<連載> 今すぐできる終活講座

遺言では間に合わない? 生前に対処しておくべきトラブルの原因とは

これだけある 相続でもめるパターン(中)

2021.12.24

 「終活」や「相続」について考えていますか? 大切な人や社会のために財産を役立てたいけれど、何からやればよいか迷っているという人も多いのではないでしょうか。そんなあなたのために、遺贈寄附推進機構代表取締役の齋藤弘道さんが今すぐ役立つ終活の基礎知識やヒントを紹介します。今回は相続でもめるパターンとその原因や予防法について具体的な事例をまじえながら考えます。

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相続でもめそうな要因は、生きているうちに対処をしよう

もめる要因を分類して対策を考える

 相続の争い「争族」の事例は、ニュースや書籍等でたくさん紹介されていますが、家族の事情や争う背景の方に話が寄り過ぎていて、根本的な問題が見えにくくなっているように感じます。これでは、どれだけ多くの争族情報を仕入れても、ご自身の予防策には役立たないのではないでしょうか。

 前回で述べましたように、もめる要因は、【だれが】(法定相続人の範囲や権利)・【なにを】(相続財産の範囲)・【どのように】(相続財産の分け方や手段)に、大きく分類できると考えています。要因を分類整理することで、共通する問題が見えてきますので、そこで初めて対策を打てるようになるのだと思います。これから、相続でもめるパターンを要因別にご紹介していきます。

【だれが】の要因でもめた事例

 「法定相続人が誰かを認識していない」「知らない相続人が現れた」などの事例もありますが、今回は「養子縁組」に関する事例を2つご紹介します。

事例〈伝えてなかった養子縁組〉 

 Aさんには妻・長男・長女がいて、妻・長男・長男嫁と同居しています。長男嫁がとても良くしてくれるので、Aさんは長男嫁と養子縁組をしました。そして数年後にAさんが死亡。遺産分割協議の場には、妻・長男・長女と長男嫁が集まりました。長女はその時はじめて、養子縁組の事実を知ることになります。驚いた長女は遺産分割協議に応じないばかりか、長男嫁に相続放棄をするように迫ったのです。

 その後、長男嫁は家庭裁判所に相続放棄を申し立て、妻・長男・長女の3人で遺産分割協議をするのですが、怒りの収まらない長女は「法定相続分は自分の権利だ」と主張して一歩も引きません。相続財産の大部分が不動産なので、長女が法定相続分(4分の1)を現金で相続すると不動産しか残らず、妻の将来の生活費が確保できなくなってしまいました。

 本件では、長女の行き過ぎた行動に見えますが、長女の気持ちも理解できないものではありません。「どうして養子縁組したことを知らせてくれなかったのか」という思いでしょう。親の養女は、自分にとっては姉妹です。こういう大事なことは、事前に相談してほしいし、せめて事後報告してほしいと。法的には、養子縁組は当事者で合意して役所に届け出するだけで、他の子供に言う必要はありません。しかし、ひと言、伝えないばかりに大きな問題になることがあります。本件は遺言で解決できる問題でもなく、生前に対処すべき問題だと思います。

事例〈養子縁組したとたん態度が急変〉

 もう一つ、養子縁組の事例をご紹介します。Bさんは夫と死別し、長女と二女がいますが、二人ともBさんとは別居しています。Bさんが高齢で身体が不自由になってきたため、二女夫婦が同居することになり、二女の夫と養子縁組をしました。ところが、養子縁組をした途端に二女の夫が態度を一変させました。いかにも「同居してやっている」という態度でふるまいだしたのです。自分では養母であるBさんの介護をせず、二女やヘルパーさんに任せきりなのに、数々の罵詈雑言。二女も何も言えない様子です。

 そんな状況で、私に遺言の相談がありました。Bさんは「私の財産は1円たりとも養子には渡したくない」と言われましたので、遺留分の仕組みについて説明しました。遺言で養子への財産配分をゼロにしても、遺留分が6分の1あり、それを請求されれば支払いを拒むことはできない、と伝えたところ「養子縁組は失敗した。こんなことになるとは」と本当にガッカリされていました。

 養子縁組は「離縁」することができますが、一方的に離縁することはできず、当事者で協議が必要です。二女の夫は養子縁組の離縁に応じません。ちなみに、仮に二女がその夫と離婚しても、養子の関係に影響はありません。養子縁組は「家を引き継ぐ」「姓氏を残す」「家業を承継する」「相続税対策」などの理由で利用されていますが、思わぬ展開になる場合がありますので、くれぐれも慎重に検討してください。

【なにを】の要因でもめた事例

 3つの要因分類のうちで「なにを」でもめるケースが最も多いように感じます。このうち「祭祀(さいし)財産」と「生前贈与」の事例をご紹介します。まず、あまり聞き慣れない「祭祀財産」からご説明しましょう。

 祭祀財産とは、仏壇・仏具・お墓などのことをいいます。祭祀財産は相続財産(金融資産や不動産など)には含まれず、遺言や遺産分割協議で「配分」するものではないのです。民法により、祭祀財産は①被相続人の指定(遺言など)によって祖先の祭祀を主宰すべき者(祭祀承継者)が承継②慣習に従って祭祀承継者が承継③慣習が明らかでない場合は家庭裁判所が定める、と規定されています。

事例〈お墓をだれが引き継ぐのか〉

 Cさんは妻と死別し、長男と長女がいます。長男は遠方で暮らし、長女の一家はCさんの近所に住んでいます。Cさんは遺言を作成しており、その後に亡くなりました。長男と長女は遺言に従って自宅を売却し、他の財産とともに半分ずつ財産を受け取り、相続手続きは完了したように見えましたが、ここで「お墓をだれが引き継ぐのか」が問題になりました。長男は「実家もなくなったし、遠くてお墓の管理を続けるのは無理」、長女は「結婚して姓が変わったのに引き継ぐのはおかしい、夫の先祖代々のお墓もある」と平行線です。

 この段階でご相談を受けましたので、祭祀承継者の一般的な役割についてお話しました。

 ①お墓や仏壇等の維持・管理②先祖の法要の執り行い③檀家の務め(寺院の場合)④遺骨やお墓の所有者として修繕・改葬等です。これを踏まえて何度か話し合いをしたところ、長男が祭祀を承継することになることで、ようやく決着しました。Cさんは祭祀財産で子供がもめるとは思っていなかったのでしょう。祭祀承継者は遺言であらかじめ指定することができます。遺言を作成する際には、祭祀承継者の指定も検討してはいかがでしょうか。

 「生前贈与」については次回、お話しましょう。

 

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  • 齋藤弘道
  • 齋藤 弘道(さいとう・ひろみち)

    遺贈寄附推進機構 代表取締役、全国レガシーギフト協会 理事

    信託銀行にて1500件以上の相続トラブルと1万件以上の遺言の受託審査に対応。遺贈寄付の希望者の意思が実現されない課題を解決するため、2014年に弁護士・税理士らとともに勉強会を立ち上げた(後の「全国レガシーギフト協会」)。2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。日本初の「遺言代用信託による寄付」を金融機関と共同開発。

  • この連載について / 今すぐできる終活講座

    「終活」や「相続」について考えていますか? 大切な人や社会のために財産を役立てたいけれど何からやれば良いか迷っている…。そんなあなたのために専門家が今すぐ役立つ「終活」の基礎知識やヒントをご紹介します。

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