<連載> アンチエイジング最前線

WHOがガイドライン 有酸素運動・筋トレ・動かない時間を減らすの3ステップ

アンチエイジングの最前線――人生120年時代へ 第2部運動編(2)

2022.03.07

 人はなぜ老いるのか――。その謎が近年、解き明かされつつあります。アンチエイジングの研究は、老化の原因を解明し、健康に過ごせる寿命を延ばすにはどうすればいいのかを探求しています。連載では、研究の最前線や、研究に基づいた、日常生活で取り組める具体的な方法を紹介します。

 第2部は運動編です。ふだん運動していない人は、体を動かす時間を1日10分増やしたり、座りっぱなしにならないように注意したりするだけでも効果が期待できるそうです。慶應義塾大学スポーツ医学研究センター・大学院健康マネジメント研究科の小熊祐子准教授に、家事も含めた広い意味での「身体活動」のさまざまな効果や、どのような身体活動をどれぐらいすればいいのかを取材しました。

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ジョギングをするシニア夫婦

無理のない範囲でいまより少し動いて長続きを

 前回、紹介したように、どのような身体活動をどの程度すればいいのかは、現時点でどれぐらいの身体活動をしているのかによって異なります。

 「ふだんほとんど動いていない人がいきなりランニングや筋トレを始めるのは危険ですし、負荷が大きすぎて、長続きしない可能性が高いと考えられます。無理をして長続きしないより、無理のない範囲で現状よりも少し多く、そして少し負荷を上げて体を動かし、それを長く継続する方が、効果が期待できます」

 小熊准教授はこうアドバイスします。たとえば、これまでより少し遠い店まで歩いて買い物に行く、すでにウォーキングをしているなら途中で少し早足で歩いてみる、といった具合です。

「もちろん、定期的にジムに通っているなど、かなり運動をしている方は、それなりに負荷を上げて頂いて構いません」 

いつでもどこでもプラス10 家事でもウオーキングでも

 厚生労働省が2013年に出した「健康づくりのための身体活動基準2013」や「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」では、まずは「いつでもどこでもプラス10」と呼びかけています。家事でもウォーキングでも筋トレでも内容は問わずに、とにかく1日10分、身体活動を増やそうという呼びかけです。

いつでもどこでも+10

WHOも「何もしないより少しでも身体活動を」

 世界保健機関(WHO)は2018年、「身体活動に関する世界行動計画(Global Action Plan on Physical Activity 2018-2030:GAPPA)」を公表しました。2020年には身体活動などついてのガイドラインが更新され、「WHO 身体活動と座位行動に関するガイドライン」と称し、初めて、「座位行動」と呼ばれる、座りっぱなしなど、動かずにじっとしている状態について明確に言及されました。

 前回、紹介したのと同様、WHOのガイドラインも、18歳以上の成人について、「何もしないより少しでも身体的活動をした方が健康のためにいいです」「最初は少量の身体活動から始め、少しずつ頻度や強度を上げていくべきです」「65歳以上の高齢者は、一人ひとりの健康状態に適した身体活動をしましょう」と注意喚起しています。

 その上で、WHOのガイドラインは、身体活動の内容や行う時間や頻度、強度について、推奨される目標を示しています。特徴は3点あります。

1)大前提として、毎週、一定の時間の有酸素運動をする

2)その上で、週に何回か筋トレをする

3)加えて、動かないでじっとしている時間を減らす

まずは有酸素運動 中強度なら週に150~300分

  まず有酸素運動についてです。ガイドラインは、週に150~300分の中等度の強度の有酸素運動、あるいは75~150分の高い強度の有酸素運動をするのが望ましいとしています。中強度と高強度の有酸素運動を組み合わせて、同程度になるようにすることも可能です。

有酸素性身体活動

 有酸素運動というのは、名前の通り、酸素を取り込んで、身体の大きな筋肉を一定の時間以上、繰り返し動かす運動で、ウォーキングやランニング、水泳、サイクリングなどです。

 中強度は、じっと静かにしている時の3~6倍程度の強度です。個人レベルでは、身体活動の強さを0~10で表し、その人にとっての最大強度を10としたら5~6程度に感じるような強度に相当します。

 一方、高強度は、ふつうに歩く時の倍以上の強度です。個人レベルでは0~10のうち7~8程度に相当します。

筋トレは週2日以上 主要な筋肉を鍛えましょう

 65歳以上の高齢者は、バランスの取れた動きを維持して転倒を防ぐために、週に最低3日は、有酸素運動の中に、さまざまな要素を組み合わせた身体活動を入れるといいと推奨しています。「マルチコンポーネント運動」と呼ばれる活動です。後で詳しく紹介します。

  WHOのガイドラインは、有酸素運動に加えて、週に2日以上は主要な筋肉を強化するような、中強度もしくはもっと強度の高い筋トレをすると、さらに健康にいいとしています。

65歳以上筋力向上活動

 主要な筋肉というのは、「大筋群」と呼ばれている大きな筋肉のことです。腹筋や背筋、大胸筋、肩の周囲の三角筋、ももにある大腿(だいたい)四頭筋、上腕二頭筋などです。

高齢者はマルチコンポーネント運動で転倒防止を

  先ほど触れた、65歳以上の人にWHOが推奨しているマルチコンポーネント運動というのは、有酸素運動や筋トレのほか、身体のふらつきを防ぎ、バランスを維持するためのトレーニングも組み合わせた身体活動です。バランスを維持する訓練は、たとえば後ろ向きや横向きで歩く、上半身の筋トレをしている最中に片足立ちする、ダンスを踊るなどです。

65歳以上マルチコンポーネント活動

  WHOのガイドラインの3番目、「じっとしている時間を減らす」については次回、説明します。身体活動の効果がわかる方法なども紹介します。

 (監修=小熊祐子・慶應義塾大学スポーツ医学研究センター・大学院健康マネジメント研究科准教授。協力=日本抗加齢医学会、文=大岩ゆり) 

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  • 小熊祐子
  • 小熊 祐子(おぐま・ゆうこ)

    慶應義塾大学スポーツ医学研究センター・大学院健康マネジメント研究科准教授

    1991年、慶應義塾大学医学部卒業。腎内分泌代謝内科研究室にて臨床・研究に従事した後、2000~03年、ハーバード大学公衆衛生大学院に留学。運動疫学について研究し、公衆衛生学の修士号を取得。現在は生活習慣病の運動療法の指導や身体活動の普及啓発に注力している。主な著書に『サクセスフル・エイジング: 予防医学・健康科学・コミュニティから考えるQOLの向上』慶應義塾大学出版会(2014年)など。

  • 大岩 ゆり
  • 大岩 ゆり(おおいわ・ゆり)

    科学医療ジャーナリスト・翻訳家

    朝日新聞社科学医療部専門記者(医療担当)などとして医療と生命科学を中心に取材・執筆し、2020年4月からフリーランスに。同社在籍中には英オックスフォード大学客員研究員や京都大学非常勤講師、早稲田大学非常勤講師を兼任。主な著書に『最後の砦となれ~新型コロナから災害医療へ』、主な訳書にエリック・カンデル著『芸術・無意識・脳』(共訳)がある。

  • この連載について / アンチエイジング最前線

    人はなぜ老いるのか――。その謎が近年、解き明かされつつあります。アンチエイジングの研究は、老化の原因を解明し、健康に過ごせる寿命を延ばすにはどうすればいいのかを探求しています。連載では、研究の最前線や、日常生活で取り組める方法を紹介します。

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