内館牧子さん「人生を2度生きたいという思い、みなさんに」Reライフ文学賞講評

第1回Reライフ文学賞 授賞式抄録

2022.05.26

 3月にオンライン配信された朝日新聞Reライフフェスティバル2022春で、第1回Reライフ文学賞の授賞式が開かれました。特別選考委員をつとめた作家の内館牧子さんは、選考全体を振り返り、「人生を2度生きたいという思いがみなさんにあると感じました」などと講評を寄せました。また6月5日から募集が始まる第2回Reライフ文学賞について、「まず書いてみようと思うこと。ぜひ熱量を感じさせる作品を応募してほしい」などと話しました。

 内館さんの講評の抄録を掲載します。

Reライフ文学賞ロゴ

<目次>

内館牧子さん講評「熱量が自身のReライフを実現させる」

 Reライフ文学賞長編部門、6編最終に残りましたものを丁寧に読ませていただきました。作品を読んで何よりも感じたのは、Reライフ、つまり人生を2度生きたいという思いが、どんな人にもあるのだ、ということでした。今回最終ノミネートに残った人は、50代半ばから80代と年齢としては高めですけれども、「Reライフしたい」という思いは、おそらく20代、10代の若いうちからあります。

Reライフ文学賞の第一回受賞作発表
特別選考委員をつとめた作家の内館牧子さん

内館さん自身の「Reライフ」

 私自身も20代のときに、「このままではいけない。なんのために生まれてきたかわからない。何か役にたちたい。何かできないか」と、痛切に思いました。一流企業に勤めていて気楽ではあったのですが、気楽ということが決していいことではないというのは、日に日に感じていました。「これではいけない。何とかReライフしたい」と思ったわけです。「どうやったらできるだろうか」と考えたとき、自分が一番得意にしているものを武器にすべきだと思ったんですね。20代後半でした。

 自分が他の人より少しはよくわかっていて得意なものは何だろう、と思うと、大相撲しかなかった。それで北海道から沖縄まで、雑誌社や新聞社に「私を相撲記者で使ってくれ」と電話かけました。全部断られました。でも相撲しかない。考えた結果、まげを結う床山になろうと思ったのです。特殊な技術を持っていれば、いいReライフになるだろうと考えたんですね。
 すぐに日本相撲協会に電話をしました。「私を床山として使ってください」。そしたら電話に出た人は親切で、丁寧に教えてくれた。「取り組み前の力士に女の人は触れないのですよ」って。私はわかっていましたから、引っ込んだんです。「大相撲は私のReライフにはならないな」と思いました。

 一生懸命考えたときに気がついたのが、文章を書くのが速いっていうことでした。誤解されたくないのは、うまいんじゃない、速いんです。要は字を書くのが速い。文章が速く書けるっていうことを武器にできないだろうか、と本気で考えました。それで脚本家の養成学校のコマーシャルを見て、すぐにその学校に行きました。そこで初めてシナリオライターが作家の一種だと気づくぐらいでしたけれども、そこで学んだことがきっかけでテレビドラマの脚本を書くことになりました。

 シナリオライターになりかけのとき、橋田壽賀子先生の下で資料整理をやっていたんです。そのときに橋田先生はいろんなことを教えてくださった。今もって自分の気持ちの中に物を作る上で残っているのは「出し惜しみをしないのよ」と、言われたこと。何かを書くときに、この話はいい話だから後に持っていこうとか考えないで、どんどん書きなさいと教わりました。大きな影響を受けました。

  もう一つ、60代になってから、もう1回Reライフを考えざるを得ないことがありました。私はピンピン元気で丈夫な人間だったのですが、60歳のときに突然岩手県の盛岡市で倒れちゃった。心臓と大動脈の急病に襲われました。急病というのは突然来る。ラッキーなことに、カリスマ外科医が盛岡にいらして、13時間にわたる手術と6時間にわたる手術を2回やって、計4カ月入院して臨死体験までしましたが、普通は死ぬって言われているところを、皆さんのおかげで助かって生還しました。

 そういうこともありましたので、Reライフっていうのは次の世代に何かを伝えることではないだろうかと、病み上がりの身で思ったのです。それで、母校の武蔵野美術大学でシナリオの演習を持つことにしました。他にも、できるだけシナリオや脚本の書き方、それから自分が書いているエッセーとか小説とか作詞とか何かを書くということについて、橋田先生に教わったことを含めて、次の世代に伝えたいと思いました。大学では11年教えたのですけども、この度、私の教え子の中から太宰治賞が出ました。一生懸命ちゃんと教えて一生懸命ちゃんと聞いてくれると、こういうことがあるんだなと、あのとき私は本当にReライフという言葉を思ったんですね。こういう生き方ができてよかったと思いました。

 若いうちのReライフは、まだまだ先があるから生き直さねば、60代とかそれ以上になってくると、もう先がないから生き直さねばっていうことだと思う。「まだ」と、「もう」とこの二つは違うと思うかもしれませんけれども、全然違いません。若い人たちが、まだまだ先があるから生き直そうというのと、老いた人が、もう先がないから生き直そうというのは違うようですけど、違わないです。一番大事なのは、結局Reライフに対する熱量です。20代であれ60代以上であれ、熱量がなければ、どんなに才能があろうが体力があろうが、花は咲かないのだと私は実感として思っています。

最終選考の6作品「さすがの熱量」

 今回、最終選考に残ったものを丁寧に拝読しましたけれども、どれもさすがの熱量でした。

 受賞作について簡単に講評させていただくと、杉村眞知子さんの「Reスタート 寄りそう日々」。これは読者会議の方々が選んでくださっただけあって、東日本大震災とか介護とかの話を深刻にならずに書いている。非常にここは良かったと思います。例えば、「使えるだけの顔の筋肉を使って微笑(ほほえ)んだ」とか。生きていると、こういったことってあります。使えるだけの筋肉使って一生懸命笑うっていうことが読みながらわかる。よく書けていると思います。ただ、この後また応募なさることを考えて1点欲を言えば、どうも登場人物の気持ちが、いまひとつわからないところがある。

 エッセーであれ小説であれコラムであれ、全部人間が出てくるわけです。例えば男友達に車を運転させて、神奈川の家に両親を連れて行きます。それはわかるのですけれども、主人公にも男友達にも、もうちょっとそこの部分の心理描写が欲しい。どうしてその男友達に頼もうと思ったのか。その男友達はなぜそれを引き受けたのか。そのあたり、読者が納得するように書いた方がずっと面白い。創作という意味では大事だと思います。結局何を思っているかが、人間を動かすわけです。だから先に動きを書いてしまうと成立しない。必ず心があって動く、動いてしまってから簡単に心を描写するというのとはやっぱり違うと思います。そこの部分が残念だったという気はいたしました。

 それからReライフ読者特別賞が今回出たわけですけれども、室土猩(むろと・しょう)さんの「春を待つ手紙」。やはり非常に完成度が高かった。ミステリーの要素もあって面白く拝読しました。父母息子娘の手紙をやりとりから、その裏にある環境がよく浮かび上がってくる。文章もうまい。認知症の話の入れ方も非常によくできているなと思いました。

 ただ手紙の途中で出てくる業務日誌がどうも私は読んでいて理解ができなくて、果たして要るものなのかとも思いました。ですから応募する前に、これはどういう意味なのか、読者が納得できるようにさせることが必要だと思います。ここまで、室土さんは書けるのですから、やっぱり構成をもう一工夫して詰めて練っていくと、もっと面白くなるという気がしました。

 それから最優秀賞の鷹栖律子さん「ハルジオンの花」。これはもう圧倒される作品でした。本当に素晴らしかったと思います。文章も構成も見事なのです。鷹栖さんは、大きな病気をした後、乳児院から里子を引き取って里親になった。実のお子さんもいるのですけれども、その決断、そしてそれを実行したこと、そしてやりきったこと。これはまさしくReライフそのものだと思います。大変長い作品ですけれども、飽きさせずに最後まで読ませた。文章力とか構成力もさることながら、やっぱり親のない子供を、里親として育てようというご自身のReライフへの熱量が出ていたと思います。

 物語でもエッセーでも何でもそうですが、文章そのものじゃなくて、文章と文章の間の行間が、実はすごく物を言うことがあるわけです。だから必ずしもつらい苦しいって叫んで書くより、書かないのに行間がそれを訴えていたことが大変高度なテクニックで、鷹栖さんの作品も、今回最終ノミネートに残った作品も、行間がかなり物を言っているのが多々目につきました。

 親のない子を里親として育ててReライフを全うされる。その熱量が半端なものではないことが、訴えかけてきました。もう一つ、本当の母親のことですね。つまり里子を産んでくれた母とのこと。これは切れないものだっていう一文があるんです。これも、そういう圧倒的な熱量、里親としての愛情も含めての熱量の中で、産んでくれた母のことはやっぱり切れないものだという一文が、非常によく効いていました。切ないな、っていうのもよく出ていたと思います。

 1点問題点を挙げるとするならば、もったいないぐらい話が多い。100枚は長いものですけれども、100枚にしても50枚にしても、とにかく話が多いのはもったいない。もっと絞り込むと、さらに厚みが増して訴える力が大きかったという気がします。ご自身が80代だと伺ったときに、本当に心技体がきちっとそろった横綱だと思いました。今日お目にかかってもそう思います。

Reライフ文学賞受賞式
特別選考委員の内館牧子さん(右)と、長編部門最優秀賞を受賞した鷹栖律子さん=いずれも東京都内、伊藤菜々子撮影

 最終選考に残った他の3点にも触れておきたいと思います。この後、第2回に応募してくださる方や、ちょっと書いたことないけど書いてみようかな、って思う人たちは、もしかしたらば参考になるかも知れないと思ったんです。

 最終に残った、たかしな奈緒さんの「箸より重いもの」。56歳だと書いてあるんですけども、非常に文章が若くて、ビビッドなんですね。私はてっきり30代かと思った。これはあの、売れない作家のつらさ、売れない作家がアルバイトでしのいでいく日々、そして恋模様がよく描けています。例えば、打ち合わせの時間を昼に指定されて、「よし、ランチごちそうになれるぞ」って思っていたら時間が変えられてしまった。ランチなくなっちゃった、って、こういうあたりがすごくリアルですね。これは作り上げるものではなくて、ご自身が経験して書いたものなのだと思う。こういったものが大変リアルで読んでいて面白かった。

 一番気になったところは、その中に売れっ子作家の男の人が出てくるんです。その売れっ子作家がどうして主人公の女性を好きになったのかがよくわからない。これは大事なところです。なんで好きになったのかは、やっぱり読者を納得させるように、きちっと書かないといけない。前にも申し上げました通り、人の行動は、必ずその行動を起こさせる心理があるわけです。その心理を書かないと、どうしても納得しない。そしてなんでこうなっちゃうの、わかんないって終わってしまうものが、どうしても多々見られます。

 それから、乾達也さんの「その男ZUMBAを踊る」。この方も80代ですけれども文章がやっぱり若くって。ご本人が心筋梗塞(こうそく)だとは思わないで手遅れになるところだった、九死に一生を得た。その後からのことを書いているのですけれども、奥様のこととか、家にやってくる動物のこととか、ズンバが踊れることとか、どれもこれもすごく面白かった。

 今回ふと思ったのは、このズンバもそうですけども、エッセーとして自分のこととして書くと、どうしてもそれから先に跳べない。もったいないのです。読んでいて。いっそ小説を書くという方向も考えてみたらどうかと思った。つまり、第2回のリライフに応募する。自分のことでも、もちろんいいです。だけど今度それを小説にできないだろうかと考えてみると、また違った力がつくような気がします。小説というのはご存じの通り、全部作り物です。映画のシナリオとか小説とかにして、作り物っていうものを1回短いものでもいいから作ってみると、ずいぶん力が大きくなるんじゃないかな、という気がしました。

 惠村順一郎さんの「ゆっくり歩こう あるパーキンソン病新聞記者」というのは非常に異色で、面白い作品でした。惠村さんの名前を拝見したときに、あれ、これもしかして、って思ったんですけど、読み進めて、やっぱりそうかと思ったんですが、テレビ朝日の報道ステーションで鋭くも温かいコメンテーターをなさっていた方です。私の周囲でも人気でした。最前線にいらっしゃった方がパーキンソン病によって、退かざるを得なくなった。周囲の想像を超えるほどの悔しさ切なさ、やるせなさがあったと思う。この作品がReライフとしてよく書けているのは、妻と家族によって生きることを正面から向かい合うという決意です。その決意を家族もご自身もわかっている。そこがきっちりと書けている。熱量で言えば、妻と家族の「夫のためにお父さんのために」という熱量によって、ご本人が生き直す。面白く拝見しました。

 もう一つ欲を言えば、大きな病気をしててっぺんから、もしかしたら本人にしてみると、奈落の底に落ちたかもわからない、そのときの喜怒哀楽、悔しさとかっていうのがやっぱりちょっと薄いのですね。妻や家族に対する感謝の念や愛情っていうのが非常に大きく出ているんですけれども、せっかくこれだけ書けるんですから、自分の壮絶な思いをもっと原稿用紙にぶつけたらば、これは非常に面白い本になると思いました。

第2回文学賞の応募者へのアドバイス

 次回また応募しようとか、書いたことないから書けないとかいう人がいるんですけど、書いたことないのに書けないと自分で決めるのは非常に危険です。ですから、まず書いてみようと思うことです。そして書いたらすごく大事なことがあって、それは削ることです。

 例えば、100枚書こうと思ったら、120枚書いて20枚を削るんです。この20枚、意外と削れるものです。20枚結局余分なことだったんですね。私は週刊誌に毎週約2200字の文章を書いています。これはだいたい2600から2800字書いている。ワーッと書くとそうなる。そして後で600を削るんです。で2200にする。そうするとやっぱり締まる。いらないところがいっぱいだったなという気がします。今度、応募なさる方もぜひ長く書いて構わないから、その後いらないところを丁寧に見て、削っていく。それだけでもずいぶん文章は締まると思います。

 ぜひ、熱量を感じさせる文章を作品を応募してほしいと思います。文芸社という名前の通った出版社から本になるのは本当にそうそうあることじゃありませんから、ぜひそれを目指して書いていただきたいなと思います。

 最後になりますがしつこいようですけど。文章力より熱量です。そしてその熱量っていうものがご自身のReライフを実現させると思っています。次回も楽しみにしていますので、ぜひ応募してください。

(2022年3月5日、授賞式で)

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 Reライフ読者賞の「Reスタート 寄りそう日々」 、Reライフ読者特別賞の「春を待つ手紙」は、Reライフ.netでそれぞれ公開します。

 長編部門最優秀賞の「ハルジオンの花」は、文芸社から年内に書籍として出版される予定です。短編部門の入選作品も、合同で書籍化されます。

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  • 内館牧子
  • 内館 牧子(うちだて・まきこ)

    脚本家・作家

    1948年秋田市生まれの東京育ち。武蔵野美術大学卒業。三菱重工業で13年間のOL生活後、’88年脚本家としてデビュー。NHK朝の連続テレビ小説「ひらり」、NHK大河ドラマ「毛利元就」、「私の青空」など作品多数。週刊朝日でコラム「暖簾にひじ鉄」も連載中。相撲に造詣が深く、女性で初めて横綱審議委員に就任したほか、東北大学相撲部総監督なども務める。『終わった人』『すぐ死ぬんだから』に続く小説『今度生まれたら』を2020年12月に刊行。

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