<連載> べんの博士のウンチ講座

第8回 食物繊維不足、高脂肪食が腸内環境を悪化させる

いま知りたい! 腸活のための基礎知識 / 食べ物と腸内環境

2022.04.22

 食べ物によって腸内環境は大きく左右されます。どんな食べ物が良くて、何が悪い影響を与えるのでしょう。ウンチ博士として知られる一般財団法人辨野腸内フローラ研究所理事長の辨野義己博士が、エキサイティングなウンチと腸の世界を紹介します。

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べんの博士のウンチ講座

偏食によって腸内が激しく老化

 わたしはこれまでにたくさんの方の腸年齢を調べてきました。以前、お菓子ばかり食べるという偏食の20歳の便秘の女性の話を紹介しましたが、この女性の腸年齢は、なんと70歳以上に達していたのです。この女性は、ご飯類をほとんどとらないという状況で、腸年齢の測定のために提供してくれたウンチは、2週間も便秘が続いた後に下剤を使ってやっと出したものでした。

 腸年齢が実年齢以上に老いてしまう最大の原因は、食生活にあります。食べ物は胃や十二指腸、小腸で消化・吸収され、消化しきれなかった食べカスが大腸へ送られます。それが腸内細菌の餌になるので、食べ物は腸内細菌のバランスに大きく影響するのです。

 腸内の悪玉菌の大好物は、たんぱく質や脂肪を多く含む食品です。これらは腸内細菌によって利用され、アミン類や、脂肪を分解するために必要な胆汁酸を発がん促進物質に換えてしまうのです。ハンバーガーなど若い人々の大好物である高脂肪食は悪玉菌が好む典型的な食べ物といえます。

 一方、ビフィズス菌など善玉菌の好物は野菜、海藻、穀類などに豊富に含まれる食物繊維やオリゴ糖などです。とくに食物繊維が不足するとウンチは腸内に長時間とどまり、悪玉菌の増殖を招くことになるのです。

肉中心の食事で日本人の腸内環境が変化

 農林水産省の調査(1960年)では1人当たりの食肉消費量は年間約3キロ程度でしたが、2020年には50.8キロに増えています。穀物、野菜、魚中心の伝統的な食事から、肉食中心の食事への変化は、日本人の腸内環境にも大きな影響を与えているのです。

 わたしは30代のころ、1日に1.5キロの牛肉を40日間食べ続ける実験を自ら率先して行いました。肉食を続けることによって体に明らかな変化が現れました。体臭がどんどんきつくなり、皮膚が脂ぎってきました。肝心の便にも劇的な変化が認められました。黄褐色だった便は次第に褐色から黒ずんで、40日目では黒褐色(タールのような)の便が出てきたのです。その臭いはきつく、腐ったような強烈な臭いを発したのでした。そして、腸内細菌は著しく変動し、善玉菌であるビフィズス菌が減少し、日和見感染症の原因となるバクテロイデス属の細菌の増加が認められたのです。おそらく、そのときの腸年齢は70代に達していたに違いありません。

 わたしが行った肉食実験は多少大げさかもしれませんが、野菜をほとんど食べず、インスタント食品やお菓子などの栄養が偏った食生活をしている方々が多いのではないでしょうか。腸の老化にストップをかけ、腸年齢を若返らせるには、バランスの良い食生活を心がけてください。

 次回は最近耳にする「ウンチ力(りょく)」の話です。

辨野博士の本

  • 辨野先生の本
  • 「腸内細菌」が健康寿命を決める
    出版社:集英社インターナショナル

    著者の研究秘話とともに、腸内細菌に関する最新知識を解説。腸内細菌がいかに健康・美容と深くかかわっているのか、理想のウンチの作り方から研究の最前線まで、楽しみながら健康知識をウンと高められるオモシロウンチエッセイ!

  • 辨野義己
  • 辨野 義己(べんの・よしみ)

    一般財団法人辨野腸内フローラ研究所理事長 国立研究開発法人理化学研究所名誉研究員

    1948年、大阪生まれ。酪農学園大学獣医学科卒、東京農工大学大学院獣医学専攻をへて理化学研究所へ。同研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室長、同研究所辨野特別研究室特別招聘研究員などを歴任して現職。半世紀にわたって腸内環境学・微生物分類学の研究に取り組んでいる。「『腸内細菌』が健康寿命を決める」(集英社インターナショナル)、「大便力」(朝日新聞出版)、「大便革命」(幻冬舎新書)、「長寿菌まで育てる最高の腸活」(宝島社)など著書多数。

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