コロナ禍で認知症リスク増? 最新研究でわかった認知機能維持のポイント
認知症研究の第一人者・朝田隆さんと読者会議メンバーが座談会
昨日の晩ご飯、何を食べたっけ――? そんな小さな「もの忘れ」に不安を抱く方は少なくありません。朝日新聞Reライフプロジェクトは8月、東京・築地の朝日新聞本社に認知症治療・研究の第一人者である朝田隆さん(東京医科歯科大学医学部客員教授・筑波大学名誉教授)と読者会議メンバー5人を招いて座談会を開催しました。長引くコロナ禍で認知症のリスクが高まっていると警鐘をならす朝田さんのお話しをきいて、認知症研究の最新事情や認知機能維持のために今日からできることを学んだり、日常で感じる不安を話し合ったりしました。

読書などの知的活動より「運動」が効果的
コロナ禍が続き、認知症のリスクが高まっている高齢者の方が増えています。認知症の促進因子は、加齢に加え、遺伝や高血圧などの身体的要因のほか、生活環境や日頃の生活習慣といった要因などさまざまです。今回は、「コロナ時代の認知症予防最新事情」ということで、認知症にならない生活習慣や予防法について、ご説明していきましょう。
まず、アメリカ国立衛生研究所(NIH)がアメリカ国民向けに発表した「認知症予防に有望」と考えられるもののリストを見ていきましょう。
認知症予防に有望と考えられるもの●2型糖尿病のコントロール |
いずれも生活習慣病の予防で語られることばかりで、特別なものではありません。この中で、認知症予防の観点で私が注目しているのが、「運動」と「社会との交流を絶やさないこと」です。
読書などの知的活動も重要ですが、実は脳を最も刺激するのは運動なのです。
推奨されているのは、ウォーキングなどの有酸素運動です。これは愛情や思いやりをつかさどる前頭葉の機能を高めることがわかっています。軽いウォーキングを週に3〜5回、1回20分から60分続けるのが効果的です。腹筋やスクワットなど軽い筋力強化やバランストレーニングと組み合わせるのもいいでしょう。
コロナ禍で増す「孤独」によるリスク
社会交流も認知症予防には不可欠です。コロナ禍に入り、人と会って話す機会が減っている人も多いと思います。実は、「孤独は脳に悪影響を及ぼす」というのは、我々が携わる脳科学研究の分野でも証明されています。社会との交流が減りがちなコロナ禍は、認知機能を維持していくには好ましくない環境といえます。
高齢者の「孤独」というのは、先進国では社会問題になりつつあります。たとえば、孤独な人はそうでない人に比べて短命な傾向があることや、孤独に起因する経済損失はかなりの額に上ることを指摘する報告もあります。イギリスは2018年に「孤独担当大臣」を世界で初めて設けました。その後、2021年には日本でも内閣府に「孤独・孤立対策担当室」が設けられています。

聴力と睡眠が影響している可能性
孤独と認知症の関係を語る上で、最近、注目されているのが、「難聴」の問題です。2020年に医学誌「ランセット」で発表された資料によると、認知症の因子として最もリスクが高いのが「中年期の難聴」だといいます。耳が遠くなると話を聞くのがおっくうになる。補聴器を付けるのもなんだか面倒くさい……そこは要注意です。難聴は、社会交流にも直接影響しますからね。
もうひとつ、人間は人生の3分の1を寝ているわけですが、睡眠と認知症というのもどうやら関係があるようなのです。具体的には、30分以内の昼寝習慣があると認知症になりにくく、逆に1時間以上の昼寝は認知症のリスクを高めると考えられています。これは、私が2000年に、国立精神・神経センター武蔵病院(現・国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター)所属時代にアルツハイマー病患者401名を対象に行った研究で明らかにしたものです。その当時は、あまり聞き入れられなかったのですが、最近は海外でも同様の研究事例が報告されています。こちらも参考になればと思います。
「利他主義」が脳を活性化する
認知症予防には、運動と社会交流だということがわかりました。では、明日から何ができるのでしょうか。まずは、ゲートボールやラジオ体操、公園の清掃活動など、身近な社会交流の機会を持ち、習慣化していくのが重要です。小中学校の登下校の見守りなどもいいですね。これは、誰かから感謝されることにつながります。
実はここがポイントで、今、脳科学的に注目されているのが、「利他主義」なのです。「利他」とは、他者をほめること、何かを与えること。そうすると必ず、相手からも何かを受け取ることができます。その報酬が何より脳を活性化させるのです。
私は今回のような認知症予防を説明する機会に、必ずこう伝えています。「生きがい」の元になるのは、以下の要素です。
生きがいのもと●かわいがられること |
これらは、すべて「利他主義」から生まれるものであり、ひとまわりして自身の承認欲求も満たしてくれるのです。
「もの忘れ」を気に病むよりも外の世界に出て、人と交流することが大切です。そこで利他的に行動できれば、社会から必要とされる実感が得られます。そんな生活を習慣化できれば、認知症のリスクを減らせる可能性があるでしょう。
◇
座談会 知り合いの名前が出てこない これは認知症のサインなの?
講演をきいた後、朝田さんを交えて座談会を開催。読者会議メンバーの皆さんは、普段の生活で気になることを話し合ったり、先生に質問をしたりしました。
座談会に参加した読者会議メンバーの皆さん
●金刺さん(70代男性)
●高田さん(60代女性)
●中居さん(70代女性)
●古瀬さん(70代女性)
●吉田さん(60代女性)

加齢によるもの忘れと認知症の違いは?
古瀬:今年で73歳になりまして、年とともに記憶力の衰えを実感しています。加齢による単なるもの忘れと認知症によるもの忘れの違いを知りたく参加させていただきました。
高田:私は今63歳で、昨年長年勤めた会社を辞めて起業したばかりなんです。なのに最近、取引先の社名や担当者の名前が急に出てこなくなることがあって……。
中居:認知症のはじまりというのは、どういう状態なのでしょうか?
朝田:もの忘れと認知症は明確に違います。加齢が原因の場合は、物事の一部を忘れてしまう。しかし、認知症の場合は、さっきやっていたことが丸ごと記憶にないという状態になります。まずは、自立した生活ができるかどうか。外出先から家に戻れない、ひとりで服がうまく着られない。こうなると認知症の可能性が考えられますね。
金刺:私は78歳になりますが、「前回、孫が来た日はいつか」という記憶を巡って、妻とお互いに「大丈夫か? 」と言い合ったりしています。これも予兆では?
朝田:それは心配ありません。むしろおおらかに過ごされたほうがいいですね(笑)。

認知症を遠ざける生活習慣とは?
吉田:私も外出すると台所の火を消したかどうか不安になって、戻るようなことが増えてきて……。どうすれば認知機能を維持できるのでしょうか?
朝田:やはり適度な運動、あとは社会との交流を持つことですね。コロナ禍で孤独というのは無視できない問題になっています。
古瀬:日常の「食」というのも大事でしょうか?
朝田:大事です。果物や野菜を多くとり入れて、様々な食材をバランスよく食べることが重要です。
高田:私は100歳まで生きることが目標なんです。健康寿命を延ばすために、運動と食事には気をつけていきたいですね。
中居:私も先生のアドバイスを夫にもしっかり伝えたいと思います。
◇
VRで認知症の人に見える視界を体験

座談会の中で、読者会議メンバーは「朝日新聞認知症VR」も体験しました。このVR(バーチャルリアリティー)体験は、朝日新聞社が団体向けに提供し、認知症本人のインタビューなどの視聴を通じて新たな認識や理解を深めることができる「認知症フレンドリー講座」のコンテンツのひとつで、最新のVRのヘッドセットを使って、認知症の人が見ている視界を疑似体験できます。
VR体験をした読者会議メンバーからは、「認知症の方が感じている戸惑いや不安の一端がわかった」など声が上がっていました。
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