人はなぜ老いるのか――。その謎が近年、解き明かされつつあります。アンチエイジングの研究は、老化の原因を解明し、健康に過ごせる寿命を延ばすにはどうすればいいのかを探求しています。連載では、研究の最前線や、研究に基づいた、日常生活で取り組める具体的な方法を紹介します。連載の第3部は骨編です。
骨編の第2回では、年齢を重ねたときに軽い衝撃だけで骨が折れてしまう脆弱性骨折を防ぐためには、成長期に骨の強度を上げることが大切だということを紹介しました。最終回は、成人後に気をつけること、した方がいいことを取り上げます。

自治体の検診や人間ドックで受けられます できれば継続的に
「骨のアンチエイジングは成長期に始まっています。では、すでに成人になっている人はもう遅すぎるかと言えば、そんなことはありません」とNTT東日本関東病院の大江隆史院長(整形外科)は言います。
成人は何ができるのでしょうか。「現状で骨の強度がどれぐらいあるのかによって、対応は変わってきます。まずは、自分の現在の骨の強度を知るために、骨密度検査を受けて下さい。閉経時期の50歳ごろに検査し、その後も、継続的に調べるのが理想的ですが、それより年上でも遅すぎることはありません。自治体によっては骨密度検査を含めた骨粗鬆症(こつそしょうしょう)検診を実施しているところもありますし、人間ドックのオプションとして受けられるところもたくさんあります」(大江さん)
受診率の高い自治体の方が骨折の手術や要介護率が低い傾向
公益財団法人骨粗鬆症財団が厚生労働省の公開しているデータを使って分析したところ、2015年の都道府県別の骨粗鬆症検診受診率は、一番高い栃木県でも14.0%と、受診率が40%前後のがん検診に比べ、かなり低いことがわかりました。骨粗鬆症財団が、大腿(だいたい)骨近位部の骨折に対して人工骨頭挿入術という手術を実施した件数を、40歳以上の人口10万人あたりで都道府県別に計算し、骨粗鬆症検診の受診率との相関関係をみたところ、受診率の高い自治体の方が、手術件数が少ない傾向がみられました。要介護率でも同様の傾向がみられました。こういったデータからも、骨密度検査を受けることの重要性がわかります。



骨密度は若年成人と比較を 同年代と同じくらいと安心しないで
細かな表記は病院ごとに異なりますが、骨密度検査の結果では必ず下記の図のように、同年代の平均値との比較と、若年成人平均値(YAM、Young Adult Mean)との比較の2種類の結果が表記されています。「大切なのは、YAMと比べて自分の骨密度がどれぐらいか、という点です。同年代と同じぐらいだからと安心はできません。とくに年齢が上になればなるほど、同年代と同じということは、それだけ骨密度が下がってきていることになります」と大江さんは注意喚起します。

骨密度がYAMの70%未満の場合や、骨密度がそれより高くても、軽い衝撃で骨折したことがあったり、身長が縮んできていたり、背骨が曲がってきているなど、医師が臨床的な状況から骨の強度が低下していると判断する場合には、骨粗鬆症と診断されます。
骨粗鬆症は治療できる 骨密度が低くても手遅れではありません
骨密度を調べた時点ですでにYAMよりかなり低くなっていても、手遅れではないと大江さんは話します。「最近10~20年で、とてもよく効く骨粗鬆症の薬が次々と登場し、骨粗鬆症は治療できる病気になりました」
骨に作用する仕組みの異なる薬が、それぞれ飲み薬から注射する薬まで色々あります。骨粗鬆症にも色々なタイプがあります。糖尿病やリウマチなど、別の病気の影響で骨粗鬆症になりやすい人もいます。骨粗鬆症に詳しい整形外科などの医師にきちんと診察してもらった上で、どのような薬を使うのかを相談して下さい。
女性は60代2割、70代4割、80代6割強が骨粗鬆症 治療は2割
東京大学の研究チームが2005年に始めた、骨や関節、筋肉などの健康状態について継続的に調べる大規模疫学調査「ROADスタディ」によると、大腿骨近位部の骨密度の検査結果から骨粗鬆症とみられた人は、60代女性の22.2%、70代女性の42.9%、80代女性の65.1%いたそうです。腰のすぐ上にある脊椎(せきつい)椎体、「腰椎(ようつい)」の骨密度から骨粗鬆症とみられる人もおり、大腿骨と腰椎の検査を合わせると、全国に約1280万人(女性980万人、男性300万人)の骨粗鬆症患者がいると推計されました。しかし、日本骨粗鬆症学会などによると、骨粗鬆症の患者のうち、治療を受けている人は2割程度とみられるそうです。

「骨折が起きてからでは治療も大変ですし、生活の質も大きく低下します。そうなる前に、脆弱性骨折が起きない程度に骨の強度を上げておくことが大切です」と大江さんは訴えます。「治療薬を使えば、骨密度を十数%上げることができます。約5年間という長い時間はかかりますが、確実に上がります。残念ながら閉経後は、運動や食事では骨の強度を大きく上げることはできません」
骨は新陳代謝しています 強度の維持には食事や運動が大事
ただし、骨の強度を低下させずに、若いころの強度をできるかぎり維持するには、食事や運動への配慮は欠かせません。なぜ食事や運動が大切か。それは、骨の新陳代謝と関係しています。
骨の強度が確立するのは成長期ですが、その時期にできた骨が一生そのまま体内にあるわけではありません。皮膚や爪などの細胞が一定の周期で置き換わって新陳代謝しているように、骨も新陳代謝しています。「破骨細胞」と呼ばれる細胞が古くなった骨を壊し、そこに「骨芽細胞」と呼ばれる細胞がくっついて、新しい骨を作ります。古くなった骨が壊されるのを「骨吸収」、新しい骨ができるのを「骨形成」と呼びます。

吸収と形成の量や質が同じなら骨の強度は変化しませんが、吸収よりも形成の量や質が低下すると、骨の強度が下がってしまいます。吸収に形成が追い付かない理由としては、加齢に伴って性ホルモンの分泌が減ることや、カルシウム不足、ビタミンD不足、運動不足などがあります。
骨の材料カルシウム 骨の形成に欠かせないビタミンD
骨の材料となるカルシウムは、一部は壊された古い骨のカルシウムをリサイクルしていますが、それだけでは足りないため、食事などでカルシウムを補う必要があります。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」(2020年版)によると、カルシウムの摂取推奨量は男性の場合、18~29歳までが1日当たり800ミリグラム、30~74歳が750ミリグラム、75歳以上が700ミリグラム、女性は18~74歳までが650ミリグラム、75歳以上が600グラムとされています。日本人の成人の平均カルシウム摂取量は推奨量を下回っています。

また、ビタミンDも骨の形成には欠かせません。ビタミンDは、紫外線を浴びると体内で作られますが、美白などの理由で日焼け止めや日傘を常用している人は、積極的に食事やサプリメントで補う方がいいと考えられます。ビタミンDの摂取目安量は男女ともに18歳以上は1日当たり8.5マイクログラムです。
カルシウムやビタミンDの多く含まれる食品は、下記を参考にして下さい。なお、養殖のサケの場合、エサに何を食べているのかによって、含まれるビタミンDの量に大きな差があります。

骨粗鬆症財団のリーフレット「ビタミンDを多く含む食品/ビタミンKを多く含む食品」

運動は転倒しないようにバランスを保ち、体力を維持する効果も
重量に加えて、運動によって骨に一定の刺激が加わることで、骨の形成が促されます。逆に、刺激が足りないと、骨形成が減り、骨破壊の方が多くなってしまいます。
骨粗鬆症財団では、骨粗鬆症を予防したり、骨粗鬆症による腰や背中の痛み、背中の変形を和らげたり、転びにくくなるような体操を紹介しています。自宅でできるものばかりです。


大江さんは、運動することの効用は、骨の強さの維持にとどまらないと言います。「脆弱性骨折は、転倒やしりもちなど、ちょっとバランスを崩して、というきっかけが多いのですが、日ごろから運動して体を動かすことにより、バランスを保つ能力や体力を維持できます。高齢の方は、いきなり飛んだり跳ねたりすると、ひざや足首を痛める恐れもありますので、無理をせず、できる範囲で運動して下さい」
新ツール誕生 「ロコモ年齢」が5分で分かる スマホで測定を
日本整形外科学会と博報堂で設立し、大江さんが委員長を務める「ロコモ チャレンジ!推進協議会」は、スマホを使って自分の「ロコモ年齢」が約5分で分かる測定法を開発しました。
日本整形外科学会 ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト「移動の健康度チェック ロコモ年齢」
「ロコモ」とは、関節など運動器の障害により移動機能が低下した状態のことです。「ロコモ年齢」は、「立つ・歩く・座る・走る」といった身体を動かす能力(移動機能)を、約8千人のデータを基に、年齢という尺度で算出します。
大江さんは、「骨粗鬆症やそれによる骨折はロコモの大きな要因です。ロコモ年齢を測定して、自分の移動に関する健康度を知ってほしい。このツールでは、どのように体を動かせばいいかや、それぞれに合ったおすすめの運動法も紹介されますので、参考にしてください」と話しています。
(監修=大江隆史NTT東日本関東病院院長、協力=日本抗加齢医学会、文=大岩ゆり)
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