
長寿化による職業人生の長期化や、ICT(情報通信技術)やAI(人工知能)の目覚ましい進化により、誰もが職業能力のアップデートが欠かせない時代になりました。
働き方も多様化し、「シングルキャリアで引退」というモデルは、もはや過去のもの。中高年層が保有スキルを時代の変化にあわせて磨き直し、晩年の職業寿命を延ばすためには、新たな知識や技能、スキルのインプットが必要です。
すでに欧米の大学や大学院などでは、幅広い年齢層の人たちが高度な専門教育を受ける光景が当たり前となってきました。社会人として一定の職業生活を経験したあとに、さらなるキャリアアップや職種転換をめざして、専門教育を受け、次の仕事に備える。そのようなリカレント教育が盛んです。
国内ではまだまだリカレント教育についての一般理解は進んでいませんが、関心は高まってきています。そこで、この記事では、日本で受けられるリカレント教育の特徴や国が行っている支援制度について、多くのシニアのキャリアをサポートしている専門家が詳しくご紹介します。
<目次>
- 1.リカレント教育とは?
- (1)リカレント教育とは
- (2)リカレント教育と生涯学習の違い
- (3)リカレント教育の需要が高まる理由は “働き方の変化”
- (4)リカレント教育はシニア層にもおすすめ
- 2.リカレント教育の始め方 意識したいポイントや取り組むときのコツ
- (1)リカレント教育を始めるときのポイント
- (2)リカレント教育に取り組むときのコツ
- 3.リカレント教育を始めるハードルが高いときは……利用してみたい支援サービスや制度
- (1)文部科学省:社会人の学びを応援するサイト「マナパス」
- (2)文部科学省:就職・転職支援のための大学リカレント教育推進事業
- (3)厚生労働省:専門実践教育訓練での「教育訓練給付制度」
- 4.自分が変わることが何よりの成長
1.リカレント教育とは?
(1)リカレント教育とは
リカレント教育とは、社会人が職業能力の開発や新たな知識・スキル、資格などを習得するために大学などの教育機関で学び直すことを言います。
リカレント(recurrent) とは、「反復、循環、回帰」を意味する言葉です。本来の意味でのリカレント教育とは、職業経験のある社会人が必要に応じて、学習と就労を交互に繰り返す教育システムのことですが、日本国内では仕事を中断することなく働きながら学ぶ場合も「リカレント教育」として解釈されています。
例えば、次のような例があげられます。
【リカレント教育の具体例】
・定年前後のセカンドキャリアに向けて、最新のビジネス知識や新しい技能を習得したりパソコンスキルを磨いたりして、晩年のキャリア形成やライフキャリアの充実につなげる
・社会人大学院などで経営管理に関する科目(MBA〈経営学修士〉やMOT〈技術経営〉コースなど)を体系的に学び、所属企業や新たな就業先の経営管理、人材マネジメントに生かす
・税理士や会計士、行政書士や社会保険労務士、通関士などの難関士業の資格取得のために、実務経験だけでは得られない専門知識を講座で学ぶ
・医療業界やIT業界などで最新の知識や技能を学んで、現職に生かしたり、キャリアの幅を広げ再就職や転職につなげたりする
・育児や介護などでキャリアにブランクのある人が、再就職に有効なビジネス知識や専門科目(簿記や会計など)、最新のICT技術、パソコンスキルなどを取得して再就職につなげる
(2)リカレント教育と生涯学習の違い
リカレント教育には、それと似た用語に「生涯学習」があります。どちらも社会人になってからの学びという点では共通しますが、学びの目的や内容、目指す方向性に違いがあります。
具体的には、下表のようになります。
リカレント教育 | 生涯学習 | |
学ぶ目的 | 仕事に生かすための知識やスキル・技術を得るための学び(働くことが前提の学び) | 生涯を通じて、より豊かな人生を送るための学び |
学習内容 / 活動内容例 | ・各種資格取得 ・学位取得 ・専門性の高いビジネス知識やスキル ・最新の医療技術、IT関連技術など職業に直結する学習内容 |
・学校教育 ・家庭教育 ・社会教育 ・文化活動 ・スポーツ活動 ・レクリエーション活動 ・ボランティア活動 ・趣味の活動 ・芸術活動 |
(3)リカレント教育の需要が高まる理由は “働き方の変化”
いま、日本においてリカレント教育への需要が高まっているのは、かつて日本経済を支えてきた日本的雇用制度(終身雇用、年功序列、企業別組合)の機能と役割が失われつつあるからです。
働き方改革の推進や人々の仕事に対する意識の変化も相まって、企業と個人の関係性も従来のような相互依存では成り立たなくなってきました。他方で長寿化と健康寿命の伸びで職業人生は長期化しています。
雇用の継続を促進する再雇用制度の導入は浸透していますが、運用面ではいま一つではないでしょうか。例えば、シニア社員や女性社員を、本当の意味で戦力として高度活用するまでに至ってない企業が国内では少なくありません。またブランクのある女性や不安定な働き方をしている多くの人が、加齢による就業機会の減少を恐れています。
こうした影響から、いまリカレント教育に代表される“学びによる職務能力の向上”の需要が高まっているのです。
(4)リカレント教育はシニア層にもおすすめ
これからの時代は、自らのキャリアを自らでコントロールして、職業能力を自らアップデートし、働き手としてのスキルを維持する必要があります。
そこでリカレント教育が重要となってくるのですが、このリカレント教育は30~40代といった働き盛りの世代だけでなく、シニア層にもおすすめです。
現在働いている仕事のためのスキルを学び直し、収入がアップすれば、将来をより安心して過ごせるようになるでしょう。
また、少子高齢化が進むいま、企業は高齢の人材をどう活用するか考えることが強く求められています。それは、企業が求めているスキルを持っていれば、キャリアの選択肢が広がりやすくなることを意味しています。高齢者雇用が活発になれば、さらに引く手あまたとなると考えられるので、より高待遇な仕事を獲得できる可能性も高くなります。
そのため、もし次のようなケースに当てはまるのであれば、リカレント教育を前向きに検討してみることをおすすめします。
【リカレント教育がおすすめの人の例】
・現在の仕事の専門性をより高め、キャリアアップや年収の向上を目指している人
・役職を外れるポストオフで仕事へのモチベーションが落ちていると感じている人
・未経験分野への転職や再就職に挑戦したい人、応募可能求人の選択肢を広げたい人
・管理職や役職に抜擢(ばってき)されたものの、自社でその立場に見合う教育制度やロールモデルが不在な人(経営管理や人材マネジメントを学ぶ)
・定年前後で再雇用について迷っている人、 早期退職や再就職準備休職期間などでこれからセカンドキャリアを目指す人
・今の仕事の延長ではなく、あえて新たな業種・職種にキャリアチェンジを目指したい人
2.リカレント教育の始め方 意識したいポイントや取り組むときのコツ

繰り返しになりますが、いまは職業人生の長期化に備え、自己のキャリア形成を自らマネジメントするために学びの自己投資は欠かせない時代です。所属会社の人材育成や教育研修に依存することなく、自発的に学びの機会を増やすことが学びの効果をより一層高めます。
では、リカレント教育を実際に始めるときは、どのような点に気をつければよいのでしょうか。
(1)リカレント教育を始めるときのポイント
リカレント教育を始めるときは、前提として、これまでのキャリアを一度棚卸してみましょう。いまできることは何なのかこれまでの知識経験を洗い出し、将来にわたって使える保有能力は何なのかを特定してください。そのうえでなりたい自分を描きながら今後のキャリアプランを具体的に考えましょう。
現在の勤務先でのキャリアアップにどのような知識やスキルが必要なのか、あるいは、今後市場価値の高まる職業能力は何なのかを探索しながらキャリアプランを描くことが望ましいです。
また、それとあわせて、定年後を見据えて業界や業種を転向した場合に活用できる知識・経験・実務能力を把握したうえで、セカンドキャリアに向けたキャリアプランを作ることをおすすめします。
以上をもとに、下記のポイントを意識しながら学ぶ内容を選んでみましょう。
①幅広く情報収集をする
リカレント教育で重要なのは情報収集です。厚生労働省や文部科学省が認定している講座であればある程度安心できますが、紛らわしい情報もあるので注意しましょう。ネット情報だけでなくできれば経験者に聞きたいところ。なお、社会人大学院などでは説明会を実施しているところもあるので、直接確かめるには有効です。
②選択した学びが必要な職業上の知識・スキルに直結しているか見極める
最近は、通信講座やオンライン講座などがあふれています。情報収集をしていると、どのような学びやプログラムを選んだらいいか迷うときがあるでしょう。そのときの判断基準になるのが、事前に作ったキャリアプランです。その学びがキャリアプランで描いた必要な知識・スキルに直結するか否かをよく見極めてください。
③助成金や補助金対象の講座かどうか確認する
学びの費用が高額になる場合があります。教育訓練対象講座の場合は、補助金や助成金が出ますので事前に確認を。ただし、雇用保険の加入期間など一定の条件もありますので、事前に確認し賢く各種制度を活用しましょう。
(2)リカレント教育に取り組むときのコツ
学びの内容が決まり、リカレント教育にいざ取り組むことになったら、次の三つをしておくことをおすすめします。
①学びの仲間をつくる
リカレント教育に取り組むときにまず意識してほしいことは、学びの仲間を作ることです。
学びの過程で、相互に刺激や影響を受けることで、学びのモチベーションアップにつながります。また将来にわたって利害関係のない貴重な人脈になります。
②「空いている時間に学ぶ」ではなく「学ぶための時間をつくる」スタンスをとる
仕事や日々の生活に追われていると、なかなか「学び直し」の時間は作れないと考えがちです。
ですが、忙しいからこそ、仕事の進め方や生活の工夫で少しずつ学びの時間を確保してみましょう。それが日常の習慣になっていくと仕事で大切なタイムマネジメント(生産性の向上)も鍛錬され、コアスキルになります。
③スキルや知識はすぐには身につかないと心得る
新しい知識やスキルが定着し、自由に利活用できるようになるには個人差もありますが、一定の時間が必要です。結果ばかり焦るのではなく、学びそのものを楽しむくらいの気持ちで挑めたらいいですね。そのためには、無理のない学習計画を立てることも大切です。
3.リカレント教育を始めるハードルが高いときは……利用してみたい支援サービスや制度

リカレント教育に関しては、国の各省庁がさまざま支援サービスや制度を設けています。取り組みたいけどやっぱりハードルが高い……そう思うときはぜひ活用してみましょう。
(1)文部科学省:社会人の学びを応援するサイト「マナパス」
文部科学省の「マナパス」は、リカレント教育に関する支援制度を知りたい人のための情報サイトです。4,000以上の大学・専門学校などの講座情報が掲載されており、学びの分野、資格、給付金や奨学金などの支援、土日夜間開講など、個人のニーズにあった目的別の情報検索ができます。
(2)文部科学省:就職・転職支援のための大学リカレント教育推進事業
文部科学省の就職・転職支援のための大学リカレント教育推進事業は、大学が企業やハローワークなどと連携して、就職や転職に役立つプログラム(スキル向上につながる講座)を提供する事業です。2021年9月時点で40の大学が参加しており63のプログラムが採択されています。分野はデジタルや医療・介護、地方創生、女性活躍などさまざまです。受講費用は原則無料(一部テキスト代等は除く)となっています。
(3)厚生労働省:専門実践教育訓練での「教育訓練給付制度」
教育訓練給付制度とは、働く人の主体的で中長期的なキャリア形成を支援し、雇用の安定と再就職の促進を図ることを目的とする給付制度です。受講費用の20~70%の補助が受けられます。
ただし、雇用保険の加入期間など一定の条件を満たす雇用保険の被保険者(在職者)または被保険者であった人(離職者)のみが対象です。また給付を受けるためには、ハローワークに申請する必要があります。
教育訓練給付制度では、次の三つの訓練に分け、支給額の上限を定めています。
①専門実践教育訓練
専門実践教育訓練に分類されている講座を受けた場合、最大で受講費用の70%(年間上限56万円・最長4年)を支給してもらえます。対象講座には次のようなものがあります。
〈対象講座の例〉
・業務独占資格などの取得を目標とする講座
⇒看護師、介護福祉士、社会福祉士、美容師、調理師、保育士、歯科衛生士など
・デジタル関係の講座、
⇒ITSS(IT人材を育成するときの指標)レベル3以上のIT関係資格取得講座
⇒第四次産業革命スキル習得講座(経済産業大臣認定)
・大学院・大学などの課程
⇒専門大学院の課程(MBA、法科大学院、教職大学院など)
・専門学校の課程
⇒職業実践専門課程(文部科学大臣認定)
⇒キャリア形成促進プログラム(文部科学大臣認定)
②特定一般教育訓練
特定一般教育訓練に該当する講座を受講した場合、受講費用の40%(上限20万円)を受け取ることができます。
〈対象講座の例〉
・業務独占などの取得を目標とする講座
⇒介護職員初任者研修、大型自動車第一種、第二種免許、税理士など
・デジタル関係の講座
⇒ITSSレベル2以上のIT関係資格取得講座など
③一般教育訓練
一般教育訓練では、受講費用の20%(上限10万円)を支給してもらえます。
〈対象講座の例〉
・資格の取得を目標とする講座
⇒英語検定、簿記検定、ITパスポートなど
・大学院などの課程
⇒修士・博士の学位などの取得を目標とする課程
なお、具体的にどの講座がどの教育訓練給付の対象になっているのかについては、厚生労働省の「教育訓練講座検索システム」で調べることができます。
4.自分が変わることが何よりの成長
学びが苦手、そもそも大学や大学院での勉強はしたくないと あなたは思いますか?
筆者は、ここ数年リカレント教育に携わり、学び直しによって再就労したり転身したりする人たちを見守ってきました。そこで、目にした光景は、多くの人が、学びを楽しんでいる姿でした。学ぶことに、とても貪欲(どんよく)で熱心だったのです。「学生時代もこんなに勉強しなかった」という人も多くいました。
筆者自身も社会人になって社会人大学院で学位を取得しましたが、仕事をしながらの学業は、確かに楽ではありませんでした。しかし実務経験を積んで、日々仕事に追われながらアカデミックな理論を学んでみると「現実はそんなものじゃない」「そういうことだったのか」と学生時代の理解とは違うところで学びを受け止められるのです。先生や他の受講生との議論も楽しみの一つでした。学びを通じた仲間は、とても大切な人的財産です。
リカレント教育を始める動機や目的は、個人に委ねますが「学び」による自分自身の変化のダイナミズムを味わってもらいたいと思います。自分が変わることが、何よりの成長ではないでしょうか。
(一般社団法人シニアセカンドキャリア推進協会代表理事 髙平ゆかり)
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