
親の土地を売るには、どのように手続きすればよいのでしょうか。
実は、その手続きは親が亡くなっているのか、認知症なのか、健常なのかによって異なります。この記事では、親の状況別に手順や発生する税金、注意点などをご紹介します。
<目次>
- 1.親の土地を売る前に知っておきたい基本知識
- 2.亡くなった親の土地を売る場合
- (1)亡くなった親の土地を売る場合の手順
- (2)亡くなった親の土地を売る場合にはどのくらい税金がかかるのか?
- (3)亡くなった親の土地を売る場合の注意点
- 3.認知症の親の不動産を売る場合
- (1)認知症の親の不動産を売る場合の手順
- (2)認知症の親の土地を売る場合にはどのくらい税金がかかるのか?
- (3)認知症の親の土地を売る場合の注意点
- 4.健康な親の不動産を売る場合
- (1)健康な親の土地を売る場合の手順
- (2)健康な親の土地を売る場合にはどのくらいの税金がかかるのか?
- (3)健康な親の不動産を売る場合の注意点
- 5.親の土地とあわせて家を売りたい場合
- 6.一連の流れを知って早めの準備を
1.親の土地を売る前に知っておきたい基本知識
ひと言で親の土地を売ると言ってもさまざまな状況が考えられるでしょう。
例えば、親が亡くなって相続税の支払いに困り土地を売らなければならなくなった、親が認知症になり施設に入ることになったのでその資金として土地を売りたい、などです。
また、そうなったあとでの売却ともなると、急いでいる(いわゆる売り急ぎ)ために通常の価格より低い価格で売却してしまうこともあります。そうならないために、親が健康なうちに売りたいと考えている人もいるでしょう。
親の土地を売るときに注意しなければいけないのは、こうした状況によって必要な手続きや発生する税金が少しずつ異なることです。
以下、状況別の表をご覧ください。
状況 | 主な手順 | 発生する税金 | 気をつけたいポイント |
亡くなった親の土地を売る場合 | ①遺産分割協議書を作成する ②所有権移転登記(相続登記)をする ③土地を売る |
・譲渡所得税 ・復興特別所得税 ・住民税 ・印紙税 ・登録免許税 |
・遺産分割協議書作成時 ・土地の評価額 |
認知症の親の土地を売る場合 | ①成年後見人の申し立てをする ②土地を売る ③居住用不動産処分許可の申し立てをする ④不動産登記申請をする |
・譲渡所得税 ・復興特別所得税 ・住民税 ・印紙税 ・登録免許税 |
・成年後見人としての義務 ・専門家が成年後見人になった場合の費用 |
健康な親の土地を売る場合 | 親自身が売る場合と子が代わって売る場合で異なる | ・譲渡所得税 ・復興特別所得税 ・住民税 ・印紙税 ・登録免許税 ・不動産取得税 ・贈与税 |
相続人が多数いる場合 |
では、それぞれの状況別に、以下から詳しくご説明します。
2.亡くなった親の土地を売る場合
まずは、亡くなった親の土地を売る場合です。
ケース | 主な手順 | 発生する税金 | 気をつけたいポイント |
亡くなった親の土地を売る場合 | ①遺産分割協議書を作成する ②所有権移転登記(相続登記)をする ③土地を売る |
・譲渡所得税 ・復興特別所得税 ・住民税 ・印紙税 ・登録免許税 |
・遺産分割協議書作成時 ・土地の評価額 |
(1)亡くなった親の土地を売る場合の手順
①遺産分割協議書を作成する
被相続人(故人)が遺言書の作成をしなかった場合は、相続財産について相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成します。相続人が多数存在したり遠方にいたりする場合には、時間を要する場合も多々あるため注意が必要です。
なお、相続人が1人の場合には、基本的に遺産分割協議書の作成は不要となります。
②所有権移転登記(相続登記)をする
遺産分割協議書を作成したら、所有権移転登記(相続登記)をします。
所有権移転登記とは、相続する財産のなかにある不動産名義を変更して、相続人の名とすることです。親の土地は、被相続人である親から相続人である自分自身の名義に変更することで、初めて売ることができるようになります。
所有権移転登記をするには、相続する土地が所在する法務局へ申請します。
ここで、注意したいのが、親の土地を相続する子の住所地(住民票記載住所)ではなく、相続する土地の所在地になる点です。例えば東京都練馬区に住んでいても、静岡市葵区の土地を相続したのなら静岡市葵区の管轄の法務局へ届け出が必要となります。
なお、親の名義のままでは、その土地上における建物の取り壊しや新たな建物建築などもできないので、遺産分割協議が調った段階で相続の移転登記はスムーズにおこなうように心がけましょう。
③土地を売る
土地の名義が親から子(相続人)へと移転登記が完了すると、その不動産の売却という流れになります。
ここで、困るのは、「どこでどうやって土地を売ればいいの?」という問題が発生することでしょう。
特に不動産会社選びに迷う人の声をよく聞きます。みなさんのお住まい付近にも多くの不動産会社があるかと思いますが、どこの不動産会社が良いのか、的確に判断するのは難しいものです。
その場合は、土地の価値(売り出し価格または販売価格)を算出してくれる一括査定サイトをまず利用するとよいでしょう。算出された価格はあくまで参考価格なので注意が必要ですが、相場をつかむことはできます。そのうえで、不動産会社を選んでみてください。
不動産会社を決めたら、その不動産会社との間で媒介契約を結び、あとは買い主が見つかるのを待つだけです(買い主探しは不動産会社がしてくれます)。
買い主が決まれば、土地の代金決済や引き渡しがおこなわれ、土地を売るという作業は終了になります。ただし、税金(詳細後述)を支払う必要があるので注意しましょう。
また、不動産会社にも仲介手数料または媒介報酬を支払わなければいけません。売買代金が400万円を超えた場合の計算式は、売買代金の3% + 6万円 + 消費税です。売る土地の売買代金が高ければ高いほど、不動産会社への支払金額は高くなります。
(2)亡くなった親の土地を売る場合にはどのくらい税金がかかるのか?
①課税される税金の種類
親の土地を売るときには、以下のような税金が発生します。
税金 | 概要 | 納税時期 | 納税方法 |
譲渡所得税 | 売却代金が取得価格より高く利益が出た場合にかかる税金 | 確定申告時(売却翌年の2/16~3/15) | 確定申告で納税 |
復興特別所得税 | 同上 | 同上 | 同上 |
住民税 | 同上 | 売却翌年5月ごろ | 郵送で自宅に届いた納付書にて納税 |
印紙税 | 不動産の売買契約をするときにかかる税金 | 不動産の売買契約時 | 売買契約書に貼付納付 |
登録免許税 | 所有権移転登記をするときにかかる税金 | 所有権移転登記時 | 収入印紙を登記申請書に配付納付 |
なお、相続ではない場合には、所有権移転登記などが行われると不動産取得税もかかりますが、相続においては非課税となります。
②具体的な計算式
・譲渡所得税
ここで言う譲渡所得とは、土地の売却代金です。譲渡所得税は、譲渡所得金額(土地の売却代金)から、取得価格(土地を取得するためにかかった費用。実際の土地購入費にその購入の際にかかった費用を含む)と譲渡費用(土地を売るためにかかった費用。例:土地の測量費)を引き、そこに税率を乗じて求めます。
なお、税率は土地の保有期間5年以下(短期譲渡所得)の場合30%、5年超(長期譲渡所得)の場合15%となります。
譲渡所得税の計算式
譲渡所得税 =(譲渡所得金額 - 取得価格 - 譲渡費用)× 税率
・復興特別所得税
復興特別所得税は譲渡所得税が生じた場合のみ課税される税金となります。
復興特別所得税の計算式
復興特別所得税 = 譲渡所得税 × 税率2.1%
・住民税
住民税も譲渡所得金額が生じた場合のみ課税される税金となります。住民税も、譲渡所得金額から取得価格と譲渡費用を引き、そこに税率を乗じて求めます。なお、この場合の税率も、保有期間5年以下の場合は9%、保有期間5年超の場合は5%と異なるので注意が必要です。
住民税の計算式
住民税 =(譲渡所得金額 - 取得価格 - 譲渡費用)× 税率
③具体的な計算例
例えば下記のような条件の場合に発生する税金を求めてみます(ここでは譲渡所得税・復興特別所得税・住民税をあわせた金額のみを求めることとします)。
* 土地の取得価格(取得費も含む):1,000万円
* 譲渡所得金額(土地の売却代金):3,000万円
* 譲渡費用:100万円
* 保有期間:10年(長期譲渡所得に該当)
なお、実際の計算では、「譲渡所得税の税率 + 復興特別所得税の税率(譲渡所得税の税率 × 2.1%) + 住民税の税率」と、三つの税率の合計値を先に計算したほうが、税額を求めやすくなります。
上記の条件の場合は、
三つの税率の合計値
= 15% + 15% × 2.1% + 5%
= 20.315%
となります。よって発生する税金の額は、以下のように計算できます。
発生する税金の額
=(譲渡所得金額 - 取得価格 - 譲渡費用)× 三つの税率の合計値
=(3,000万円 - 1,000万円 - 100万円)× 20.315%
≒386万円
※注意点
親の土地を売るともなれば、実際その土地の取得価格が不明という方が多くいます。その際の取得価格は、実際の譲渡所得金額(土地の売却代金)の5%になります。
参考までに算出された課税金額の違いを見比べて見て下さい。
* 土地の取得価格:3,000万円 × 5% = 150万円
* 他の条件は、上記と同じ
発生する税金の額
=(譲渡所得金額 - 取得価格 - 譲渡費用)× 三つの税率の合計値
=(3,000万円 - 150万円 - 100万円)× 20.315%
≒559万円
このように、取得価格が判明しているかの有無で173万円もの差が生まれます。ただ、取得価格が判明していても物価の価値も昔とは大分違いますので、逆に取得価格が不明の譲渡所得金額(土地の売却代金)5%の方がお得になる可能性もあります。
(3)亡くなった親の土地を売る場合の注意点
①遺産分割協議が進まない場合は弁護士に相談
遺産分割協議書作成には相続人全員の承認などが必要になります。そのため、相続人の1人でも遺産分割内容について反対した場合は、同意してもらうように交渉をしなければいけません。あるいは、行方がわからないなどの状況だと、まずは相続人を探す作業から始める必要が出てきます。
どちらも、自力での解決は難しいため、もしその場合は多少費用をかけてでも、相続専門の弁護士などに依頼することをおすすめします。
②土地の評価額に疑問がある場合は不動産鑑定士に相談
不動産は現金や有価証券など他の相続財産に比べて、安く評価されがちです。
相続時の財産評価が土地は相続税路線価(実際の価格の80%)で評価され、家屋は固定資産税評価証明書に記載されている評価額で評価されます。さらに、実際に親の方が住んでいた土地は、小規模宅地の減額特例などもあり、実際の価格の20%の評価額で計算されます。
そのため、土地をもらう相続人と現金などでもらう相続人の間で、不動産評価を巡って問題が発生することがしばしばあります。
この場合は、不動産の専門家でもある不動産鑑定士に、時価評価が記載された不動産鑑定評価書の作成をお願いしてみるとよいでしょう。
3.認知症の親の不動産を売る場合
次に、認知症の親の土地を売る場合の手順をご紹介します。
余談ですが、筆者は祖母が認知症になったときに、これほど大変なことなのかと思った経験があります。
そのため、今はまだ親が認知症になっていなかったとしても、万が一に備えて手続きの仕方を知っておくことをおすすめします。
ケース | 主な手順 | 発生する税金 | 気をつけたいポイント |
認知症の親の土地を売る場合 | ①成年後見人の申し立てをする ②土地を売る ③居住用不動産処分許可の申し立てをする ④不動産登記申請をする |
・譲渡所得税 ・復興特別所得税 ・住民税 ・印紙税 ・登録免許税 |
・成年後見人としての義務 ・専門家が成年後見人になった場合の費用 |
(1)認知症の親の不動産を売る場合の手順
①成年後見人の申し立てをする
認知症になった親の土地を売る場合、成年後見制度を利用するのが一般的です。
成年後見制度とは、認知症など判断能力が不十分な成年者の財産管理や身の回りの世話の手配を、代理権や同意権が付与された子や専門家がおこなうことができる制度です。判断能力が不十分な成年者を成年被後見人、財産管理や身の回りの世話の手配をする人を成年後見人と言います。
また、財産管理には、通帳、年金、不動産の管理、税金、公共料金の支払いなどがあげられます。身の回りの世話の手配とは、要介護認定の申請、介護サービスの契約、老人ホームの入居契約などの介護・生活面の手配が該当します。
成年後見人を選任する決定権は家庭裁判所にあり、未成年や破産者を除けば誰でもなれますが、基本的には親族が多いです。時として弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門家が選ばれることもあります。専門家が選ばれた場合には1カ月数万円の費用がかかるので注意してください。
成年後見人として選任されるまでの手順は、以下のとおりです。
1. 本人(認知症になった親)の住所地である家庭裁判所に成年後見制度開始の申し立てをする
2. 裁判所からの依頼で医師が本人の意思能力を確認する
3. 成年後見人を選定する(審判の確定)
上記1〜3の手順を経て、成年後見人が選任されると土地を売る流れに進めるようになります。
②土地を売る
成年後見人が選任されると親の土地を売るという売買契約が可能となり、所有者(親)の代わりに不動産会社と土地を売る契約を結び、買い主との売買契約を交わします。
その際、不動産会社の選定には、通常の売買時よりも注意が必要です。通常の売買であれば、土地を売る人と買う人の両者の意思で売買契約を締結し、その後所有権移転登記がなされれば終了となります。
しかし、認知症になった親の土地を売るには、成年後見人が不動産会社を通じて買い主を探しても、その後の手順として家庭裁判所に居住用不動産処分許可の申し立てが必要となります。
このように少し特殊な売買となるため、不動産会社の選定には成年後見人の売却経験のある不動産屋がおすすめです。
③居住用不動産処分許可の申し立てをする
②の売買契約を終えたら、「不動産の全部事項証明書」や「固定資産評価証明書」などの必要書類を家庭裁判所に提出して、居住用不動産処分許可の申し立てをおこないます。
ただ、この申し立てが受け入れられるかは、以下のような条件を満たす必要があります。
* 売却に必要性がある
* 所有者本人の生活・看護状況・意向に適している
* 売却条件が適切である
* 売却後の代金が所有者本人のために使われている
* 親族が処分に対して反対の意思をしていない
このようなことが総合的に判断されて、居住用不動産処分許可が得られるようになります。
なお、成年後見人が選任されたあと、土地売却のために家庭裁判所で「許可」をもらう必要があるのは居住用の不動産のみです。非居住用の投資用不動産などの場合には、家庭裁判所の許可なしに、成年後見人が自分の判断で不動産を売却できます。
④不動産登記申請をする
居住用不動産処分許可が得られれば次に、売買契約締結をした売買代金の精算と買い主への所有権移転登記がおこなわれます。その際、以下の書類が主に必要となります。
* 権利書及び登記識別情報
* 印鑑証明書
* 実印
* 家庭裁判所の居住用不動産処分許可書
* 身分証明書
* 住民票
* 抵当権抹消書類一式(住宅ローンの残債ありの場合)
(2)認知症の親の土地を売る場合にはどのくらい税金がかかるのか?
①課税される税金の種類
基本的に親の土地を売るときに発生した際にかかる税金と同じです。
税金 | 概要 | 納税時期 | 納税方法 |
譲渡所得税 | 売却代金が取得価格より高く利益が出た場合にかかる税金 | 確定申告時(売却翌年の2/16~3/15) | 確定申告で納税 |
復興特別所得税 | 同上 | 同上 | 同上 |
住民税 | 同上 | 売却翌年5月ごろ | 郵送で自宅に届いた納付書にて納税 |
印紙税 | 不動産の売買契約をするときにかかる税金 | 不動産の売買契約時 | 売買契約書に貼付納付 |
登録免許税 | 所有権移転登記をするときにかかる税金 | 所有権移転登記時 | 収入印紙を登記申請書に配付納付 |
②具体的な計算式
・譲渡所得税
譲渡所得税の計算式は、次のとおりです。
譲渡所得税の計算式
譲渡所得税 =(譲渡所得金額 - 取得価格 - 譲渡費用)× 税率
※税率は土地の保有期間によって変わり、5年以下の場合30%、5年超の場合15%
・復興特別所得税
復興特別所得税の計算式は次のとおりです。
復興特別所得税の計算式
復興特別所得税 = 譲渡所得税 × 税率2.1%
・住民税
住民税の計算式は次のとおりです。
住民税の計算式
住民税 =(譲渡所得金額 - 取得価格 - 譲渡費用)× 税率
※税率は、保有期間5年以下の場合9%、保有期間5年超の場合5%
③具体的な計算例
例えば下記のような条件の場合、次のように計算されます(ここでは譲渡所得税・復興特別所得税・住民税をあわせた金額のみを求めることとします)。
* 土地の取得価格(取得費も含む):1,000万円
* 譲渡所得金額(土地の売却代金):3,000万円
* 譲渡費用:100万円
* 保有期間:10年(長期譲渡所得に該当)
* 以下の税率:譲渡所得税・復興特別所得税・住民税の三つの税率の合計
(土地の保有期間5年超のため、復興特別所得税は、課税所得税15%×2.1%=0.315%)
発生する税金の額
=(譲渡所得金額 - 取得価格 - 譲渡費用)× 三つの税率の合計値
=(3,000万円 - 1,000万円 - 100万円)× (15% + 0.315%+ 5%)
≒386万円
なお、土地の取得価格が不明な場合は、親の亡くなった土地を売る場合と同様、その取得価格は実際の譲渡所得金額(土地の売却代金)の5%になります。
(3)認知症の親の土地を売る場合の注意点
①成年後見人にはさまざまなルールがある
成年後見人になると、年に1回程度、本人(認知症の親)の財産状況や収支状況を裁判所に報告しなければなりません。
また、財産管理の最大の目的は「本人の利益」を守ることです。そのため、もし本人の財産を自分のために使うと横領罪が成立する場合があります。また、成年後見人から解任されたり、ほかの相続人との関係がこじれたりすることもあるので気をつけましょう。
②専門家が成年後見人になると費用がかさみやすい
司法書士などの専門家が親の成年後見人として選任された場合、親が生きていて、判断能力が回復しないかぎり、その専門家がずっと成年後見人としていることになります。その間、当然ながら支払いが必要になってくるため、十分な用意をしておく必要があります。
4.健康な親の不動産を売る場合
最後に、健康な親の土地を売る場合の手順を見ていきましょう。
上記で見てきたように、認知症になると土地の売却一つするのも大変です。親が健康なうちにそれなりに対策しておくことをおすすめします。
ケース | 主な手順 | 発生する税金 | 気をつけたいポイント |
健康な親の土地を売る場合 | 親自身が売る場合と子が変わって売る場合で異なる | ・譲渡所得税 ・復興特別所得税 ・住民税 ・印紙税 ・登録免許税 ・不動産取得税 ・贈与税 |
・相続人が多数いる場合 |
(1)健康な親の土地を売る場合の手順
健康な親の土地を売る場合、親自身が土地を売るのか、それとも子が代わって売るのかによって必要な手順が変わります。それぞれに分けてご説明します。
①親自身が土地を売る場合
親自身が土地を売る場合、名義変更の必要がないため、不動産会社を選定して手続きを進めれば問題ありません。ただし、売却益が生じた場合は、親に譲渡所得税の支払義務が発生します。
また、土地の売却金を子に渡すときも注意が必要です。この場合は現金贈与にあたり、現金を受け取った子に贈与税の支払い義務が生じます。
したがって、このパターンでは、手続き自体は難しくないものの、場合によっては親が支払う譲渡所得税の金額と子が支払う贈与税の金額の合計金額を考えることが求められます。
②子が代わりに土地を売る場合
子が親の代わりに土地を売る場合、二つのパターンがあります。一つは親名義のまま子が代わりに売却する、もう一つは子名義に変更して子が売却する、です。
前者の場合は、売却を委任する旨を記載した委任状を親に作成してもらい、不動産会社に提出する必要があります。不動産会社と契約したあとの流れは同じです。買い主が決まったら手続きを進め、売却益が発生したら親が譲渡所得税を支払います。なお、土地の名義は変わっていないため、もし売却金を子が受け取る場合は、前述したように金銭贈与となるため贈与税が発生します。
後者の場合は、まず相続する土地がある法務局で所有権移転登記(相続登記)をして名義を変更します。そのうえで不動産会社と契約を結び、土地を売ることになります。土地名義を親から子に変更し子が売却金を受け取るときは、土地名義を子へ変更した時点で土地対価相当額が贈与税・不動産取得税の対象となります。また、売却益が発生した場合は、子に対して譲渡所得税が発生します。
(2)健康な親の土地を売る場合にはどのくらいの税金がかかるのか?
①課税される税金の種類
上記の通り、健康な親の土地を売る場合、さまざまな税金が発生します。税金と納税時期、納税方法を下記の通りまとめてみましたので参考にしてみてください。
税金 | 概要 | 納税時期 | 納税方法 |
譲渡所得税 | 売却代金が取得価格より高く利益が出た場合にかかる税金 | 確定申告時(売却翌年の2/16~3/15) | 確定申告で納税 |
復興特別所得税 | 同上 | 同上 | 同上 |
住民税 | 同上 | 売却翌年5月ごろ | 郵送で自宅に届いた納付書にて納税 |
印紙税 | 不動産の売買契約をするときにかかる税金 | 不動産の売買契約時 | 売買契約書に貼付納付 |
登録免許税 | 所有権移転登記をするときにかかる税金 | 所有権移転登記時 | 収入印紙を登記申請書に配付納付 |
不動産取得税 | 所有権移転登記などがおこなわれるときに発生する税金 | 不動産を取得してから約6カ月後 | 郵送で自宅に届いた納付書にて納税 |
贈与税 | 親が不動産やその売却金を子に渡すときにかかる税金 | 確定申告時(売却翌年の2/16~3/15) | 確定申告で納税 |
②具体的な計算式
・譲渡所得税
譲渡所得税の計算式は、次のとおりです。
譲渡所得税の計算式
譲渡所得税 =(譲渡所得金額 - 取得価格 - 譲渡費用)× 税率
※税率は土地の保有期間によって変わり、5年以下の場合30%、5年超の場合15%
・復興特別所得税
復興特別所得税の計算式は次のとおりです。
復興特別所得税の計算式
復興特別所得税 = 譲渡所得税 × 税率2.1%
・住民税
住民税の計算式は次のとおりです。
住民税の計算式
住民税 =(譲渡所得金額 - 取得価格 - 譲渡費用)× 税率
※税率は、保有期間5年以下の場合9%、保有期間5年超の場合5%
・不動産取得税
所有権移転登記などがおこなわれるときに発生する税金です。不動産を取得した側に発生します。
不動産取得税
不動産取得税 = 土地対価相当額 × 税率
※土地対価相当額は、2024年3月31日までに宅地等(宅地及び宅地評価された土地)を取得した場合、評価価格の1/2
※税率は2024年3月31日まで3%
・贈与税
不動産やその売却金を子に譲り渡したときに、贈与を受けた側に発生する税金です。以下の計算式で算出されます。
贈与税の計算式
贈与税 =(贈与された財産の合計額 - 基礎控除額)× 税率 - 控除額
※基礎控除額は110万円
※税率・控除額は基礎控除額後の金額と、贈与する人・贈与される人の関係性および贈与される人の年齢によって異なる。詳しくは「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)丨国税庁」
③具体的な計算例
例えば、親に代わって土地を売却し、その売却金を子が受け取るケースで、下記のような条件の場合、かかる税金は次のように計算されます。
* 土地の取得価格(取得費も含む):1,000万円
* 譲渡所得金額(土地の売却代金):3,000万円
* 譲渡費用:100万円
* 保有期間:10年(長期譲渡所得に該当)
* 以下の税率:譲渡所得税・復興特別所得税・住民税の三つの税率の合計
(土地の保有期間5年超のため、復興特別所得税は、課税所得税15%×2.1%=0.315%)
発生する税金の額
=(譲渡所得金額 - 取得価格 - 譲渡費用)× 三つの税率の合計値
=(3,000万円 - 1,000万円 - 100万円)× 15% +0.315% + 5%
≒386万円
また、売却金の受け取りによって発生する贈与税は、次のようになります。なお、売却金を受け取る子は50歳で、売却金以外に何も贈与されていないものとします。その場合、税率は45%です。
贈与税
=(贈与された財産の合計額 - 基礎控除額)× 税率 - 控除額
=(1,900万円 - 110万円)× 45% - 265万円
= 540.5万円
(3)健康な親の不動産を売る場合の注意点
私の親もそうですが「目が黒い(元気な)うちに私の資産をある程度分けておきたい」という言葉をよく耳にします。そこで、問題となる多くが、相続人が複数いた場合に1人の子に偏って財産分与をしてしまうケースです。
他の子がその土地売却の事実を知らなければ問題となりませんが、現実はそう甘くはありません。
相続のときに隠し通していたことがほかの兄弟姉妹に見つかり、けんか別れしたというケースもときおり見られます。やはり兄弟姉妹はできる限り平等財産になるように、今のうちからよく話し合っておいたほうがよいでしょう。
5.親の土地とあわせて家を売りたい場合

親の土地を売りたい場合、実際には「土地」だけでなく通常は土地の上に家屋(建物)も存在するケースも多いでしょう。不動産とは、土地と家屋(建物)を含むのが一般的です。
親の土地とあわせて土地上の家屋も売る場合にかかる税金は、これまでの説明と同様です。
ただ、土地上に家屋が存在する場合には、家屋の建築年数によっては建物の取り壊しやリフォーム費用なども売却金の査定において検討する必要性が生じる点に注意が必要です。
6.一連の流れを知って早めの準備を
ご紹介してきたように、親が亡くなってから土地を売る場合、親が認知症になったあとに土地を売る場合、親が元気なうちに親の土地を売る場合では、取るべき手順が異なります。
特に大変なのは、認知症にかかった親の土地を売りたいときです。
そのため、できることならば、親が健常な間に、遺言を残したり成年後見人を指名したりするように話し合っておきましょう。
そして、通常の土地売却よりも複雑になりがちな親の土地の売却をスムーズにおこなうために、今までの一連の流れを把握して事前にしっかりと準備することをおすすめします。
(未来不動産コンサルタント株式会社代表取締役・不動産鑑定士 小川樹恵子)
関連記事
あわせて読みたい
おすすめ記事
\ プレゼント・アンケート受付中! /
プレゼント・アンケート
-
-
[受付中]大原千鶴さんの基本の味つけ決定版 『お料理ノート』プレゼント
2023/06/06
-
-
[受付中]創生期の熱気がよみがえる 『宝塚少女歌劇、はじまりの夢』プレゼント
2023/05/30
-
-
[受付中]和田秀樹さんの『「65歳の壁」を乗り越える最高の時間の使い方』贈呈
2023/05/23
\ 学ぼう、参加しよう!ただいま募集中 /
講座・イベント
-
-
[受付終了]Reライフ山歩き部 近藤幸夫さんと一緒に岩殿山に登りませんか
2023/04/04
-
-
[受付終了]老後のお金を学び、管理する金融サービスについて意見を聞かせてください
2023/02/28
これまでの活動をリポート
-
-
吉永小百合さん ずっと「今」を大切に 生き方そのものが美しい
2023/04/07
-
-
眠りの質を知る方法は? 睡眠障害治療の専門家・内山真さんが解説
2023/04/05
-
-
市毛良枝さんのように 「自分らしい生き方」探し続けたい
2023/04/03