<連載> Reライフ山歩き部

「彼女たちの山」 平成の女性クライマー、山ガールの実態は

近藤幸夫のReライフ山歩き部 第11回

2023.04.10
近藤幸夫の山歩き部

 私の山仲間の一人で、フリーライターの柏澄子さんが「彼女たちの山 平成の時代、女性はどう山を登ったか」(山と渓谷社)を出版しました。題名の通り、平成の30年間(1989~2019年)、女性たちがどんな思いで登山や山歩きに取り組んでいるのかをわかりやすく紹介しています。世界レベルの女性クライマーから山ガールに代表されるような身近な話題まで網羅しています。男女を問わず、山好きな方にぜひ読んでいただきたい一冊だと思います。

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スポーツクライミング五輪メダリストも登場

 柏さんの著書は、2章で構成されています。

 1章は「平成を登った5人の女性たち」がテーマです。女性初のエベレスト登頂者の故田部井淳子さん、2021年東京五輪のスポーツクライミングで銅メダルに輝いた野口啓代さんら日本を代表する5人を紹介しています。

 2章の「テーマで見る女性登山者」は、山岳ガイドや大学山岳部員らテーマ別に平成期の女性たちを描いています。この中には山ガールについても触れており、山歩きの参考になるでしょう。 

スポーツクライミング女子複合で銅メダルを獲得した野口啓代

スポーツクライミング女子複合で銅メダルを獲得した野口啓代さん=2021年8月6日、青海アーバンスポーツパーク、北村玲奈撮影

 

山ガールの火付け役は田部井淳子さん

 私は、朝日新聞在職中の2011年9~10月、夕刊一面連載「ニッポン人脈記」で、ヒマラヤ登山や山岳遭難救助など登山をテーマにした「山を思う」(12回)を書きました。2回目は、女性をテーマに「女子だって登りたい」でした。

 当時、山ガールがブームになっており、流行の火付け役となったのが、田部井さんだとわかり、取材しました。田部井さんによると、出版社から「日焼け対策まで含めて女性の視点に立った実用本を作ってほしい」と監修を頼まれたそうです。

田部井淳子さん夫妻

エベレストのベースキャンプの取材に行く途中、田部井淳子さん(左端)と夫の政伸さん(左から2人目)に偶然出会った。右端が筆者=2013年5月、ネパール

 

 企画段階で題名は「女性のための登山学」でしたが、もっと斬新なイメージがほしいとの声が上がり、最終的に「田部井淳子のはじめる! 山ガール」(NHK出版)に落ち着きました。

 田部井さんは、本の執筆者に柏さんを紹介しました。その理由について聞くと、「登山の経験が豊富で、私が最も信頼しているライターだから」。この取材で、私は柏さんと会い、豊富な登山経験だけでなく、女性の登山について深く考えている人だなあと感じました。 

 

大学山岳部では男性との体力差で苦労も

 柏さんは、独協大学山岳部時代、男子部員らと冬の北アルプス縦走や岩登りなどに熱中し、年間100日近く山に入ったそうです。

 「夏合宿では着替えも持たないので、下山したらオレンジ色のTシャツが真っ黒。服装には無頓着でした」。こんなエピソードを笑顔で話してくれました。

 柏さんは、著書で大学山岳部での体験を明かしています。大学4年間の部活動を続けられ、ますます登山が好きになったのは、主将の存在が大きいと言います。主将は、柏さんと同期の男性部員3人を差別することなく、それぞれの長所を引き出してくれ、弱点を教えてくれました。

 柏さんは著書を執筆するため、平成期に大学山岳部に在籍した女性たちにアンケートをしました。回答の中には、「正直、よい思い出はない」「後輩との関係がうまくいかず、一緒に登ることに怖さを覚え退部した」などの意見がありました。その多くが、男性部員と体力的な差を感じて苦しいという状況が原因でした。

 大学山岳部は、平成になってもこんな様子だったのです。その一方で平成は、山ガールに代表されるように女性たちが登山や山歩きを、より自由に楽しむ時代でもあったのです。

 

「山を楽しむ女性が増えたらうれしい」

山歩き部 彼女たちの山サムネイル

「彼女たちの山 平成の時代、女性はどう山を登ったか」(左)と、著者の柏澄子さん=渡辺洋一さん撮影

 

 柏さんは、この本を書いた理由の一つについて、こう記しています。

 「平成は、男女雇用機会均等法改正、男女共同参画社会基本法、育児・介護休業法が施行され、後期になってからはSDGsが提唱された。社会が変わるとともに、各人が変容することも求められた時代だったように思う」

 昭和に比べて平成は、女性にとって登山や山歩きの窓口が広がりました。その流れは、令和ではもっと加速しているように感じます。

 ニッポン人脈記で、柏さんを取材したときのコメントを思い出しました。

 「山の楽しみを見つけてくれる女性が増えてくれたらうれしい」

 「彼女たちの山」は、販売価格1870円(税込み)、四六判、256ページ。全国の書店で販売しています。

(山岳ジャーナリスト 近藤幸夫)

  • 近藤幸夫
  • 近藤 幸夫(こんどう・ゆきお)

    山岳ジャーナリスト

    1959年生まれ。信州大学農学部を卒業後、86年に朝日新聞社に入社。初任地の富山支局(現富山総局)で山岳取材をスタートする。大阪本社編集局運動部(現スポーツ部)に異動後、南極や北極、ヒマラヤなど海外取材を多数経験。2013年、東京本社編集局スポーツ部から長野総局に異動し、山岳専門記者として活動。山岳遭難や山小屋、ライチョウなど山を巡る話題をテーマに記事を執筆。2022年1月、フリーランスになる。日本山岳会、日本ヒマラヤ協会、日本山岳文化学会に所属。長野市在住。

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