シニアライフをより自分らしく過ごすためにはどうしたらいいのか。その選択肢の一つに「高齢者ホーム」がある。1973年、高齢者ホームのパイオニアとして開設された「浜名湖エデンの園」。50年受け継がれてきた伝統や経験がさらに厚みを増している本施設を、施設担当者や入居者のインタビューも交えて紹介する。

1号館から6号館まで増築部を含めた7棟を擁する浜名湖エデンの園。写真上から1・2号館、3号館と順に並び、写真右下が6号館。屋上からは360度の眺望が広がり、晴れた日には東に富士山を見ることができる。北に隣接する聖隷三方原病院はドクターヘリを備え、民間初の高度救命救急センターに指定されている。けがや病気など「万が一」に備えた医療機関との連携体制が最大の特徴だ
開設以来50年の伝統と経験をさらに磨いていきます


1973年5月1日、静岡県浜松市の聖隷三方原病院に隣接して「浜名湖エデンの園」1号館が開設された。核家族化が進み、配偶者に先立たれたり、将来に不安を覚えたりする高齢者の孤独や自殺が増え、大きな社会問題となっていた時代だ。
浜名湖エデンの園は、聖隷福祉事業団の創始者・長谷川保氏の「終わりよければすべて善し。人生の最後の行程を幸せに過ごすことの願い」との思いが具現化されたものだ。まだ「有料老人ホーム」という言葉もなく、開設当初は「高齢者世話ホーム」と呼ばれた。元気なうちから入居できる「自立型」の施設は全国でも珍しかったといわれる。
いまでは6号館まで増設され、定員519人という東海エリア最大規模の介護付有料老人ホームとなった浜名湖エデンの園。2023年5月1日、開設50周年を迎えた。最大の特徴は、同じ聖隷福祉事業団が運営する園内の診療所、聖隷三方原病院や聖隷予防検診センターなどと一体となった「医住近接(医療機関の近くに住むこと)」を実現していることだ。聖隷三方原病院はドクターヘリを備え、民間病院初の「高度救命救急センター」の指定を受けている。けがをしたり、病気になったりしたとき、すぐ近くの医療機関と連携できる体制は入居者にとってとても心強いものだ。
1・2号館の建て替えで共用空間がさらに充実した

浜名湖エデンの園 園長 溝口 壱(みぞぐち まこと)さん
「時代とともに入居者の方の考え方も変わります。変化するニーズを全職員がしっかりと把握して対応します」
浜名湖エデンの園の溝口壱園長はこう話す。「当園にご入居を決められた理由の多くは、医療機関と連携できる体制を整えていることです」
入居時に自立であっても、将来的に介護が必要になったときは同じホーム内にある介護棟に住み替えられるのも大きな魅力だ。20年には新しい1・2号館が完成した。建て替えられた建物は建築基準法規定の約1.5倍の耐震強度がある。居室数が増え、共用スペースも充実した。例えば、1号館1階のラウンジは広々とし、午後には明るい日差しが入る。新聞を読んだり、入居者同士で語り合ったりする憩いの場となっている。6階の展望室からは晴れた日に富士山を眺めることができる。
1・2号館の建て替えによって60代の入居者が増え、入居時平均年齢は約75歳から約72歳に、入居者平均年齢は約84歳から82歳へと若返ったという。

三方から日差しが入って明るい1号館6 階にある展望室は多目的室として利用できる

外のベランダからの眺めは抜群で、晴れた日には遠く東の方向に富士山を眺めることができる
安心を実感できる設備や機器を備えたプライベート空間
「隣人愛」に基づく入居者サービス

居室には手すり付きの浴室があるが、広々とした大浴場も備え、入居者の交流の場にもなっている。大浴場には炭酸ガスを人工的にとけ込ませた「ラムネ風呂」もある
そのほかにも、二酸化炭素(炭酸ガス)を人工的に湯にとけ込ませた「ラムネ風呂」もある大浴場、多目的ホール、トレーニングルームなどを備え、入居者の交流の場となっている。
プライベートな生活空間である一般居室には自炊可能なキッチンや手すり付きの浴室、温水シャワー付きトイレなどを備え、自立した生活を送るための設備が整っている。呼び出しボタンで異常を知らせる緊急連絡装置や安否確認用の生活リズムセンサーなど、「万が一のとき」に備えた機器類も設置されている。
こうしたハード(施設)面以上に浜名湖エデンの園のサービスを支えているのが「人=職員」だ。聖隷福祉事業団の法人の基本理念であるキリスト教精神に基づく「隣人愛」のもと、50年の歴史と経験が職員に受け継がれてきた。そのなかで職員一人ひとりが自分の役割をきちんと把握し、日々実行していることが浜名湖エデンの園の特徴だと溝口園長は強調する。
「職員には『昔からやっていることだから』という理由で仕事をするのはやめるように話しています。『自分がなぜその仕事をするのか』をしっかりと理解して仕事をすることが大切です」(溝口園長)
「エデンの園」でトップを走り続ける

専用床面積約49㎡、バルコニー面積約8㎡の2人用の一般居室(K1タイプ)のモデルルーム

聖隷三方原病院に面した正面玄関側から見た浜名湖エデンの園の2号館
長い歴史のなかで培われた良い習慣は残していき、悪い習慣はなくしていく。各職場でそれを徹底していくことが重要なのだという。しかし、これはそう簡単なことではない。溝口園長が続ける。
「例えばAというサービスをよくしてBにするとします。ありがちなのはAが残って、AとBの二つのサービスが存在してしまうこと。それでは職員の負荷が増えてしまいますから、Aはなくさなくてはいけない。常にサービスの上書きをすることがより質の高いサービスを提供することにつながるのです」
他に7カ所あるエデンの園ブランドのホームを含め、日々の運営には標準サービスが定められている。各ホームではそれに地域性などを加味したプラスアルファのサービスを提供している。なかでも浜名湖はエデンの園発祥の地として、あらゆる面でトップを走り続けなければならないとの自覚が求められている。
「静岡県西部地区で聖隷福祉事業団の名前は広く知られています。事業団の本部は浜名湖エデンの園と同じ浜松市にあります。私たちは聖隷の看板を背負ってもいるのです」(溝口園長)
こうした意識が個々の職員に浸透することで、入居者に対する質の高いサービスの提供につながっているわけだ。ただ、入居者の多様性が増すなか、入居者一人ひとりに合った、よりきめ細かなサービスが求められる時代になっている。前述したように医療機関との連携は浜名湖エデンの園の大きな特徴だが、園内でも、居室サービス、食事、施設メンテナンス、フロントといった部署間の連携も重視されている。
「医療では医師や看護師などが連携するチーム医療が行われています。それと同じように当園では、支援が必要な入居者の方に対して各部署のスタッフ全員が関わって必要なサービスを提供するようにしています」(溝口園長)
入居時自立型のホームは、入居者が自立している状態から要介護になり、さらには看取りまでと、入居者の人生に寄り添っていく。例えば、一般居室から介護居室に移るとき、入居者に不自然さを抱かせない気配りも必要だ。
入居者情報を全職員が共有する

食事メニューの例:栄養士監修「おなかすっきり便秘解消メニュー」の牛肉とゴボウのちらし寿司

食事メニューの例:サラミのクロワッサンサンドとツナポテトサンド

食事メニューの例:開園記念の特別献立。刺し身や牛肉と野菜の焼き物などが並ぶ

食事メニューの例:ボージョレ・ヌーボー解禁に合わせたワインに合う牛すね肉のドーブ
浜名湖エデンの園では入居時からの入居者情報をデータで管理している。職員は入居者と日々接するなかで気づいた情報をアップデートしていく。「この入居者の方は花が好き」といった入居者の好みに関する情報も職員全員で共有され、入居者が一般居室から介護居室に移るときは、好きな花をそっと飾っておくといった気配りもできる。
「そうした対応も職員がフェース・トゥ・フェースで入居者の方と接することで初めて可能になります」(溝口園長)
職員の負担を軽減するため、ICT(情報通信技術)を活用した見守りサービスも今後導入していくという。それによって入居者に対する人的サービスをさらに充実させる。
「『他のホームではなく、浜名湖エデンの園に入居したい』。そんな選ばれるホームであり続けることが目標です」
溝口園長はそう強調する。開設50周年は一つの節目にすぎない。
入居者インタビュー浜名湖エデンの園には「聖隷精神」がずっと受け継がれている![]() 河野親彦(ちかひこ)さん(71歳)、みどりさん(65歳) 河野親彦さんは11年間、聖隷浜松病院に勤務した後、50歳で浜松市内に小児科医院を開業した。みどりさんは教職を退き医療事務管理士資格を取得、事務長として医院の運営に携わってきた。2人には子どもがなく、第三者の手を借りなければ人生を締めくくることができないと考え、入居時自立型の施設に関心を寄せていた。 2017年の医院閉業後、2人とも大病を患い手術入院を経験したことで施設入居を決断。22年1月に浜名湖エデンの園に入居した。みどりさんは話す。 「夫が聖隷浜松病院に勤務していたのでエデンの園のことは知っていました。2人とも術後の通院が必要でしたので、すぐ隣に災害拠点病院の聖隷三方原病院があり、医療支援体制が充実しているエデンの園以外の選択肢はありませんでした」 親彦さんが続ける。 「聖隷福祉事業団の創始者、長谷川保さんの『福祉のために力を尽くす』という理念に基づいて開設されたのがエデンの園です。私は『聖隷精神』と呼んでいるのですが、ここではその理念がずっと受け継がれ、職員の方が入居者に対して誠実に向き合っているという印象が強かったのです」 セカンドライフを委ねるだけに、施設の経営母体がしっかりしていることも重要な要素だったと親彦さんは話す。
安心感と充実した支援体制が不可欠![]() 親彦さん(左)はエデンの園で暮らしながら聖隷予防検診センターに非常勤で勤務している 職員一人ひとりが入居者に向き合っている姿を象徴する出来事があった。22年秋、みどりさんは聖隷三方原病院で右肩の手術を受け2週間入院した。居室サービスの職員が何度も面会に訪れ、退院後の生活への要望を尋ねてくれた。みどりさんは、「右腕がしばらく使えないので、左手で食べられるおにぎりを出してもらえるとありがたい」と答えた。すると、退院当日、食堂に行くとおにぎりが用意されていた―。 「居室サービスの方から食堂の方に連絡がいったのでしょう。部署間の連携がなければとてもできないことだと思います」 居室には安否確認のための生活リズムセンサーや24時間対応の緊急連絡装置などがある。 「24 時間見守られているという安心感と職員の方たちによる的確で充実したサポート体制は何ものにも代えがたく、自立した老後を過ごすために不可欠のものです」 2人は声を揃えて、そう語る。 |
全国に広がる「エデンの園」開設50周年を迎える浜名湖エデンの園![]() ◉開設=1973年5月◉所在地=静岡県浜松市北区細江町中川7220-99◉施設タイプ=介護付有料老人ホーム◉居室数=429室(一般居室/個室372室・介護居室/個室57室) 宝塚エデンの園![]() ◉開設=1979年4月◉所在地=兵庫県宝塚市ゆずり葉台3-1-1◉施設タイプ=介護付有料老人ホーム◉居室数=408室(一般居室/個室358室・介護居室/個室50室) 松山エデンの園![]() ◉開設=1980年6月◉所在地=愛媛県松山市祝谷6-1248◉施設タイプ=介護付有料老人ホーム◉居室数=146室(一般居室/個室111室・介護居室/個室35室) 油壺エデンの園![]() ◉開設=1986年11月◉所在地=◉神奈川県三浦市三崎町諸磯1500◉施設タイプ=介護付有料老人ホーム◉居室数=424室(一般居室/個室379 室・介護居室/個室45室) 浦安エデンの園![]() ◉開設=2007年7月◉所在地=千葉県浦安市日の出1-2-1◉施設タイプ=介護付有料老人ホーム◉居室数=224室(一般居室/個室195室・介護居室/個室29室) 横浜エデンの園![]() ◉開設=2010年4月◉所在地=神奈川県横浜市保土ヶ谷区岩井町207◉施設タイプ=介護付有料老人ホーム◉居室数=50室(すべて介護居室/個室) 藤沢エデンの園一番館![]() ◉開設=2011年4月◉所在地=神奈川県藤沢市大庭5526-2◉施設タイプ=住宅型有料老人ホーム◉居室数=209室 藤沢エデンの園二番館![]() ◉開設=2011年4月◉所在地=神奈川県藤沢市大庭5526-2◉施設タイプ=介護付有料老人ホーム◉居室数=50室(すべて介護居室/個室)
「エデンの園」ブランドの施設は浜名湖以外にも四国、関西、首都圏に7カ所ある。2023年5月、浜名湖が開設50周年を迎えるのを機に、さまざまなイベント開催を予定している。4月には浜名湖の入居者インタビューや歴代園長による座談会が掲載された記念広報誌を発行した。開設日の5月1日には、浜名湖の歴代園長も集まり、事業団の青木善治理事長による記念講演が行われた。この日はエデンの園すべてのホームで統一の食事メニューが出された。 各園では、園内の一角を利用した50周年の特別パネル展示も計画している。エデンの園には写真を趣味とする入居者も多く、園内にはふだんからその写真が飾られているが、記念のフォトコンテストも開催。入居者から作品を募りプロカメラマンによる審査を行う。浜名湖では、コンサートや旅行などの入居者の外出企画も予定されており、入居者、職員が一体となって開設50周年を祝う考えだ。 詳しい情報と資料請求はこちら(https://www.seirei.or.jp/eden/) |
(提供:社会福祉法人 聖隷福祉事業団 企画制作:朝日新聞社メディア事業本部 協力:朝日新聞出版「週刊朝日MOOK高齢者ホームプレミアム」)
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