<連載> アンチエイジング最前線
1964年東京五輪のオリンピアンを追跡調査 成長期に骨に強い負荷のかかる運動を
アンチエイジングの最前線――人生120年時代へ 第3部骨編(2)
人はなぜ老いるのか――。その謎が近年、解き明かされつつあります。アンチエイジングの研究は、老化の原因を解明し、健康に過ごせる寿命を延ばすにはどうすればいいのかを探求しています。連載では、研究の最前線や、研究に基づいた、日常生活で取り組める具体的な方法を紹介します。
第3部骨編の第1回では、高齢になると軽い衝撃だけで骨が折れやすくなることや、骨折は健康寿命やその後の生存率に大きな影響をもたらすことを紹介しました。なぜ加齢に伴い、こうした脆弱(ぜいじゃく)性骨折が増えるのでしょうか。NTT東日本関東病院の大江隆史院長(整形外科)に引き続きお話をうかがいます。

高齢になると骨は弱く 骨の成長は一生の限られた時期だけ
高齢になると脆弱性骨折が増える理由を大江さんはこう解説します。「一番大きな理由は、加齢に伴って骨の強度が低くなることです。加えて、ちょっとしたことで体のバランスを崩しやすくなったり、バランスが崩れた時に体勢を立て直せなくなったりして起こります」
年齢を重ねても骨の強度が低くならないようにするにはどうすればいいのでしょうか。「何歳になっても筋トレをすればある程度は増強が期待できる筋肉とは異なり、骨が成長して強度が高まるのは一生のうちの限られた時期だけです。ですから、まずは、骨の強度が強まる時期にできるかぎり丈夫な骨を作ることが一番大切です。次は、年齢を重ねても、できるだけ、若いころの骨の強さを維持するような生活を送ることです」(大江さん)
10代の成長期に骨は大きく成長 影響を与えるのはホルモン
身長の伸び方を見るとわかるように、ヒトの骨は、生まれた直後の乳児期と、10代の成長期に大きく成長します。乳児期の骨の成長に主に影響を与えるのは栄養ですが、成長期の骨の成長に影響を与えるのは成長ホルモンや性ホルモンです。

女性の場合、成長ホルモンや女性ホルモンの分泌が急激に増えるのは初潮前の、乳房が大きくなるといった兆候がみられる「第2次性徴期」です。この時期に身長が大きく伸び、骨が太くなり、骨の中に含まれるカルシウムなどのミネラル分も多くなって骨が強くなります。男性の場合は、女性よりも少し遅れて第2次性徴期が来ることが多いですが、その時期にやはり骨が成長して身長が伸び、骨の強度も強くなります。
男女ともに第2次性徴期が終わると成長ホルモンの分泌が減少するため、その後は骨の強度が上がることはほとんどありません。しかし、20代~40代は、女性ホルモンや男性ホルモンの分泌量は減らないので、第2次性徴期までに確立した骨の強度は保たれています。
女性ホルモンは短期間に激減 男性ホルモンは緩やかに低下
ところが、女性の場合、50歳前後で閉経すると、急激に女性ホルモンの分泌量が減ります。このため、それまで維持されていた骨の強度も急激に低下しやすくなります。
男性も加齢に伴って男性ホルモンの分泌量が減ってきますが、女性の閉経後ほど短期間に激減するのではなく、緩やかに少しずつ減っていきます。このため、男性の骨の強度は、女性ほど急激に低下するリスクは少なく、緩やかに低下していきます。
骨のアンチエイジングは成長期から 骨の強度を上げておく
「性ホルモンの分泌の低下は、誰しも避けることのできない現象です。女性ホルモン補充療法などで性ホルモンを補わない限りは、加齢に伴い、ある程度の骨の強度の低下は避けられません。強度の下がり方を緩やかにするような生活を送ることも大切ですが、それ以前に、第2次性徴期までに確立する骨の強度をできるだけ上げておけば、加齢に伴って骨の強度が多少、低下してきても、脆弱性骨折が起こるほどまでに骨が弱くなるのを防ぐことができます。ですから、骨のアンチエイジングは、成長期から始まると言えます」(大江さん)

1964年に開催された東京オリンピックに参加した選手(オリンピアン)の健康状態や体力などがどう変化するか、半世紀以上にわたり調べられています。日本スポーツ協会が公表した2018年度の「東京オリンピック記念体力測定の総括」では、オリンピアンの骨(こつ)密度についても報告がありました。
骨密度は、骨1センチ四方に含まれるカルシウムの重量です。骨の強度は、骨密度だけでなく、柔軟性など骨の質とも密接に関係していますが、骨密度と骨の強度には相関関係があることから、骨密度は、骨の強度の指標として一般的に使われています。
オリンピアンは高齢になっても骨密度を保ち骨粗鬆症知らず
骨の強度が最も強い20~44歳の健康な人の骨密度の平均値を、若年成人平均値(YAM、Young Adult Mean)と呼びます。YAMに比べて骨密度が70%未満に低下すると、脆弱性骨折のリスクが高まるほど骨の強度が弱っている「骨粗鬆症(こつそしょうしょう)」と診断されます。
2018年度の「東京オリンピック記念体力測定の総括」によると、2016年の検査時に、女性オリンピアンの骨密度はYAMに対して平均96.5%、男性は104.8%と、骨粗鬆症と診断されるほど骨密度の下がった人はいませんでした。この時の検査を受けたのは104人(男性77人、女性27人)で、平均年齢は男性が76.1歳、女性が74.0歳でした。

一連の調査では、元オリンピアンが検査時点でどれぐらい運動をしているのかも調べています。検査時点での運動習慣と骨密度の高さには相関関係が無く、若い時の運動の負荷が、後年の骨密度に影響を与えていると考えられるそうです。骨密度だけでなく、握力や筋肉量でも同じ傾向がみられたそうです。

柔道、サッカー、陸上短距離や跳躍の選手は骨密度が高い傾向
オリンピアンの骨密度は4年に1回、調べられていますが、1997年~2016までの6回の検査で、1度でもYAMの100%以上の骨密度があったオリンピアンの比率を競技別にみると、競技種目によって違いがみられました。柔道やサッカー、陸上の短距離走や、走り高跳び、棒高跳びといった陸上の跳躍、レスリング、陸上のハンマー投げ、水泳の飛び込み、重量挙げといった種目では、YAM100%以上の骨密度がある選手の比率が高い傾向がみられました。


骨を強くするには重力に似た垂直方向の負荷が必要
大江さんは次のように説明します。「ヒトを含めた陸上生活を送る哺乳類の骨は元来、重力のかかる陸上生活に耐えられるだけの強度になっています。逆に言えば、骨の強度の形成には、重力に似た、垂直方向の負荷が必要です。このため、骨に激しい衝撃のかかる柔道やレスリングなどの格闘技や、陸上の跳躍などのように、地面を強く蹴るスポーツの方が、骨を強化する作用が強いと考えられます」
こういった知見に基づき、日本臨床スポーツ医学会は、とくに骨の強度が増し、骨が成長する小学校4年生から中学1年生までは、身体活動全般を増やすだけでなく、高台から飛び降りる跳び箱や高台飛び、ジャンプを伴う縄跳び、といった骨に大きな負荷のかかる運動を採り入れるよう提言しています。
日本臨床スポーツ医学会 「子供の運動をスポーツ医学の立場から考える~小・中学生の身体活動が運動器に与える効果~」


同医学会の提言はスポーツ分野に限定して出されたものですが、もちろん、成長期には栄養バランスの取れた十分な食事も必要です。
次回は、成人後に骨の強度が下がるのを防ぐにはどのような生活を送ればいいのか、すでに骨の強度がかなり低下している場合にはどうすればいいのかを紹介します。
(監修=大江隆史NTT東日本関東病院院長、協力=日本抗加齢医学会、文=大岩ゆり)
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