2022年春の京都非公開文化財特別公開 重文ずらり 見どころ紹介

京都古文化保存協会の後藤由美子事務局長に聞く

2022.03.29

 春の京都非公開文化財特別公開(京都古文化保存協会など主催、朝日新聞社特別協力)が4月23日から、京都市内の寺社14カ所で開催されます。期間中、日頃は一般に公開されていない文化財などを見ることができます。この春の初参加は白峯神宮と下御霊神社です。去年春に初参加したものの、新型コロナウイルス感染拡大の影響で途中で公開中止になった3寺院も再度公開されます。同協会の後藤由美子事務局長にうかがった見どころを紹介します。

京都非公開文化財ポスター
2022年春の京都非公開文化財特別公開ポスター。写真は大行寺の阿弥陀如来立像(重要文化財)

白峯神宮【初公開】日本三大怨霊の崇徳上皇をまつる スポーツの神様でも有名

 白峯神宮(京都市上京区)は、蹴鞠(けまり)の宗家だった飛鳥井家の邸宅跡地にあり、鞠の守護神・精大明神がまつられています。スポーツの神様として知られ、スポーツをする多くの参拝者が訪れます。2018年のサッカーワールドカップ(W杯)のときには、日本代表を応援する巨大絵馬が設置されました。今年も11月にカタールでサッカーW杯が開幕しますので、注目を浴びそうです。

 創建は1868年です。悲運の帝・崇徳天皇の霊を慰め、幕末の混乱を治めようとした孝明天皇がかなわぬままに他界し、その遺志を子の明治天皇が継ぎました。崇徳上皇は、皇位継承争いに絡んだ保元の乱(1156年)で敗れ、讃岐に流され、その地で失意のうちに没しました。その後、京都で異変が続いたため、崇徳院のたたりと恐れられ、長年語り継がれてきて、菅原道真、平将門とともに日本三大怨霊に数えられています。小倉百人一首の「瀬をはやみ 岩にせかるる滝川の われても末に 逢はむとぞ思ふ」の句でも有名です。

白峯神宮 崇徳上皇像 附随身像
白峯神宮の崇徳上皇像・附随身像(重要文化財)の写本

 今回の特別公開では、崇徳上皇像・附(つけたり)随身像(重要文化財)の写本が展示されます。文化庁の国指定文化財等データベースによりますと、崇徳上皇像は数の多くない鎌倉時代肖像画のうち、さらに遺例の少ない崇徳院像として貴重とのこと。画面も大きく、堂々たる描写が特徴です。

 随身像の2幅は、保元の乱をともに戦った源為義、為朝の像と伝わりますが、確証はなく、制作も室町時代に下ると考えられているそうです。

 実物は京都国立博物館に寄託されています。痛みが激しく修理が必要な状態です。白峯神宮は、特別拝観の拝観料を修復の費用に充てたいと、今回、初めての参加を決めました。

下御霊神社【初公開】天明の大火でも神輿を守り抜いた土蔵の修理のために

 下御霊神社(京都市中京区)は、平安初期の863年に行われたという、記録上最古の御霊会(ごりょうえ)を由緒としています。御霊会というのは、政争などで無実の罪を着せられて亡くなった怨霊をまつることで鎮めて、疫病などの災厄をはらおうとする祭事です。祇園祭も、869年に疫病退散を祈願した「祇園御霊会」が始まりとされています。

下御霊神社 大宮神輿
下御霊神社の大宮神輿

 今回の特別公開では、日頃公開されていない神輿(みこし)4基も展示されます。このうち大宮神輿は、1708年の宝永の大火で同神社が全焼した翌年、東山天皇、霊元上皇らによって寄付されました。台座の長さが約170センチという全国でも最大級の神輿だそうです。天保年間に加えられた四神額、鏡額などの金具は精緻(せいち)を極め、幕末の京都金工の粋を集めた名作といわれています。

 霊元天皇は、死後は同神社にまつれと遺言し、亡くなったあと、ご神体となり、ほかのご神体とともにまつられています。お祭りの日には、自ら寄付した神輿に他の神様たちと乗って、氏子地域を巡行しています。同神社によると、自分で寄付して作った神輿にご神体となって巡行するのは、大変珍しいとのことです。大きな神輿ですから、巡回のときには50人の組を2組つくって交代でかつぐそうです。霊元天皇宸翰御祈願文(しんかんごきがんもん、重要文化財)の写しも公開されます。

 今回、下御霊神社が特別公開に初参加したのも、理由があります。神輿庫(神輿を納める土蔵)の修復に役立てたるためです。神輿庫は宝永の大火の翌年、大宮神輿の寄付を受けたときに、建てられました。約80年後、京都の大半を焼き、同神社もほとんどの建物が焼失した天明の大火(1788)でも、燃えずに神輿を守り抜きましたが、傷みが激しくなっています。クラウドファンディングも実施しています。詳しくは同神社のホームページをご覧ください。

雙林寺 去年没後1200年の伝教大師創建と伝わる

 雙林寺(そうりんじ、京都市東山区)は、桜で有名な円山公園の近くにある天台宗のお寺です。天台宗の宗祖・伝教大師最澄(でんぎょうだいしさいちょう)が唐から請来(しょうらい)した書物や護摩の器具を桓武天皇に献上、桓武天皇はそれらを納めるために寺の建立を勅願し、最澄が創建したと伝わります。日本で最初の護摩祈禱(きとう)道場といわれています。去年が伝教大師没後1200年にあたっていたため特別公開に初参加し、今年も公開されます。

雙林寺 薬師如来坐像
雙林寺の薬師如来坐像(重要文化財)

 ご本尊の薬師如来座像(重要文化財)は、カヤの木の一本づくりで高さ85センチほど。体格はがっしりとしていますが、とても優しいお顔をされています。衣のひだは大きい波と小さい波が交互に刻まれており、9世紀ごろの仏像の特徴を備えています。寺伝では最澄自らの作とされています。左手の手のひらの上には薬つぼを載せており、中には、すべての病を治すという霊薬が入っているといわれています。

大行寺 快慶作の端正な阿弥陀如来立像 大行寺系仏足石(跡)も

 大行寺(だいぎょうじ、京都市下京区)では、今回ポスターに掲載させていただいた、やはり重要文化財の阿弥陀如来立像が公開されます。鎌倉時代の仏師・快慶晩年の作。高さ約82センチで、スマートでスーッとしています。左足のほぞには「巧匠法眼(こうしょうほうげん)快慶」の墨書銘があり、快慶が確立した「安阿弥様(あんなみよう)」と呼ばれる端正な作風の像の秀作です。

大行寺の仏足石
大行寺の復元された仏足石(跡)

 また、境内に復元された仏足石(跡)は、日本にある仏足石4系統のうちの一つ「大行寺系」を代表するものです。足の指に「卍」が入っているのが特徴です。もとの石は1864年の禁門の変で焼け、現在の石は復元されたものですが、残っている30センチ四方の断石2個も見ることができます。 

金光寺 一遍の足跡描いた絵巻 四条大橋の場面

 金光寺(京都市下京区)を創建したのは、念仏を広めたことで知られる平安時代中期の僧、空也。元々は天台宗でしたが、鎌倉時代に当時の住職が時宗の開祖・一遍に帰依したことから時宗に改めました。

 このお寺での注目は「遊行上人縁起絵(ゆぎょうしょうにんえんぎえ)」(重要文化財)です。一遍と、一遍を継承して時宗を発展させた真教(しんきょう)2人の足跡を描いた絵巻です。原本は鎌倉時代の成立とされますが、現存していません。でも、数多くの写本が作られており、金光寺に残るものを「金光寺本」と呼んでいます。

金光寺 遊行上人縁起絵
金光寺の遊行上人縁起絵(重要文化財)

 今回、展示される場面の一つは第3巻第3段。1284年に京都に訪れた一遍と時宗の僧侶たちが四条大橋で念仏札を配っている場面です。たくさんの人たちが押し寄せており、いかに一遍の名が都にまで届き、民衆からの信仰があつかったかが分かります。

 「遊行上人縁起絵」の第5~10巻は真教の伝記で、今回は石川県で洪水の川に入る場面(第5巻)、平泉寺(へいせんじ、福井)の僧に襲われる場面(第6巻)、伊勢神宮に参拝する場面(第9巻)が展示されます。

 空也を追慕していた一遍は、京都で空也ゆかりの寺を訪ねており、金光寺では道場を建てて踊り念仏をしたそうです。でもその場面は金光寺本にはありません。実は全10巻の縁起絵のうち、残っているのは4巻分だけで、その4巻分も一部欠けています。京都の中心部を猛火に包んだ幕末の禁門の変による大火で焼けてしまったのです。

◇2022年春の京都非公開文化財特別公開 4月23日~6月26日
※公開期間は寺社などによって異なります。公開場所、期間、内容につきましては、京都古文化保存協会のサイトをご覧ください。変更になることもありますので、拝観される前には必ずこちらのサイトでご確認ください。

2022年春の京都非公開文化財特別公開にご招待

  • 2022年春の京都非公開文化財公開ポスター
  • 20名様

     2022年春の京都非公開文化財特別公開(京都古文化保存協会など主催、朝日新聞社特別協力)の招待券を20名様に2枚ずつプレゼントします(読者会議メンバー限定)。応募はこちらからお願いします。締め切りは4月14日(木)です。

京都非公開文化財特別公開

 文化財保護の気持ちを持っていただくため、京都古文化保存協会が1965年秋に始めた普及啓発事業です、99年からは春と秋に実施し、期間中、ふだんは間近で見られない仏像などが特別に公開されます。拝観料は文化財の保存や修理、維持管理などに役立てられています。拝観料は1カ所につき、大人1000円、中高生500円。

主催者の京都古文化保存協会から拝観にあたってのお願い

 新型コロナウイルスの感染予防・拡散防止のため、拝観時にマスク着用や手指の消毒等をお願いいたします。受付にて検温を行い、37.5℃以上の発熱がある方は拝観をお断りさせていただきます。また、せきなどの風邪の症状、息苦しさや強いだるさなどがある方は拝観をご遠慮いただく場合があります。密にならないよう、距離を保ちながら、お静かにご拝観ください。状況によっては、入場規制等をする場合があります。

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