<連載> 今すぐできる終活講座

銀座の一等地 30年以上前の記憶が救ったトラブル

もめないけど困る相続②

2022.02.14

 「終活」や「相続」について考えていますか? 大切な人や社会のために財産を役立てたいけれど、何からやればよいか迷っているという人も多いのではないでしょうか。そんなあなたのために、遺贈寄附推進機構代表取締役の齋藤弘道さんが今すぐ役立つ終活の基礎知識やヒントを紹介します。前回は隣家との境がわからない土地の「筆界確定と境界確定」についてお伝えしました。今回も、土地の境界に関する事例をご紹介します。

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終活連載)もめないけど困る相続②バラを手渡すイメージ
大切な不動産を処分する時は土地の境界にご注意を

となりと隙間がほとんどない銀座のビル

 Bさん(80代・女性)から遺言作成のご相談を受けていたときのことです。Bさんはご自宅の他、マンションや銀座のビルなどを所有されていました。美術品を収集されるのがご趣味で、所有不動産のいずれもコレクションでいっぱいの状態です。Bさんは一人っ子で未婚、親も亡くなっているため、相続人が誰もいません。遺言書の内容は「全財産を母校へ遺贈する」ことをご希望のため、遺言書を作成するのは簡単です。財産を分割する必要がないので、財産目録で一つひとつ美術品を特定する必要もありません。しかし、大量の美術品と不動産を今後どうするのか、じっくりと話し合いました。

 Bさんは思い悩んだ末に、「本当に大切にしている美術品だけを手元に残して、それ以外は全部処分する」と決断されました。美術品の売却と並行して、不動産の売却も検討を始めたところ、思わぬ問題が出てきました。銀座のビルが建っている土地の境界が分からないのです。隣地のビルとは、ほとんど隙間がない状態でした(建築基準法では、防火地域内または準防火地域内で、外壁が耐火構造であれば、隣地境界線に接して建築することができるとされています)。

 売却を依頼された不動産会社の人がどこを探しても、土地の境界を示す「境界標」らしきものはありません。もし、境界標が見つからなければ、隣地所有者に立ち会ってもらい、境界確定しなければなりません。

1㎝の違いで数百万円の差が……

 土地の奥行きが15mくらいありました。なにしろ、ここは銀座。たとえ境界が1cm違うだけでも売却価格に数百万円の差が生じてしまいます。隣地所有者がどのような人物なのかわかりませんが、簡単に合意できるとは思えません。

 その時、Bさんが「このビルを買ったときに、地下で杭を見たような気がする」とつぶやいたのです。

 不動産会社の担当者は、すぐさま地下へ降りていき、機械室のようなところの床板を外して、土を掘り始めました。応援の人がスコップを持って駆けつけ、あちこち随分掘ったところ、ついに境界標のコンクリート杭を見つけました。ビルを購入されたのは30年以上前です。Bさんは「私の記憶もたいしたものね」と言われていました。

 その後、無事にビルは売却でき、美術品の整理もできたところで、公正証書遺言も無事に作成できました。バッチリお化粧をして正装で公証役場に現れた、Bさんの晴れ晴れとした表情は、今も忘れられません。

自宅の敷地の分筆 近隣20軒の合意が必要?

 Cさんには、妻と子どもが2人います。遺言のご相談を受けたとき、「妻には自宅の建物と金融資産、長男と二男には自宅の敷地を半分ずつ分け与えたい」というご希望でした。ただ、土地を2人の共有にしてしまうと、その後の土地の利用(建物の建築など)や売却の際にお互いに合意が必要となるので、土地を分筆することになりました。100坪以上あり、角地でもあったので、どのような形で土地を分筆するのかは比較的スムーズに決められました。

 ところが、ここで土地家屋調査士から「道路との境界が確定していない」と報告が入ったのです。この道路は幅が4m未満の「2項道路」()のようです。2項道路とは、道路の中心線から水平距離2m後退(セットバック)した線を道路の境界線とみなすことで、建物の建て替えを認める建築基準法の緩和規定です。

 土地家屋調査士の話では「道路の中心線が決まっていない」ので、その中心線から2mセットバックした線も決まらないとのことでした。確定測量図を作成する場合は、敷地の両隣と裏側の土地および、道路の反対側の土地の所有者の合意が必要となります。今回の件では、この道路の全部について中心線を定めることになり、この道路に接する土地の所有者約20名全員の合意が必要となりました。

 しかも、この道路は砂利道。少し下りながら微妙に曲がっていて、道幅も一定ではなく、中心線がどこなのかは一見しただけでは何とも言えない状況です。Cさんは土地家屋調査士と一緒に1軒1軒、説明して回りました。

 セットバックする部分は個人の土地であっても「道路」ですので、家はもちろん門や塀も建てられません。すでにセットバック部分に建物などが建っていた場合、すぐに取り壊す必要はないものの、再建築はできませんので、中心線が決まると困る人が出てくる可能性があります。

 しかし、幸いなことにセットバックして困るような状況の家はなく、全員から「お互いさま」「将来、自分が土地を売買するときにも必要なこと」と理解されて、無事に道路の中心線と境界が確定し、分筆が完了しました。そして、ようやく遺言も作成することができました。

 遺言の作成が思わぬ方向に展開しましたが、Cさんが生前にご対応されたからこそ実現できたことであり、もし亡くなった後の遺産分割協議でやろうとしたら同じことはできなかったことでしょう。Cさんのご英断だと思います。

 ※建築基準法では、原則として「建物の敷地は幅員4m以上の道路に2m以上接しなければならない」と定めていますが、同法施行前から使用されていた道路で、特定行政庁(知事や市長など)が指定したものは建築基準法上の道路とみなすと同法第42条第2項に定められており、これを通称「2項道路」「みなし道路」などといいます。

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  • 齋藤弘道
  • 齋藤 弘道(さいとう・ひろみち)

    遺贈寄附推進機構 代表取締役、全国レガシーギフト協会 理事

    信託銀行にて1500件以上の相続トラブルと1万件以上の遺言の受託審査に対応。遺贈寄付の希望者の意思が実現されない課題を解決するため、2014年に弁護士・税理士らとともに勉強会を立ち上げた(後の「全国レガシーギフト協会」)。2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。日本初の「遺言代用信託による寄付」を金融機関と共同開発。

  • この連載について / 今すぐできる終活講座

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