<連載> 今すぐできる終活講座

相続人が行方不明で生死もわからない…「失踪宣告」できるのはどんなとき?

もめないけど困る相続⑥

2022.04.13

 「終活」や「相続」について考えていますか? 大切な人や社会のために財産を役立てたいけれど、何からやればよいか迷っているという人も多いのではないでしょうか。そんなあなたのために、遺贈寄附推進機構代表取締役の齋藤弘道さんが今すぐ役立つ終活の基礎知識やヒントを紹介します。相続が発生すると、被相続人の財産は遺言または遺産分割協議によって相続人や受遺者に分配されます。遺産分割協議は法定相続人全員で行わなければなりませんが、このとき相続人のうち1人でもいない場合はどうするのでしょうか。今回は相続人が行方不明や生死不明だった場合の「失踪宣告」について紹介します。

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終活連載)相続人が行方不明_失踪宣告
相続人の居場所や生死がわからない。さあどうする?

失踪宣告の制度とは

 私は相続手続きのお手伝いをしていますが、「相続人のうち1人がいない」ケースが時々あります。多くの場合は、単に連絡を取っていないだけで、戸籍の附票(住所の履歴情報)を取得することで住所が判明します。

 しかし、本当に住所も居所もわからないことがあります。そのような時は、「不在者財産管理人」の選任を家庭裁判所に申し立て、不在者の代わりに遺産分割協議に参加することになります。ただ、住所がわからないだけでなく、不在者の生死が7年間以上わからないときは「失踪宣告」の制度を利用することができます。

 失踪宣告は利害関係者(行方不明者の配偶者、相続人、遺言による受遺者など)が家庭裁判所に申し立てしますが、審判が確定すると、行方不明者は死亡したものとみなされます。この申し立てに何度か立ち会ったことがありますが、相続人の1人を「法律上、死んだことにしてしまう」という何とも重苦しい感じがします。

失踪宣告には2種類ある

 失踪宣告は2種類あります。「普通失踪」と「特別失踪」です。普通失踪は、上記の「不在者の生死が7年間わからないとき」が該当します。特別失踪は、「戦地に行った者」「沈没した船舶に乗っていた者」「その他死亡の原因となる災難に遭遇した者」がその危難が去ってから1年間生死不明の場合に、失踪宣告を申し立てできる制度です。

 ここで「死亡日」が問題となります。普通失踪の場合は「最後に連絡が取れた日から7年経過した日」です。「審判が確定した日」ではありません。申立人は審判確定から10日以内に市区町村役場に失踪の届け出をする義務があり、これにより戸籍に失踪が記載されます。

 戸籍謄本には、このように記載されます(法務省資料より)。

失踪宣告  【死亡とみなされる日】令和4年3月10日

      【失踪宣告の裁判確定日】令和6年8月5日

      【届出日】令和6年8月7日

      【届出人】親族 甲野啓次郎

 特別失踪の場合は「危難が去ったとき」、つまり船舶であれば船が沈んだ時、航空機であれば墜落した時、地震や洪水であれば災害が起こった時が死亡日になります。

 特別失踪と似た制度に「認定死亡」があります。航空機事故や海難事故、震災などで死亡したことは確実だが、遺体が確認できない場合に、その人の死亡を認定する制度です。事故などの取り調べや捜索をした官公庁(警察署、海上保安庁など)が、市区町村に「死亡したものと推定される」と報告します。特別失踪は民法の規定ですが、認定死亡は戸籍法の規定です。

失踪者が生きていた場合、どうなる?

 失踪宣告の審判が確定した後に、失踪者が現れた場合はどうなるのでしょうか。失踪者の生存が確認されたからと言って、自動的に戸籍は元通りになりません。戸籍謄本や住民票を取ろうとしても「死亡」したことになっています。

 本人(失踪者)が失踪宣告されたことを知らずに生活していて、何らかの行政手続きで必要なため、戸籍謄本を取得しようとしたときに、自分が死亡したことになっていることに気づくケースがあるようです。さぞかし驚くでしょうね。

 失踪宣告前の状態に戻すには、家庭裁判所へ失踪宣告の取り消し請求をする必要があります。これが受理されると、失踪者に相続が発生しなかったことになります。

 取り消しによる影響は大きく二つあります。一つは、取り消し前に善意(生きていることを知らなかった)でした行為の効力には影響がなく、逆に悪意(生存を知っていた)の場合には影響があります。例えば、失踪宣告で婚姻関係が消滅し、再婚していた場合に、両者が善意であれば有効ですが、一方または両者が悪意であれば再婚の効力が失われます。

 もう一つは、失踪宣告によって得た財産の返還義務です。死亡によって得られる財産と言えば、生命保険金と相続財産でしょう。返還義務の範囲は「現に利益を受けている限度」(現存利益)と規定されていますが、ギャンブルで浪費したケースを除けば、「生活費に使ってしまった」と言っても、その分だけ自分のお金を使わずにすんだという利益があるので、返還義務は免れません。

 私は「失踪者が生きていた」経験はないのですが、失踪宣告の申し立てをしたのに、何カ月たっても家庭裁判所が審判を確定しないケースがありました。相続人と「なぜだろう」と話していたのですが、1年後くらいに行方不明者が現れたのです。

 家庭裁判所からは、審判を確定しない理由も、行方不明者がいることを知った経緯も教えてもらえませんでした。その行方不明だった相続人に話を聞いたところでは、行方不明とされた期間中に運転免許証の更新をしたそうなので、その事実を家庭裁判所が把握していて、行方不明者の調査を継続していたのかもしれません。

 親戚と疎遠にしている程度では失踪宣告にはなりませんが、住民票の住所地にいない状態が長く続き、行政サービスを受けないでいると、ひょっとするとあなたも失踪宣告されてしまう可能性があります。怖いですね。

 

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  • 齋藤弘道
  • 齋藤 弘道(さいとう・ひろみち)

    遺贈寄附推進機構 代表取締役、全国レガシーギフト協会 理事

    信託銀行にて1500件以上の相続トラブルと1万件以上の遺言の受託審査に対応。遺贈寄付の希望者の意思が実現されない課題を解決するため、2014年に弁護士・税理士らとともに勉強会を立ち上げた(後の「全国レガシーギフト協会」)。2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。日本初の「遺言代用信託による寄付」を金融機関と共同開発。

  • この連載について / 今すぐできる終活講座

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