
2022年10月1日から施行された健康保険法の一部改正で、一定以上の所得がある75歳以上の高齢者の医療費窓口負担割合が1割負担から2割負担へとなっています。
この記事では、2割負担となる対象者の条件や配慮措置、対策方法について、判別するためのフローチャート・シミュレーションなどを用いながらわかりやすく解説します。
<目次>
- 1.医療費の窓口負担が2割になる条件 すぐに判定できるフローチャート
- (1)現役並み所得者ではない
- (2)課税所得が28万円以上の被保険者が世帯内に1人でもいる
- (3)世帯内にいる被保険者の人は1人だけである
- (4)1人の場合:「年金収入 + その他の合計所得金額」が200万円以上である
- (5)2人以上の場合:「年金収入 + その他の合計所得金額」の合計が320万円以上である
- 2.医療費2割負担の判定シミュレーション 三つのパターンを紹介
- (1)パターン1.単身世帯のケース
- (2)パターン2.複数世帯のケース
- (3)パターン3.2割負担に見えるが1割負担のケース
- 3.医療費の窓口負担が2割になったら? 配慮措置の活用を
- (1)配慮措置の内容
- (2)配慮措置の具体的なシミュレーション
- (3)配慮措置を活用するために必要な手続きと注意点
- 4.医療費の2割負担が大きい……苦しくなったときの対策
- (1)医療費控除で所得税を抑えるなど公的制度を活用する
- (2)病院などに分割払いや費用軽減の相談をする
- (3)民間の信販会社や銀行などの医療ローンを検討する
- 5.早いうちから情報を集めて万全な対策を
1.医療費の窓口負担が2割になる条件 すぐに判定できるフローチャート
2022年10月1日から施行された健康保険法の一部改正によって、75歳以上の高齢者(後期高齢者医療の被保険者)の医療費窓口負担割合に、新たに「2割」の枠組みが設けられました。
2022年9月30日まで | 2022年10月1日から | ||
対象者 | 自己負担割合 | 対象者 | 自己負担割合 |
1.現役並み所得者 | 3割 | 1.現役並み所得者 | 3割 |
2.1以外の人 | 1割 | 2.一定以上所得のある人 | 2割 |
3. 1、2以外の人 | 1割 |
この章では、ご自身が75歳以上の高齢者医療費の2割負担対象者であるのか、簡単なフローチャートに沿って回答をしていくことですぐに判別できるように、まとめてみました。下記(1)から順に読み進めてみてください。
(1)現役並み所得者ではない
「現役並み所得者」とは、課税所得145万円以上、かつ収入額の合計が、単身世帯の場合383万円、複数世帯の場合は520万円以上の人のことで、この世帯全員の医療費の窓口負担割合が3割になります。
「現役並みの所得者」でない場合は、次の(2)へ進みましょう。
(2)課税所得が28万円以上の被保険者が世帯内に1人でもいる
「課税所得」とは、住民税納税通知書に記載されている「課税標準」のことで、前年の収入から給与所得控除や公的年金控除、基礎控除、社会保険控除などの所得控除を差し引いた後の金額を指します。会社員の場合、源泉徴収票から計算をして額を計算することも可能です。 この課税所得が28万円以上の被保険者が世帯内に1人でも「いる」場合は次の(3)へ進みましょう。「いない」場合は、世帯全員が1割負担者となります。
(3)世帯内にいる被保険者の人は1人だけである
2割負担の判定には、世帯内にいる被保険者の人数が「1人」なのか、「2人以上」なのかによって変わってきます。 「1人」の場合は次の(4)へ、「2人以上」の場合は(5)へ進みましょう。
(4)1人の場合:「年金収入 + その他の合計所得金額」が200万円以上である
ここでは、「年金収入」と「その他の合計所得金額」の合計額を計算します。「年金収入」には遺族年金や障害年金は含まれません。また、「その他の合計所得金額」とは、事業収入や給与収入から必要経費や給与所得控除などを差し引いた後の金額を言います。
世帯内にいる被保険者が「1人」の場合、合計金額が200万円以上383万円未満であれば「2割負担」、200万円未満であれば「1割負担」です。
(5)2人以上の場合:「年金収入 + その他の合計所得金額」の合計が320万円以上である
世帯内にいる被保険者が「2人以上」の場合、「年金収入 + その他の合計所得金額」の合計が320万以上520万未満であれば世帯全員が「2割負担」、320万円未満であれば世帯全員が「1割負担」となります。
2.医療費2割負担の判定シミュレーション 三つのパターンを紹介

上記で紹介した判別チャートのイメージがよりつきやすいよう、この章では三つのパターン(単身世帯のケース、複数世帯のケース、2割負担に見えるが1割負担のケース)に分けて具体的に解説をします。ご自身の状況を想定しながら見ていきましょう。
(1)パターン1.単身世帯のケース
一つめは、単身世帯のケースです。78歳、1人暮らし、課税所得金額が28万円以上145万円未満、年収(年金収入 + その他合計所得金額)が220万円となる世帯の場合、基準である課税所得金額と年収200万円以上383万円未満に当てはまり、「2割負担」となります。
(2)パターン2.複数世帯のケース
二つめは、複数世帯のケースです。夫78歳、妻77歳の夫婦2人暮らし、課税所得金額が28万円以上145万円未満、年収(年金収入 + その他合計所得金額)が360万円となる世帯の場合、基準である課税所得金額と年収320万円以上520万円未満に当てはまり、「2割負担」となります。
(3)パターン3.2割負担に見えるが1割負担のケース
三つめは、一見すると2割負担に見えるが実は1割負担というケースです。夫78歳、妻77歳の夫婦2人暮らし、課税所得金額が28万円以上145万円未満、年収(年金収入+その他合計所得金額)300万円となる世帯の場合、基準である課税所得金額は当てはまりますが、年収が320万円未満の額となるため「1割負担」となります。
3.医療費の窓口負担が2割になったら? 配慮措置の活用を

今回の変更によって、「窓口負担額が2割に増えてしまうのがいやだから必要な受診を控えよう」と考えてしまう人もいると思います。そこで、政府の対策として2022年10月1日から2025年9月30日までの3年間は2割負担に変更となる対象者について「配慮措置」が設けられました。配慮措置を活用してしっかりと受診をしていきましょう。
(1)配慮措置の内容
この措置は、外来医療の窓口負担割合引き上げに伴う1カ月の負担増加額を最大3,000円までに収めるという内容です(入院の医療費は対象外です)。なお、異なる医療機関で受診した場合は、1カ月の負担額上限である3,000円との負担差額分が後日高額医療費として指定口座へ払い戻される仕組みとなっており、いったんは窓口で2割負担の金額を支払う必要があります。
(2)配慮措置の具体的なシミュレーション
配慮措置の具体的な計算手順は、以下のとおりです。
①その月の外来診療報酬金額を計算します。
②配慮措置の対象となる場合、その月の窓口負担上限額(1割負担 + 3,000円)を計算します。
③前回の診療までの窓口負担額の合計と②の差がその日の窓口負担額になります。
ここからは、具体的なシミュレーションをしてみます。
【簡単な計算例】
①今回(例:11月15日)までにかかった当月の外来金額の合計が60,000円だとすると、
②配慮措置の窓口上限額は、60,000円 × 0.1(1割)+ 3,000 = 9,000円です。
③前回診療(例:11月10日)までの窓口で支払い済の負担額合計 = 4,000円だとすると、今回支払う窓口負担額は9,000円 - 4,000円 = 5,000円となります。
本来の窓口支払額は60,000円 × 0.2(2割)- 4,000円 = 8,000円なので、配慮措置によって3,000円安くなることになります。
なお、配慮措置対象者である場合、その月の外来医療費合計額で計算をしますが、ひと月の窓口負担上限額(1割負担 + 3,000円)の対象となる外来医療費合計額は3万円〜15万円です。 その月に続けて3回目、4回目と病院に通った場合には、「その月にかかった外来医療費合計額の1割 + 3,000円」となるように窓口で計算をしてもらいます。15万円以上になると、通常の外来窓口負担上限額である18,000円となります。
(3)配慮措置を活用するために必要な手続きと注意点
配慮措置を活用するときに、特別な手続きはいりません。配慮措置期間中に、「2割」の対象になったことが記載された被保険者証を提示するとおのずと反映されます。被保険者証についても、入手のために特別な手続きをする必要はなく、「2割」と判定されると「後期高齢者医療広域連合」または「市区町村」から新たな負担割合が記載されたものが家に郵送されてきます。
一方で、いったん支払った1カ月の負担額上限である3,000円との負担差額分が、高額医療費として後日振り込まれる場合があるため、返却用口座の登録はあらかじめしておく必要があります。今回2割負担となる人で、口座登録をまだしていない人には申請書が郵送されてくるので速やかに手続きしましょう。
なお、厚生労働省や地方自治体の職員が電話や訪問で口座登録をお願いすることや、通帳・キャッシュカードの預かり、ATMの操作などをお願いすることはありません。それらはよくある詐欺のケースですので注意が必要です。不審な電話などがあった際には最寄りの警察署や消費生活センターなどに問い合わせましょう。
4.医療費の2割負担が大きい……苦しくなったときの対策

今回2割負担になる人は期間限定の配慮措置が設けられますが、配慮措置が終了したあと(2025年10月以降)は2割負担が大きくのしかかってくるため、家計が苦しくなることに不安を感じる人も多いでしょう。
この章で、対応策を三つご紹介するので、参考にしてください。
(1)医療費控除で所得税を抑えるなど公的制度を活用する
まずは医療費の負担を軽減できる公的制度の利用を検討してみましょう。公的制度にはさまざまなものがありますが、代表的なものは医療費控除です。医療費控除とは、1年間に支払った医療費(診療・治療・療養)の額に応じて、所得税や住民税の納付額が減額となる公的制度をいいます。
年間総所得額が200万円を超えている人の場合、医療費控除の対象となる金額は自己負担をした医療費(保険金で補塡〈ほてん〉された額を除く)- 10万円となり、10万円を超えた部分の金額は医療費控除の対象となります(上限額200万円)。
一方、年間総所得額が200万円以下の人の場合は、10万円ではなく総所得の5%を超える分の医療費が控除されます。 医療費控除をすると、所得税は確定申告によって還付され、住民税は納税額が減額されますので、税負担を軽減することが可能です。
公的制度には、その他にも高額療養費制度、高額療養費貸付制度、無料低額診療事業などいくつかありますので、各制度の担当窓口に相談してみることをおすすめします。
(2)病院などに分割払いや費用軽減の相談をする
多くの病院には相談室が設置されており、医療ソーシャルワーカーという職員などが相談にのってくれます。
手術費用や入院費用の分割払い、支払期日の延長、費用の軽減などに関する相談できますので、どうしても支払いが難しい場合には事前に相談してみましょう。
その際には、分割払いの場合は毎月いくらまでであれば支払っていけそうか、分割回数は何回まで相談可能なのかなどをしっかりと確認することが大切です。
(3)民間の信販会社や銀行などの医療ローンを検討する
病院と提携をしている銀行や民間の信販会社などを利用すれば、「医療ローン」を利用できる場合があります。
医療ローンは保険適用外の治療項目や自由診療の治療にも利用することができます。ただし、ローンの審査が厳しく、金利も高めの場合がありますので利用をする場合には注意が必要です。
5.早いうちから情報を集めて万全な対策を
医療費は急に支払いが必要になるケースが多いものです。いざ入院となってしまえば、まとまったお金を時間がないなかで用意しなければならないこともあります。
今回の2割負担への変更は、そうした負担を大きくするものです。高額医療費の払い戻しなどをしても申請から3カ月前後かかってしまいますので、毎月少しずつでも貯金をしていくなどの準備をしておくことが重要となってきます。終身医療保険の見直しや加入なども検討しておくとより安心でしょう。
いずれにしても、早いうちから情報を集めて万全な対策をすることが大切です。
(AFP・宅地建物取引士 小泉寿洋)
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