<連載> 今すぐできる終活講座

相続するとリスクやコスト もらってもマイナス資産の「負動産」

もめないけど困る相続④

2022.03.11

 「終活」や「相続」について考えていますか? 大切な人や社会のために財産を役立てたいけれど、何からやればよいか迷っているという人も多いのではないでしょうか。そんなあなたのために、遺贈寄附推進機構代表取締役の齋藤弘道さんが今すぐ役立つ終活の基礎知識やヒントを紹介します。不動産を相続の視点から考えると、現金の相続とは異なる「困ったこと」が見えてきます。今回は「リスク」と「コスト」の面から考えていきましょう。

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その不動産、相続したら困るかも?

相続した人が損をする「負動産」

 不動産のリスクやコストの話をする前に、「相続は損得だけで考えるべきではない」ことをお伝えしておきたいと思います。思い出の詰まった実家はその典型でしょう。ある程度の費用や手間がかかっても維持しておきたい不動産はあるでしょう。こうした採算を度外視してでも不動産を保有したい気持ちも大切にしたいですね。一方で、相続する不動産を保有する「リスク」や「コスト」についても冷静な目を持ちたいところです。

 現金や預貯金は放置しておいても基本的にコストはかかりません(ただし最近は口座維持手数料や紙通帳の有料化も増えてきました)。しかし、不動産は保有しているだけで、固定資産税や管理費などの費用がかかり、利用価値よりもコストの方が多い「マイナス資産」になる場合があります。こうした不動産は売却も難しく、いわゆる「負動産」と呼ばれています。前回お伝えした「所有者がわからない土地の問題」も「負動産を相続したくない」ケースが多分に含まれているようです。どのようなケースがあるのか見てみましょう。

売れないまま塩漬けの別荘地

 相続の手続きをしていると、結構高い割合で「原野」や「別荘地」を保有されている高齢のかたに出会います。年代的に日本列島改造論やバブルの時代背景があったからでしょうか、購入されたのはリゾート開発された土地(または開発しようとした土地)が多いように感じます。公図や測量図ではきれいに区画整理されているのですが、Googleマップで見ると付近一帯が山林で、所有土地の所在を特定できない……そんなケースは普通によくあります。当然売れませんので、塩漬け状態です。たいていは固定資産税もゼロかわずかな金額ですが、不法投棄や不法占有などの管理リスクがあります。

 実際に開発された別荘地でも、軽井沢など一部を除けば、ほとんど買い手がいないことが多く、供給過多の状態です。特に建物が建っていない更地の別荘地は、売却が難しいようです。ある人のご相談では、別荘地に立っていた木が台風で倒れて、となりの家の屋根を壊したので修繕したと言われていました。また、温泉地の場合、温泉が使える魅力はあるのですが、温泉利用料の負担が重く感じられることもあります。さらに、リゾートマンションは設備が立派なだけに管理費も高く、老朽化とともに価値が急速に下がっているものも少なくありません。

7戸に1戸が空き家

 別荘地でなくても、普通の家が「負動産」になるリスクがあります。総務省が5年ごとに調査している「住宅・土地統計調査」によると、2018年の空き家は約849万戸、空き家率は13.6%と増加しており、7戸に1戸が空き家となっています。このうち、賃貸用住宅でも売却用住宅でもない「その他の住宅」が4割以上を占め、相続後に子供が住まずに空き家になるケースも多く含まれています。

終活連載)空き家数と空き家率の推移(総務省統計局資料)
空き家数と空き家率の推移(総務省統計局の資料より)

相続しても空き家になる実家

 実家を相続した場合、「売る」「貸す」「住む」の選択肢が考えられますが、現実には何もせず「放置して空き家になる」ケースが増えています。空き家になる原因には「相続人で遺産分割協議が調わない」「隣地境界が確定していない」など法的な問題もありますが、「遺品が片付かない」「近隣との人間関係」などの問題もあります。田舎の物件など売れない場合に、リノベーションして賃貸する方法もありますが、事前に市場調査をしないで修繕してしまうと、入居者がいないのにコストだけかかることになりかねません。

 空き家が管理されずに放置されると、火災・倒壊・不法占有などが発生し、防災・衛生・景観等の面で住民生活に影響を与えることから、2015年に「空家等対策の推進に関する特別措置法」(空家法)が施行されています。空き家を適切に管理していない場合、市町村が「特定空家等」に指定し、所有者に「助言・指導」「勧告」などを行います。通常、居住用家屋の敷地は固定資産税が6分の1に減額(200㎡以下)されていますが、特定空家等に指定されるとこの特例が解除されて、固定資産税が最大6倍になります。

 家は年月とともに老朽化しますので、相続の際には早めに対応を検討すべきでしょう。また、生前の対策として「土地の境界を確定しておく」「遺言書で家を相続する人を指定する」ことの他に、「家にあるモノで残したいものと処分してよいもの」をエンディングノートなどに書いておくことも、残された家族などにとって大切なことです。

相続放棄しても逃げられない

 「負動産ならば相続放棄すれば良いのではないか」と考える相続人もいるでしょう。確かに、家庭裁判所へ相続放棄の申し立てを行い受理されれば、不動産は相続しなくてすみます。しかし、相続人としての地位を失いますので、不動産だけでなくすべての財産を相続する権利を失ってしまいます。当然、遺産分割協議にも参加できません。それでも放棄するのか検討が必要です。

 さらに、相続放棄しても不動産の「保存」義務は残ります。相続放棄者の相続財産の管理義務は、民法940条第1項に定められていますが、2021年に民法が改正され、2023年4月1日に施行されます。旧民法では「相続放棄者は、その放棄によって相続人になった者が管理を始めるまで、その管理を継続しなければならない」でしたが、新民法では「相続放棄者は、その財産を現に占有しているときは、相続人または相続財産清算人に引き渡すまで、その財産を保存しなければならない」に変わりました。

 つまり言いかえると、「いま現実に相続人が使用も管理もしていない不動産は、保存する義務はない」ということになります。「保存」への変更で、管理の程度が緩和されています。それでも「放棄したから関係ない」とは言えず、誰かに引き継ぐまで一定の責任があることに変わりありません。

 次回は、相続した土地の所有権を手放す制度「相続土地国庫帰属法」について考えます。

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  • 齋藤弘道
  • 齋藤 弘道(さいとう・ひろみち)

    遺贈寄附推進機構 代表取締役、全国レガシーギフト協会 理事

    信託銀行にて1500件以上の相続トラブルと1万件以上の遺言の受託審査に対応。遺贈寄付の希望者の意思が実現されない課題を解決するため、2014年に弁護士・税理士らとともに勉強会を立ち上げた(後の「全国レガシーギフト協会」)。2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。日本初の「遺言代用信託による寄付」を金融機関と共同開発。

  • この連載について / 今すぐできる終活講座

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