<連載> ワクチン接種Q&A

ノババックス製ワクチンの特徴は? ファイザー、モデルナとどう違う?

疑問・質問「コロナとワクチン」(19)初の「組み換えたんぱく」型<上> その効果と副反応

2022.04.27

 厚生労働省は4月19日、米ノババックス社製の新型コロナウイルスワクチンを承認しました。5月下旬にも全国で接種が始まる見通しです。4種類目の新型コロナウイルスワクチンになります。効果や副反応、既存のワクチンとの違いなどについてQ&Aにまとめました。

 【連載「ワクチン接種Q&A」】記事一覧はこちら
 【連載「ワクチンを知ろう」】記事一覧はこちら

ノババックス製ワクチンの主要成分

【質問一覧 ノババックス製ワクチンとは・上】

  • (6)3回目にいきなり打っても大丈夫なの?
  • (7)海外での使用実績はどのくらい?
  • (8)いつから打てる? 対象者は? 選べるの?
  • (9)組み換えたんぱくワクチンの仕組みは?
  • (10)なぜ4種類目のワクチンが必要なの?
  • (11)ほかに申請中のワクチンはある?

◆「組み換えたんぱくワクチン」=人工的なたんぱく質+免疫補助剤

Q1: ノババックス社製ワクチンの特徴は、何ですか?

A:「組み換えたんぱくワクチン」と呼ばれる種類のワクチンです。新型コロナウイルスのたんぱく質によく似た、人工的に作ったたんぱく質と、免疫反応を強める免疫補助剤が含まれます。米ノババックス社が開発し、日本では武田薬品工業が製造、販売します。新型コロナウイルスワクチンを初めて打つ場合には3週間の間隔をあけて2回接種します。すでに他の種類のワクチンを2回接種した人の3回目接種にも使われる予定です。

 ノババックス社製ワクチンの主成分は、新型コロナウイルスがヒトの細胞に感染する際にまず結合する、ウイルス表面にある突起状の「スパイク(S)たんぱく質」とよく似たたんぱく質です。ヒトの体内に入ると、免疫が異物として認識し、このたんぱく質を攻撃する抗体を作ります。そして、実際に新型コロナウイルスに接した時には、免疫がより素早く攻撃できるようになり、感染や症状が出るのを防ぐことができると期待されています。

 体内の免疫反応を高めるための免疫補助剤(アジュバント)も入っています。ノババックス社製のアジュバントは、キラヤ科の植物の樹皮から抽出したキラヤサポニンとコレステロール、ホスファチジルコリンといった成分を、ミツバチの巣のような立体形にした物質です。同社は「マトリックスM」と呼んでいます。

 アジュバントの入ったワクチンはすでに多数、実用化されていますが、各製薬企業が独自に異なるアジュバントを開発しており、マトリックスMの入ったワクチンはこれまで実用化されたことはありません。

 ノババックス社はバイオテクノロジー企業です。10年以上にわたりワクチン開発に取り組んでいますが、今回の新型コロナウイルスワクチンが、初めて市販されるワクチンです。

組み換えたんぱくワクチンが作用する仕組み

【質問一覧へ戻る】

◆たんぱく質を「注射する」か「体内でつくらせる」か

Q2: ファイザー社製やモデルナ社製、アストラゼネカ社製との違いは、どんな点ですか?

A: ワクチンの主成分にたんぱく質が使われている点です。また、冷蔵庫で保管できます。ワクチン接種により発症を防ぐ効果は、従来のウイルス株に対しては、他のワクチンと大きな差はありません。オミクロン株に対しては不明です。

 ファイザー社製など既存のワクチン3種類は、Sたんぱく質を作るための遺伝情報、m(メッセンジャー)RNAやDNAが主成分です。打つと、体内の細胞に取り込まれ、体内でSたんぱく質が作られます。一方、ノババックス社製ワクチンは、Sたんぱく質そのものを注射します。厳密に言うと、免疫反応が起こりやすい、Sたんぱく質がヒトの細胞に結合する直前の形状のSたんぱく質がワクチンに使われており、その形が安定するよう、ごくわずかに変更が加えてあり、ウイルスのたんぱく質と同一ではありません。

 既存のワクチン3種類は、体内で免疫反応が起きるために必要な抗原たんぱく質の生産を、接種を受けたヒトの細胞に委ねています。このため、どれだけの抗原たんぱく質が生産されるのかに個人差が生じる可能性があります。一方、ノババックス社製ワクチンは、決まった量のたんぱく質をすべての人に接種するので、体内に入る抗原たんぱく質の量は一定です。ただし、その先の免疫反応には個人差が生じますので、最終的な効果に個人差は出てくるのは防げません。

ワクチンのタイプいろいろ

【質問一覧へ戻る】

◆治験での発症予防効果は90% オミクロン株への効果は下がりそう

Q3: どの程度の効果が期待できますか?

A: 米国とメキシコで18歳以上の約3万人を対象に2020年12月27日~2021年2月18日に実施された臨床試験(治験)では、新型コロナウイルスに感染して何らかの症状が出るのを防ぐ効果が90.4%ありました。中等症や重症の症状を防ぐ効果は100%でした。ただし、臨床試験の時点ではまだオミクロン株が登場していませんでしたので、オミクロン株に対する効果は不明です。効果は下がると予想されます。

 ファイザー社製のmRNAワクチンは、16歳以上の約4万人を対象に実施された臨床試験で発症を防ぐ効果が95.0%でした。モデルナ社製のmRNAワクチンは、18歳以上の約1万4000人を対象にした臨床試験で、発症を防ぐ効果が94.1%でした。アストラゼネカ社製のDNAを使ったウイルスベクター型ワクチンは臨床試験で発症を防ぐ効果が62.1~70.4%でした。

 上記3種類のワクチンの臨床試験もすべてオミクロン株が登場する前に実施されました。いずれも、接種を受けた人たちの実際の状況(リアル・ワールド・データ)から、オミクロン株に対しては効果が落ちることが分かっています。

 これら3種類のワクチンは、Sたんぱく質を標的にした抗原ができるように設計されています。オミクロン株は、Sたんぱく質の遺伝子に30カ所以上も変異が入っているため、ワクチンが効きにくくなっていると考えられます。

 ノババックス社製のワクチンもやはり、従来株のSたんぱく質を標的とした抗原が作られるように、同たんぱく質を主成分としているため、オミクロン株に対しては効果が下がると予想されます。

 一方で、他の3種類のワクチンは、オミクロン株に対しても重症化を防ぐ効果は一定程度、維持されています。ノババックス社製のワクチンも、同様に重症化を防ぐ効果はあると考えられます。

 ノババックス社製のワクチンは、保管方法がmRNAワクチンとは異なります。零下20度以下の冷凍庫で保存する必要はなく、2~8度の冷蔵庫で約9カ月、保管することができます。

【質問一覧へ戻る】

◆治験時の発熱頻度は若干低いが、断言する根拠はない

Q4: 副反応はどの程度ですか? 発熱する頻度が低いって本当ですか?

A:ノババックス社製のワクチンも他のワクチン同様、接種後にもっともよく起こる副反応は接種部位の痛みです。臨床試験では2回目接種後に6割以上の人に起こりました。臨床試験の結果をノババックス社製とmRNAワクチンのモデルナ社製で比較すると、2回目接種後にはノババックス社製の方が、発熱などの副反応の発生頻度が若干、低い傾向にありました。
 ただし、実際の接種後に起こる副反応の頻度は、臨床試験の際とは異なる場合が多くあります(また、副反応の出やすさは年齢など個人差があります。他のワクチンと同様、非常に発生頻度の低い副反応が、今後、大勢に接種が行われて初めて見つかる可能性もあります)。現時点でノババックス社製のワクチンの方が他のワクチンより副反応の発生頻度が低いと断言できるだけの根拠はありません。

 ノババックス社製のワクチンも他のワクチン同様、2回目接種後の方が1回目接種後よりも強く副反応が出る傾向にあります。臨床試験では、2回目の接種後に発熱や疲労感など全身的な副反応が起きた人は69.5%いました。一方、モデルナ社製の臨床試験結果では2回目接種後に全身的な副反応が起きた人は79.4%いました。

 2回目接種後に発熱した人は、ノババックス社製2回目接種後で10%未満、モデルナ社製で15.5%でした。頭痛(ノババックス社製44.5%、モデルナ社製58.6%)や関節痛(22.2%、42.8%)も、ノババックス社製の方が発生頻度が低い傾向にありました。

ノババックス製ワクチンの副反応一覧
モデルナ製ワクチンの副反応一覧

 一方、両社は、3回目の追加接種として接種した後の副反応についても小規模な臨床試験で調べています。3回目接種後の副反応も、どちらも接種部位の痛みがもっとも多く、それぞれ8割以上の人に起きていました。関節痛はノババックス社製(28.6%)の方がモデルナ社製(41.3%)よりも発生頻度が低い傾向にありました。疲労感(ノババックス社製63.3%、モデルナ社製58.7%)や筋肉痛(51.0%、49.1%)などはだいたい同程度の発生頻度でした。両社の臨床試験とも評価しているのが200人未満と小規模なので、データの信頼度は低いです。

 これらは臨床試験でのデータなので、実際に打った場合はまた頻度が変わってくる可能性が大きいです。また、年齢が上になると発熱などの副反応の発生頻度が低くなるなど、年齢や体調などにより副反応の出やすさには個人差があります(年齢や性別による副反応の出方の違いは、連載「ワクチン接種Q&A」の第2回、第4回、第5回などでも詳しく説明していますので、参照して下さい)

 mRNAワクチンによる心筋・心膜炎や、アストラゼネカ社製ワクチン接種後に起こる血栓など、まれに起こる副反応は、実際に大勢に接種して初めて見つかります。ノババックス社製のワクチンも、接種人数が増えれば、まれな副反応が見つかる可能性はあります。また、発生頻度は低いですが、激しいアレルギー反応、アナフィラキシーはどのようなワクチンでも起こるので、ノババックス社製のワクチンでも起こる可能性はあります。

ノババックス製ワクチンの副反応頻度

【質問一覧へ戻る】

◆ワクチン成分へのアレルギーの有無で接種みきわめ

Q5: 他のワクチンを打てない人でも打てる?

A: 他のワクチンを打てない理由によります。他のワクチンの成分に対するアレルギー反応が理由で、その成分がノババックス社製ワクチンに含まれないなら、打つことができます。逆に、ノババックス社製のワクチンの成分に対するアレルギーのある人や、基礎疾患が理由でワクチン接種を控えるように医師アドバイスされている人などは、ノババックス社製のワクチンも打てない可能性があります。医師に相談して下さい。

【質問一覧へ戻る】

「ノババックス製ワクチンとは<下>」はこちら

 新型コロナウイルスやコロナワクチンに関するReライフ読者会議メンバーの疑問や質問に、新型コロナ関連の著書がある科学医療ジャーナリストの大岩ゆりさんが、専門家・研究者らに取材・解説します。

※Reライフプロジェクトでは、読者会議メンバーの皆さんを対象に「ポストコロナ(コロナ後)」の健康管理に関するアンケートを実施中です。ぜひ、ご参加ください。
「ポストコロナ」の健康管理、どうする? 何に気をつけたいですか?

<新型コロナとワクチン関連記事>

  • 大岩 ゆり
  • 大岩 ゆり(おおいわ・ゆり)

    科学医療ジャーナリスト・翻訳家

    朝日新聞社科学医療部専門記者(医療担当)などとして医療と生命科学を中心に取材・執筆し、2020年4月からフリーランスに。同社在籍中には英オックスフォード大学客員研究員や京都大学非常勤講師、早稲田大学非常勤講師を兼任。主な著書に『最後の砦となれ~新型コロナから災害医療へ』、主な訳書にエリック・カンデル著『芸術・無意識・脳』(共訳)がある。

関連記事

あわせて読みたい

おすすめ記事

PAGE TOP