定年退職で失業保険はもらえる? 受給条件や申請方法を詳しく解説
人生100年時代を生きるキーワード:定年退職と失業保険

定年退職=リタイアのイメージが強いため、失業保険を受け取れないと思っている人も多いようです。しかし、一定の条件を満たせば失業保険を受け取ることはできます。この記事では、これから定年を迎える人が、どんな時に失業保険を受け取れるのかを解説していきます。
<目次>
- 1.定年退職者は失業保険を受給できる? もらえる条件をわかりやすく紹介
- (1)定年退職者が失業保険を受け取るために必要な労働歴
- (2)定年退職者が失業保険を受け取るために必要な年齢条件
- (3)定年退職者が失業保険を受け取るために必要なその他の条件
- 2.定年退職者が失業保険を受け取る支払額と期間
- (1)失業保険の支払額
- (2)失業保険の支払期間
- 3.定年退職者が失業保険を申請する方法
- (1)定年退職者が失業保険を申請するために必要な書類
- (2)定年退職者が失業保険を申請するために必要な申請書の作成方法
- (3)定年退職者が失業保険を申請して受け取るまでの流れ
- 4.65歳で定年退職する場合はどうなる?
- 5.定年退職後の失業保険や求職活動で困ったときの相談先
- (1)失業保険の手続きで困っている場合
- (2)求職活動で困っている場合
- 6.定年前から情報収集をしておくことが重要
1.定年退職者は失業保険を受給できる? もらえる条件をわかりやすく紹介
定年退職後に失業保険を受給できる条件を詳しくみていきましょう。なお、この記事で解説する失業保険は、正式には雇用保険の求職者給付のなかの基本手当のことを言います。会社などに雇用されていた人が、離職して失業状態になったときに受け取ることができる公的給付であることを、まずは知っておきましょう。
(1)定年退職者が失業保険を受け取るために必要な労働歴
失業保険を受け取るには、原則として、雇用保険の被保険者期間が、離職前の2年間に通算して12カ月以上あることが必要です。
(2)定年退職者が失業保険を受け取るために必要な年齢条件
失業保険を受給するには、65歳未満という年齢制限もあります。定年の年齢は勤務先のルールによりますが、多くの会社は60歳定年制を採用し、65歳までの雇用を確保している状況です(参照:令和4年「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果を公表します丨厚生労働省)。
なお、65歳で定年退職する場合、失業保険に代わって、雇用保険から高年齢求職者給付金を受け取ることになります(詳細は後述)。
(3)定年退職者が失業保険を受け取るために必要なその他の条件
そのほか、失業保険を受け取るための条件についてですが、大前提として、ハローワークに出向き、求職の申し込み手続きをする必要があります。また、当然ですが、失業の状態にあることです。具体的には、以下の3点を全て満たす必要があります。
1. 積極的に就職しようとする意思があること
2. いつでも就職できる能力(健康状態・環境)があること
3. 積極的に仕事を探しているにもかかわらず、現在職業に就いていないこと
引用:Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~ Q2 雇用保険(基本手当)の受給要件を教えてください。丨厚生労働省
例えば、定年退職後、しばらく休養したいときには条件を満たさないため、失業保険を受け取ることはできません。ただし、その場合は、事前に受給期間の延長申請をおこない、働ける環境が整ったところで受け取ることができます。
2.定年退職者が失業保険を受け取る支払額と期間
次に、定年退職後に受け取れる失業保険はいくらで、どのくらいの期間、支給されるのかをみていきましょう。
(1)失業保険の支払額
①失業保険の支払額が決まる要因
失業保険は離職前の賃金を元に決まります。なお、1日当たりの失業保険の金額を「基本手当日額」と言い、離職前の賃金日額に基づいて算出されます。離職前の賃金日額は、原則として、離職した日の直前の6カ月に毎月決まって支払われた賃金の合計を180で割って算出した金額です。なお、賞与は除外となります。
②失業保険の支払額の変更について
離職の理由が、定年前の早期退職や選択定年制度での退職といったケースもあることでしょう。その際、自己都合か会社都合かによって、失業保険の支払額は変動します。離職理由、年齢、雇用保険の被保険者期間によって支払額が決まる仕組みだからです。
また、待機や給付制限の期間(待機期間満了後、特定の理由に応じて発生する支給が行われない期間)や就労した日は支払いがありません。状況に応じて実際の支払額は変動することを理解しておきましょう。
③失業保険の支払い額の計算方法
失業保険の1日当たりの支払い額「基本手当日額」は、「賃金日額(前掲①を参照)× 所定の給付率」で算出されます。また、給付率は離職時の年齢、ならびに賃金日額に応じて決まります。離職時の年齢が60〜64歳の給付率は、以下の通りです。
基本手当日額の計算方法(離職時の年齢:60歳〜64歳) | ||
賃金日額(w円) | 給付率 | 基本手当日額(y円) |
2,657円以上5,030円未満 | 80% | 2,125〜4,023円 |
5,030円以上11,120円以下 | 80〜45% | 4,024〜5,004円(※) |
11,120円超15,950円以下 | 45% | 5,004〜7,177円 |
15,950円(上限額)超 | ― | 7,177(上限額) |
雇用保険の基本手当日額が変更になります~令和4年8月1日から~丨厚生労働省 を元に筆者作成
※5,030円以上11,120円以下の場合は、
y = 0.8w - 0.35{(w - 5,030) / 6,090}w
y = 0.05w + 4,448
のいずれかの低い方の額になります。
例えば賃金日額10,000円だった場合は、
5,144 = 0.8 × 10,000 - 0.35 ×{(10,000 - 5,030) / 6,090}× 10,000
4,948 = 0.05 × 10,000 + 4,448
なので支払われる基本手当日額は、4,948円となります。
④失業保険の支払額の最大値
失業保険には上限があります。上表を参照すると、賃金日額と基本手当日額には上限額が設定されています。例えば、賃金日額が18,000円だった場合、基本手当日額は最大でも7,177円です。
なお、仮に上限額以内だったとしても、最大で失業保険がいくら支払われるかは、離職前の収入や離職理由、被保険者期間により変動することになります。
また、支払期間についても、後述の通り、雇用保険の被保険者期間に応じて給付日数が定められています。
⑤失業保険の支払い額の具体的な計算例
どのくらいの失業保険が支払われるのか、具体例を見てみましょう。
<田中さん(60歳)の場合>
37年勤めた会社を定年退職しました。まずは、退職前6カ月の賃金日額を算出します。田中さんは、離職日の直前6カ月に、毎月決まって支払われた賃金の合計は240万円でした。
賃金日額
= 240万円 / 180日
= 13,333円(1円未満切り捨て)
次に、前掲の表「基本手当日額の計算方法(離職時の年齢:60歳〜64歳)」を元に、基本手当日額を算出します。
基本手当日額
= 賃金日額 × 給付率
= 13,333円 × 45%
= 5,999円(1円未満切り捨て)
基本手当日額を算出したら、所定給付日数をかければ、失業保険の支払い最大額が求められます。田中さんの場合、雇用保険の被保険者期間は37年のため、所定給付日数は150日です(詳細後述)。
失業保険の支払い最大額
= 基本手当日額 × 所定給付日数
= 5,999円 × 150日
= 89万9,850円
よって、田中さんがもらえる失業保険の支払い最大額は、89万9,850円となります。
(2)失業保険の支払期間
失業保険の支払期間のことを「所定給付日数」と言います。
①失業保険の支払期間が決まる要因
一般的に失業保険の支払額は離職理由と勤続年数(雇用保険の被保険者期間)によって決まります。定年退職した場合は、一般の離職者に該当し、被保険者期間によって以下表の通り90日〜150日です。
被保険者期間 | 10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 |
所定給付日数 | 90日 | 120日 | 150日 |
表:よくあるご質問(雇用保険について)丨ハローワークインターネットサービスを元に筆者作成
②失業保険の支払期間の変更について
離職事由や雇用保険の被保険者期間、離職年齢に応じて失業保険の支払期間は90〜360日となります。定年前の早期退職や希望退職などに応じる場合は、事前に失業保険の支払期間への影響についても調べておきましょう。
③失業保険の支払期間の延長について
原則、失業保険の支払いには期限があり、退職した翌日から1年間です。60歳以上(64歳未満)で定年退職した場合、最長1年間延長できますが、延長手続きは退職した翌日から2カ月以内に行う必要があり留意が必要です。なお、病気やケガなどで働けない状態が30日以上続いた場合は、申請することで最長3年間延長できます。
④失業保険の支払期間が終了したら
失業保険の支払期間が終了した場合、特に手続きは必要ありません。支払い途中で、再就職をすれば支払いは停止となるため、ハローワークへの連絡が必要です。早期に再就職した場合は、要件を満たすと再就職手当を受けられますので、あわせてハローワークへ確認してみましょう。
3.定年退職者が失業保険を申請する方法
失業保険を申請するためには、書類を整えてハローワークに出向く必要があります。
(1)定年退職者が失業保険を申請するために必要な書類
失業保険の申請に必要な書類は以下になります。
・離職票-1、離職票-2(定年退職後、10日前後で会社から交付されます)
・個人番号確認書類(マイナンバーカード、通知カードなど)
・身元(実在)確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
・写真2枚(最近の写真、正面上半身、縦3.0cm × 横2.5cm、マイナンバーカード提示で省略可能)
・本人名義の預金通帳またはキャッシュカード(一部指定できない金融機関あり)
(2)定年退職者が失業保険を申請するために必要な申請書の作成方法
必要な書類をそろえたら、管轄のハローワークに出向き、申請をします。
その際、窓口に備え付けの求職票申込書に、再就職の希望条件や業務経験などを記入して、(1)の書類とともに提出をします。希望する仕事が明確に決まっていない場合は、ハローワークの職員と相談しながら記入しましょう。なお、記入済みの履歴書を手元に用意しておくとスムーズに記入できます。
(3)定年退職者が失業保険を申請して受け取るまでの流れ
定年退職から失業保険の申請、受け取りまでの流れは以下図の通りです。

会社から離職票を交付されたら、ハローワークで求職申し込みと書類提出を行います。その際、窓口で簡単な面談や離職票に記載の離職理由などの確認があります。
受給資格の決定後、雇用保険説明会の日時が指定されます。雇用保険説明会では失業保険の受給手続きや求職活動への説明があるので、筆記用具を用意して出席しましょう。また、雇用保険受給資格者証、失業認定申告書が配布されるので、求職活動などを記入のうえ、ハローワークに報告します。
報告を終えると、1週間ほどで失業保険が支払われます。その後、再就職または給付終了まで、約4週間に一度のサイクルで、失業認定と支払いがおこなわれます。
4.65歳で定年退職する場合はどうなる?
先述の通り、65歳以降に退職すると「高年齢求職者給付金」が支払われます。失業保険で算出する「基本手当日額」に50日分を乗じた金額を一時金で受け取ります。なお、雇用保険の被保険者期間が1年未満なら一時金は30日分になります。
例えば、前出の田中さんの定年年齢が65歳で、その他の条件が同じであるとしたら、支払日数は50日です。60歳定年の150日分から最大で100日分少ない支払額になります。
なお、手続きは、ハローワークで求職申し込みをおこない、受給資格の認定を受けるまでは失業保険の流れと同じですが、一時金として1回限り支払われるところが失業保険と異なるところです。
5.定年退職後の失業保険や求職活動で困ったときの相談先
失業保険の手続きや求職活動では困る場面がしばしば出てきます。相談先について事前に知っておくと安心です。
(1)失業保険の手続きで困っている場合
退職後に会社から離職票が送られてこない、離職票に記載の内容が実際と異なる、などの場合、会社に相談できないときは管轄のハローワークへ相談しましょう。
(2)求職活動で困っている場合
求職活動が思ったように進まないときは、公共職業訓練やキャリア人材バンクの活用もおすすめです。
①公共職業訓練を受講する
公共職業訓練は、早期再就職に向けて、必要な技能や知識を習得するための公的制度です。受講するにはハローワークの受講斡旋(あっせん)が必要になります。内容は以下の通りです。
・受講料:無料(教材費などの実費負担あり)
・受講場所:全国の職業能力開発センター(ポリテクセンター)など
・受講期間:2カ月~2年
・受講科目:介護サービス、住宅リフォーム技術など自治体による
メリットは、訓練受講手当や通所手当などの支給があること、職業訓練終了まで失業保険が延長給付となること(一定の条件あり)などが挙げられます。訓練開始のタイミングもあるため、検討する場合は早めにハローワークに相談しましょう。
②キャリア人材バンクを利用する
60歳以上の人であれば、人材マッチングサイトの利用も考えたいところです。例えば、公益財団法人 産業雇用安定センターのキャリア人材バンクを利用する場合には、在職中、あるいは離職後1年以内であれば、事業主経由または個人での登録が可能です。在職中に登録できるのか、今勤めている会社に確認し、退職後は最寄りの産業雇用安定センター・地方事務所にまずは電話をしましょう。
メリットは、無料で再就職に向けてのカウンセリングや講習などを受けられること、失業保険の求職活動実績にできることなどが挙げられます。
6.定年前から情報収集をしておくことが重要
失業保険の申請や手続きには期限があり、また、定年退職後の再就職に向けて在職中から準備できることもあることを理解いただけたのではないでしょうか。
人生100年時代の到来に向けて、定年後どうしたいのかを定年前から考えておくことはとても重要です。定年後の選択肢を広げるためにも、早めの情報収集をしておきましょう。
(ファイナンシャルプランナー 三原由紀)
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