生前贈与の非課税枠は2022年以降も使える 節税の基礎知識から制度利用の注意点まで

人生100年時代を生きるキーワード:生前贈与

2022.07.06

 

生前贈与の非課税枠まとめ
(デザイン:佐藤麻友美)

 

 「生前贈与」とは、本人が元気なうちに財産をゆずることをいい、相続税をおさえる対策として、しばしば活用されます。

 贈与税は、一定の金額までを非課税とする枠が設けられており、これらを活用することで、相続税を抑えながら子や孫に財産を移すことができます。

 ここでは生前贈与の非課税枠の説明や、節税につながる特例などを紹介していきます。贈与税や相続税の基本を押さえ、マネープランを練る参考としてみてください。

<目次>

1.生前贈与の非課税枠とは?

 対価をもらわずに財産を譲った際に、受け取った側は「贈与税」を支払う義務を負います。

 ただし、受け取った財産が税制で定められた一定金額の範囲内であれば、納税をしなくてもよいとされています。これが非課税枠です。

 特に「生前贈与」と呼ばれるタイプの無償譲渡では、通常の非課税枠以外に特例が用意されており、第三者に財産を譲る場合と比べて有利となっています。

①生前贈与の仕組み

 生前贈与とは、相続する予定の財産の一部、もしくは全部を、所有者が元気なうちに親族にあげることで、言うなれば「遺産の先渡し」です。

 生前贈与の例として、たとえば子のマンション購入費として、親の総資産1億円の中から2,000万円を生前贈与として振り込むようなケースがあげられます。

 親が死亡した場合に子が相続する1億円の資産から、2000万円を先に渡す…というイメージです。

 この場合、子が支払う税金と、その支払いのタイミングは以下の通りになります。

(1)もらった2000万円への贈与税→受け取った時点で申告し、支払う
(2)残る8000万円への相続税→親が死亡し、財産を相続したタイミングで申告し、支払う

 ただし、(2)の相続税の課税額については、相続開始から3年前までさかのぼった財産をベースに計算されます。

 今回の例で、もし2000万円を振り込んだ2年後に親が亡くなった場合、子が支払う税金の総額は以下となります。

(1)もらった2000万円への贈与税
(2)1億円にかかる相続税

 ただし、(2)の相続税のうち、贈与税として支払った金額については、支払う必要はありません。そのため実際の支払額は、(2)ー(1)となります。

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②生前贈与の非課税枠の意義

 このような課税の仕組みがある一方、生前贈与=親族への経済的支援と考えたとき、課税はどうにも納得できません。

 社会にとっても、世代間の資産移転がより早く済めば、それだけ若者の選択肢が増え、経済の活性化にもつながるため、「良いこと」のはずです。

 以上のような観点から、生前贈与には非課税枠の優遇があります。贈与の形に応じた制度を複数用意し、各制度を通じて税金のかからない範囲を広げることで、進んで遺産を先渡しできる環境が整えられているのです。

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③非課税枠を活用した節税方法

 ここまで説明したとおり、財産が親から子へと移る過程には、「贈与税」と「相続税」の2種類の課税があり、生前贈与にはいくつかの非課税枠が設定されています。

 この非課税枠を超えない形で財産を譲る限り、税金は発生しないため、贈与税による財産の流出をおさえつつ、親族に財産を譲ることができます。

 また、親の財産を子に移すことは、相続する財産を減らすことにもつながりますので、結果として相続税も抑えることができます。

 すでに触れたとおり、相続開始から3年前までに譲った財産は相続税の対象となりますが、3年を超えたものについては課税対象となりません。

 以上のような流れが組める点から、生前贈与が節税の手段として活用されています。

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2.生前贈与の課税方式と非課税枠

 生前贈与の課税方式には、「暦年課税」と「相続時精算課税」の二つがあります。ひとつずつ紹介していきましょう。

①暦年課税方式=年間110万円まで非課税

 特に制度を選択せずに生前贈与した場合は、広く適用される「暦年課税方式」で贈与税の計算が行われます。基本的な仕組みや活用方法は以下の通りです。

▼概要
毎年1月1日から12月31日までの贈与価格を集計し、合計金額に応じて10%~55%の税率で課税する方式です。
いわゆる「非課税枠」にあたる基礎控除額は110万円です。

▼利用ケース
年間110万円以内に納まる財産を贈与する場合に利用します。
たとえば、学資保険の掛け金を負担したり、ざっくりと「何か入用になった時の資金」として贈与するような場合が考えられます。

▼注意点
複数年にわたって少額ずつ贈与する場合「贈与する予定の金額を、税金がかからないよう分割払いしている」とみなされる場合があります。これを「定期贈与」と呼びます。
もし定期贈与であるとの指摘を税務署から受けた場合、いままでの合計額を一括贈与したものとして、追徴課税が生じる場合があります。
特に計画せず、必要とする度に財産を譲っていた(=連年贈与)と証明できる手段として、贈与のたびに利用目的などを明記した贈与契約書を用意しておきましょう。

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②相続時精算課税=上限2500万円まで非課税

 「相続時精算課税」とは、いままでの贈与税を相続時点で一括支払いする制度で、贈与税の申告時に届け出を行うことで切り替えられます。

 切り替えることで、①の暦年贈与から非課税枠と税率の扱いが変わり、同年度内にまとまった額を譲っても納税が発生しない仕組みとなっています。

▼概要
適用時から相続開始時までに贈与された財産に対し、一律20%で課税する方式です。
「非課税枠」に相当する基礎控除額は2,500万円とされています。
利用できるケースは限定されており、60歳以上の直系尊属(=父母や祖父母)から20歳以上の直系卑属(=子や孫)に財産を譲る場合にしか適用できません。

▼利用ケース
本課税方式をおすすめするのは、不動産や株式など、分割しようのない高額資産を譲りたい時です。具体的には、家を新築するための土地を子どもにあげたり、中小企業のオーナー社長が子にポストを譲って勇退したりするケースです。

▼注意点
相続時精算課税方式の注意点は二つあります。
一つは、相続税の適用範囲です。通常、相続開始から3年前までの贈与財産が、相続税の課税対象となりますが、相続時精算課税方式を適用した場合、3年を超えて全ての範囲が課税対象となります。納税するタイミングを先送りし、相続税を払う時に「精算」する……と考えれば分かりやすくなるでしょう。
もう一つの注意点は、一度切り替えると暦年課税方式には戻せなくなる点です。なんらかの方法で納税資金を渡してから切り替えるなど、適用は計画的に行いましょう。

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3.生前贈与ができなくなるのは本当?

 生前贈与の非課税枠を使った節税は、各課税方式が見直されることで不可能になるかもしれないと言われています。

 現行制度は、資産の多い家庭では大いにメリットを享受できる一方、そうでない家庭にはまるで意味がなく、結果として不平等と考えられるからです。

 相続税には最低3,600万円と多額の非課税枠(=基礎控除額)があり、その前後までの資産状況であれば、生前贈与による節税効果は期待できません。

 それどころか、子や孫に財産を譲る場合は贈与税を払わねばならず、その際に多く支払った税金が、相続時に還付してもらえるわけでもありません。

 つまり、資産の少ない家庭は生前贈与をしてもかえって損をすることになり、一定の資産を持つ人だけが得をできる制度になっている現状があります。

①予想される法改正の内容

 今後予想されるのは、贈与税と相続税を一体化する方針で、資産家にとっては増税になる方向での法改正となります。
 具体的には、以下のような見直しが考えられます。

● 暦年課税の非課税枠(基礎控除)をなくす
● 相続税の課税対象となる生前贈与の範囲が広がる(例:3年以内→10年以内など)
● 課税方式を「相続時精算課税」だけにする

 くわしくは別記事でも解説していますので、そちらをご参照ください。

<関連記事>
生前贈与の税制はどう変わるのか 現行制度の問題点と予想される改正内容

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②法改正の今後のスケジュール

 ここで説明した法改正は、具体的な案すらまだ出ていませんが、令和4年度税制改正大綱の中で「本格的な検討を始める」と発表されています。

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4.生前贈与に関する特例の非課税枠

 生前贈与については、特定の用途で贈与する場合に限った、特例の非課税枠があります。

 ①居住用不動産の配偶者控除
 ②住宅用取得資金等の贈与
 ③教育資金の一括贈与
 ④結婚・子育て資金の一括贈与

 以下、それぞれ紹介をしていきます。
 税制の理解に基づいて上手に生前贈与できた場合、いずれ親族が負担する相続税の節約にもつながります。口座開設や契約書作成などの実践的な部分にも注意して、お互いにとって一番良い形を選びましょう。

①居住用不動産の配偶者控除(2,000万円)

 認知症になった際など、万一の備えとして、自分の持ち家(=居住用不動産)を配偶者の名義に変えるケースがあります。

 本来はこれも贈与にあたるため、贈与税申告が必要になるところですが、一定の不動産評価額までは非課税とする枠が設けられています。

▼適用対象となる贈与財産
● 居住用不動産の権利(借地権および共有不動産の持ち分も対象)
● 居住用不動産を取得するための金銭

▼非課税になる範囲
2,000万円

▼適用条件(全て満たす必要あり)
● 贈与した時点で婚姻期間が20年超に及んでいること
● 贈与を受けた人が現実にその不動産に住んでおり、申告期限後も住み続けること

▼注意点
注意として、贈与する不動産が店舗兼住宅である場合があげられます。
こちらも適用対象とはなりますが、非課税となるのはその物件の面積のうち、住居として使っている部分(=居住用部分)に限られます。
そのため、物件全体の面積から居住用の部分の比率を出したうえで、非課税となる額が算出されます。

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②住宅取得資金等の贈与(1,000万円もしくは500万円)

 子や孫が持ち家を得るための資金を援助する場合に、時期や新築などの契約内容に応じて一定額までを非課税とする特例です。

 令和4年度の税制改正によって、2022年1月1日以降の贈与に適用されるものです。

▼適用対象となる贈与財産
直系尊属(父母や祖父母)が贈与した金銭で、住宅用家屋の新築・既存住宅の購入・増改築に充てるもの

▼非課税になる範囲
省エネ・耐震性能などが基準を満たす場合は1,000万円、それ以外は500万円

▼適用条件(全て満たす必要あり/重要な条件のみ抜粋)
● 直系尊属(父母・祖父母)からの贈与であること
● 贈与を受ける人が18歳以上であること
● 贈与の翌年3月15日までに、贈与された全額を定められた用途に充てること
● 同日までに確実に対象住宅に引っ越せる見込みがあること

▼注意点
注意点として「小規模住宅地等の特例」という別の特例との兼ね合いを検討する必要があります。
「小規模住宅地等の特例」とは、親世代の持ち家を相続する場合、その不動産の評価額を80%引いて計算する特例のことです。
この特例を受ける条件に「子世代がマイホームを持っていないこと」というものがあり、住宅取得資金等の贈与で新築を建てると条件から外れてしまうことになります。
どちらの特例を利用するほうが節税につながるかは、個別に課税額をシミュレーションしてみる必要があります。

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③教育資金の一括贈与(1,500万円)

 子や孫のために、学資を一括前払いをする際に、一定の非課税枠を設ける制度です。

▼適用対象となる贈与財産
学校の授業料や塾代にあてるため、直系尊属(父母・祖父母)が贈与する教育資金

▼非課税になる範囲
1,500万円
※ただし、高校や大学等以外の機関(受験対策塾など)に払い込めるのは、上記非課税枠のうち500万円まで

▼適用条件(全て満たす必要あり)
● 贈与を受ける人が30歳未満であること
● 贈与を受ける人の前年分の合計所得金額が1,000万円を超えないこと
● 管理用の「教育資金口座」を開設し、支出する度に領収書を提出すること

▼注意点
適用条件にもある通り、贈与の際に専用の口座を開設し、また支出の詳細を提出する必要があります。
さらに、本制度の対象になるのは、譲るお金のうち「実際に使った分」に限られます。口座にある資金を使い切らずに贈与した人が亡くなった場合、在学中などの例外を除き、余った資金は相続税の課税対象になります。
特に孫が祖父母の財産を相続することになった場合、相続税に2割加算される定めがありますので、祖父母が孫を支援してあげるケースではより注意が必要です。

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④結婚・子育て資金の一括贈与(1,000万円)

 子や孫の結婚・子育て資金を援助する場合に用意されている非課税枠です。
 教育資金の非課税枠と併用することで、大きな節税につながります。

▼適用対象となる贈与財産
挙式費用・出産費用・保育料などに充てるため、直系尊属(父母・祖父母)が贈与する金銭

▼非課税になる範囲
1,000万円
※ただし、結婚費用として払い込めるのは、上記非課税枠のうち300万円まで

▼適用条件(全て満たす必要あり)
● 贈与を受ける人が20歳以上50歳未満であること
● 贈与を受ける人の前年分の合計所得金額が1,000万円を超えないこと
● 管理用の「結婚・子育て資金口座」を開設し、支出する度に領収書を提出すること

▼注意点
教育資金の一括贈与と同じく、こちらも管理用の口座を作成し、都度領収書を提出する必要があります。
また本制度も教育資金の一括贈与と同様、実際に使った分に限って適用されます。

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まとめ

 特例をふくめ、生前贈与の非課税枠には様々なものがあります。
 これを無くす方向での法改正の動きはありますが、2022年(令和4年)の時点で実現していません。

 課税方式を理解した上で、贈与財産の利用目的に合わせた特例を選択すれば、ある程度まとまった額の財産でも納税負担なく子世代に移転できますので、これらを踏まえつつ、適切な贈与のプランを検討してみてください。

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  • 遠藤秋乃
  • 遠藤 秋乃(えんどう・あきの)

    フリージャーナリスト(生活に関わる法律専門)

    大学卒業後、メガバンクの融資部門での勤務2年を経て不動産会社へ転職。 転職後、2015年~2016年にかけて、司法書士試験・行政書士試験に合格。知識を生かして相続準備に悩む顧客の相談に200件以上対応し、2017年に退社後フリーライターへ転身。

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