<連載> 今すぐできる終活講座

先祖代々受けついだ自宅 土地建物の相続人を確認してみたら……

もめないけど困る相続③

2022.02.28

 「終活」や「相続」について考えていますか? 大切な人や社会のために財産を役立てたいけれど、何からやればよいか迷っているという人も多いのではないでしょうか。そんなあなたのために、遺贈寄附推進機構代表取締役の齋藤弘道さんが今すぐ役立つ終活の基礎知識やヒントを紹介します。不動産は現金や預貯金とは異なる特徴があり、相続で困る場面がいろいろとあります。前回までは、その特徴のうち「境界」の事例をお伝えしましたが、今回は「所有権」と「登記」の面から考えます。

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不動産はきちんと相続登記をしておかないと困ることに

所有者がわからない土地の問題

 所有者不明の土地は九州の面積よりも広いと言われており、再開発・公共工事・災害復興の妨げになるなど、大きな社会問題になっています。土地が所有者不明になる原因の多くは、相続のときに所有権移転登記(相続登記)がなされないことにあります。そこで不動産登記法が改正され、相続登記の義務化が2024年4月1日から施行されます。相続により所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記することが必要になり、これを怠ると、10万円以下の過料が課せられます。

 相続登記されない理由には、「登記費用を支払いたくない」「手続きが面倒」ということもあるでしょうが、「遺産分割協議が調わない」または「遺産分割協議をしないで放置する」ことが多いように思います。それが後々問題になった事例をご紹介します。

祖父名義の家 遺産分割協議がされないまま

 Dさん(60代・男性)は、先祖代々の家に家族と一緒に住んでいます。終活の一環として、自宅不動産を調査したところ、土地建物の名義が約30年前に亡くなった祖父名義であることがわかりました。Dさんの父親も既に亡くなっていますので、どうして不動産の名義が亡くなった祖父名義のままになっているのか、その理由も経緯もさっぱりわかりません。司法書士に相談したところ、まずは亡き祖父の相続人を確認するため、一連の戸籍謄本を取得することになりました。

 亡き祖父の子(Dさんの叔父叔母)やその代襲相続人(亡くなった叔父叔母の子=Dさんのいとこ)、さらにその代襲相続人も合わせると、亡祖父の相続人がなんと20人もいることが判明しました。亡くなった叔父の養子や再婚相手との子なども含まれていて、Dさんが一度も会ったことのない相続人が何人もいます。この状況から、「遺産分割協議書はあるものの相続登記をしていない」のではなく、「そもそも遺産分割協議が調っていない」と判断しました。

 Dさんは相続人全員に手紙を書いて遺産分割協議を打診しましたが、「相続分を放棄する」「法定相続分は欲しい」「代理人の弁護士が対応する」「返信がない」など反応はさまざまです。このままでは遺産分割協議は難航しそうです。しかし、ここでDさんが諦めてしまうと、時間の経過とともにさらに相続人が増えていくことになり、子どもたちに迷惑がかかります。Dさんは意を決して、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることにしました。

借金するか自宅売却か 究極の選択

 家庭裁判所の調停といっても、話し合いであることに変わりはなく、調停期日に欠席する人もいて、なかなか進みません。それでも少しずつ相続人の意向が確認でき、「相続分の放棄」や「Dさんへの相続分の譲渡」の意向が得られた一方で、「あくまでも法定相続分を主張」する人も5人いました。自宅の評価額は約1億円です。法定相続分は相続人の立場によって異なりますが、この5人に対して計約2500万円を渡す必要があることがわかりました。

 選択肢は「借金して支払う」か「自宅を売却して支払う」かに絞られました。Dさんは家族と相談した結果、自宅を担保にして子どもとともにローンを組むことにしました。資金使途が「自宅の建築や購入」ではなく「相続の代償分割に伴う代償金」ですので、一般的な住宅ローンは利用できず、不動産担保ローンの利用になります。審査条件も厳しく、金利も少し高いのですが、なんとかローンを借りられることになりました。こうして相続人5人への支払いを条件として遺産分割協議が調い、ようやく相続登記が完了しました。

 本件は大きな債務を負うことになりましたが、それでも先祖代々の土地建物を手放さずに決着できたので良かったほうだと思います。ただ、祖父が亡くなったときに遺産分割協議と相続登記をしていれば、2世代後にこのような問題を残すことはなかったでしょう。

相続の面から見た不動産の特徴

 最初に「不動産は現金や預貯金とは異なる特徴がある」とお伝えしましたが、具体的には以下のような点があり、特に相続のときに問題が表面化することが多いように感じます。

・境界の問題 → 分筆や売買の際に隣地や道路との境界確定が必要

・所有権の問題 → 共有・借地権・抵当権など権利関係が複雑

・登記が必要 → 相続登記の義務化、登録免許税がかかる

・一物一価でない → 評価額を巡って争いになる可能性

・個別性が強い → 全く同じものはない、他に代わりがなく分けにくい

・流動性が低い → 売却できない可能性がある

・価格が変動する → 資産価値の変動、寄付時のみなし譲渡課税など

・関係法令が多い → 都市計画・開発許可・農地法・建築基準法など

・管理リスク → 火災・倒壊・不法占有・不法投棄・土壌汚染など

・管理コスト → 固定資産税・管理費・メンテナンス費用など

・流通コスト → 仲介手数料・印紙など

 これまで「境界」「所有権」「登記」についてお伝えしましたので、次回は「リスク」「コスト」の面から「負動産」について考えていきたいと思います。

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  • 齋藤弘道
  • 齋藤 弘道(さいとう・ひろみち)

    遺贈寄附推進機構 代表取締役、全国レガシーギフト協会 理事

    信託銀行にて1500件以上の相続トラブルと1万件以上の遺言の受託審査に対応。遺贈寄付の希望者の意思が実現されない課題を解決するため、2014年に弁護士・税理士らとともに勉強会を立ち上げた(後の「全国レガシーギフト協会」)。2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。日本初の「遺言代用信託による寄付」を金融機関と共同開発。

  • この連載について / 今すぐできる終活講座

    「終活」や「相続」について考えていますか? 大切な人や社会のために財産を役立てたいけれど何からやれば良いか迷っている…。そんなあなたのために専門家が今すぐ役立つ「終活」の基礎知識やヒントをご紹介します。

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