生前贈与の税制はどう変わるのか 現行制度の問題点と予想される改正内容

人生100年時代を生きるキーワード:生前贈与

2022.06.27

 

相続放棄の改正のポイント
(デザイン:浅井有由)

 

 「生前贈与」とは、相続する予定の財産を元気なうちに子や孫に贈与することをいいます。

 現行の制度では、生前贈与を活用することで自分の財産を減らし、子の相続税をおさえる方法がとられていますが、近年、この制度が改正される動きが出ています。

 現行制度で起きている問題、そして予想される改正内容まで整理し、上記法改正によって実際に変わるであろう点を解説していきます。

<目次>

1.なぜ生前贈与が改正されようとしているのか?

 生前贈与に関する税制改正が検討されている大きな理由は「格差の固定につながる」というものです。

 現行制度が相続財産が多いほど有利に働く仕組みとなっており、親世代が裕福であるほど、その財産を受け継ぐ子世代や孫世代がより多くのメリットを受けられることになります。

 結果として、親世代の格差が子世代・孫世代ではさらに広がる形となり、前述の「格差の固定」につながります。

 以降では、法改正のこれまでの経緯が分かる資料に基づいて、問題を掘り下げます。 

①現行制度の基本的な仕組み

 個人資産を子や孫の世代に受け継ぐときには、「贈与税と相続税の二本立て」で課税されます。

 生前に財産が移った場合は贈与税、死亡を機に移った場合は相続税……というように、移転のタイミングごとに税金を払う仕組みです。

 また、税目(=税金の種類)の呼び方が分かれるように、税額はそれぞれ異なる方法で計算されます。

比較項目 贈与税(暦年贈与) 相続税
基礎控除
(非課税になる範囲)
110万円
※暦年贈与の場合
3,000万円+600万円×法定相続人の数
税率 10%~55%
※基礎控除後の課税額に応じて変わる
10%~55%
※同左
最低税率ではなくなるライン 基礎控除後の課税価格が200万円を超える時 基礎控除後の課税価格が1,000万円を超える時
最高税率が課せられるライン 基礎控除後の課税価格が4,500万円を超える時
※受け取るのが子・孫等の場合
基礎控除後の課税価格が6億円を超える時
補足 相続の開始時点からさかのぼって3年分の贈与は相続税の課税対象になる(=持ち戻し) 持ち戻した贈与価格のうち、支払い済みの贈与税は相続税から控除される

 

 贈与税と相続税を考えるときに重要となるポイントは、

・税率や基礎控除(非課税となる額)の違い
・補足部分にある「贈与財産の持ち戻し」

の二つです。

▼税率や基礎控除(非課税となる額)の違いについて
贈与税は相続税と比較して税率が高く、また非課税となる基礎控除の額も低く設定されています。これは孫や子に、全額生前贈与することを防ぐためです。
そのため、基本的には相続税を支払った方がお得となりますが、次に説明する「持ち戻し」を意識することで相続税を減らすことができます。

▼贈与財産の持ち戻し
「持ち戻し」とは、贈与された財産の一部を、相続税の対象に含めることを言います。
具体的には、相続開始(=親などが死亡した時点)からさかのぼって3年以外に贈与された財産は、相続税の課税対象となります。ただし、すでに贈与税を支払っている場合は控除されますので、二重に税金を支払う必要はありません。
また、持ち戻しの対象となるのは3年以内の贈与財産であるため、5年、10年と、死亡する以前に長期間贈与をしていた場合、その分は相続税の持ち戻し対象から外れます。
仮に2,000万円を100万円ずつ、20年間にわたって贈与し続けた場合、単純に1,700万円は課税を免れると考えることができます。

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②現行制度が引き起こす問題

 今の仕組みから起きる問題として、富裕層ほど生前贈与に積極的になり、そうでない階層では逆に消極的になるということがあり、結果として子や孫世代の格差につながるということがあります。そのロジックは以下の通りです。

▼相続財産が多い場合
● 相続開始時で多額の課税が避けられず、累進税率をなるべく下げたい
● 生前贈与をして相続財産を減らせば、将来の課税価格を減らせる
● 少額ずつ分割で贈与したり、特例を利用したりすれば贈与税もおさえられる
● 相続人(子や孫)にとっても、学費や結婚資金などの援助を受けやすい

▼相続財産が少ない場合
● どのみち相続税はかからないか、かかったとしても少額
● 将来に向けた税対策は不要で、生前贈与のメリットが薄い
● 無理に生前贈与すると、高い税率&低い基礎控除額のせいで損になる
● 相続人(受贈者)にとっては、学資などの若年期の援助が受けにくくなる

 若い時期に親世代の資産から援助を受けられるかどうかは、教育・文化水準に直結し、間接的には成長後の収入へと影響を及ぼします。

 結果として、親の経済力の差が子にも受け継がれるという、「格差の固定化」が進行するという考えです。

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③諸外国との生前贈与制度の比較

 相続税と贈与税のタイミングを分けて課税する制度は、諸外国と比べても特徴的です。

 2018年の第18回税制調査会の資料では、三つの国+戦後間もない頃の日本の税制(シャウプ税制)と現行制度との比較が下記のようになされました。

制度 概要 贈与財産の持ち戻し期間
日本の現行制度 贈与・相続の計2回にわたり、相続人の取得額に応じて課税 相続開始前の3年分
シャウプ税制 相続開始時、贈与財産と相続財産の合計額に対して課税 制限なし
※贈与時期に関わらず全て課税対象
米国の現行制度
ドイツの現行制度 相続開始時、贈与財産と相続財産の合計額につき、当事者の関係性に応じて課税 相続開始前の10年分
フランスの現行制度 相続開始前の15年分

 

 各国の比較でのポイントは下記の二つです。

 ひとつは、日本以外の国は、いずれも相続税と贈与税を一体のものとして、相続開始時点のタイミングで課税している点です。

 つまり、財産を生前に譲ったかどうかは、最終的な納税額にはほとんど影響しません。

 もうひとつは、贈与財産の持ち戻し期間(=相続税の課税対象となる期間)が無期限、もしくは日本よりもはるかに長い点です。

 そのため、日本のように生前贈与を使って相続税の対象となる財産を減らすメリットは大きくありません。たとえばドイツやフランスで節税を狙って生前贈与を始めるとすれば、親世代もまだまだ現役と言えるうちから計画しなければなりません。

 以上の仕組みから、諸外国では生前贈与によって節税を行うメリットが薄いことになります。裏を返せば、誰でも、いつでも、コストに注意を払うことなく生前贈与できるのです。

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2.今後考えられる税制改正の内容について

 令和4年度税制改正大綱によれば、政府は「資産移転時期の選択に中立的な税制の構築」に向けて本格的な検討を進めるとしています。

 ただし、検討案について具体的に紹介されているわけではありません。

 そのため現時点ではどうしても予想にとどまりますが、税制調査会の動向などを踏まえると、今後は以下のように、富裕層への課税強化という方向で改正が進むと考えられます。

①贈与財産の持ち戻し期間の拡大

 確実視されているのは、相続税の課税対象となる贈与財産の範囲、つまり持ち戻し期間の拡大です。
前項で紹介したフランスやドイツ、アメリカの例のように、贈与財産を現行の3年よりも広い範囲までさかのぼって、相続税の課税対象に含めるという考えです。

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②贈与税の基礎控除(非課税枠)の廃止または低額化

 分割贈与による節税を可能にしているのは、毎年の贈与税(暦年贈与)に、少額ながら非課税となる基礎控除が設けられている点です。

 基礎控除を超えない額を毎年贈与することで贈与税の支払いを逃れ、かつ相続税の対象となる財産を減らしているわけです。

 そのため、税率をそのままにして、基礎控除をなくす、あるいは極端な低額化を図るだけでも、税制の公平性を取り戻せることが期待できます。

 持ち戻し期間の拡大と組み合わせることで、資産移動のタイミングを自由に見定められる「相続税と贈与税の一体化」が実現するでしょう。

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③相続時精算課税の一律適用

 高齢者から若者への早期資産移転を促す試みは、今に始まったことではありません。2003年(平成15年)には、「相続時精算課税」と呼ばれる課税制度が贈与税に導入されており、申告時に任意で選択できます。

 相続時精算課税は、これまで贈与された財産にかかる贈与税を相続の開始時に一括で支払うというものです。財産をもらった際の贈与税を、相続時にまとめて払うというイメージを持つとよいでしょう。

▼相続時精算課税の特徴
● 親世代から子・孫ら直系卑属への贈与にのみ適用可
● 基礎控除の枠が大きい
● 相続開始時、「制度を適用して以降の贈与財産」を全て持ち戻して計算

 現行の相続税の仕組みと組み合わせることで、諸外国のような「贈与財産と相続財産の合計額に課税する」という制度を実現することができます。

 税制調査会の議事録によると、実際に「必ずしも十分に活用されていないという状況」であることから、従来の贈与税の課税方式(暦年課税)そのものを廃止し、相続時精算課税を一律適用するケースも考えられます。

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3.その他、相続や贈与にまつわる税制改正のまとめ

 令和4年度改正において、生前贈与に関わる改正がまったくなかったわけではありません。最後に、相続税を含めた本改正による変更点を四つ紹介します。

①住宅取得等資金の非課税措置【非課税枠の縮小など】

 もっとも影響が大きいのは、子や孫のマイホーム費用を提供する時に使える「住宅取得等資金の非課税措置」です。その内容は、以下の5点に及びます。

▼適用期限の2年延長
法改正後の申請期限は2023年(令和5年)12月31日です。

▼非課税枠の見直し
契約時期と対価に含まれる消費税の税率に応じて最大3,000万円とされていたところ、省エネ等住宅は1,000万円、左記以外の住宅は500万円に統一されます。

▼築年数要件の見直し
適用対象となる既存の住宅用家屋について、取得日以前の20年以内(耐火建築物は25年以内)に建築されたものとする「築年数要件」が廃止されます。

▼耐震証明の要否に関する見直し
新築もしくは既存住宅を取得したケースで求められる耐震証明につき、登記簿上の建築日付が1982年(昭和57年)1月1日以降なら不要とされます。

▼受贈者の年齢要件の見直し
2022年4月1日施行の改正民法による成年年齢引き下げを受け、本措置の対象となる受贈者も「20歳以上」から「18歳以上」に改められます。

 単純にまとめると「非課税枠を引き下げ、適用範囲を広げる」という方向になりました。これにより、今までよりも資産が少ない人でも利用しやすくなります。

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②事業承継税制の特例措置【書類提出期限の延長】

 会社経営者の相続では、株式をもらい受けて次のオーナー社長となる人について、相続税または贈与税の納税猶予および免除を申請できます。

 この「事業承継税制」は、会社の特例承継計画を提出することで、より良い条件で適用できます(=特例措置)。

 その計画の提出期限が2022年(令和4年)末となっていたところ、法改正によって1年延長され、2023年(令和5年)末とされました。

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③農地等の納税猶予【関連の法改正に伴う見直し】

 土地をもらって農業を続ける場合、自治体の「農地バンク」を通じて借りた人に営んでもらう場合を含め、事業承継税制のような納税猶予措置があります。

 この農地バンクは農用地利用集積等促進計画(仮称)への統合が予定されていますが、令和4年度税制改正では、上記の統合が完了しても、引き続き納税猶予制度を適用できるとされました。

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④登録免許税の免税措置【適用期限の延長など】

 不動産を相続や贈与でもらい受けた時、名義変更手続きにあたる登記申請を完了させなくてはなりません。申請時には「登録免許税」を支払う必要がありますが、一定の条件で免税措置を受けられます。

 今回の税制改正では、免税の条件を緩和する方向で、以下の見直しが行われました。

▼相続登記の免税措置の改正
● 適用期限を2025年(令和7年)3月末日までに延長
● 適用対象に「市街化区域内に所在する土地」を追加
● 適用対象となる土地価額の上限を10万円→100万円に引き上げ

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まとめ

 令和4年度の生前贈与に関連する税制改正において、増税方向の見直しが入ったのは「住宅取得資金等の贈与を受けた場合の非課税措置」のみです。

 非課税枠がなくなる等の改正はまだありません。

 ただ、諸外国を参考にした改正内容の検討は本格的に始まっています。贈与や相続を考えている人は、それを踏まえてマネープランを考えたほうがよいでしょう。

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  • 遠藤秋乃
  • 遠藤 秋乃(えんどう・あきの)

    フリージャーナリスト(生活に関わる法律専門)

    大学卒業後、メガバンクの融資部門での勤務2年を経て不動産会社へ転職。 転職後、2015年~2016年にかけて、司法書士試験・行政書士試験に合格。知識を生かして相続準備に悩む顧客の相談に200件以上対応し、2017年に退社後フリーライターへ転身。

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