眠りの質を知る方法は? 睡眠障害治療の専門家・内山真さんが解説

オンラインセミナー「いま知りたい! 大人の眠り」Q&A 第3回

2023.04.05

 朝日新聞Reライフプロジェクトは、日本睡眠学会の前理事長で、睡眠障害の治療が専門の内山真さん(東京足立病院院長)を講師に迎え、2月5日(日)にオンラインセミナー「いま知りたい! 大人の眠り~ウェルビーイングの実現のために~」を開催しました。
 セミナーの後半では、内山さんが応募者からの様々な質問に答えました。当日の回答をもとに、内山さんにさらに詳しく加筆いただいた内容を紹介する連載の最終回です。

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オンラインセミナー「いま知りたい! 大人の眠り」Q&A 第1回

オンラインセミナー「いま知りたい! 大人の眠り」Q&A 第2回

睡眠オンラインセミナーQ&A記事用1

夢で困っている人は30分早く起きる

――どうして毎日夢を見てしまうんでしょうか。良い夢を見る方法はありますか?

 一晩の睡眠のうちの約20%はレム睡眠でこの時に夢を見ます。ですから毎晩私たちは夢を見ているのです。
 ただ、レム睡眠の時に見た夢の大半は忘れてしまいます。レム睡眠の時には、夢の材料となる過去の記憶や体験の断片を思い出す脳機能が活発に働いている一方で、体験していることを記憶する機能は抑えられているからです。それで、急にレム睡眠の時に起こされると夢を覚えていないことが多いのです。
 レム睡眠から覚醒するまでの中間のまどろんだようなごく浅いノンレム睡眠の時にはレム睡眠中の夢体験を若干想起できます。ですから、夢を見た後に、少しうつらうつらとまどろんでいた時などに夢を記憶に定着し、後で思い出すことができるようです。

 夢を多く見て困るという方にはまず目覚ましで30分早く起きることを勧めています。まどろむ時間を減らしましょう。このような工夫で夢を覚えていることから逃れられることが多いです。

 睡眠に関する科学的研究の創始者フランスのミシェル・ジュベ教授は、実験でネコのレム睡眠中の行動を観察する方法を考案し、レム睡眠中にネコが獲物を取ろうとしたり、飛びかかったり、身構えたりするのを観察しました。
 実験に使うネコは大学の動物実験棟で何不自由なく育ち、獲物をとったことやネズミを見たこともありません。実験で観察したネコの行動を、ジュベ教授は本能的に夢の中で危機への対処行動をリハーサルし、いつでも適切に行動できるよう練習しているのだろうと考えました。
 基本的に、哺乳類ではレム睡眠中の神経機構がほぼ同じなので、悪い夢も平和な生活の中での危機に対するトレーニングなのかもしれません。そうであれば、私たちの夢が必ずしも縁起が良く、心地良いものばかりでなくていいのだと納得できます。

――睡眠と血圧の関係について教えてください。

 睡眠不足だと健康な人も高血圧の人も血圧が上がってしまうことが実験的に確かめられています。このため、血圧の高い人は睡眠不足が続かないように注意する必要があります。

 睡眠が悪くなると、朝の血圧が高くなります。夜に眠っているときに、睡眠時無呼吸症候群が起こると朝の血圧が高くなります。睡眠時無呼吸症候群では眠っているときに呼吸がしばしばつまって、そのせいで酸素が足りない状態が起こり、それを補おうとして心臓に負担がかかります。
 本来、眠っている時は血圧が下がり、心臓も少し休息するのですが、これがうまくいかないと血圧の調整が悪くなるのです。これが起こると朝の血圧が上がります。

 血圧が朝だけ非常に高い場合には、いびきや起床時の口の渇きなどについて自分で意識するといいと思います。できれば、周りにいる人に聞いてみるなりして、早めに医師に相談してみることをお勧めします。

毎日の睡眠時間は同じじゃなくてもいい

――眠れない日が続くと、風邪をひいたり、便秘になったり、体重が増えたりします。関係がありますか?

 なかなか明確な説明はできません。風邪の前触れとして眠れないという症状が起こることもあるでしょうし、一方で、眠れないために体調のバランスが崩れて風邪にかかりやすいということもあるでしょう。
 関連のあることで、風邪をひくと眠たくなりますね。あれはいわゆる免疫物質の中にはすごく眠気を誘うものがあるということで説明できます。免疫機構がしっかり働いている時には眠たくなるのです。抗生物質がなかったころ、よく眠る肺炎患者は治りが早いと言われていたとのことです。

 便秘やおなかの調子もやはり全体的には自律神経系の働きと関係していますので、睡眠が影響する可能性はありますが、特異的なメカニズムがあるわけではありません。

 睡眠と肥満との関連では、睡眠時間が短い人や長い人は普通の睡眠時間の人と比べて太りやすいということが報告されています。睡眠が短いと太りやすいというメカニズムは、睡眠不足になると、食欲を増すホルモンであるグレリンが増加し、満腹感を感じさせるホルモンであるレプチンが減少することと関連していると考えられています。
 ただ、睡眠が長い人が肥満しやすいのは、例えば運動不足とか、異なったメカニズムで太るのだろうと思います。

 こういう意味で、不眠や睡眠不足は色々な身体機能に関連しますが、これらの関係はまだ原因なのか結果なのか断定できないものが多いようです。

――睡眠時間は毎日なるべく同じ長さにした方がいいですか?

 1週間単位で見たときの平均が同じくらいであればいいです。
 「あなた睡眠時間は何時間くらいですか」と聞かれて、すぐに答えられる人は、かなり睡眠に対してこだわりがある人ですね。だいたい睡眠をうまくとれている人たちは「えーっと」と考えて、「だいたい疲れたときは早くに寝てしまうし、何かおもしろいことがあるときは遅くまで起きているときもある」と答えます。それが普通だと思います。
 睡眠は私たちの意思でコントロールできないものですから、体に合わせていくことが非常に大切です。規則的に就床して、規則的に起床することを心がけているというところで良いのではないかと思います。だから、睡眠時間は毎日同じにすべきだと思って無理をすると破綻(はたん)しやすいのです。

――小刻みな睡眠でもいいですか?

 これは答えるのが難しい質問ですね。程度の問題です。夜中に目が覚めても、そんなに大きな影響がない場合もあります。ただトイレで目覚めるのも一晩に3回位以上になると苦痛になることが多いですね。

 多忙なビジネスマンの人から、「夜4時間しか睡眠がとれないから新幹線の中で移動中に1時間とかぐっすり眠りたいから睡眠薬を使いたい」と相談を受けたことがあります。
 私は「それはちょっと考え直した方がいのではないですか」とお話しました。1950年ごろにはこうした考え方があり、薬を使って睡眠は自在にコントロールできるようになると信じられていたようです。
 相談に来られた方も「自分は睡眠までコントロールできている」という安心や自信がほしかったのだと思いました。

 その後、人間の睡眠に関する研究が進み、やっぱり夜に睡眠をとった方が良いのです。私たちは、夜の時間帯になると自然と体が休むので、そのときに睡眠とった方が効果的ですし、健康には良いということが多くの研究からわかっています。

昼間に強い眠気を感じる人は要注意

――自分自身で眠りの質を判定する方法はありますか?

 睡眠の量に関しては、昼間に眠くなるかということで睡眠が不足しているかがわかります。
 朝6~7時ごろに起きて、夜11~12時ごろ眠るような生活の人だったら、午後2時ごろが一番眠くなりやすい時間帯です。睡眠不足になると、この時間帯にかなり眠くなって、起きているのがしんどくなります。
 横になって1時間を大きく超えて眠ってしまうとなると夜間の睡眠が少し不足している可能性があります。1時間未満の昼寝なら特に問題はないと思います。

 昼寝については全国調査を行いましたが、特に健康によいものではないが、特に悪いものでもないようです。人によりけりと言った結果でした。

 夜しっかり眠っていると感じているのに昼間の眠気が強く1時間以上眠ってしまうようなら夜間の睡眠の質が低下していることが考えられます。
 代表は睡眠時無呼吸症候群ですね。睡眠中に舌がのどの方に落ちてしまい、空気の通りが悪くなるため睡眠の質が著しく低下する病気です。これは放っておくと高血圧や心循環器疾患につながりますので、早めの受診をお勧めします。

 毎朝、目覚ましがあれば、あるいは起こされて覚醒し、「よっこらしょっ」と起床し、なんとなく1日を始められるようならそれはベストに近い状態と考えてください。
 睡眠薬を使わない自然な生活の中で、毎朝ぐっすり眠ったという熟睡感と共に起きるというのは、あまりないのが普通です。ぐっすりというのは睡眠不足が続いた後にこれから回復する時に感じるものと思っておいた方が良さそうです。

――内山さんご自身が、良い睡眠をとるために実践していることがあれば教えてください。

 私自身の睡眠は普通程度だと思っています。以前に実験の参加者となって脳波で睡眠を評価されたことがありますが、その時の結果は、可もなく不可もなく年齢相応とのことでした。睡眠ホルモンと言われるメラトニンの分泌を測ったことがありますが、40代後半でしたが、実際の値は60代に近い値で少しショックを受けました。

 生活の中での問題といえば、寝室の温度調節についてです。私と妻の好みに違いがあるので、色々と試しています。妻は冬に暖房で寝室が暑いと寝苦しく感じ、夏の冷房の効き過ぎも好みません。私はと言えば、冬は寝室を暖かく、夏はエアコンで涼しくして眠るのが好きです。1年中春のような一定の温度にしておくのが好きです。

 よく私たちは気温や室温、布団の厚さ、どんな寝間着がいいかといったことを気にします。寝間着は吸湿性がよければよい。布団はその人の好みがあります。
 一番大切なのは、寝具と、私たちの皮膚が接している部分の温度がどのくらいかということです。ただ寒い時には厚い布団をかける方が好きな人もいれば、それが嫌だという人もいるのです。好みがあるので、それに合わせる工夫が必要です。

 室温のことにすごくこだわる人もいますが、室温にじかに接しているのは顔だけですよね。そういった意味では、気温のことに厳密になるよりも、布団の中や、布団や寝間着と接しているところで快適に感じて眠れているかということが大切なのだと思っています。この快適さというのを一番の頼りにしていくのが一番大切だと考えています。

 そんな意味で、私はいつも寒がりなので、だいたい秋から春ごろまでの間、フリースを着て寝ています。布団をたくさんかけるとなんかうっとうしい感じがしますから。本当はもっとあたたかくしたいですけれども、そうすると妻が嫌がります。
 夏には、保冷剤を含んだ枕を使っています。これについては、米国の友人が頭を冷やす装置を作って、不眠症が良くなったという発表をしていたので試して良かったというところです。やはり共同生活する上では妥協が必要ですので、そこはあまりとらわれずに工夫をしていくということが大切かなと思っています。

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  • 内山真
  • 内山 真(うちやま・まこと)

    医師 東京足立病院院長 日本大学客員教授 東邦大学客員教授

    1954年生まれ。80年、東北大学医学部卒業。 東京医科歯科大学神経精神科、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所を経て、日本大学医学部精神医学系主任教授(2006~20年)。日本睡眠学会理事長(17~21年)。日本大学医学部付属板橋病院睡眠センターで外来診療も担当する。厚生労働省の検討会座長として「健康づくりのための睡眠指針2014」の作成に尽力した。著書に「睡眠のはなし」「眠りの新常識」「睡眠障害の対応と治療ガイドライン 第3版」など。テレビの健康番組や市民向け講座などの出演も多い。

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