<連載> 今すぐできる終活講座

まさかの隣人トラブル 土地の境界がわからないと売却リスクも

もめないけど困る相続①

2022.01.28

 「終活」や「相続」について考えていますか? 大切な人や社会のために財産を役立てたいけれど、何からやればよいか迷っているという人も多いのではないでしょうか。そんなあなたのために、遺贈寄附推進機構代表取締役の齋藤弘道さんが今すぐ役立つ終活の基礎知識やヒントを紹介します。今回から「もめないけど困る相続」について、実際の事例をもとにお伝えしていきます。

【連載「今すぐできる終活講座」】記事一覧はこちら

困る相続①手渡す_赤いブロック
もめないけれど困ったことが起きやすい、不動産の相続

相続で困る「不動産」 お金との違い

 相続に関する話題では、特に「争続」の話が多く取り上げられるように感じますが、実際の相続手続きの現場では「もめないけど困る相続」の方が、より多く発生しています。皆さんが将来困らないように、実際に困った事例をテーマ別にご紹介していきましょう。

 相続で困る要因の中で、一番多いのが「不動産」ではないでしょうか。不動産は、同じ相続財産でも現金や有価証券と違い、次のような特徴があります。

困る相続①不動産の特徴
現金や有価証券と不動産の違い(齋藤弘道さん提供)

 不動産は簡単に分割や換金ができず、登記が必要で、権利関係が複雑なこともある――。これが大きな特徴です。もちろん不動産には「相続税評価額が低い」など有利な点がありますが、これだけの特徴があるだけに、相続でさまざまな「困ったこと」が起きます。不動産は物理的なモノですので、「どこに、どのような形で存在しているか」が重要になります。今回はその中から「境界確定」に関する事例をご紹介します。

不動産の相続で困った例 「境界画定」 

 亡くなったAさんには、妻と長男がいます。相続財産には、自宅と駐車場、現預金がありました。遺産分割協議で、妻が自宅と現預金、長男が駐車場を相続することになりました。相続では何ももめていません。

 長男は駐車場を管理するのが面倒なので、売却しようと思い、不動産会社に相談しました。不動産会社が物件の調査をしたところ、隣の土地との境界が確定していないことがわかりました。そこで、土地を測量して境界を確定することにしました。これを「確定測量」というのですが、土地の所有者どうしが合意した境界点をもとに測量を行い、測量図を作成して双方で確認するものです。

 ところが、確定測量を依頼した土地家屋調査士から「隣地の所有者が境界確認の立ち会いに応じない」と連絡がありました。どうやら亡くなったAさんと隣人の間で、かなり昔にトラブルがあったようで、今もわだかまりがあるようなのです。このままでは、境界確定の訴訟を起こさなければならないかもしれません。

ご近所とのコミュニケーションも大切に

 そのとき、土地家屋調査士から「筆界特定制度」を利用して境界確定することを勧められました。筆界特定制度は、裁判よりも迅速にトラブルを解決する制度です。筆界調査委員が法務局職員とともに土地の実地調査や測量を行い、筆界を確定します。境界紛争の解決手段として、多く利用されているようです。

 しかし、よく話を聞いてみると、「筆界と境界は違う」と言うのです。「筆界」は登記された土地の範囲の区画を定めた線であり、「境界」は所有権の範囲を画する線なのだそうです。つまり、「公法上の境界(筆界)」と「私法上の境界(所有権界)」があり、それぞれトラブルの解決方法も異なるようです。整理してみると、次のようになります。

困る相続①筆界と境界の違い
筆界と境界の違い(齋藤弘道さん提供)

 筆界特定制度を利用して筆界が確定しても、所有権界は確定しないので、買い主にとってはリスクがありますから、売却価格は大幅に下がってしまうそうです。

 長男は困ってしまいましたが、意を決して隣地の所有者に会いに行くことにしました。最初は玄関すら開けてもらえませんでしたが、少しずつ話を聞いてもらえるようになり、「父親(Aさん)と子どもは別」と理解されて、測量の境界確認に立ち会うことになりました。これで、筆界も境界も確定し、無事に土地を売却することができました。

 結局は当事者の話し合いが一番だという結果でしたが、上の表のように、土地の筆界・境界に関する紛争解決の手段がこれだけあるということは、それだけトラブルが多いことを意味しています。将来の相続でトラブルにならない一番の方法は、境界紛争となるタネを残さないことです。そのためには、土地の境界標(コンクリート杭など)の所在や存在を確認するとともに、近隣住民とのコミュニケーションも大切です。

 土地の境界に関する事例はまだまだありますので、次回もご紹介したいと思います。

<関連記事>

  • 齋藤弘道
  • 齋藤 弘道(さいとう・ひろみち)

    遺贈寄附推進機構 代表取締役、全国レガシーギフト協会 理事

    信託銀行にて1500件以上の相続トラブルと1万件以上の遺言の受託審査に対応。遺贈寄付の希望者の意思が実現されない課題を解決するため、2014年に弁護士・税理士らとともに勉強会を立ち上げた(後の「全国レガシーギフト協会」)。2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。日本初の「遺言代用信託による寄付」を金融機関と共同開発。

  • この連載について / 今すぐできる終活講座

    「終活」や「相続」について考えていますか? 大切な人や社会のために財産を役立てたいけれど何からやれば良いか迷っている…。そんなあなたのために専門家が今すぐ役立つ「終活」の基礎知識やヒントをご紹介します。

関連記事

あわせて読みたい

おすすめ記事

PAGE TOP