人が現れた(前妻の子、故人が認知した子など)
・内縁の妻が現れた
・故人の甥 (おい)や姪(めい)が相続分を主張してきた
・相続人の配偶者が遺産分割協議に参加してきた
2.相続財産の範囲に関すること
・生前贈与された内容や金額が相続人によって違う
・生前に療養看護に尽くした貢献度の評価が違う
・生前から相続人が管理していた財産の取り扱い
3.相続財産の分け方や手段に関すること
・遺産の大半が不動産なので平等に分けられない
・事業の財産が大半で1人の後継者に財産が集中する
・遺言書が極端な財産配分を指定(遺留分を侵害など)
・遺言で多額の財産を第三者に遺贈
・遺言書の真偽や作成当時の遺言者の意思能力に疑義あり
・先祖代々の資産が配偶者の一族(兄弟姉妹や甥姪)へ移転
このように、もめるパターンは大きく3つに分けられそうです。それでは、この3つについて「もめる要因」を考えてみましょう。法律の話なので少し難しいのですが、できるだけわかりやすく説明します。
相続でもめる要因とは何なのか
相続財産を相続人で分けるときに、次のようなイメージで進めると相続人の考えが整理されて、スムーズに議論できるのではないかと思います。

その流れに沿って検討すべき要因(もめる要因)は以下のとおりです。
【だれが】法定相続人の範囲や権利に関すること
要因:養子縁組、婚外子の認知、離婚・再婚、代襲相続、失踪宣告、相続放棄など
【なにを】相続財産の範囲に関すること
要因:特別受益(生前贈与・遺贈)、寄与分、特別寄与料、事業用財産、自社株式など
【どのように】相続財産の分け方や手段に関すること
要因:不動産、分割方法(現物分割・換価分割・共有分割・代償分割)、遺言書、遺言執行者、信託、保険、遺留分など
一つひとつの要因について細かい説明は省略しますが、概略はこのようなことです。
【だれが】(法廷相続人の範囲や権利)は、「法定相続人(遺産を受け取る権利のある人)は誰なの? 」「どんな権利を持っているの? 」ということです。皆さんは「自分や、自分の親の相続人が誰かなんて当然知っている」と思うでしょうが、意外にも「思っていたのと違う」ことが時々あります。
たとえば、「祖父母が再婚して親の半血兄弟がいた」「亡くなったと聞いていた親の兄弟が戸籍上存在している」などは時々ありますし、「自分は二男だと思っていたが戸籍上は四男だった」「裁判で戸籍が訂正されていた」などという事例も見たことがあります。ご自身に関する一連の戸籍謄本は、市区町村役場ですべて取得されることをおすすめします。それに戸籍謄本に有効期限はありませんので、古くなっても無駄にはなりません。
【なにを】(相続財産の範囲)の説明は本当に難しいのですが、ザックリ言うと「相続人に対する生前贈与は、死亡時の相続財産に加算して遺産分割協議する」ことになります(これを「持ち戻し」と言います)。つまり、せっかく生前に贈与しても、遺産分割協議の対象になるので、贈与したことにならないのです(贈与税・相続税などのメリットはあります)。しかし、遺言を書けば「持ち戻しの免除の意思表示」とみなされるので、贈与した財産はそのまま受贈者の財産となります。生前贈与と遺言はセットだと考えると良いでしょう。
【どのように】(相続財産の分け方や手段)もいろいろとありますが、不動産の分割や遺言作成などについては、専門家に相談するのが一番だと思います。
このように、相続には多方面の知識が必要なのですが、断片的に聞きかじった情報をもとに自分に都合の良い「合理的な理由」を互いにぶつけ合うと、まとまるものもまとまらず、もめる原因となります。
後編では、それぞれの「もめるパターン」の事例について、具体的に見ていきます。
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この連載について / 今すぐできる終活講座
「終活」や「相続」について考えていますか? 大切な人や社会のために財産を役立てたいけれど何からやれば良いか迷っている…。そんなあなたのために専門家が今すぐ役立つ「終活」の基礎知識やヒントをご紹介します。
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