朝日新聞Reライフプロジェクトは、日本睡眠学会の前理事長で、睡眠障害の治療が専門の内山真さん(東京足立病院院長)を講師に迎え、2月5日(日)にオンラインセミナー「いま知りたい! 大人の眠り~ウェルビーイングの実現のために~」を開催しました。
セミナーの後半では、内山さんが応募者からの様々な質問に答えました。当日の回答をもとに、内山さんにさらに詳しく加筆いただいた内容を3回に分けて紹介します。
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眠くなってから布団に入る
――床についてすぐ眠れるようになるには何をすればいいですか?
眠たくなってから寝床に就くことです。大人が眠たくないのに寝床に入って眠れる方法はありません。寝床に入ったらすぐに眠れるというのは小学校低学年くらいまでだと思います。大人になってしまうと寝床に入ったからといって眠れるわけではないのです。眠くなってから、つまり、心と体の眠る準備が始まってから寝床に入るとスムーズに眠りに入っていけるのです。
眠ることにこだわるようになると眠気とは関係なく、何時になったら眠らなければと考えるようになりがちです。目がさえているのに寝床に入って、「眠らなければ」と焦ってしまうのです。この焦りで気持ちが高ぶって、頭がさえてしまうのですね。
私のところに相談にこられた方が「『玉ねぎのスライスをお皿に山盛りにして枕元に置いておくとすぐに眠れる』と言われてやったけどだめだった」とか、「山芋を食べると良い」とかそういう話を聞くのですけど、こうしたなかで効果があるものはまずないと思います。玉ねぎや山芋を食べるたびに眠ってしまったら困りますよね。
――寝入るタイミングを逃したときでも横になった方がいいですか?
「横になる」ということと「眠る」というのは、よく考えてみるとちょっと違うことがわかります。私も腰痛になったことがあって、そういうときは横になるとホッとするし、痛みが楽になりますね。こうした身体的な問題があると「せっかく横になったのだから眠ってしまおう」と思いがちですが、横になって腰への負担を減らすということと、眠るということは体の仕組みから見ると全く違うことです。眠る準備が自然に始まっていないと意志の力で眠ることはできません。
質問にある「タイミングを逃して眠れなくなってしまう」というのは、ちょっと早めに床に入っているのでしょう。「眠たくなってから床に入る」という考えに少し切り替えてもらうと安定すると思います。いつもの眠る時刻になって、いったん眠くなれば、よほどの面白いことや心配事で、目が完全にさえてしまわない限り眠れるものですね。
おもしろいテレビ番組があったら観ていいですよ。子どもと違って、私たち大人は面白い番組を見たとしても興奮して眠れなくなることはないと思います。
相談にいらした方から、「夜中にやっている外国のスポーツ生中継を観てはだめですか?」とよく聞かれます。「生放送で本当に興奮し、それだけ熱中できるのなら、若干眠れなくても見た方が人生にはプラスと考えるのもひとつでしょう」と答えています。
寝床で過ごす時間を短くする
――熟睡するためのひけつは?
昔は「年をとると睡眠が浅くなるのは仕方がない」と考えられていました。私が30代のころ、65歳以上の方を対象に、病院の睡眠検査室に来て、自宅での日常生活に合わせて就床してもらい、睡眠中の脳波記録をする研究をしていました。
この時、日常生活で夜8時とかすごく早くに寝床に入って、朝7時頃まで横になって過ごしている方が多いのに驚きました。9時間以上寝床で過ごす人が多くいたわけですね。
睡眠脳波の検査結果は、多くの人で睡眠が全体に浅く不安定だという所見でした。ただ、これは脳と身体が歳をとった直接的な結果なのだろうか、それとも歳をとって生活が変わった結果なのだろうかという疑問を持ちました。
薬を使わない不眠症治療の一つに、「睡眠制限法」というのがあります。夜中に何度も目が覚めて全体に浅い人に対して、少し遅寝早起きを指導して、寝床で過ごす時間を適正化する方法です。これを利用すると、睡眠が安定します。
ちょうど年相応の睡眠時間、健康な人で体が要求している睡眠時間は、医学的には中年以降は6.5時間程度です。これに合わせて寝床で過ごす時間を調整します。寝床で過ごす時間を少し短めにすると睡眠は安定します。朝起きたときに「もうちょっと眠っていたいな」という感じがあるくらいが睡眠感がよいと感じられると思います。
私たちが人生で一番身体的に充実しているのは、20~40代くらいだというのは賛成していただけるでしょう。自分を振り返って20~40代に、毎日毎晩熟睡していたかというと、そうではありませんでした。そのころは、眠ることをあまり意識していなかったし、どう感じていたかもよく覚えていません。ぐっすり眠ったと感じたのは仕事で睡眠不足になっていて、やっと休みが取れた時でした。
皆さんもそうじゃなかったですか。ぐっすり眠ったことを強く実感するのは、睡眠不足が解消される時です。毎晩ぐっすり眠るというのは、そもそも目指す目標なのか、疑問です。目指すのは、毎晩すやすや眠れることだと思います。
深い睡眠で熟成しているときに起こされると頭が朦朧(もうろう)としていて働かず、あまり気持ちの良いものではありません。一晩の睡眠で前半は熟睡して脳を休め、後半は少し浅くなって、夢を見るなどしながら起きてからの準備をしているのです。こういう睡眠の仕組みを理解していくと、極端なことを考えなくてよいのではと思います。毎晩、熟睡を目指さなくて良いのです。
――寝る前にヨガなどの軽い体操をするとよく眠れ、何もしないときは熟睡できません。寝る前の体操は睡眠に影響しますか?
ヨガや疲れないレベルの体操はリラックス効果がすごくありますね。眠りに入る準備を整える効果です。
若い人で、「不眠症になったので日曜日にヘトヘトになるまで体を使って、ぐっすりと眠ろうとしたけどだめだった」とおっしゃる方が時々います。筋肉を酷使して、筋肉が痛くなるほど何かをやったら眠れるかというと、そうではないのです。筋肉の疲れが眠りを誘うわけではありません。
筋肉を動かし運動している時、脳の広い部分が使われるのです。こうして脳が疲労して、これが眠りによいのです。これは眠る直前でなくともよく、運動習慣のある人は不眠が少ないという日本の調査結果もあります。
「一息つく」とよく言いますが、ヨガで呼吸を整えるというのもよいですね。あんまり難しいリラックス法をやろうとするとかえって余計に頭がさえてしまいます。息をすーっと吸って、ゆっくり吐いてみる。こんなことでもリラックスにつながりますし、ヨガが自分に合っているようだったら、続けていったらいいですね。
目が覚めて眠れないときは寝室を出る
――寝ている途中で目が覚めて、再び眠りたいのに眠れないときはどうしたらいいですか?
暗い寝室で夜中に目が覚めた時、とても不安になりやすいですね。おそらく本能的なもので、外で暮らしていた大昔の人が、夜の暗闇で「オオカミが来て襲われてしまうんじゃないか」と警戒していたのと同じ気持ちになっているのです。
私たちの住んでいるところにオオカミは来ませんよね。自分1人でだけではなく、隣に配偶者やパートナーがいても、何か心細い気持ちになってしまう。
有名な欧州の随筆家が「眠れず、夜中に暗いところで悶々(もんもん)と考えていると次々に悪い方に考えてしまう、朝になって明るくなってみるとなんであんなに悩んでいたんだろうと感じる」と言っています。
私たちの持つ暗闇での本能的な警戒心が最悪の場合を考えさせているのですね。夜中に目が覚めて、眠れなくてきついと思ったら寝室から出て明るいところで本でも読むのはどうでしょうか。
ちょっと個人的なことになりますが、私は色々と悩み事や考え事がある時、それを夢で見て目覚めてしまいます。また眠ろうとも思いますが、一番の原因は、悩みや考え事なので、これを解決した方がいいだろうと思って、寝室を出て机に座って、「何が問題だったのかな」と思ってコンピューターに思いつくことを書き出して整理してみます。こんなことをしていて、早朝に解決法やアイデアを思いつくことは多く、少し眠る時間はそがれますが、朝からすっきりと過ごすことができています。暗い寝室の中で横になって眠ろうとじっとしていたら、辛いなと思います。
――夜中に目が覚めたときに、朝起きたときのようにスッキリした感じがすることがあります。短い睡眠時間でも足りているということですか?
夜中に目が覚めた時、少ししか眠っていないのによく眠ってすっきりした感じがあることがあります。これはとても不思議ですね。すっきり感には直前の睡眠の深さが関係しています。深いノンレム睡眠の状態、つまり熟睡中に起こされると、ぼうっとした状態が続き、なかなか目が覚めない、これを「睡眠慣性」と言います。そこまで深くないが安定したノンレム睡眠ですやすや眠っているときや、夢を見ているレム睡眠のときに起こされると、比較的スッキリ起きられます。
何時間眠ったと感じるのかということについては、ほとんど研究がなかったので、私の研究チームでまず予想を立て実験しました。
深い眠りの後、ほどよく休まって長く眠ったと感じるかもしれないという予想、あるいは眠りが深いとその間の時間経過を意識できないので意外に短く感じるかもしれないという予想がありました。
実際に実験をやってみると、深く眠ったときの方がやはり長く感じ、浅い方が短く感じるということがわかりました。
短時間で目が覚めたときに、睡眠が足りているような感じがすることはあります。ただ実際に活動を始めると、やはり眠たくなり疲れてしまいます。昔は、何か特別な薬剤を用いると短い睡眠で超人的に充実した毎日が暮らせるのではと考えた人がいましたが、現在の睡眠科学では否定的です。睡眠は生き物としての人間の特性なのでそんなに変えられるものではないのです。
(第2回に続く)
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