
育児・教育費用が高騰するなか、相続開始を待たず、元気なうちに孫へまとまったお金を譲りたいと思う人も多いのではないでしょうか。
こうして現金を渡す行為は「生前贈与」にあたり、贈与税および相続税の課税対象となりますが、目的に応じた特例や控除を上手に活用することで、課税額をおさえることができます。
譲ったお金を最大限活用してもらうために知っておきたい税制の知識を解説していきます。
<目次>
1.生前贈与とは? 税制上の仕組みとメリット・デメリット
生前贈与とは、遺産として譲る予定の財産を、まだ生きているうちに親族らにあげる行為を言います。
孫の成長を支えるために、預金や不動産の名義を孫に変更するケースなどは、典型的な「生前贈与」の例です。
まずは生前贈与の仕組みと、税金との関係を押さえてみましょう。
①生前贈与の仕組み
財産を無償で譲る行為を、税制上「贈与」と呼びます。
生前贈与とは、「相続財産」にあたるものを贈与することを指します。
相続財産に含まれるもの | 相続財産に含まれないもの |
・現金、預貯金 ・土地、建物(=不動産) ・自動車、貴金属等(=動産) ・株式、債券等(=有価証券) ・売掛金、小切手等(=債権) ・著作権、特許等(=知的財産権) |
・お墓 ・仏壇、仏具 ・家系図 ・未支給年金等の「一身専属権」 |
生前贈与の何よりのメリットは、被相続人(両親や祖父母)が死亡したタイミングではなく、相続人(子や孫)が資金を必要とするタイミングで財産を使ってもらえる点です。
また、生前に相手を指定して贈与することで、遺産分割による分散を防ぎ、特定の家族に重要な資産を集中できるのも利点です。
一方、大きなデメリットとして、贈与税と相続税が発生する点があげられます。
贈与税は、財産を贈与した際にかかる税で、相続税は、被相続人が死亡したタイミングでかかる相続税です。
②生前贈与にかかる贈与税について
孫に財産を渡す際の贈与税には、自由選択式で二つの課税方式が用意されています。
・暦年課税
譲った額を毎年集計し、うち110万円を超える部分に税金がかかるものとする制度です。
・相続時精算課税
贈与した金額を、被相続人が死亡するまで集計し、総額が2,500万円を超えた金額に対し課税する制度です。
それぞれの違いについて、下記の表にまとめました。
比較項目 | 暦年課税 | 相続時精算課税 |
課税のタイミング | 贈与時+相続開始時(開始時から3年以内の額のみ) | 相続開始時(これまで贈与した全期間) |
適用対象となる贈与 | 相続時精算課税制度を選択していない贈与 | 60歳以上の父母・祖父母から20歳以上の子・孫への贈与 |
適用方法 | 申告時に自動適用 | 贈与翌年の申告期間に届け出書を提出する |
基礎控除(非課税の限度額) | 課税年度ごとに110万円 | 適用申請から相続開始までの贈与価格につき2,500万円 |
税率 | 10%~55% ※課税対象となる価格に応じて変動 |
一律20% |
相続税の課税時の扱い | あらためて相続税額を計算した上で、支払い済の贈与税は控除される | |
注意事項 | ― | 一度選択すると、暦年課税には戻せない |
・贈与額ごとに毎年かかるのが暦年課税
・相続のタイミングで一括で税金を支払うのが相続時精算課税
とイメージしておきましょう。
③孫への生前贈与には相続税を減らすメリットも
「暦年課税」の制度を活用して孫に財産を渡すことには、相続時の税金を減らすというメリットもあります。
相続税は、被相続者(親など)が死亡した時点の財産+直近3年以内に親族などへ贈与した財産を加えた金額をベースとして、課税額が計算されます。
このとき、相続税を支払う義務を追うのは、財産を相続した親族や、遺贈(遺言による贈与)によって財産を受け取った人です。
しかし、民法上、孫は相続によって祖父母の財産を受けとることはできません(相続人の親が死亡している場合や、遺言による遺贈を除く)。つまり、孫に生前贈与した財産は、相続時の財産に含まれないことになります。
結果として、孫への生前贈与は、相続税の課税対象となる財産を減らすことにつながり、相続時の税金を抑えられることになります。
2.孫への生前贈与を行う際のポイント
これまで説明してきたとおり、生前贈与の際には贈与税がかかります。
いっぽう、贈与税には特例を含め非課税枠が定められています。一定の条件を満たすことで大幅な非課税となることもありますので、制度をよく知ったうえで利用することがポイントとなります。
実際に孫に財産をあげる時のポイントとして、ここでは三つの方法を紹介します。
①毎年110万円以内で少しずつ贈与する
簡単ですぐに実行できる方法は、暦年課税方式の基礎控除である、年間110万円を毎年贈与する方法です。この場合、贈与税もかかりません。
②使い道の決まっているお金は特例適用を検討する
一定の利用目的でお金を贈与する場合に限り、通常よりも大きな非課税枠を設けている特例があります。
以下に紹介する制度を利用することで対象となる贈与は、どれも先で紹介した相続開始時の加算の対象外となるため、税金を一切負担せずに満額受け取ってもらうことも可能です。
▼住宅取得等資金の贈与
持ち家を得るための「住宅取得等資金」を孫に譲るケースでは、手続きで500万円または1,000万円まで非課税となります(令和4年1月1日以降)。新築の他に、既存住宅の購入や増改築も対象です。
なお、1,000万円の非課税枠を確保するには、省エネなどの観点で一定の基準を満たした高性能住宅を取得する必要があります。
▼教育資金の一括贈与
30歳未満の孫の学費を一括前払いで支援するケースでは、管理用口座の開設などの手続きをすることで、最大1,500万円(うち学校など以外への支払額は500万円)まで非課税になります。
注意したいのは、贈与したあと使った分だけが非課税となる点です。孫が30歳に到達する・祖父母が亡くなる……等の理由でお金が余ってしまった場合、残額に対して贈与税または相続税がかかります。
▼結婚・子育て資金の一括贈与
挙式費用・出産費用・保育料などの一括贈与にも非課税制度があります。
対象は20歳以上50歳未満の受贈者で、非課税になる範囲は最大1,000万円(うち結婚資金は300万円)です。
③相続時精算課税を上手に活用する
相続時精算課税は、後に無制限で相続税の課税範囲に含まれてしまう点から「税の支払いを先送りにしているだけ」「トータルで見ると節税効果はない」と否定的に考えられがちです。
しかし、相続時精算課税には、
● 相続時の財産が「贈与した当時の評価額」で算定される
● 非課税となる枠にゆとりがある(3,600万円~)
という二つの特徴があり、使い方次第では有効に活用できます。
たとえば、お金の代わりに「成長見込みのある会社の株式」や「今後価値の上がる土地」を贈与する例が考えられます。
価値の上がる株式や土地をそのまま持っていた場合、相続時に子らが高額な税金を払うことになります。
そこで相続時精算課税を選択し、相続税がかかる時に一番安い時の評価で課税されるようにしておく対策が考えられます。
もっとも、上記が有効なのは「確実に価値が上がる資産」を元気なうちにあげる場合だけですので、実際の節税効果については専門家に確認したほうがよいでしょう。
3.孫への生前贈与を行う際の注意点
以上で解説した内容を踏まえたからといって、課税の面で万全とは言えません。孫にとって贈与を受けたことがかえって負担にならないよう、以下で説明するポイントに十分注意しましょう。
①相続税の「2割加算」に注意
相続税には、配偶者もしくは1親等以内の血族以外の人が遺産を受け取った場合に、課税額を2割加算するとのルールがあります。
遺言で孫を相続人を指定するなどして、孫が相続税を負担する立場になった場合には、税額計算の結果の1.2倍分を納付しなければなりません。
これは特例や相続時精算課税を活用したときも同様で、非課税枠を超えて課税が発生した場合などに思わぬ支払額となる可能性があります。注意しましょう。
②不動産の贈与は評価方法に気を付ける
生前贈与する財産は、現金や預貯金とは限りません。
同じように価値の大きいものとして、自宅や遊休地を孫の名義に変えるケースもあるでしょう。
相続税を計算する場合、こうした不動産の評価額は、不動産会社などが行う査定による評価額とは異なる点に注意が必要です。
▼相続時の不動産の評価方法
相続時の土地の課税評価額の評価は、原則として、納税通知書に載っている固定資産税評価額をベースに行われます。課税評価額は市場価格の8割程度に抑えられるのが一般的です。
加えて、権利状況・利用状況・形状・面積などの要素で補正がありますので、個別に確認するようにしましょう。
③贈与用に孫名義の口座を作っておく
未成年の孫にお金を贈与する場合、孫名義の口座を新規開設して振り込む方法をおすすめします。
「どうせ親世代が管理するから」と別のルートで贈与すると、贈与税を正しく申告していることの証明が難しくなるからです。
▼親(=子)名義の口座に振り込む方法の場合
振り込んだお金が親自身の収支と混同されてしまい、課税上「孫ではなく、その親(祖父母から見た子)への生前贈与」と扱われるおそれがあります。
財産のもらい手が変わると、特例による非課税などが適用されず、課税の対象となる可能性があります。
▼親あるいは孫本人に現金で手渡す場合
現金の手渡しは、たとえ書面で約束を交わしたとしても、金額や使途の不透明さを拭いきれません。税務署からの調査があった場合の説明が難しくなります。
④生活費を出してあげるのも「贈与」になる?
孫にまとまった額のお金を渡す行為が「生前贈与」なら、日常生活での細々とした支出を負担してあげるのはどうでしょうか。結論として、ごく一般的な「扶養義務を果たしている」と思われる範囲なら、贈与にはあたりません。
[Q] 扶養義務者(父母や祖父母)から生活費または教育費の贈与を受けましたが、贈与税の課税対象となりますか。
[A] 扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるために贈与を受けた財産のうち 「通常必要と認められるもの」については、贈与税の課税対象となりません。
(注)「扶養義務者」とは、次の者をいいます。
① 配偶者
② 直系血族及び兄弟姉妹
③ 家庭裁判所の審判を受けて扶養義務者となった3親等内の親族
④ 3親等内の親族で生計を一にする者
出典:扶養義務者(父母や祖父母)から「生活費」又は「教育費」 の贈与を受けた場合の贈与税に関するQ&A(国税庁)
注意したいのは、学資保険の掛け金を負担してあげるケースです。
どの保険についても、掛け金の負担者が保険金の受取人とは異なる場合、贈与もしくは相続したものとして課税されます。
学資保険では、契約者(=掛け金の負担者)が祖父母である場合はもちろんのこと、孫自身に契約させて掛け金支払いのための資金を渡す場合も、同じく贈与とみなされます。
⑤贈与契約書を作成しておく
たとえ祖父母と孫の間のやりとりであっても、預貯金その他の財産を譲る時は「贈与契約書」を作成しましょう。課税関係では、お金の動きについて当事者と金額、そして利用目的を書面で証明できるようにしておくのが基本です。
▼定期贈与扱いに要注意
特に気を付けたいのは、暦年課税の控除内で少しずつ、必要なだけお金を譲るケースです。あらかじめ贈与の総額を決めて分割で譲ったとみなされると、税務上「定期贈与」として扱われ、同じ年度内に全額贈与したものとして課税されてしまいます。
贈与の度に契約書を作り、特に取り決めをせず不規則に贈与したとする「連年贈与」でないと、実態通りの課税上の扱いは受けられません。
まとめ
元気なうちに孫に財産を譲ろうとするなら、贈与税を意識しなければなりません。
● 暦年贈与の基礎控除内(毎年110万円)で少しずつ贈与する
● まとまったお金をあげるなら、用途に合わせた特例を活用する
● 節税効果が期待できる場合に限り、相続時精算課税を選択する
といった、これまで解説した方法を踏まえながら、上手に活用しましょう。
税制の理解に基づいて上手に生前贈与できた場合、いずれ親族が負担する相続税の節約にもつながります。口座開設や契約書作成などの実践的な部分にも注意して、お互いにとって一番良い形を選びましょう。
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