<連載> 腸戦者に訊く
第17回 ビフィズス菌が認知機能低下の対策に
神戸大学名誉教授の大澤朗さん・森永乳業基礎研究所フロンティア研究室主任研究員の吉本真さん 長寿との関わり編
ビフィズス菌は、水溶性食物繊維やオリゴ糖などをエサに大腸内で様々な物質をつくり出しています。そうした物質が、ヒトが元気で生きていくために大切な役割を担っていると言われています。腸内細菌の専門家である神戸大学名誉教授の大澤朗さんと、森永乳業基礎研究所フロンティア研究室主任研究員の吉本真さんに、ビフィズス菌の役割について伺いました。

沖縄の長寿者のおなかにビフィズス菌
――ビフィズス菌は長寿にも関係しているのでしょうか。
大澤 10年以上前、長寿の方が多くて有名な沖縄・国頭村で、95歳から103歳の方6人から便を提供していただき、おなかの中のビフィズス菌の状況を調べました。すると、みなさんのおなかのなかに、ビフィズス菌の中でも乳幼児期に多い「ブレーベ種」、青年期に多い「ロンガム種」のどちらか、もしくは両方がいることがわかりました。高齢の方々から、若い人たちのおなかにいるようなビフィズス菌種が見つかったことに驚きました。
そこで、どのような食事をとっているのか、聞き取り調査をしたところ、多くの方が共通して食べられていたのが、地元でつくられている黒糖だったんです。決してバリバリと大量に食べるのではなく、毎日のおやつで少量食べていることが共通していました。
ビフィズス菌と黒糖の関係を調べるため、黒糖を添加した培地と、糖分とミネラル成分だけを黒糖に模した「擬似黒糖」を添加した培地、この2つの培地を用意してビフィズス菌の増え方を比較しました。その結果、ブレーベ種もロンガム種も黒糖の培地の方がよく育つという結果が出ました。
同様のことを乳酸菌でも試してみました。しかし、今度は違いが出ませんでした。黒糖にはビフィズス菌を増やす何らかの要素があるようです。

加齢に伴い低下する記憶力・空間認識力を維持する
――ビフィズス菌は認知機能に影響するという研究結果が出ていると聞きました。
吉本 例えば睡眠不足が消化機能を低下させたり、ストレス負荷によりお腹が痛くなるなど、脳で受け取った情報が腸の機能に影響を与える一方で、腸内細菌叢(そう)が乱れた状態では不安症状や認知機能の低下が生じるなど、腸の状態が脳機能に影響を与えることが解明されてきており『腸脳相関』として注目されています。
私たちは、50歳から79歳の軽度認知障害の方々を対象に「ビフィズス菌MCC1274」を16週間、摂取していただく試験を行いました。すると、偽薬(プラセボ)を摂取した方々に比べて、即時記憶や遅延記憶などの記憶力、視空間構成という空間認識力に関するスコアが顕著に改善しました。このように、軽度認知障害の方々にとって、ビフィズス菌MCC1274は認知機能の低下を改善する作用があることがいくつかの臨床研究から明らかになってきています。
そのメカニズムとして、ビフィズス菌MCC1274の代謝産物が血中から脳に移行したり、菌体成分や代謝産物が腸管神経系の活動や免疫細胞に影響を与えることにより、脳内炎症を抑制したり、アミロイドβの産生・蓄積を抑制することが基礎研究から示唆されております。

――ビフィズス菌は「長寿菌」と言えるのでしょうか?
吉本 「長寿菌」の定義によりますが、長寿の人の腸内細菌叢でよく見つかる菌という意味で捉えるのであれば、日本人をはじめ一部のアジア人ではビフィズス菌はその1つであると思います。
大澤 みなさんが考える長寿とは、とにかく生物的に長く生きるというだけでなく、できるだけ健康で自立した生活を送りたいという「健康寿命」の長さではないでしょうか。その意味でも、ビフィズス菌は昔から研究されている菌であり、長寿のメカニズムを知るための水先案内人として捉えられるように思います。
◇
次回は、ビフィズス菌の研究が未来をひらく話です。
(企画・製作:朝日新聞Reライフプロジェクト)
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この連載について / 腸戦者に訊く
ビフィズス菌は1500万年にわたって人類と共存してきました。ヒトにすむビフィズス菌に50年以上にわたって向き合い、研究の成果を人々の暮らしに役立ててきた森永乳業の研究者たちに挑戦の軌跡を訊(き)きました。
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