<連載> アンチエイジング最前線

イス立ち上がりテストで効果を実感 体動かすことはSDGsにも貢献

アンチエイジングの最前線――人生120年時代へ 第2部運動編(3)

2022.03.09

 人はなぜ老いるのか――。その謎が近年、解き明かされつつあります。アンチエイジングの研究は、老化の原因を解明し、健康に過ごせる寿命を延ばすにはどうすればいいのかを探求しています。連載では、研究の最前線や、研究に基づいた、日常生活で取り組める具体的な方法を紹介します。

 第2部は運動編です。ふだん運動していない人は、体を動かす時間を1日10分増やしたり、座りっぱなしにならないように注意したりするだけでも効果が期待できるそうです。慶應義塾大学スポーツ医学研究センター・大学院健康マネジメント研究科の小熊祐子准教授に、家事も含めた広い意味での「身体活動」のさまざまな効果や、どのような身体活動をどれぐらいすればいいのかを取材しました。

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ハイキングを楽しむシニアカップル

ちょこまか細切れの活動でも時間に見合った効果あり

 世界保健機関(WHO)のガイドラインや日本のアクティブガイドは、まとまった時間、身体活動ができなくても、少しでもした方が、健康にはよい、としています。それは、身体活動と健康影響には「用量反応関係」があるからです。有酸素運動は30分以上続けて行わなければ効果が無い、と言われていた時期もありましたが、その後の研究で、ちょこまか細切れに行っても、行った時間に見合う分の効果はあるとわかってきました。

 WHOのガイドラインが「150~300分」「75~150分」という数字を挙げているのは、複数の研究から、その程度すると、死亡や生活習慣病などのリスクを減らす大きな効果があるとわかっているからです。しかし、それ以下の時間でも、効果がゼロではありません。一方、もっとやれば、効果はより大きくなります。

身体活動と健康増進の用量反応関係

座ったままの時間が長いと死亡リスクが高まる

 WHOのガイドラインは、身体活動を推奨するだけでなく、逆に、起きている最中に座っていたり寝転がったりしている、「座位行動」と呼ばれる、じっとしている時間を減らすことも推奨しています。具体的にどれぐらい減らせばいいのかは、まだ科学的な根拠がそろっていないとして2020年のガイドラインでは言及していません。しかし、運動編(1)で紹介したように、座ったままの時間が長いと、死亡リスクが高まることなどがわかっています。

18-64歳座位行動

体を10分動かすプラス10 登山やキャンプ、通勤での活動も組み合わせて

 何からすればいいかわからないという方に参考になるサイトをご紹介します。小熊准教授が10年以上かかわっている、神奈川県藤沢市の市民を対象にした、身体活動を促進するプログラム「ふじさわプラス・テン」のサイトです。

◆ふじさわプラス・テン
 https://sportssdgs.keio.ac.jp/plusten/tool/#p1

 ここには、体を10分間動かす「プラス10」の具体例がいくつもの動画やパンフレットで紹介されています。ウォーキングやストレッチの方法も紹介されています。また、WHOのガイドラインが65歳以上の人に推奨している、有酸素運動や筋トレのほか、身体のふらつきを防ぎ、バランスを維持するためのトレーニングも組み合わせたマルチコンポーネント体操の具体例もわかります。 

「ふじさわプラス・テン」のサイトからプラス・テン体操フルバージョン

 WHOは、身体活動は、運動や筋トレだけでなく、登山やキャンプといったレジャーや、通勤に自転車を使ったり歩いたりする、職場でなるべく体を動かすなど、さまざまな場面での身体活動を組み合わせると、より効果的だとしています。

自分の一番いい時間に 朝の運動は注意が必要

 どのような時間帯に身体活動、とくに有酸素運動や筋トレをすればより効果的なのでしょうか。小熊准教授は、理論的に効果のある時間帯に無理をして行うよりは、自分の生活の中で一番、やりやすい時間帯にするのが、継続できるからいいと言います。

 「たとえば糖尿病の方は、食後に血糖値が上がるのを抑えるために、食後しばらくして運動するのが理想的ではありますが、食後に運動できるような生活を送っている方はどれぐらいいるでしょうか。無理に食後に運動するよりも、できる時間帯に行った方がいいです」

 朝、運動する場合には注意が必要です。「寝ている間に汗をかいたりして、朝、起きた時は若干、体内が脱水気味になっています。そのまま運動してしまうと、脳梗塞(こうそく)や不整脈が起こりやすいので、少し水分を補給し、少し食べてエネルギーも補給してから体を動かすようにして下さい」

坂道が楽に……日常の小さな変化に敏感になって

 マラソンなど本格的なスポーツをしている人ならタイムが伸びたといった客観的な指標で、身体活動を増やした効果が目に見えてわかります。しかし、アクティブガイドやWHOのガイドラインに沿って身体活動を少しだけ増やした、という人の場合は、その効果はどのようにわかるのでしょうか。

 「駅の階段を上がると息が上がっていたのが楽に上がれるようになった、苦手だった坂道を楽に登れるようになった、という、日常生活でのちょっとした変化に敏感になってみて下さい」と小熊准教授は言います。

 その上で、「ふじさわプラス・テン」のサイトにある「教材」欄の「体力測定の手引き」に載っている「30秒イス立ち上がりテスト」も、効果を客観的に実感できる方法の一つだそうです。サイトには「ストップウォッチ」が必要とありますが、これはスマートフォンのストップウォッチ機能で大丈夫です。「ふじさわプラス・テン」に参加した高齢者は、1年間の活動の後に、立ち上がる回数が平均で2回、増えたそうです。

30秒イス立ち上がりテスト

慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科 運動と認知症予防研究班
 「体力測定の手引き(一般高齢者向け)」から

  • 準備するもの
    □ストップウォッチ
    □昇降運動用踏み台(高さ40センチ)、あるいはひじ掛けと背もたれのない頑丈な椅子
  • 方法
    ①かかとの低い靴か素足で行う。
    ②椅子の中央部より少し前に座り、背筋(背中)を伸ばす。
    ③両脚は肩幅程度に広げ、ひざの間を握りこぶしひとつ分くらい開ける。
    ④ひざ関節は90度からわずかに屈曲させ、足裏を床につける。
  • 30秒イス立ち上がりテスト1
    写真1
  • ⑤両手を胸の前で組む(写真1)。
  • 30秒イス立ち上がりテスト2
    写真2
  • ⑥用意に続き“始め”の合図で背筋が伸び、
     両ひざが完全に伸展するように立ち上がり(写真2)、
  • 30秒イス立ち上がりテスト3
    写真3
  •  すばやく腕を組んだまま座位姿勢に戻る(写真3)。
  • 30秒イス立ち上がりテスト4
    写真4
  •  背筋が伸びていない、ひざが完全に伸展していない、
     または座面にしっかりと着座できていない場合は、
     カウントしない(写真4)。
    ⑦30秒間できるだけ多く繰り返す。
  • 記録
    ①30秒間で椅子から立ち上がった回数を補助者が記録する。立ち上がり途中で30秒に達した場合は 1回の測定値とする。
    ②実施は1回とする。
  • 実施上の注意点
    ①ひざ関節に違和感が生じた場合はテストをすぐに中止させる。
    ②5~10回練習させるとよい。
    ③立ち上がったときの姿勢は、両ひざが完全に伸展し、背筋が真っすぐ伸ばされていることを確認する。もし完全に立ち上がっていない場合、または座面にしっかりと着座できていない場合は、回数からその数を減じる(写真4)。
    ④補助者はイスが動かないようにしっかり支える。
    ⑤壁を背にして実施するときは、座ったときや立ち上がったときに壁に頭をぶつけることがあるので、補助者は注意する。

認知機能や睡眠への効果も期待 グループですればコミュニケーションに

 WHOが身体活動の促進や、じっとしている時間を減らすことにこれだけ熱心なのは、単に身体活動の頻度や強度を上げることが身体の健康を促進する効果があるだけでなく、もっと幅広い効果が期待できるからです。

 2020年のガイドラインでは、身体活動をすることで、精神的な健康状態や認知機能、睡眠の状態をよくする効果が期待できるとしています。たとえば、低強度で身体活動をする人がうつ状態になるリスクを1とすると、高強度で身体活動をする人は0.78だとする研究があります。

 また、アルツハイマー型認知症を含めた認知機能の低下のリスクや、不眠などの睡眠に関連する障害が起きるリスクも、身体活動を多く、強度も高くしている人の方が低いという研究結果が世界の各地から報告されています。

 「地域のグループで一緒に運動すれば、単に身体活動をするだけでなく、社会的な活動に参加することになり、他の人とコミュニケ―ションをとるなどすることで、認知機能を刺激する効果が期待できます。少なくとも高齢者の場合、単独で自宅やジムで身体活動をするより、グループで実施した方が、より複合的な効果が期待できるとされています」(小熊准教授)

 自治体は主に高齢者を対象にした、グループでの身体活動をさまざまな形で提供していますので、ご自宅のある自治体にまず、問い合わせてみて下さい。

医療費削減、気候変動の緩和、環境保全にもつながる

 WHOはさらには、身体活動を促進することは、2030年を目途にした持続可能な開発目標「SDGs」の達成にも貢献するとしています。

 たとえば、心身の不調を訴える人が減ることにより医療費を削減できますし、車による移動を控えて自転車やウォーキングで移動することにより、気候変動の緩和や環境保全にもつながります。

身体活動を高める政策行動が持つ、経済、社会、環境面でのコベネフィット

 身体活動を促進することにより、どのようにSDGsに貢献できるのか。詳細は、「身体活動に関する世界行動計画(Global Action Plan on Physical Activity 2018-2030: GAPPA)」の「身体活動を高めるためのテクニカルパッケージ」で紹介されています。小熊准教授らが、もともとは英語だったWHOの資料を日本語訳にしたものが下記サイトにあります。

◆身体活動を高めるためのテクニカルパッケージ
 http://sports.hc.keio.ac.jp/ja/news/files/2020/9/3/WHO%20ACTIVE%20Japanese%20revise%20final2.pdf

◇運動編はこれで終わります。

 (監修=小熊祐子・慶應義塾大学スポーツ医学研究センター・大学院健康マネジメント研究科准教授。協力=日本抗加齢医学会、文=大岩ゆり) 

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  • 小熊祐子
  • 小熊 祐子(おぐま・ゆうこ)

    慶應義塾大学スポーツ医学研究センター・大学院健康マネジメント研究科准教授

    1991年、慶應義塾大学医学部卒業。腎内分泌代謝内科研究室にて臨床・研究に従事した後、2000~03年、ハーバード大学公衆衛生大学院に留学。運動疫学について研究し、公衆衛生学の修士号を取得。現在は生活習慣病の運動療法の指導や身体活動の普及啓発に注力している。主な著書に『サクセスフル・エイジング: 予防医学・健康科学・コミュニティから考えるQOLの向上』慶應義塾大学出版会(2014年)など。

  • 大岩 ゆり
  • 大岩 ゆり(おおいわ・ゆり)

    科学医療ジャーナリスト・翻訳家

    朝日新聞社科学医療部専門記者(医療担当)などとして医療と生命科学を中心に取材・執筆し、2020年4月からフリーランスに。同社在籍中には英オックスフォード大学客員研究員や京都大学非常勤講師、早稲田大学非常勤講師を兼任。主な著書に『最後の砦となれ~新型コロナから災害医療へ』、主な訳書にエリック・カンデル著『芸術・無意識・脳』(共訳)がある。

  • この連載について / アンチエイジング最前線

    人はなぜ老いるのか――。その謎が近年、解き明かされつつあります。アンチエイジングの研究は、老化の原因を解明し、健康に過ごせる寿命を延ばすにはどうすればいいのかを探求しています。連載では、研究の最前線や、日常生活で取り組める方法を紹介します。

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